【論文】自治体の情報公開制度の現状と課題


情報公開制度が日本で制定されてから間もなく40年を迎えますが、情報公開への対応は自治体間格差が拡大し、説明責任を果たす組織のあり方に転換できたかが問われています。

広がった自治体間格差

1982年に最初の情報公開条例が山形県金山町で制定され、来年で日本の情報公開制度の歴史は40年になります。

長い経緯を踏まえて自治体の情報公開制度の現状と課題を見ると、自治体間で相当に格差がある状態になりました。率直にいえば、共通に論じるのが難しいほど分化しています。自治体ごとに条例を定めて運用していますので、条例の内容もさまざまで、情報公開される範囲も異なっています。例えば、何人にも情報公開請求権を認めている条例と、いわゆる住民に限定しているもの、請求対象文書もいまだに決裁文書と供覧文書に限定しているところと、それに限らず組織共用された文書は対象としているところなどです。

また、情報公開制度によらずに公表する情報も自治体間での格差が広がっています。例えば東京都は、知事部局の公金支出一覧を毎月公表しており、月により異なりますが1万件から5万件超のデータセットが機械判読性のあるデータで公表されています。具体的な支出内容には事業者名などが省略されていますが、支出状況は一件ごとに確認できます。通常、こうした情報は請求しなければ公開されません。

審議会等の資料なども、会議開催情報のみ公表、議事録ないし議事概要のみ公表、資料も一緒に公表しているところとさまざまです。情報公開制度のもとでは、誰かが請求しなければ情報の公開が進みませんので、積極的な情報公表を行うことは自治体の情報公開を進める上で極めて重要です。

こうした自治体間格差も、地方自治の一つの姿です。そういう意味では、情報公開や情報公開条例がどのような状況にあるのかは、抽象的な意味での民主主義の話ではなく、自治において健全な民主主義の実現にどのくらい行政、議会、そして住民が関心を持ち、努力をしているかのバロメーターの一つだといえます。

非常時には大きな差となる情報公開への対応

このような格差を普段はさほど気にしないかもしれませんが、新型コロナ禍のような非常時では大きな違いとして現れます。

自治体ごとに「新型インフルエンザ等対策行動計画」が策定され、これに基づいて対策が行われていますが、計画の「基本的な方針」には、留意事項として自治体ごとに設ける対策本部の対策実施にかかる記録を作成・保存し公表するといった趣旨が定められています。

これに対する自治体の対応はさまざまです。対策本部会議をインターネット中継している、会議資料と議事録をウェブサイトで公表している、対策本部会議以外に開催している専門家会議なども資料・議事録をウェブサイトで公表しているなど、基本的な情報は容易にアクセスできるよう公表している自治体もあります。一方で、会議が開催されたことはわかるものの、一部しか資料や議事録等がウェブサイトで公表されておらず、議事録は情報公開請求が必要、対策本部会議以外にどのような会議をしているのかわからない自治体もあります。

新型コロナ対応は市民生活に大きな影響を及ぼすもので、情報公開を十分にかつ容易にアクセスできるよう実施していくことが不可欠です。不要不急の外出自粛を求めている最中に、役所までくれば閲覧できる、資料をもらえるというような対応では市民の理解を得られないでしょう。また、感染症対策を担当している部署が関連文書を保有しているため、本来業務が多忙で情報公開請求に対する決定までに時間がかかり、請求されなければ公開しないという消極的対応は、その対応でも繁忙となり悪循環を生むことになります。

各自治体の新型コロナ対応に関する是非はともかく、非常時の対応は後から検証できればよいという情報公開では遅いので、結論ではなく、なぜこのような対応を行うのかという根拠や判断過程の情報公開を迅速に行うことがより強く求められます。そうすることで、見落とされている問題・課題がないか、支援すべき対象に支援が届く対応になっているのか、状況把握が適切かを外部からも把握でき、必要な是正や対応が進めば、市民の生活や健康を守ることになります。

「なぜ」が知りたい情報公開請求者

ただ、こうした情報公開は自治体として能動的、政策的に行っているもので、言い換えるなら公開・公表できる情報だけが提供されています。一方、情報公開条例では自治体が公開・公表していない情報の公開が請求されることになります。

きっかけはさまざまですが、情報公開請求は、なにか問題や疑問があるなど、情報を知りたい目的があるときに行われ、情報公開させることは手段であって最終目的ではないわけです。そして、筆者は情報公開請求に関する相談を日ごろから受けていますが、多くの請求者は、決まったことではなく、なぜ決めたのか決めようとしているのかといった理由や経緯を知ることを目的としています。情報公開されないと、「なぜ」が明らかにならないだけでなく、問題や課題の解決が妨げられるので、自治体と請求者や住民との対立が深まることになります。

こうした場面で、情報公開請求しても意思決定に至る過程の記録が作成されていない、簡略化されている、すでに廃棄されていた、黒塗りの文書の過剰とも思われる非公開などが顕著に目立つことになります。なかにはやむを得ないものもありますが、特に2017年以降国の自衛隊日報問題、森友学園問題、加計学園問題などが次々に明らかになりました。政治問題に伴い公文書の隠蔽・改ざんが行われ、文書による証拠が突きつけられなければしらを切るという態度は、単に国の問題というより、自治体も含めて行政組織や政治が自らの責任問題となると簡単に制度を歪めるものである、ということを強く印象付けました。しかも、こうした問題が、情報公開制度や公文書管理制度が整備されたなかで発生しました。

制度利用者と情報環境の変化

最近、情報公開や公文書管理をめぐる問題が顕著に目立つわけですが、いずれも、情報公開条例が最初に制定されて以降の日本の情報公開の歴史のなかで起こってきた問題で、実のところ珍しいものではありません。ただ、情報環境の変化と制度の利用者層の変化により目立つようになったということができます。

利用者層の変化の一つは、情報公開制度の利用が取材手法の一つとして報道関係者に定着しているということです。2011年の東日本大震災・福島原発事故以降に顕著に増えたと思われますが、特に2017年以降の自衛隊日報問題、森友学園問題、加計学園問題などの一連の問題の後は特に顕著です。

もう一つの利用者層の変化は、特定の課題・問題について地域を超えて情報公開請求が行われるようになっていることです。こうした取り組みは以前からあるもので、筆者もよく行う方法ですが、図書館の民営化問題、介護保険事業者の事故報告、職員の懲戒処分など、地域ではなく課題により請求先が選別されます。請求者は地域のしがらみや文脈に縛られないため、自治体や地域的事情のなかだけで通用するような論理や力関係を超えて情報公開請求します。そして、情報公開の範囲、作成されている記録類やその内容などが自治体間比較されていきます。

こうした情報は、報道されるだけでなくオンライン媒体、SNSなどを通じて以前より違った広がりで拡散されるようになっています。特に黒塗り文書のビジュアル的なインパクトは大きく、以前は断片的にしか見ることのなかった「絵」が、SNSやブログのような個人による発信で可視化されます。地域課題に住民が取り組み情報公開請求する場合も同様です。情報公開条例は、情報公開を進め、自治体運営の信頼性を高めるために設けられた制度ですが、過剰と思われる非公開、文書不存在などは不信感を増幅させる装置にもなるという相対する面があり、情報環境の変化はこの負の側面を増幅しやすい環境を生んでいます。

「なぜ」を求める情報公開で起こる非公開・不存在

情報公開請求者は「なぜ」「理由」が知りたいという目的の問題に戻ると、例えば次のようなことの情報公開を期待しています。

①誰がかかわっているのか?

②状況分析、現状分析はなぜそうなったのか?

③どんな選択肢を検討したのか?

④選ばなかった選択肢は何か、なぜか?

⑤どのような議論を誰が行ったのか?

⑥誰の意見を聴いたのか? 採用した意見、採用しなかった意見は何か?

⑦意見を聴いた人を選んだ理由は何か?

特に審議会等の資料や記録ではなく、それ以外の情報を探しています。要は、審議会等の公式の会議では本当のところはわからないと考えられ、実際にその情報だけではわからないからです。

例えば、熊本県では2020年に発生した水害を受け、2008年に白紙撤回された川辺川ダムの建設に方針転換し、県と市町村の間の協議会が開催されています。この協議会に出される資料の内容について事前に県と国土交通省九州地方整備局が協議し、緊急放流の試算について、県側は地元が心配するとして公表に慎重を期すことを整備局側に求め、資料から削除されていたと報道されました。

また、この削除前の資料は県、整備局ともに廃棄済みであることも明らかになっています。報道を受けて、整備局が試算を公表していますが、指摘がなければ公表されなかったでしょうし、どのような試算をして何を採用したのかという資料も残らなかった可能性が高いわけです。

黒塗り文書も「なぜ」や「理由」を求めて行った情報公開請求でしばしばみられます。例えば、長野県内の森林組合で発生した補助金不正受給事件について、監査委員による聞き取り内容を情報公開請求したところ、ほぼ黒塗りで文書が部分公開されました。請求していたのは共産党の長野県議会議員で、SNSで黒塗り文書の写真が拡散されて話題になりました。東京都でも、豊洲新市場問題、カジノ誘致問題で大半を黒塗りにした文書を部分公開しました。結局、何をしようとしているのか、なぜそうなったのかは公開されず、問題があるのではないかという疑問だけが残ります。

組織のあり方の問題として情報公開や公文書管理を理解することが必要

しかし、情報公開条例は無意味かというとそうではありません。少なくとも非公開は審査請求や訴訟で争うことができますし、文書が不存在であること自体が問題になります。社会的に批判されれば、自治体としても説明責任を果たさなければならなくなることもあります。ただ、このような過剰と思われる非公開や文書不存在が発生する理由や原因を解決するために何ができるか、ということも併せて考える必要があります。

往々にして、過剰な非公開や文書不存在問題に対して、職員の意識の向上や研修等による理解の向上を解決策とする対応が見られます。こうした取り組みも非常に重要ですが、情報公開や公文書管理の問題を個人の問題に帰結させることは、問題の矮小化と形骸化を招くことになります。情報公開も公文書管理も組織的な問題であって、個々人の問題にすると違法や不適切なことが生じないように手続・手順偏重の制度や運用が出来上がるからです。国では情報公開や公文書管理にまつわるさまざまな不祥事が発生した結果、特に公文書管理は形式的な手続・手順偏重の運用になってしまっている傾向がみられ、質が上がったといえるか大変疑問です。

過剰と思われる非公開の背景には、開かれた利害調整を不得意とする日本の行政組織や政治リーダーであったり、行政や政治家と市民社会が対等な関係で場を共有して開かれた議論を行う場が限られていることなどを挙げることができるでしょう。結果的に、批判される側、批判する側という対立構造のなかで問題を考え、記録を作成することや情報公開のリスクを考えることになります。

もちろん、自治体で、情報公開条例の改正や制定が進んでいない公文書管理条例の制定を進めることも重要です。制度が変わることで、組織のあり方も変わり得るからです。しかし、制度を変えることはできても、それを機能させ運用させる組織のあり方を変えることは容易ではありません。いま、情報公開や公文書管理が行き詰まり後退していると見えるのは、仕組みの問題ではないところで、情報環境や社会状況の変化を踏まえた適応ができず、旧来的な発想で制度を論じているからともいえます。

日本の情報公開制度が40年目を迎えるにあたって、市民社会と政治や行政の関係を見直すことも併せて行いたいものです。

資料 公文書管理条例の制定状況

*団体総数は、都道府県47団体、指定都市20団体、市区町村(指定都市を除く)1721団体。条例のほか、規則、規程、要綱等で定めている団体を含めると、制定済み団体は都道府県47団体(100%)、指定都市20団体(100%)、市区町村(指定都市を除く)1675団体(97.3%)となっている。(2020年4月1日、総務省調べ)

*一般財団法人地方自治研究機構の調査(2021年6月17日更新)をもとに本誌編集部作成。

【注】

  • 1 「熊本・川辺川ダム 緊急放流試算、国が破棄 『決定に影響ない』」2021年5月3日、毎日新聞。「川辺川ダム緊急放流資料、熊本県も破棄 整備局へ『公表慎重に』」2021年5月15日、毎日新聞。
  • 2 「川辺川のダム、国が緊急放流巡る試算を公表 当初『破棄』と回答」2021年5月11日、毎日新聞。
三木 由希子

専修大学兼任講師。情報公開制度や公文書管理制度、個人情報保護制度など公的機関に対する知る権利の確立のため調査、政策提案、意見表明、制度利用者支援などを行っている。自治体の審議会等の委員も務める。