【論文】情報を共有することで市民自治がすすむ―まちで開発情報の公開に取り組んで ―

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いろいろな要求をもつ市民、住民がまちで出会うこと、自治体の「情報を公開」させ「共有する」ことは、市民自治への第一歩だ。

国保料滞納の強制執行と再開発との間で

私たちのNPOは、もっぱら街の計画、都市計画にかかわる住民運動の連絡組織で、よく各地に再開発の話などをしに行きます。

以前、都内のある会合で私が驚いた顔して「昨今、私の住む千葉県柏市では、国保料の滞納者に強制執行で爪に火をともす暮らしを支える給与まで差し押さえているんですね」とお話しをしたら、「そんなことはどこでもやっている、今頃、何言ってんの」とけげんな顔をされたことがあります。「でも自治体って、じつは潤沢な予算を用意するんですね。43万人都市の柏市でJR柏駅西口北地区再開発の事業規模が1218億円、柏市の1年間の一般会計予算に匹敵。うちこの再開発を支える補助金・負担金が426億円なんですよね」(図)とつけ加えたら、一堂びっくり。「開発ってそんなにお金を使うの、私たちがいくら市と交渉しても、財政危機で新しい施設はつくれませんと言うばかりなんです」というのです。開発部門は「聖域」扱いで、市民にはここには一歩も議論させないで、福祉部門、教育部門のサービスを徹底的に切り詰め、開発部門の財源を確保していることが見えてしまったのです。すると「それっておかしいよね。私たちが明日どう食っていくか、年寄りの介護のお金を用意するか、真剣に悩み福祉事務所に相談をしているのに」と開発に関する情報公開要求の空気が広がっていきました。やっぱりその点も明らかにしてもらって、「市のお金の使い方をみんなで考え直さなくっちゃ」というふうに市民の運動も変わり目を迎えてきたのです。

その後はことあるごとに、「再開発にそんなにお金を用意するという話があるじゃないの。公民館の建て直しをきちんとして欲しい」と要求。それまでは「市はお金がない」と思わされ続けてきた市民の運動が堂々と市と渡り合って、公民館の立派な建て替えなども要求するように変わっていきました。

図 柏市柏駅西口北地区市街地再開発事業・資金計画

『平成27年度柏駅西口北地区事業化推進委託報告書』(柏市、2016年3月)1-96ページ。総事業費1218億円、補助金・負担金426億円は、他頁と重ねると試算できる(筆者)。

情報を共有する必要を痛感

なるほど、そういうことかと思った次第です。なんで開発情報がこれほど秘密裡にされているのか、私たち都市計画にかかわる目からみれば、自治体から「権利者の合意形成の支障になる」「意思形成過程の情報だ」と、秘密裡を合理化する言い訳ばかりを聞かされていました。実はそればかりではない。自治体のある部門だけが「聖域扱い」で、他は「財政危機」を口実に徹底して切り詰めている自治体の姿そのものが知られたくなかったのでしょう。

どこでも開発情報の公開請求では、真っ黒けの情報開示の現状にあります。再開発事業でも区画整理事業でもどれほどの補助金が投入され、負担金が入るか、ビル床を買わなければならないか、税金投入の規模などは、計画が正式にスタートする前にしっかり詰めて試算しています。そして正式スタート前は「案」という名前をつけて、関係者、国などに根回しして、都市計画決定にこぎつけます。決定という正式なスタート後にようやく市議会やら資料公開で知ることができるしくみになっているようです。しかしこれらの事業は正式にスタートすると、「そんなにお金を使うならばやめてしまえ」とはいえなくなります。計画が正式にスタートする以前に、しっかり情報公開をして市議会での討論や、市民説明会、市民の声を聴く場の設定をしないと間に合わないのです。

一方で国保料滞納整理と称し住民の給与まで差し押さえ、徹底して収納率を上げさせているのです。こんな現状では開発事業に何百億円も用意していることが知られては一大事とばかり、ひた隠しにしているとしか思えません。なぜ開発情報は非公開なのか、市全体として開発に重点をかけている実態が白日の下にさらされると困るからです。

情報公開をめぐっての綱引き

ふだん私たちは情報公開条例だの公文書管理なんて言葉に気をとめることはまずありません。市議会で議員の人が行政職員と話し合って情報提供を受けるということはよくあります。しかしそのうち開発情報などを、職員が議会や市民に積極的に提供しようなんてすると、上司に「おまえは余分なことするな」と叱られるだけなのです。労働組合が元気で不当な労務支配をチェックし、住民に貢献する仕事の推進を応援する力量があればいざ知らず、大半は開発職場での組合はそこまで関与する力もありません。職員はいじめられ、左遷される職場風景なのです。

そこで市民が情報公開請求をするときは、その自治体の情報公開条例を使って公開請求をすることになります。ここまではときおり取り組まれる方もおられるかと思います。しかし問題はこれからです。

例えば開発情報であれば、その事業の担当部署が情報を管理しています。担当部署は、開発情報の場合は、とにかく「情報をいかに出さないか」というスタンスで、請求された書類をしっかり墨塗りすることが横行しています。1ページまるまる真っ黒けなんていう扱いは日常茶飯事です。担当部署の職員は墨塗りのために「土日も家で500ページもの開発情報に墨を塗っていたら、後ろから息子が覗いて『父ちゃん、何やってんだい』と聞かれちゃったんだよねー」と住民にこぼした話もあるほどです。これじゃあ、息子は学校に行って「うちの父ちゃん、市の職員。土日も働いて『市民のためにいい仕事』をやっているんだよー」なんて言えません。

「情報部分開示決定」という通知書がきます。そこに父ちゃんの「作品」がつけられることになります。開発情報は何も出ない、分からない、審議会議事録なんかは、発言した審議会の委員名まで墨塗りで何がなんだか分からない。

しかしここで引き下がってはいけません。情報公開審査会とか行政不服などの審議会が設置されています。そこに持ち込み、この情報非開示の扱いについて審査を求める、口頭でも陳述する、というような努力まではぜひともするといいと思います。そのあと裁判にもちこむということもできますが、少なくともその自治体の姿勢を変えてもらうためには審議会、審査会への「異議申し立て」「審査請求」までは行っておくことは、自治体を変える一石を投ずる意味があります。

実は情報非開示の決定というものは、「行政処分」です。住民の「知る権利」について、情報公開条例に規定された例外的に制限可能な部分が含まれているときは、市の決定で権利制限することが可能だからです。そこでかならず「非公開決定」「部分開示決定」には、「審査請求」「裁判」ができることを書き添えなければならないことになっています。これを「教示」といいます。審議会で自ら発言すること、墨塗りした職員とその旨について議論することもできるのです。

公文書がどんどん廃棄されている

情報公開条例なんていう名称だとまだ分かりやすいですが、公文書開示条例なんていう名称のものも中にはあります。とにかく「公文書」を積極的に公開して市民参加を促しましょうというような目的が掲げられています。

「公文書」ってなんでしょうか。だいたいどういう名称の文書を求めてもよく分からない事例もあります。

いま東京では、晴海のオリンピック選手村整備を口実に、東京都民の財産である都有地17・8㌶(東京ドーム球場が4個ほど入る広さ)を、再開発をトンネルにして大手不動産デベロッパーに「投げ売り」した事件が裁判で争われています。本来1600億円くらいの都有地を、再開発のトンネルを通して129億6000万円に値付けし売ってしまったのです。銀座から3キロメートルの超高層ビルの事業用地として10万円/平方メートル以下と時価の10分の1で処分したのです。大阪・森友事件の比ではありません。東京都議会に諮って公共目的をよほどしっかり説明し議会の議決を得ないと処分できないのですが、裁判はこの手続きを経ないまま違法に処分したことを問う住民訴訟です。

このことを調べたときの話ですが、造成を行った再開発事業の総事業費540億円を「どう積算したかの根拠資料」を出して欲しいと情報公開条例にもとづき公開請求したのです。文書名はよく分かりませんでした。しかし結果は非公開。なんでも積算根拠資料は保存期間1年未満のものだから廃棄して存在しないというのです。オリンピック村再開発事業は、いまなお進行中で、オリンピック終了後にタワーマンション部分を建てる手順で、2024年度が終了予定でした。事業計画の変更などの見直しは再開発事業ではよく行われていますが、これだけ大きな再開発の事業計画の積算根拠資料が保存期間1年未満とされていたことは驚きでした。それじゃあ廃棄した積算根拠の文書はどういう名称か、「公文書廃棄リストの一覧」の提出を求めました。「廃棄リスト」文書は保存期間が5年とされていたからです。ところがこれも非公開、理由は、保存期間1年未満の「職員のメモのようなものまで廃棄リストはつくっていない」という口頭説明でした。公文書管理規則には1年未満公文書の廃棄リストはつくらなくてよいという規定もありません。規則までじゅうりんした公文書の取り扱いがされている実態が明確になりました。

「公文書管理条例」なる立派にみえる条例と「規則」があっても、そのとおりに行政内では実行していないのです。

オリンピック選手村用地 銀座から3キロメートルの都有地17.8㌶は東京都が未造成時点で7.3万円/平方メートルで手放した。再開発による造成後デベロッパーが10万円/平方メートルで取得。筆者が2016年6月に撮影。

民間事業といえども開発情報が非公 開でよいか

前述の柏市の開発情報にかかわっては、柏市が国などの補助金をとるために、デベロッパーが仕切る民間開発準備組織の基本計画をもとに市の補助金額を決め、その余を国などに求める「予算要望調書」というものがあります。6月要望、12月本要望とよばれ、国土交通省に提出するものです。

それを公開請求したところ一部開示で、重要な数字部分は非開示でした。理由は「民間の開発にかかわる未確定な情報であり、公開すると情報が一人歩きし、市民に検討されることにより開発準備組織に圧力となり、開発準備組織の『正当な利益』が損なわれる。当該部分は非開示」というものでした。柏市が上述のように莫大な税金投入をし、タワーマンション3棟も建てる都市計画の特別な規制緩和を行い、開発事業の事業執行権限を認可する開発情報です。民間事業の未確定な情報であることを理由に計画段階で秘匿されているのは異常なことです。都市計画決定の手続きが開始される以前には開示はしないということは、行き先も運賃も知らせず新幹線に乗せられるようなものです。新幹線に乗せる前に、この新幹線は北にいくのか、西にいくのか、運賃はいくらなのか、しっかり開示してから乗車させるのは常識です。それを非開示とするのは、情報公開制度そのもののじゅうりんといってよいほどの不当な行政処分というほかありません。

情報公開は「公共の福祉」判断に不可欠

私たちは「開発」がほんとうに「公共の福祉」実現のためのものなのか、しっかり情報公開させなければなりません。そして情報を開発関係者、権利者のみならず市民全体で共有することによって、私たち市民全体が「公共の福祉」とは何かを問わなければなりません。ほんとうにその事業が、①みんなの要求実現につながるか、②みんなで決めたか、③優先順位がそれなりに高いか、④財政的な見通しがあるか、⑤環境への配慮をしているか、などの論点を立てて判断されるべきものかと思います。計画段階でこうした留意点をふまえて検討されるべきで、そこにおいて公文書の情報公開制度はきわめて重要な位置を占めるものといわなければなりません。

各地のいろいろな住民運動、社会運動でこの情報公開制度も使いながら、大いに運動が広がること、行政の立て直しに道を拓くことを期待したいと思います。

【注】

  • 1 再開発事業などでの「税金投入」:事業計画・資金計画に計上されるのは、もっぱら、ア、補助金、イ、負担金、まで。このほか、ウ、ビル床買取代金、エ、公有地を繰り込む形の「投入」、オ、アクセス道路の整備、カ、再開発ビルの維持管理費、など分かりにくい負担もある。
    「補助金」は国の社会資本整備交付金交付要綱などにもとづくもの。再開発の事業者にただ助成されるだけの自治体財政からみて「消費的な経費」。「負担金」は公共施設管理者負担金とよばれ、簡単にいえば、道路整備、駅前広場整備の経費。
  • 2 オリンピック選手村の土地「投げ売り」事件については『豊洲新市場・オリンピック選手村開発の「不都合な真実」』(自治体研究社、2017年)所収の拙稿をご覧ください。地方自治法237条2項に定めのある「適正な対価」なく17・8㌶の公有地を時価の10分の1以下で処分した事件です。その後の情報公開請求の結果では、東京都の「手放し価格」の積算根拠が、じつはデベロッパーの大儲けを保障する価格から逆算したことが判明しました。デベロッパーの大儲けを保障する価格調査、「日本不動産研究所・価格調査」が17・8㌶を129億6000万円(7・3万円/平方メートル)の積算根拠だと告白したのです。
  • 3 柏市の情報非開示処分については、現在、情報公開条例からみて違法な決定として行政不服審査請求をしています。近く新しい行政不服審査法にもとづき関係者を集めた口頭意見陳述、弁明等の場が設けられる予定です。市民が開発計画の情報を検討することを否定する姿勢を改めさせなければなりません。
遠藤 哲人
  • 遠藤 哲人(えんどう てつと)
  • NPO法人区画整理・再開発対策全国連絡会議事務局長

同連絡会議は1968年設立。月刊「区画・再開発通信」発行、全国研究集会開催。筆者は自治体問題研究所事務局在任中の1981年から40年間、連絡会議の事務局に従事。2011年から2020年まで國學院大學兼任講師。

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