【論文】自治体への情報公開請求を社会保障運動の力に―大阪社保協がやってきたこと―


社会保障運動では、国や自治体の内部情報を知ることが何よりも重要です。このため情報公開制度を駆使して、運動を組み立てます。それが2000年以降確立した大阪社保協の運動スタイルです。

永和先生との出会いが出発点

2000年4月、介護保険がスタートしました。大阪社保協(大阪社会保障推進協議会)は「保険あって介護なし」と問題点を指摘し最後まで介護保険導入を反対した団体です。そのため、介護保険スタート直後からさまざまな取り組みを開始しました。特に、措置制度から保険制度に変質することで利用者が不利益になるのではないかという問題意識をもち検証する必要があると考えていました。

同年8月12日、社保協近畿ブロック主催「オンブズパーソン学習会」を開催、講師に永和良之助先生をお招きしました。永和先生は、介護保険以前に愛媛の特別養護老人ホーム(以下、特養)の施設情報を公開請求・調査分析し、研究者生命をかけて公表された方です。1996年雑誌『世界』に「高齢者福祉はなぜ腐触するのか~問題は「彩福祉グループ」だけじゃない」と題した論文を掲載し、愛媛県内の二つの施設を資料にもとづき比較検討、評価しました。しかし、愛媛県老人施設協議会(以下、老施協)は、この論文を「事実誤認も甚だしく」「老人ホームのみならず、全ての社会福祉施設に対する誤解と偏見につながる恐れがある」として永和先生が勤務する大学に対して、学生の実習受け入れ拒否、就職拒否を武器に圧力をかけました。この愛媛県老施協の暴挙に対し県内マスコミおよび県民から大きな批判の声があがり、最終的には抗議を取り下げました。永和先生はその後、そうした攻撃にも屈せず「えひめ福祉オンブズネット」を立ち上げ、さらに県内全特養の情報公開をすすめていました。

この学習会で永和先生は、「福祉オンブズマン活動は、情報公開をもとめ運営実態を明るみに出していく監視活動」「同時に福祉サービス利用者(市民)の権利擁護とサービスの品質保証のシステムを作っていく活動」と熱く語り、それが大阪社保協のその後の取り組みの方向性を決めました。

2001年4月、「福祉・介護オンブズネットおおさか」を大阪社保協内専門機関として立ち上げ、大阪市内全特養の調査分析のため、大阪市に対して監査資料の公開請求を行ったのが大阪社保協としての最初の情報公開請求でした。

特別養護老人ホーム運営実態調査・分析

大阪市は「大阪市特養監査資料」の多くを黒塗りにして公開しました。福祉・介護オンブズネットおおさかは大阪市と意見交換も行いながらさらに公開請求をし、公開された監査資料に基づいて調査分析を行いました。2002年3月に「大阪市の特別養護老人ホームを考える集会」を開催し、そこで「大阪市監査資料にみる特養の実態」を公表。介護保険実施前後にわたり大阪市内特養のうち少なくない施設が経費を過度に抑制した結果、不十分なサービスや職員の劣悪な労働条件をもたらしていることを明らかにしました。

さらに、介護保険実施直後の大阪市内特養の2000年度・2001年度の実地指導内容、2002年度監査資料・介護保険実施調査、2001年度決算書を公開させ、2003年5月に調査分析内容の公表を行い、さらに大阪市とも懇談を行いました。

2003年堺市に対しても同様に特養の監査資料の公開を請求、2004年東大阪市、2005年度枚方市に対しても公開請求、それぞれ調査・分析を行い、公表しました。

介護事故調査

2005年8月、大阪社保協内に「介護事故研究会」を発足させ、2006年、大阪府内40市町村とくすのき広域連合に対して介護保険実施以降5年間の介護事故(死亡事故)報告についてのアンケート調査を実施し、初めて大阪府内自治体の介護事故報告の実態(毎年大阪府内で3000件の介護事故が起き、その9割が施設・居住系サービスの中で起きている)を把握することができました。

さらには、2007年、府内全市町村に対して、2006年度の介護事故報告書そのものの全公開を請求しました。それまで請求を行っていた大阪府、大阪市、堺市、東大阪市はいずれも情報公開条例の整備がかなりされており、運用も簡単で、郵送やFAXでの請求が可能となっていましたが、それ以外の市町村においては、役所に直接行かなければならないなど非常に手間のかかるところが多かったです。そのため「役所に行くことができない障害者や高齢者は請求できないのか」「交通費が出せない住民は請求できないのか」と抗議し、まず郵送申請を勝ち取り、次にFAX申請も可能にさせました。

この調査で明らかになったのは、各自治体が事業所から法にもとづいて提出を求めているところがある一方、求めてないところがあること、さらにはその自治体の情報公開度の違いでした。事業所名も含めすべて公開する自治体、すべて黒塗りを行った自治体もありました。

こうした一連の活動の中で、大阪府に介護事故に対して責任を取るよう要望し、大阪府は2007年、我々の要望に対して「介護保険事業所での事故発生時の報告等の取り扱い(ガイドライン)」を初めて作成し報告書の様式も統一しました。

こうした介護保険に係る情報公開を出発点としたさまざまな活動については、大阪社保協介護保険対策委員長の日下部雅喜著「『介護保険は詐欺だ!』と告発した公務員」(2016年日本機関紙出版センター)に詳しいです。

国民健康保険料差押調書公開請求

2006年大阪市、茨木市、松原市、堺市に対して国民健康保険滞納保険料に対する差押調書の公開請求を行いました。これは、毎年春に実施する大阪府内市町村国民健康保険アンケートにおいて、この年、この4市の差し押さえ件数が突出していたからです。公的債権の場合、滞納処分をする際には必ず差押調書を作成するので、この調書が公開されることにより、その自治体が何をどう差し押さえているのかがわかります。

2010年に行った大阪市差押調書公開請求により子どもの学資保険を差し押さえている事実が判明しました。大阪社保協は2008年の「無保険の子ども解消大運動」の発端を作った団体です。生命保険が差し押さえ可能と国税徴収法で定められていても、子どもの未来を守るためにも学資保険を差し押さえるのはおかしいと大阪市に要望書を提出し、マスコミとも連携して、3月議会の市長定例記者会見で「子どもの学資保険は差し押さえない」と約束させました。その後大阪市は「滞納処分Q&A」の中で子どもの学資保険の差し押さえについては必ず本庁と協議を行うとの一文を明記し、学資保険の差し押さえをしないという大阪市独自ルールを作り、現在に至っています。

大阪市生活保護問題全国調査

2014年、生活保護問題対策全国会議、反貧困ネットワークなど生活保護問題や貧困問題にかかわる団体や大阪社保協が呼びかけ大阪市生活保護行政問題全国調査が行われました。2回にわたる生活保護ホットラインや5月28・29日の調査団には900人以上が全国から参加しました。

この調査活動の中で、大阪市の各区福祉事務所内部で起きていることを把握するために①生活保護(生活支援)担当課長会議・係長会議資料、②大阪市各福祉事務所に対する国監査資料および報告書、③内部監査資料、④厚生労働省「生活保護法施行事務監査」における大阪市保健福祉局作成「準備資料」、厚生労働省の同局への「改善指示事項」、⑤各区「生活保護業務実施方針」を公開請求し、①~④まではほぼ全公開され、⑤については情報提供されました。これら資料によりわかったことは、ケースワーカーの過不足状況、有資格率と経験年数、担当世帯数、各区の生活保護法63条、78条の適用実態、各区の文書指摘率、口頭指摘率などであり、交渉などでは知りえなかった区役所内部の事情、特にケースワーカー等の労働条件の劣悪さでした。

この詳細については大阪市生活保護行政問題全国調査団編『大阪市の生活保護でいま、なにが起きているのか」(2014年、かもがわ出版)をぜひお読みいただきたいです。

国保都道府県単位化~大阪の会議全資料公開

2015年5月に成立した「持続可能な医療保険制度改革を構築するための国民健康保険法等の一部を改正する法」により、2018年度から国保の保険者は都道府県と市町村になることとなり、2018年4月スタートまでに、都道府県は「国民健康保険運営方針」を策定することとなりました。大阪府は国の制度改革以前に2010年橋下徹知事の時代に「大阪府統一国保」を目指した経緯があり法改正よりも早く「大阪府・市町村国民健康保険広域化調整会議」を立ち上げ、2つのワーキンググループ(以下、WG)が動き出しました。このWGの資料は公開されず調整会議資料の公開も遅かったため、数カ月に一度、これら会議全資料の開示請求を行い、公開の度に担当者から公開資料についてのレクチャーを受けました。大阪府国保運営方針案の内容、標準保険料率、必要保険料の試算、本計算の資料などの公開請求により、大阪社保協ホームページにどこよりも(大阪府よりも)早くアップするということを繰り返し、現在に至っています。

たたかいあってこそ使いやすい制度に

国レベルでは森友事件に象徴されるように、公文書の改ざんや隠ぺいが行われています。一方、地方自治体レベルでは黒塗りすることはあってもほぼ公開されます。これは先達の地道なたたかいがあったからです。大阪府、大阪市に対しては、「市民グループ見張り番」や「大阪市民ネットワーク」が情報公開請求、不服審査請求、行政訴訟などありとあらゆる方法で公文書の公開を求めて長年たたかってこられました。そして大阪社保協も2000年以降、裁判こそまだありませんが、大阪府内市町村に対して数々の情報公開請求と不服審査請求で、非公開や黒塗りの壁を突き破ってきました。

情報公開制度と行政手続法は私たち住民運動のためにある法と制度ではないかと実感しています。しかし、使ってこそ意味があります。現在は全国どこからでもネットで請求でき、紙ではなくデータとして公開されるのが大阪府と大阪市であり、全国最高水準にあると思います。あなたの自治体の情報公開制度が使いにくいなら、たたかいで変えましょう。

寺内 順子

1991年大阪社会保障推進協議会入局。2018年より一般社団法人シンママ大阪応援団代表理事。著書に『「大丈夫?」より「ごはん、食べよう!』(2020年、日本機関紙出版センター)ほか。