【論文】コロナ禍で浮き彫りになった非正規雇用の新たな課題


低賃金で身分不安定な非正規労働者が全労働者の約4割にのぼり、コロナ禍で多くの非正規労働者が生活困窮に追いやられました。リーマンショックの時のように、大きな社会的危機の際しわ寄せを食うのは、最も立場の弱い労働者です。

新型コロナウイルスの感染拡大によって、経済活動が大きく制限され、日本経済は甚大な被害を受けました。感染防止や外出自粛、緊急事態宣言の影響で、飲食業・宿泊業・イベント業などのサービス産業が特に被害を受け、その結果、多くの労働問題が発生しました。経済的打撃のしわ寄せは最も弱い立場の労働者に行きました。

首都圏青年ユニオンでは、例年の労働相談が年間300件ほどであるところ、昨年4月の緊急事態宣言以降、1年間で約900件以上の労働相談が寄せられました。例年の3倍以上の数であり、これだけでも労働者が受けた影響の大きさがわかります。さらに、労働相談のほとんどがパートやアルバイトなどの非正規労働者からの相談であったことも、コロナ禍の特徴のひとつです。弱い立場の労働者が最も被害を受けたことになります。

本稿では、首都圏青年ユニオンの活動を紹介しながら、コロナ禍で浮き彫りになった非正規労働者の新たな課題について述べていきます。

労働相談の集計結果

まずは、青年ユニオンに寄せられた労働相談の集計結果(2020年4月から12月の計440件の集計。共同ホットラインなどは除く)について紹介したいと思います。性別の相談者は、男性184人、女性210人、不明46人でした。寄せられた労働相談の内容のうち、最も多かったのは「事業主都合休業」についてのもので、相談者の65%を占めました。シフトや労働時間が減ってしまったけれども、休業手当が支払われなかったり、休業手当が不十分という相談です。それに次いで「解雇・雇い止め・退職勧奨」についての相談が18%で、3番目が「感染対策が不十分」など感染対策についての相談で7%でした。

*休業手当:労働基準法26条「使用者の責に帰すべき事由による休業の場合においては、使用者は、休業期間中当該労働者に、その平均賃金の百分の六十以上の手当を支払わなければならない。」

雇用形態別の内訳を紹介すると、正社員からの相談は17%で、非正規労働者からの相談が83%と圧倒的に非正規労働者からの相談が多かったです。また、性別とリンクさせると、男性相談者の21%が正社員で、パートは57%だった一方で、女性のうち正社員はわずか11%に過ぎず、68%がパート・アルバイトでした。つまり、相談者のうち最も多い類型は、女性のパート・アルバイトという状況です。そして、産業別では宿泊業、飲食サービス業が62%でした。

このように、労働相談の特徴としては、女性からの相談が多く、パート・アルバイトなどの非正規労働者からの相談がほとんどを占めたのですが、さらに興味深いのは、相談内容を雇用形態別にみてみると、正社員のうち「事業主都合休業」について相談をした人は35・8%にとどまったことです。他方、非正規労働者のうち「事業主都合休業」の相談をしたのは79・8%です。「解雇・雇い止め・退職勧奨」についての相談は、正社員が37・3%であったのに対して、パート・アルバイトでは10・8%にとどまります。正社員と非正規とで、労働問題の現れ方が全く異なったのです。

シフト制労働の弊害

労働相談の結果からわかるように、今回のコロナ禍では、非正規雇用の「事業主都合休業」が問題の中心となっています。そして、そのほとんどが、いわゆるシフト制で働く労働者の休業無補償問題なのです。シフト制労働というのは、所定の労働時間がなく、週ごとや月ごとに労働時間が決定される働き方ですが、コロナ禍で企業が休業や営業時間の短縮を強いられるなか、シフト制労働者はシフトが全くなくなったり、大幅にシフトを削減されたりしました。これらのシフトカットについて企業は休業手当を支払わなかったのです。企業としては、そもそもシフトが組まれていなければ、予定する労働がないことになり、予定する労働がなければ、休業とはならない、このような理屈で、休業手当を支払いませんでした。しかし、実態としては、シフト制であっても、コロナ以前から一定の労働時間を恒常的に勤務していたのであり、労働者からすると急に労働時間が減らされたことになります。

2008年のリーマンショックの際は、派遣切りが広がり、派遣社員の雇い止めという形で企業がコスト調整を行いましたが、今回のコロナ禍ではシフト制労働者がシフトカットを受けて、労働時間が削減されることで人件費の調整弁に使われました。解雇・雇い止めを行わなくともシフトカットができてしまったのです。

このような状況に対し、青年ユニオンを含めた多くの労働組合が政府に対して対策を求めてきました。その結果、雇用調整助成金制度(企業が休業させた労働者に休業手当を支払った場合に国が企業に助成金を支払う制度)について特例的な拡充が行われ、企業が休業手当を支払える体制をつくってきました。しかし、それでも休業手当の不払い問題は解消されませんでした。休業手当に対して助成される制度があっても、それを使わないのです。

また、休業手当が支払われない労働者が個人で休業補償を申請できる休業支援金・給付金制度も創設されましたが、これについても多くの企業が「休業させていない」として協力を拒否しました。

企業はどうしてもシフト労働者を休業させていることを認めてくれませんでした。その理由は、シフトを組んでいないところまで休業と認めてしまうと、今後もシフトカットをした場合に休業手当の支払い義務が発生しかねないと考えているためです。つまり、シフトを自由に調整することで人件費を節約することができるシフト制の働かせ方を手放したくないとの考えがあると思われます。しかし、労働者からすれば、いつでも自由に労働時間が調整される非常に不安定な働き方となるのです。

『シフト制労働黒書』の発表

首都圏青年ユニオンでは、2021年5月、シフト制労働者の休業手当未払い・無補償の現象から浮き彫りになったシフト制労働の脆弱性・不安定性の問題を、コロナ禍で取り組んできた実際の事例からまとめ政策提言とともに『シフト制労働黒書』として発表しました。

そのなかの事例の多くはユニオンとして企業と交渉することで、結果として休業補償を得られてはいるものの、シフト制をめぐるさまざまな弊害について具体的に記しています。例えば、シフト制であることを理由に休業手当が支払われないことをはじめ、使用者の意に沿わない労働者に対する制裁(嫌がらせ)としてのシフトカットや、シフト削減に伴い雇用保険や社会保険から脱退させられる、などの弊害が起きていることについてです。また、シフトカットを理由に止むを得ず離職した場合でも、失業手当の制度上は会社都合退職とみなされず、給付制限期間(失業手当の受給までに3カ月の期間待たなければならない)がついてしまったり、失業手当の受給期間が短くなってしまうなどの問題もあります。シフト制労働の失業時補償の脆弱さも浮き彫りになりました。

上記のシフト制労働に対して、『黒書』では政策提言も行っています。政府は、休業手当の支払い義務をシフト制労働者にも適用する法解釈を行うべきであること、さらに、労働時間の変動に規制をかけるために最低シフト保障の制度化をすることや短時間労働者でも雇用保険に加入し、十分な失業時補償を受けられるようにすることなど、シフト制労働を規制し、労働者を保護する政策提言を行っています。

非正規労働者をめぐるこれまでの問題としては、有期雇用であることの不安定性や正社員との不合理な待遇差が主なものでしたが、シフト制労働の規制は、コロナ禍で浮き彫りになった新たな非正規の課題といえるでしょう。

さいごに 非正規労働者への被害─貧困の広がりが背景に─

本稿ではシフト制労働者をめぐる問題を中心に書きましたが、コロナ禍の非正規労働者の困窮の背景には、コロナ以前からの格差・貧困の広がりがあります。

コロナウイルスの被害を特に集中的に受けたのはパートやアルバイト、派遣などの非正規労働者でした。ユニオンに寄せられた相談の8割以上が非正規労働者からの相談で、年齢層も幅広く10代の学生アルバイトから60代の高齢層まで、あらゆる非正規労働者に被害が広がっています。

休業に追いやられ、収入が途絶える被害が広がっている非正規労働者の特徴は2種類に分けられます。1つはサービス業のパート・アルバイト労働者です。女性や学生などが多いですが、いわゆる家計補助的労働ではなく、家計の一部を担う労働者です。そしてもう1つはフルタイムで働き、自身で家計を担う、家計自立型非正規労働者です。

特に印象的なのは学生の貧困の広がりです。月10万~15万円の収入があった多くの学生が、コロナによる休業から、その収入がゼロになり生活が困窮するという相談も相次ぎました。さらに、当該学生にとどまらず、その両親もコロナの影響により収入が激減しているケースも多く、世帯全体に影響が及んでいます。また、その背景には、かつての男性稼ぎ主型世帯から、父親、母親、そして子ども(学生)らがそれぞれ働くことで家計を担う多就業家族世帯が増えていることがあります。多就業家族世帯の広がりは、収入源を複数もたないと生活ができない、それくらい低賃金が広がっていることの現れです。

さらに、相談などで貯蓄がない労働者が目立ちました。コロナにより収入が途絶えた上に、貯蓄がないがために、住居確保給付金、緊急小口貸付金、総合支援金、これらの制度をフル活用せざるを得ない人たちがほとんどでした。コロナ関連の問題で組合に加入したほとんどの組合員はこれらの制度を活用しており、ユニオンとしても制度利用の支援を行ってきました。

このように、長年続く新自由主義社会が雇用の流動化や不安定化、そして低賃金化をもたらし、働く貧困層を大量に生み出していたところに、コロナがとどめを刺した、そのような状況と理解できます。コロナを引き金にしてこれまでに、たまりにたまった資本主義の矛盾が一気に吹き出しています。いまこそ、新自由主義からの転換が必要であり、その絶好の機会でもあると考えています。引き続き、奮闘していきます。

*首都圏青年ユニオンと『シフト制労働黒書』についてのお問い合わせは、
https://www.seinen-u.org
TEL: 03-5395-5359 または 03-5395-5255(公共一般内)

原田 仁希

1989年生まれ。一橋大学卒。3.11以降、反原発運動への参加をきっかけに社会運動を始める。現在は、個人加盟型の労働組合「首都圏青年ユニオン」の委員長として活動している。主に、若者や非正規労働者の労働問題に取り組む。