【論文】改善図られない会計年度任用職員制度―自治体非正規労働者の現状と課題


2020年4月、会計年度任用職員制度はスタートしました。その内容は多くの自治体で働く非正規労働者にとって、「改善」だと喜べる内容ではありませんでした。3年目を迎える前に、改めてこれまでの経過を確認し、今後の課題を考えます。

根本的な問題は何ら解決していない

私たち自治体で働く非正規労働者は、自身の仕事に対する責任の重さに比べて、賃金は低く抑えられ、待遇さえも均衡や均等とはほど遠い現状にあります。しかし、それでも多くの先輩方の努力によって無権利の状態から一歩一歩前進し、今日の到達があります。

今から5年前、2016年7月に「地方公務員の臨時・非常勤職員及び任期付職員の任用等の在り方に関する研究会」が総務省に設けられ9回の会合の末、その年の瀬に報告書が提出されました。この報告書の柱として、特別職非常勤(地方公務員法(以下、地公法)3条3項3号)、一般職非常勤(地公法17条)、臨時的任用(地公法22条)などに分かれていた臨時・非常勤職員を厳格に分けた上で、「労働者性の高い非常勤職員は一般職非常勤職員として任用」し、「期末手当などの手当の支給が可能な制度に見直」すべきとの提言がまとめられました。これに対し自治労連は「これまで自治体で行われてきた脱法的な解釈や運用を整理する面はあるものの、地公法の建前や非正規雇用職員のおかれた状況を無視しむしろ無限定に自治体で期限付任用を活用できる制度を整備し、それを勧奨するものとなっている」と位置付けました。その上で、① 現在その職を担っている非正規職員の正規化、② 本格的・恒常的業務で短時間の非正規職員を「均等待遇に基づく、任期の定めのない短時間一般職公務員」に、③ ①②の任用替えには本人希望、合理的客観的基準による「選考」採用を求めました。

自治労連の要求はむろんこれまで自治体の都合で「安くて便利に」働かされてきた臨時・非常勤職員が働き続けられるしくみを担保するためのものですが、②の制度化は受け入れられず、①と③に近いものを労使交渉の末一部の自治体で限定的に認めさせる程度に留まりました。

この後、総務省は新たに位置付ける一般職非常勤職員をことさら働き続けられることを否定するような「会計年度任用職員」(改正地公法17条の2)と呼びました。それとは対照的に民間では、ひとまず雇用の継続を確立するために「無期転換ルール」が制定されようとしていました。地方自治体で働く非正規労働者に対する総務省と、民間の非正規労働者に対する厚生労働省との対応が、真逆のものとなっています。自治体非正規労働者に対しこれまでも労働基準法と地公法との狭間にあって、労働者としての権利があいまいで差別的に取り扱われてきた部分は、いっこうに改善されないことを表していました。それは、「会計年度任用職員制度の導入等に向けた事務処理マニュアル」(以下、マニュアル)では、待遇の低い国基準を押し付けるかのように例示するとともに、制度開始3カ月前まで改善に必要な財源を確保し得なかった総務省の対応の遅さなど、「会計年度任用職員制度」が各自治体で条例化されるに当たり改善に向けて動くことを、結果として妨害したといわざるを得ません。少なくとも全国の自治体にはマイナスに作用したことは確かです。

もちろん条例化に際し、これまでの到達点を当局に守らせ、さらなる改善を果たさせた労働組合も一定あります。ただ、国の「技術的助言」であるマニュアルは必ずしも改善ではなく、マニュアルに対する解釈が自治体当局によって異なり、これまでの到達維持は制度上「不可能」との誤った解釈も見られました。これは、あくまでもこの制度が条例によって規定され運用される以上、条例がマニュアルよりも強い効力を持つにもかかわらず、マニュアルを絶対視した自治体当局の対応に、後退を余儀なくされた労働組合も少なくありませんでした。マスメディアが当初「非正規公務員にボーナス支給」と報道したことにより、大幅な収入増への期待が私たちのなかで高まったものの、実際には月額報酬を引き下げ、その減らした分を期末手当や地域手当に充ててしまい、ほとんどの場合一時金に見合った2・6カ月分(2020年人事院勧告以前の期末手当)を年収に上乗せさせるには至りませんでした。これが「期末手当などの手当の支給が可能な制度に見直し」としたものの中身であり、私たちが改善となっていないとする理由です。

さらに踏み込めば、年度をまたいで引き続き働いているにも関わらず、2020年4月からは会計年度任用職員に「任用が変わった」として、一時金の算出基準が前年12月1日から6月1日までの6カ月分ではなく、新採同様4月1日から6月1日までのわずか2カ月分に、夏の期末手当を減額したケースも発生しています。これ以外にも、休暇を含めさまざまな面について国で働く非正規労働者と比較して、これまでの到達点を引き下げさせるためにマニュアルが用いられました。私たちはこれまで同じ職場で、同じ自治体で働く正規職員と比較して、改善を求めてきましたが、その考え方はマニュアルにはありません。これもまた旧労働契約法(20条)やパートタイム有期雇用労働者法(8条)にいう「正規雇用労働者と非正規雇用労働者の間の不合理な待遇差の禁止」とも噛み合っていません。先述の無期転換ルール同様、民間の労働者に対する法制度との断絶は甚だしいものとなっています。

また、今後のたたかいを考えた時、特別職非常勤職員の労働基本権が奪われたことにより、これまでよりも制約が増えることも懸念され、民間の労働者と比べて、労働者としてたたかう権利が自治体正規職員と同等に制限されることも考慮に入れることが必要です。

これまで述べてきたように、自治体で働く臨時・非常勤職員の多くが会計年度任用職員に整理されたことは確かですが、かつてのものと比較して改善が果たされたといえない実態からすれば、根本的な問題は何ら解決していない、と総務省は認識すべきです。

指定管理者制度への移行と深刻な事態

会計年度任用職員制度が議論される以前、2003年に地方自治法の一部改正を受けて、各地の自治体では順次条例を制定し、指定管理者制度が導入されています。それまで「公の施設の管理主体は出資法人、公共団体、公共的団体に限定」する管理委託制度がありましたが、「公の施設の管理主体は法人、その他の団体であれば特段の制限は設けず」株式会社などの民間事業者、NPO法人などに拡大した指定管理者制度が設けられました。① 民間事業者の活力を活用した住民サービスの向上、② 施設管理における費用対効果の向上、③ 管理主体の選定手続きの透明化などがうたわれています。この制度はいわゆる「官から民へ」の小泉構造改革以降進められてきました。会計年度任用職員制度が出てきた時、新たな一時金支給が財政に影響すると判断した自治体では、指定管理者制度導入で経費の削減や、採用・人員配置・日常の運営などを手放せるといった点をメリットと捉えて、さらなる導入を図りました。2019年、静岡県島田市が公共施設包括管理委託を進める動きに対して、自治労連などが調査を実施し、住民サービスの低下、臨時・非常勤職員の雇い止めなど数々の問題点を指摘しました。全国的な広がりとしては学童保育の多くに指定管理者制度が導入されています。民間企業の参入では、自治体直営だったところが民間の運営となったことで、それまでの保育内容を後退させ、労働組合活動を妨害する、あるいは人事評価の名のもとに解雇する動きがみられる場合もあります。子どもたちや保護者に対して、そこに働く労働者に対して、大きな不利益を生じさせていることはいうまでもないことです。大阪府守口市の学童保育指導員雇い止め事件はその一例です。すでに原告団はじめ関係各位からの報告が多数あり、詳細はここでは述べませんが、雇い止めが躊躇なく行われることは許されることではありません。さらには、管理させている自治体の責任も十分に問われるべきものです。指定管理者制度は、自治体が市民サービスを民間企業に丸投げするための制度でもなければ、サービス低下を許すものでもありません。労働委員会あるいは裁判での、労働法制を活用した粘り強いたたかいには力強い支援が必要です。

見つめ直す今、見えてくる課題

これまで述べてきたことからすれば、改善が図られない「会計年度任用職員制度」は要らない、と言い切ってもいいでしょう。しかし、少なくとも条例化が図られた制度を簡単に廃止して、次の新しい制度を求めることは容易ではありません。現行制度に対する評価と監視を怠らず、改善箇所を示し続けることをひとまず次善の策と考えます。それは一つには総務省に対して、もう一つは当然それぞれの自治体に対して改善を求めます。

まず、総務省に対して、会計年度任用職員制度に他の労働法制との整合性を持たせることです。なぜ公務で働く非正規労働者を蚊帳の外に置くのか、これこそ最大の差別です。

一番大きな雇用の継続性が無期転換ルールですし、正規・非正規の格差を埋めるのが有期パート法です。2007年、かつてパート労働法について議論された衆議院厚生労働委員会で、当時の公務員部長は次のように答弁しています。「今回のパート労働法、公務員は別になっているわけですが、短時間で働く方の待遇が不当に低いものとならないようにしようという考え方、これについては、公務員が別法だからといってそれを潜脱するというたぐいのものではないと思います」と。この言葉を現実のものにさせたいものです。

次に、個々の自治体に対しては、条例改正に向けて要求交渉を続けることです。確立された制度とは到底いえないものですから、実は自己矛盾を生じています。そのほころびを突いていくことが重要です。これまでもそうでしょうが、正規・非正規の間に見られる待遇格差(有給の病気休暇、退職手当など)。自治体非正規労働者にはなくて国の非正規労働者にある勤勉手当(相当分)。それから同じ会計年度任用職員に位置付けられていても、かつての臨時職員と非常勤職員の格差、フルタイムとパートタイムの格差が埋まっていないこともあります。職種ごとに勤務労働条件がバラバラな場合もあるのではないでしょうか。そうした格差を是正・解消するために、均衡さらには均等待遇の実現を求めていくことが必要です。

私たちの置かれている現状は不当に低い待遇であると考えていますし、自治体で働く者は誰しもが重い責任を背負わされています。待遇改善がないまま、「誇り」だけでその職に留まることは困難で、自治体非正規労働者の多くがモチベーションを維持できないところまで来ているように感じます。最近よくおこることですが、新たな人を職場に迎え入れても、早ければ数日で辞めるケースが後を絶ちません。口々に出てくるのは「こんなに大変な仕事だと思っていなかった」「こんな低賃金では仕事に見合っていない」という声、その職にふさわしい待遇がないと、欠員だらけになってしまいます。未来の話でも、絵空事でもありません。現在の話なのです。自治体で働く非正規労働者のなり手がいなくなる前に、打つ一手は対話→団結→改善→対話→………。このサイクルで明日を切り開きましょう。

曽我 友良

1972年大阪市生まれ。1998年から貝塚市文化財保護業務担当の嘱託。現在は会計年度任用職員。貝塚市職労嘱託評役員をはじめ、大阪・近畿ブロックでも役員を兼務。