【論文】2021衆議院議員総選挙から何を読み取るか―今後の展望に向けて

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今回の衆院選の結果から見えてくるのは、投票率の低下、与野党間の票の固定化、都市部における新自由主義支持層の形成です。こうした政治状況を変えられるかが展望の課題です。

はじめに

2021年10月31日に投開票された衆議院議員総選挙(以下、2021年衆院選。それ以前の衆院選についても西暦を付して表記します)の結果、公示前議席から15議席減らしたものの、自民党は261議席を獲得し、単独で絶対安定多数の議席を確保しました(無所属の追加公認を含む)。一方、野党第一党の立憲民主党は公示前議席から14議席減らして96議席の獲得に留まりました。

今回の衆院選の結果を巡っては、「野党共闘」の評価、日本維新の会(以下、維新)の躍進、過去三番目に低かった投票率など検討すべき論点があり、選挙直後からさまざまな論評が行われてきました。本稿では、全ての論点について詳細な検討を行うことはできないため、今回の選挙と過去のそれとを比較しながら、投票率、得票分析、維新の躍進の三点に絞って検討を加えてみます。

投票率の低迷─地方型から都市型へ

まず投票率から検討してみましょう。今回の衆院選の投票率は、小選挙区55・93%、比例代表55・92%で、前回2017年衆院選からそれぞれ2ポイント程度上昇しました(小選挙区と比例代表とで投票率はほとんど変わらないため、以下、本稿では比例代表の投票率を用います)。報道にもあったように、この投票率は戦後三番目に低い投票率でした。今回、289の小選挙区のうち、立憲民主党(以下、立憲)、国民民主党(以下、国民)、日本共産党(以下、共産)、れいわ新撰組(以下、れいわ)、社会民主党(以下、社民)の野党5党は213の選挙区で候補者を一本化して与党に対決するなど、有権者にとっては対立構図が以前よりも明確になり、投票率がさらに上昇してもよかったはずです。しかしながら、図表1で示したように、2003年以降の衆院選の投票率の推移をみると、今回の衆院選は2012年衆院選以前に比べてかなり低い水準に留まりました。

図表1 2003年以降の衆院選投票率(比例代表)の推移

総務省『衆議院議員総選挙・最高裁判所裁判官国民審査速報結果』より作成

2012年衆院選で自民党が政権を奪還して以降の投票率を都道府県別にみると、ある傾向が浮かび上がります。それはそれまでの衆院選では常に全国平均の投票率以下であった都市部を抱える都府県(本稿では東京都、神奈川県、愛知県、京都府、大阪府、兵庫県の6都府県=都市型地域とします)の投票率が2012年衆院選以降、上昇傾向にあることです。図表2はそれを示したものです。2009年衆院選までは都市型地域の投票率が全国平均のそれを超えたことはありません。しかし2012年衆院選以降は全国平均の投票率を超える地域が現われはじめます。特に今回、2021年衆院選では兵庫県を除く全ての都市型地域で投票率が全国平均のそれを上回るようになりました。また図表3にみられるように、2017年衆院選から2021年衆院選で投票率が上昇した地域は都市型地域が多いです。

図表2 全国平均投票率を超えた都市部の都府県

総務省『衆議院議員総選挙・最高裁判所裁判官国民審査速報結果』より作成

図表3 2017年衆院選から投票率が上昇した都府県(上位15)

総務省『衆議院議員総選挙・最高裁判所裁判官国民審査速報結果』より作成

一方で、以前は投票率が高かった地域=地方型地域では投票率の不振が目立つようになりました。今回の衆院選でも全国最低の投票率が山口県(49・67%)であったことが象徴するように、東北や北陸、山陰、九州など、以前の衆院選では考えられなかったような投票率の低下が見られるようになっています。

地方型地域の有権者の選挙への関心の低下は複合的な要因を考えなければなりませんが、自民党以外の選択肢の少なさ(あるいは自民党以外の政党が勝利する見込みがないこと)、地域経済の疲弊や人口減少、地方創生の不振など、総じて地方の持続可能性についての見通しが持てない状況とそれに対する有効な政策が行われないことに対する不信がある種の諦め=「投票に行っても仕方がない」という意識につながっているように思われます。

固定化しつつある得票構造─ 小選挙区では効果があった野党共闘

次に得票構造を見てみましょう。図表4、5は2003年以降の衆院選における主要政党の得票率の推移を見たものです(得票率は相対得票率)。

図表4 衆院選における主要政党の得票率の推移(比例代表) 数値は%

総務省『衆議院議員総選挙・最高裁判所裁判官国民審査速報結果』より作成

図表5 衆院選における主要政党の得票率の推移(小選挙区) 数値は%

総務省『衆議院議員総選挙・最高裁判所裁判官国民審査速報結果』より作成

両表から指摘できるのは、第一に、2014年衆院選以降、与党(自民党と公明党)の得票率がほとんど変わっていないことです。2014年、2017年、2021年の与党の得票率は、比例代表でそれぞれ46・82%、45・79%、47・04%、小選挙区で49・55%、49・32%、49・60%と推移しており、特に小選挙区では全く変化がないといってよいでしょう。つまり自民党と公明党の得票率は固定化されているのです。

第二は、第一の点の裏返しですが、野党全体の得票率も固定化されていることです。図表4の比例代表得票率を見ると、2014年衆院選では維新、民主、共産各党で野党得票率を三分していましたが、2017年は希望と立憲に二分され、2021年は、立憲は前回選挙からほぼ横ばいでしたから、希望が消滅した分を維新と国民がほぼ分け合ったという形になります。

第一の点と第二の点を踏まえると、自民・公明投票層と野党投票層の間で票の移動が起こっていないということになります。つまり、与野党の間で得票が固定化されており、野党間の得票率の変化は野党全体の得票率の範囲内での移動に過ぎないということです。これが第三です。2009年の衆院選では自民党得票率が30%を割り込み、その分をそのまま民主党が獲得して政権交代が起こっています。また2012年衆院選でも自民党得票率が30%を割り込んでいますが、それ以上に民主党が得票率を低下させたことにより、自民党が再度政権を奪還しています。しかし2014年衆院選以降は与野党間での得票の移動がほとんどありません。その結果、政権交代が起きないのです。

さらに野党を細かく見てみると、以下のような点が大まかには言えそうです。それは第一に、今回の衆院選で市民連合を媒介として政策協定を結んだ4野党勢力=狭義の野党共闘勢力の力量は、得票率で言えば4野党の合計得票率である32・88%、つまり投票者の30%強くらいであると推定できます(有権者の30%強ではないことに注意)。また維新のように、明確に新自由主義改革の推進を掲げる野党が15%程度の得票率、選挙後に維新との連携も模索する国民を含めれば新自由主義に親和的な野党勢力は20%程度の得票率となります。岸田文雄首相が「新しい資本主義」や「新自由主義からの転換」を訴えたとしても、小泉政権期のような急進的な改革を掲げていないだけで(掲げられなくなっただけで)、現在の自民党は新自由主義路線を基本的には継承していますから、現代日本において、新自由主義を推進する勢力は与野党合わせれば50%を超える得票を得ていると大まかには言えそうです。この岩盤が崩れない(崩さない)限り、野党共闘勢力(現在の日本における広い意味での社会民主主義志向勢力)が政権を獲得するのは相当に厳しいと言わざるを得ません。

一方、小選挙区選挙では野党共闘が効果を発揮したのもまた事実でした。選挙当日のNHK開票速報では出口調査の結果を元に「自民党は単独で過半数に届くかどうかはぎりぎりの情勢」「立憲民主党が選挙前の109議席から議席を増やす勢い」などと予測されていましたが、こうした予測はことごとく外れました。予測が外れたのは自民と立憲(野党共闘勢力)のどちらが勝ってもおかしくないほどに接戦であったからに他なりません。

今回の衆院選では、野党共闘勢力は142選挙区で「一騎打ち」の構図に持ち込み、そのうち41選挙区で勝利しています。また31選挙区においては票差が1万票以下の接戦となり、そこで野党共闘勢力が勝利していれば、野党共闘への評価はかなり異なったものになったでしょう。野党共闘を巡っては、「限界が見えた」「共産党との共闘で保守票が逃げた」などといった評価が見られましたが、個別の選挙区ではそのような場合もあったかもしれませんが、図表5に見られるように、全体としてみれば立憲、共産、社民、れいわの野党4党は、小選挙区で35・53%の得票率を得ており、比例代表の得票率32・88%から上積みしています。

小選挙区制である以上、自公との一騎打ちの構図に持ち込むには野党共闘、候補者一本化以外の選択肢はありません。衆院選で本格的に野党共闘が行われたのは今回が初めてであり、共闘効果に疑問符をつけるような評価は時期尚早と言わざるを得ないでしょう。

維新の「躍進」は何を物語るのか

今回の衆院選で注目されたのが維新の「躍進」でした。公示前勢力の11議席から41議席へと大幅に議席を増加させたからです。しかし過去の衆院選の推移をよく見てみると、図表4のように、希望の党に票を奪われた2017年衆院選は例外として、徐々に得票率を減少させており、「躍進」したとはいえ、2012年に獲得した20・38%には今回、及びませんでした。先ほども指摘したように、2017年衆院選で希望の党が獲得した得票の大半を維新が奪取したに過ぎません。

重要なのは、自民党ですら正面から掲げることをためらうような、「身を切る改革」に象徴される新自由主義改革を明確に掲げる政党がなぜ一定の支持を集めているのかという点です。維新が大阪府を中心とした関西各県において得票率が高いのは言うまでもありませんが、図表6に見られるように、全国的に見れば都市部を中心とした地域での得票率が比較的高い傾向にあります。中でも東京都の場合、区市町村別に維新の得票率を見ると、港区(18・14%)、中央区(18・09%)、千代田区(17・22%)江東区(16・32%)、世田谷区(16・09%)などの区において高くなっています。特に千代田区、中央区、港区の都心三区は、東京都はおろか、全国的に見ても最も富裕層が集住する地域であり、そうした地域で維新の得票率が高いということは、維新が比較的上層の階層から支持を得ているということがうかがえます。冨田宏治氏は大阪府内の分析から維新支持層が「勝ち組」・中堅サラリーマン層を中心としたものであることを指摘しています。それと同様に、東京都など都市部においては、維新に投票する層が決して貧困層ではなく、比較的上層階層であることが見て取れます。

図表6 2021衆院選における維新の得票率上位15都府県

総務省『衆議院議員総選挙・最高裁判所裁判官国民審査速報結果』より作成

維新の「躍進」については、維新の議席が大幅に増えたことよりも、都市部を中心に急進的な新自由主義改革を望む層がかなり厚い岩盤として形成され、それが拡がりつつあることが問題の本質なのであり、最初に述べた投票率の都市部での上昇という傾向と合わせて考えると、投票者内部における新自由主義改革支持層の厚みが今後増していくことが懸念されます。

おわりに

最後に簡単なまとめと今後の展望について触れておきます。

第一は2014年衆院選以降の投票率が固定化されつつあることです。有権者の6割未満しか投票所に足を運んでいないのが現実であり、政治に対する「諦め」が拡がりつつあります。第二に、与野党間での得票率の固定化です。つまり与野党を跨いだ得票率の移動が見られないのが過去3回の衆院選から見えてくる得票構造です。得票率が移動しているのは野党の間でも新自由主義改革を掲げる政党間においてであり、野党共闘勢力(=反新自由主義勢力)は概ね30%強程度で固定されているのが現状です。第三は維新の「躍進」に見られるような新自由主義を掲げる政党が都市部を中心に一定の基盤を形成していることであり、自公を合わせた広義の新自由主義勢力の岩盤を崩せなければ政権交代は起こらないことです。

現状では新自由主義改革からの転換を求める政治勢力=野党共闘勢力は劣勢ですが、政治が変わることを「諦め」ている層を掘り起こして投票率を上昇させること、決して新自由主義改革を求めて自公勢力を支持しているわけではない地方保守層を獲得すること、維新のような「身を切る改革」=新自由主義改革では現在の日本の現状が改善されるどころかより問題が深刻化することを明らかにすること、こうした諸課題に地域ごとに取り組んでいくしかこれからの政治の展望は見えてこないでしょう。

【注】

  • 1 例えば『毎日新聞』(2021年11月2日付)。
  • 2 同前。
  • 3 冨田宏治「維新政治の本質─その支持層についての一考察─」(『住民と自治』2018年11月号)。
川上 哲

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