【論文】消えないPFOA汚染 ─大阪府摂津市からの告発


PFOAってなに?

2020年6月、PFOA・PFOSについて、大阪府摂津市の地下水から全国一の高濃度が検出されたと『毎日新聞』が報道しました。摂津市の高濃度のほとんどはPFOAによるものです。

PFOAとは、沖縄米軍基地などからの排出が問題になっているPFOSと同様、耐水性・耐油性に優れた で、フライパンのテフロン加工等さまざまな物に使用されてきました。しかし、自然界では分解せず、発がん性や低体重児出生、発達毒性など人体への健康被害も指摘され、2019年残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約(POPs条約)で製造・使用が禁止となりました。日本でも2020年に水の暫定目標値(PFOA・PFOS合計で1㍑当たり50㌨グラム)が定められ、環境省が全国の地下水等の調査を行いました。

市はすぐに「地下水は高濃度だが飲用には使用しておらず、水道水は安全」と説明しましたが、ダイキン工業の製作所周辺の畑で農作物を作り、それを食べている住民の血液から非汚染地域の70倍ものPFOAが検出され、水だけではなく土壌や農作物、人への健康影響の調査が求められました。ところが市は全く動こうとしません。

市は知っていた─汚染源はダイキン

実はPFOA汚染はすでに2007年の大阪府議会で問題になり、汚染源は摂津市に立地するダイキン工業株式会社淀川製作所であることもわかっていました。エアコン等で有名なダイキンは、世界的なPFOA製造企業だったのです。市は2009年から毎年、府とダイキンで「PFOA対策連絡会議」なるものを市民にも議会にも知らせず行っていました。新聞報道を見た市民からの質問に「汚染の原因はどこかと聞かれたら、今は『わからない』と答えている」という市の発言も会議録に記されていました。市民の命と健康よりも大企業の利益優先の姿勢に怒りが湧きました。

市民も声を上げ始めました。ダイキン周辺で農作物を作っている住民はさらに9人が血液検査を行い、全員が高濃度であることを市や市議会に訴えました。周辺の小学校の保護者らから不安の声が上がり市と教育委員会に要望書が提出され、日本共産党の山下芳生参議院議員の国会質問でも取り上げられました。「PFOA汚染問題を考える会」が立ち上がり、調査・対策を求める要望署名が市に提出されました。市民の声の広がりを受けて、全ての議員がこの問題に関わらざるを得なくなり、2022年3月、摂津市議会全会一致で「PFOA等による健康影響の解明及び指針等の整備を求める意見書」が可決されました。市もようやく重たい腰を上げ、国へ調査を要望し、今年度、環境省、農林水産省の土壌等の調査が実施されることになりました。

ダイキンの責任

ダイキンの淀川製作所は過去にどれだけPFOAを排出してきたのでしょうか。ダイキンは企業秘密だとして公表しません。2003年の京都大学チームの調査では、安威川から1㍑当たり6万7000㌨グラム(現在の暫定目標値は50㌨グラム)が検出されました。ダイキンが下水に排出したPFOAが、広域下水処理場を通して安威川に放出されたことが原因です。大量のPFOAは安威川から神崎川を通じて大阪湾へ流れ込み、逆流して淀川からも140㌨グラム検出、淀川から取水する水道水も汚染されていました。1999年の下水接続以前は、30年以上も地域の水路に排水をそのまま垂れ流してきました。さらに大気にも大量排出していました。2012年にPFOAを全廃し、10年経った現在でも地下水を汲み上げ、活性炭処理などを続けていますが、それでも敷地内外に超高濃度の汚染が広がっています。しかしダイキンは、敷地外には責任はないと言い張っています。

ダイキンの責任は、PFOA大量排出の張本人というだけでなく、健康被害なども十分知って排出し続けたことにもあります。1981年、ダイキンと同じくPFOA製造の世界8大メーカーの一つ、デュポンの工場で女性従業員2名から先天性欠損症の子どもが誕生しました。2000年、アメリカ環境保護庁(EPA)がPFOAの危険性を警告します。2002年、8大メーカーの一つ、3Mは人体への危険性を理由にPFOAの製造を中止、市場から撤退します。

ダイキンはPFOAの有害性について十分認識していたはずですが、その後も2012年まで製造、大量排出を続け、現在も暫定目標値の10倍以上の濃度で汚染水を公共下水へ流しているのです。

今も体内に残る汚染─未来のためにも声を上げ続ける

2022年6月、長年ダイキン周辺に住む住民11人が、今も影響があるのではないかと血液検査を行いました。そのうち7人から高濃度のPFOAが検出されました。最高は非汚染地域の6倍以上です。この人たちは農作物を作って食べているわけではありません。過去の汚染が体内に残っているのです。住民の多数が影響を受けていることが推測されます。国に対して、住民の健康影響調査・疫学調査を求めるべきですが、市は健康被害についての基準がないというばかりです。しかし、公害の歴史を見れば、被害拡大の原因は、住民の命や健康よりも企業利益を優先し対策を行わなかったことにあります。国も自治体もその教訓に学ぶべきです。

米国環境保護庁(EPA)は2022年6月、代替物質も含めたPFOA等の規制を強化しました。少量の摂取でも健康に悪影響を及ぼす可能性があるからです。未来の世代にも影響し得るこの公害に対して、私たちの運動はまだ始まったばかり、声を上げ続けることが必要です。

【注】

*有機フッ素化合物:水や油をはじく、熱に強いなどの性質を持ち、カーペット、「テフロン」加工のフライパン、化粧品、消火剤、防水スプレー、コーティング剤など、さまざまな製品に使用されてきた。

増永 わき

1959年大阪市生まれ。 関西大学(Ⅱ部)文学部卒。 法律事務所、大阪市学童保育指導員、摂津民主商工会事務局を経て2013年市議初当選。 副議長、民生常任委員会委員長、議会運営委員会副委員長、議会活動等検討員会委員長、議会だより編集委員会委員長等歴任。 摂津社会保障推進協議会事務局次長、子どもと教育を守る摂津市民の会事務局など歴任。現在、摂津社会保障推進協議会副会長、子どもと教育を守る摂津市民の会幹事。