【論文】女性の議員活動を阻むもの ─ ハラスメント問題を自分ごととして考える


立ち上げに至ったキッカケ

政治の世界での女性の活躍がいかに難しいか、という長年の課題の中で、2023年6月1日、私たちは超党派議員等で「ハラスメント問題を考える会」を立ち上げました。私たちがこの会を立ち上げるに至った一つの大きなキッカケは、2023年春の統一地方選挙後の5月中旬に報道された、大阪府議の男性によるセクハラ・パワハラ加害の問題でした。

この問題は政党の内部リークにより発覚しましたが、実に8年間も隠蔽されてきたことや、被害を受けた女性議員が選挙区を変更するという被害者が不利になる対応がされてきたことも明らかになりました。

さかのぼると日本維新の会の馬場伸幸代表は、統一地方選挙直前、「24時間選挙のことを考え、実行できる女性は少ない」と女性枠を設けることに否定的な立場を取り、「今の選挙制度が続く限り、女性枠を設けても女性が一定数、国会や地方議会に定着することは難しい」とも発言しました。現行の選挙制度に課題があることを認識しながらも、女性の政治進出や、政治の世界で多様性を確保することの大切さを理解しようとしない発言です。しかし、その発言が報道された後でも統一地方選挙で維新が大躍進しました。

馬場氏の発言にあったような、〝睡眠と入浴の時間以外は政治のことばかり考えている人間〟も、単体では生きていくことができないはずです。それでも選挙や政治活動に没頭できるのは、誰か(主に女性)が彼らを献身的に支えているからですが、それを「内助の功」と称える風潮が政界にはいまだに根強く残っています。

こうした〝マッチョ〟政治、男性原理が浸透した社会状況を変えなければ、日本社会全体が生きづらさから脱却することはできない、と私たちは確信しています。

今も日本の女性地方議員の割合は、15・1%(2021年12月31日現在 総務省調べ)と世界的にも非常に低い水準(図)で、意思決定に影響を及ぼすと言われる最少人数三分の一「クリティカル・マス」には到底、達していません。こうした議会構成のアンバランスさは、女性をはじめ少数派が活躍しにくい状況を作り、パワーを背景としたさまざまなハラスメントを生み出すベースにもなっています。法律や条例制定に決定権を持つ議員がハラスメント行為をしても加害者に対して〝寛容な裁き〟が横行してきた原因も、〝特権〟や〝パワー〟を多く持つ側に有利な体制が敷かれてきたことに一因があると考えます。

図. 国会・地方議会の女性議員割合

 

被害者が自分の能力に原因があるのではと受け止めてしまうことも多く、一般的に女性は自分の能力を過小評価する傾向にあるとも言われています。そうした状況を利用して、ハラスメントを当事者の資質によるものであるとして問題を過小評価したり、ハラスメント問題の責任を、初動で対策できなかった組織や加害者にではなく、被害者に求めたりする風潮もある中で、周囲の無理解がさらなるハラスメントの連鎖を生む例もあります。

そういった中、先述の大阪府議によるセクハラ・パワハラ問題が報道されたのです。私たちはハラスメント問題を撲滅し、地方議会で女性を含む多様な議員が活躍する環境をつくっていくためには超党派で当事者意識を持ったグループの存在が必要だと確信し、「ハラスメント問題を考える会」を立ち上げました。

人権意識の欠如が引き起こすハラスメント

議員活動を阻むものとして、これまで明るみに出てきにくかったハラスメントについて、昨今、被害者が声を上げる動きが顕著になってきています。こうした動きや社会全体の人権意識の変化を受けて、さまざまな政党内部でのハラスメント問題が報じられはじめたほか、議員と自治体職員、議員と市民など、さまざまな立場、パワーバランス(権威勾配)、シチュエーションで生じたハラスメントが次々に報道されています。これらは氷山の一角ですが、今まで誰にも言えず被害を受けた側(主に弱い立場に置かれた者)が去ることにより無かったことにされてきた問題が、視覚化され始めたと言えるでしょう。

女性は最大のマイノリティと言われますが、普段の何気ない言葉や態度の中に散りばめられた無意識のバイアスでハラスメントや を受けることはままあります。

「女やのに、なんで議員になったの?」と悪気なく尋ねられたり、自治体職員から「女性が働くのは、家事育児が苦手だからでしょ」と言われたことも…。男性議員と一緒に打ち合わせをすると、相手がその男性議員の方ばかりに話しかけ、こちらを向かないこともよくあります。

議員が自身の資質を磨く努力は当然必要ですが、理不尽な言動や態度によって、傷つき、心をそがれ、活動するエネルギーがそがれることはとても辛いことです。

ハラスメント問題がさまざまな場面で注目される今日、あからさまな差別発言や悪意ある対応を受けることは多くはありません。

しかし、ハラスメント行為をする人は、言葉による暴力・肉体的な暴力・性的な暴力に限らず、理由の分からない不機嫌な態度や、一人だけお茶を出さない(存在無視)、仕事に必要な情報等を与えずミスを誘発し評価を下げる(情報遮断)、うわさや中傷を流して相手の尊厳を傷つける(ガスライティング)、といった、マイクロアグレッションを繰り返すというかたちで、被害者により深い心の傷を与え、心的外傷後ストレス障害(PTSD)と同様の長期に渡る影響を残す場合もあります。

そこに悪意があろうと無かろうと、ハラスメントの本質は「人権意識の欠如」です。場面や立場が異なっても、「ハラスメント=人権侵害」であることに変わりありません。

また、ハラスメントが起こる構造上の問題には、必ずと言って良いほどパワーバランスが関係しています。力関係は一つの要因で決まるものではなく、性差、年齢差、議員経験年数、役職の有無、経済的優位性、人間関係、体格差、体力差、声の大きさなど、さまざまな要素で形成されています。

ハラスメント防止には、パワーバランスにおいて優位に立つ者が自身の持つ優位性、特権を理解し、それを抑制する意識を持つことが重要であると考えます。そして、さまざまな場面で力の格差を均衡化するシステムを取り入れる努力も必要です。

例えば、選挙制度として「女性枠」を設けることもその一つですし、議会では、新人議員、若手議員、女性議員、無会派議員から先に質問できるよう順番に配慮する、といったルールや慣例を持っている議会も多いようです。

実際にハラスメントが行われ訴えがあった際の議会や政党内でのハラスメント問題解決には、第三者の存在も欠かせないと考えます。内部の問題だからと内部だけで処理しようとすると客観性が失われ、権威勾配の強い加害者に寛容な判断がなされたり、隠蔽などに繋がりやすいことも指摘されており、専門的知識を持った外部委員の配置が必要と考えます。

また、被害者を支援・救済するため相談窓口を設け周知徹底するなどの仕組みも重要です。

条例制定の動き

旧態依然とした議会の中でも、ハラスメント事例が多発していることから条例制定に至る自治体が増えています。2018年11月には東京都狛江市が「狛江市職員のハラスメントの防止等に関する条例」を施行し、その中で、議員の責務についても定めています。2022年7月には福岡県議会が「福岡県における議会関係ハラスメントを根絶するための条例」を制定し、大阪府議会でも福岡県に倣って2023年3月に同様の趣旨の条例を制定しました。一般財団法人地方自治研究機構によると、職員や議員のハラスメント防止等に関して単独条例を制定している自治体が、現在では33と広がりを見せています(2023年9月25日現在 地方自治研究機構調べ)。

地方議会ではまだまだ少数派である女性議員が、ハラスメントにより議員活動を阻害されることなく邁進できる環境をつくるためにも、女性に限らず多様な背景を持つ人が政治に関わり、「自分らしく生きることを受け入れられる寛容な社会」をつくるためにも、自治体職員や市民との信頼関係を築く上でも、政治の世界におけるハラスメント根絶は、欠かせないプロセスです。

ハラスメントを未然に防ぎ、問題が起きた際に対応できる、実効力ある条例・規則等の制定と運用を広げることが求められます。

加害者にならないためにも

一方で、ハラスメントに日々晒されながらも一種の「特権」を預かる立場である議員は、自身が加害者にもなりうることをより強く認識する必要があるとも感じています。

例えば、時間を指定したアポイントを取らずとも、議員が呼べば行政職員がすぐに控室にとんで来てくれる、ということが議会では一般的になっていますが、それが当たり前という感覚に陥るのは非常に怖いことだと感じます。実際、歴の長い議員が自治体職員に対して高圧的な態度をとる場面を目にすることは少なくありません。ある時、職員の方に、「どのように声がけをすれば職員の負担を減らせるでしょうか」と相談すると、「時間のある時に来て欲しい、と言ってもらえると、目の前の仕事を放り出して行かなくて良いので助かります」と答えてくださいました。

自分自身が知らず知らずのうちにパワハラをしてしまっていないか、「自分ごと」としてハラスメント問題を捉え、加害者にならずに済むように日頃から学び続ける姿勢が大切だと思います。

議員本来の力を発揮できる環境づくりのために

議員活動の妨げとなる〝ハラスメント〟から身を守る知識と対策を広げることは、市民の声を代弁する議員が本来の力を発揮できる環境を保障する公益性のある取り組みでもあります。

私たち「ハラスメント問題を考える会」は、呼びかけ人の下村千恵(奈良市議)、西谷知美(摂津市議)、田平まゆみ(前富田林市議)とともに、こうした問題意識を関西から全国へと広げ、ハラスメントのない議会と地域社会を作るため活動をしていきます。

先日10月6日には、フェミニストカウンセラーを講師に招き、「ハラスメントの構造とは~議員としてできること~」という勉強会を開催しました。多くの議員が自治体、党派を超えて関心を寄せて下さり、ともに学ぶことができました。今後も勉強会・交流会・議会への働きかけ・ピアカウンセリングなどを行っていく予定です。

次回は、2024年1月18日(木)14時から、「ハラスメント問題を考える会 オンライン交流会」を予定しています。それぞれの議会でのハラスメント問題に関する課題や取り組みなどの話題を持ち寄り、情報交換を行いたいと思います。

この度の特集を通じて、一緒に学ぶ仲間やハラスメント問題について考えてくださる方が増えれば大変嬉しく思います。

・問い合せ先メールアドレス

againstharassmentpolitical@gmail.com

・「ハラスメント問題を考える会」ご挨拶&入会案内

 

  

・今後の活動予定

 

  

田平 まゆみ