群馬県上野村 地域資源を使った再エネ普及と村づくり

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脱炭素がつなぎ
  脱炭素で輝く
    地域コミュ二ティ


はじめに

COP21でパリ協定が採択されたことにより、温室効果ガス排出削減のための具体的な努力目標・数値目標が、多くの国から示され、脱炭素化が加速しています。一方で、脱炭素化に逆行するような兆候もあり懸念されますが、脱炭素化は、強い危機感と人類の良識に起因した世界的な潮流であることに変わりはありません。

しかしながら日常に目を移せば、残念なことにまだまだ切実感は乏しく、気候危機対策は自分事として捉えられてはいないという現実を往々にして感じます。

時間的猶予がない中、個々人の行動変容を促すためにも、自治体行政における脱炭素への挑戦は極めて重要であるとして、上野村うえのむらは群馬県に呼応し、2050年に向けた「うえの5つのゼロ」を、2020年に宣言しました。

その5つの目標の一つに「温室効果ガス排出量は実質ゼロ」を掲げ、そのために「エネルギーの地産地活」を最大限進めることや、化石エネルギー依存の縮減と省エネ化の推進などについて、全村エリアで取り組むこととしました。特に、村の97%を占める森林資源を活用した「エネルギーの地産地活」は、域外に流出していたエネルギー調達コストを地域内に留め、資金環流と多面的な効果を生み出すことから村は重点を置いており、今、着実に進展しています。

私は、基礎的自治体である市町村が動かねば、日本が目指すのゴールは遠のいていくのではないかと考えます。

個人の行動、企業としての対策、コミュニティとしての取り組み、いずれも重要ですが、脱炭素に向けた大きなうねりを日本全体で起こすための鍵は、自治体が握っていると考えます。

上野村は、「エネルギーの地産地」と脱炭素の実現に向け、村ぐるみで事業を展開し、もって地域課題をも解決し、そして何よりも村の価値を磨き、高めていくことを目指しています。

上野村の取り組み

上野村は、人口1011人(2025年1月1日現在住民基本台帳人口)と、島嶼とうしょ部を除けば、人口では関東地方で最も小さな自治体です。人口減少・高齢化という厳しい現状もありますが、一方で人口の約2割が移住者であるなど、永年の移住定住対策が実を結んでいます。

様々な分野で、着眼が先駆的であるという過分な評価をいただくこともありますが、これは、逆に捉えれば、それだけ農山村の課題が先行しているということでもあります。特に産業振興は、村の持続のための最重要課題であり、による「エネルギーの地産地活」の取り組みも、その起点は、上野村が目指す林業の再生にありました。

木材価格が長期に低迷し、先人の汗が染みた森林が放置される中、林業の活路はどこにあるのか。最大のストック資源である森林の無限の力に、先人の営みを重ねたときに得られた答えが、地産によるエネルギーを地域で利用することでした。

かつて山村地域は、まきや木炭を生産することで、地産地消のみならず、都市部へのエネルギー供給の一部も担い、森林を保全しつつ、森林の再生利用を当たり前に行っていました。そう考えますと、木質バイオマスエネルギーは、いわば先人の知恵を現在の技術(ボイラーとガス化)に置き換えただけのものといえるわけですが、これが、木材利用の出口戦略として、極めて有望であると着目をしました。

そこでまず、間伐材かんばつざいなどの未利用材を活用するため、2011年に木質ペレット製造工場を稼働し、村内の温泉施設、農業用ハウス、住宅の暖房などで利用することを皮切りに、小型ガス化熱電併給設備を整備し、木質バイオマス発電の電力と廃熱により椎茸シイタケの生産を行っています。

群馬県は全国上位の椎茸シイタケ生産地ですが、その中でも上野村は、安定した産地として認められるまでになりました。村の森林が電力を生み出し、森林の持てる力により村の主産業が維持されているのです。

この地産エネルギーによる産業の連環が、地域内の資金環流を起こすわけですが、素材生産を担う林業、エネルギー生産を担う木質ペレット工場という直接の仕事はもちろんのこと、木質バイオマス利用に関係する宿泊観光業、福祉施設、農業などにおいても事業展開の広がりによる波及効果は大きく、村内全体で雇用と所得を創出する好循環が生まれています。さらには、資金環流はの森林所有者への還元にも及び、森林活用の意欲が高まり、機運が盛り上がります。

このような地域内循環は、単なるエネルギー消費ではなく、地産エネルギーが地域内で活かされ、地域を活かすという大きな意義があります。そこで、地産地消ではなく、「エネルギーの地産地活」と表現しているところです。

また、森林資源の中で、最大の未利用資源といえる広葉樹は、日本においても世界に目を向けても森林面積の約6割を占めますが、その活用度は極めて低いのが現状です。それを打開するには、広葉樹を最大限に活用するための研究開発が必要であり、本村では、国等の支援を受け、先駆けとなる実践的取り組みを開始しました。

特に、2023年度から、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(通称、NEDO)の実証事業を開始し、広葉樹の特性に合わせたエネルギー活用に取り組んでいます。広葉樹は針葉樹と比べて扱いにくく、伐採搬出コストは割高となります。また、林業機械への負荷が生じるため、それらを低減させるための工夫が必要です。NEDOの実証事業によりこのような課題を解決し、的確な広葉樹活用の手法を確立させます。その上で、次の計画として、広葉樹チップによる小型ガス化熱電併給設備を村内に点在整備し、木材利用の出口増大を図ります。

地域内循環の仕組みを進化させるためには、出口戦略とともに山元の人材確保と育成が極めて重要です。それらの人材が林業再生の駆動力であり要です。エネルギー利用を中心とした村内における木造需要を増やしつつ、人材育成と林業の生産性向上により、素材生産供給能力全般を高めていかなければなりません。

これは、どちらが先でも後でもなく、同時並行に進めることが肝要です。本村は、これをバランスよく増大させ、地域内循環のスケールを2倍、3倍にしていくことを目指しています。スケールが倍加するということは、関連する雇用も倍加することであり、何よりも、その雇用は地域内の資金環流により維持できるのです。

また、「エネルギーの地産地活」とは、村という場での、いわば平面的な循環であるわけですが、木質バイオマスについては、樹木の育成期間を周期とした、原木の長期調達サイクル、すなわち時間軸での循環の視点が必要です。そこで本村では、25年をサイクルとした原木調達計画を策定いたしました。

場の循環と時間軸の循環が重なり合ってこそ、資源と資金の無限の再生利用である考えます。

そして、このような取り組みが、それぞれの地域コミュニティの個々の事情に適合した仕組みとして広く横展開できれば、エネルギーの国産国活とも成り得るのではないでしょうか。それにより55億立方メートル(2022年林野庁データ)といわれる日本の森林資源の価値がよみがえり、もって山村の創生と持続的発展に向けて展望が開けるのです。

このような「エネルギーの地産地活」により村を創生し、持続につなげることを目標として取り組んできたところですが、次いで2022年に、本村は国の脱炭素先行地域に選定される運びとなりました。

脱炭素先行地域に選定されたことにより、太陽光発電を加えた再生可能エネルギーをさらに徹底して活用するとともに、蓄電池の併用によって自立型の電力確保を進めることといたしました。

同時に省エネ家電の普及やLED化の促進、電気自動車購入の嵩上げ補助、木質ペレットストーブや蒔ストーブの購入補助、ソーラー温水器の設置補助など幅広い脱炭素メニューを整えました。

今、上野村は「エネルギーの地産地活」から、脱炭素の村へとステップアップしています。

脱炭素がもたらすもの

脱炭素に取り組むことは、地域課題の解決につながります。本村においては、まず、木質バイオマスエネルギーの地産地活により、林業の持続的成長が図れます。また、エネルギーの地産は、自立分散型電力が確保されることでもあり、が強化されます。更に、再エネ活用によるコスト削減により、公共サービスの維持を工夫することもできます。豊かな自然環境に加えて、エコビレッジともいえる暮らしぶりが実現されていることに共感が得られるならば、この共感は移住定住の動機になるとも思われます。

そして、何よりも大切で、期待することは、これらを通じてが醸成されることです。村の価値を磨き上げるとは、このことであると考えます。

所感として

再生可能エネルギーの活用、自立分散型の電力確保、脱炭素の推進、いずれも専門的知識を必要として、行政事務としてはこれまでに関わったことのない分野に切り込んでいかなければならないことですが、脱炭素の実践対策の構築と、その実践の主体は、やはり自治体が担うべきと考えます。

本村は、バイオマス産業都市としての認定を受け、また脱炭素先行地域の選定により、国の関係府省の横断的支援をいただけるとともに、同じ方向を目指す自治体のネットワークから、情報や知見、また様々な経験値をいただくことができ、大きな支えとなっています。しかし、振り返りますと、手がかりや基本的な知識を得ることから始まり、なかなかに大変な業務であることを常々感じてきました。

脱炭素に向き合う全国の同志は、互いの経験や知見を公開し、全ての取り組みをブラッシュアップさせていくことが極めて重要と考えます。

脱炭素社会の実現を地域と自治の力で進めていくことは、誇りある地域づくりそのものであると信じ、挑戦を続けます。

黒澤 八郎

1961年生まれ。1980年4月 上野村役場奉職、企画財政課長、振興課長、総務課長を歴任。2017年6月 上野村長就任、現在2期目。全国小さくても輝く自治体フォーラムの会副会長、バイオマス産業都市推進協議会副会長。

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