沖縄県の裁量的判断の正当性を認めた最高裁裁判官の反対意見


辺野古の米軍基地建設工事に関連して、農林水産大臣(以下、大臣)が県に対してサンゴ類の特別採捕許可(以下、許可)を指示したことに関する事件で県の裁量判断の正当性を認める最高裁裁判官の意見が示されました。

辺野古基地建設事業では建設予定区画のうち大浦湾側の水域の地盤の大半が極めて軟弱なことが防衛省沖縄防衛局(以下、沖防)の土質調査によって判明し、90メートルの水深での砂杭による地盤改良工事など極めて困難な工事が必要といわれています。沖防は2020年4月、設計変更承認の申請を県に提出し、県が審査中です。

一方、沖防は、2019年4月と7月に環境保全措置としてサンゴ類を周辺海域に避難させるため水産資源保護法等の関係法令である県の規則に基づいて許可を申請しました。県は、この時点で、設計変更の承認が必要なのにその申請も出されておらず、許可の必要性と妥当性を判断できない等の理由で処分を行わないでいました。これに対して大臣は県が処分をしないことは水産資源保護法等に違反し著しく適正を欠く等として、県に対して許可をするよう指示しました。県は国地方係争処理委員会への審査の申し出を経て、指示の取消訴訟を起こしました。1審の福岡高裁、2審の最高裁(最判令和3年7月6日)とも県の請求を退けましたが、最高裁第3小法廷の5人の裁判官中2人の裁判官が反対意見を述べました。

多数意見は、本件のサンゴ類は、沖防が適法に実施しうる護岸工事により死滅のおそれがあった以上、移植の必要があり、県の判断は沖防の適法に工事を実施しうる地位を侵害する不合理な結果を招来するもので、裁量権の逸脱・濫用があったとしました。

これに対して、宇賀克也裁判官は、変更承認申請が拒否されれば、サンゴ類の移植は無意味になるばかりかサンゴ類に重大かつ不可逆的な被害を生じさせる蓋然性が高く、水産資源保護法の目的に反することとなり、本件護岸工事との関係のみに着目して申請の是非を判断すれば「木を見て森を見ず」の弊に陥るので、県は変更承認申請が承認される蓋然性を考慮して判断しなければならず、県がその点を判断する情報を得られないため処分をしなかったことは裁量権の逸脱・濫用にあたるとまではいえない、と反対意見を述べました。

宇賀反対意見は、県の許可にかかる裁量的判断の正当性を認め、多数意見が本件工事との関係でのみ申請の是非を判断し、サンゴ類に被害を生じさせ、許可制度の趣旨に反する不合理な結果を招来する問題点を指摘したものです。

この判決を受けて、県は移植サンゴ片の生残率を高めるため水温の高い時期や繁殖期を避けた実施等の条件を付けて許可しました。ところが、沖防は条件に反して許可直後に移植作業に着手し、県の中止を求める行政指導にも従わない旨回答して作業を続行したため県は緊急措置として許可を撤回しました。これに対して、沖防は大臣に撤回の取り消しと執行停止を求めて審査請求を申し立て、大臣は3日後に執行停止を認めました。県が宇賀反対意見の指摘したサンゴ類への被害を回避するためにとった自治的措置を審査請求手続によって封じ、水産資源保護法等の目的に反する行為を正当化する不合理な関与です。

大田 直史
  • 大田 直史(おおた なおふみ)
  • 龍谷大学政策学部教授・自治体問題研究所理事

主な編著書に、「イギリス地方戦略協働組織と地方協定」岡村周一・人見剛編著『世界の公私協働―制度と理論』日本評論社。「自然災害に対する法制度―東日本大震災に対する行政の対応と法令」森英樹・白藤博行・愛敬浩二編著『3・11と憲法』日本評論社。