自治体の窓口は住民の権利を守る砦でなければならない


私は東京23区内の都税事務所の窓口職場で非常勤職員として働いています。都税事務所には毎日、多くの方が来られます。窓口の仕事で最も大切なのは、訪問者の来所目的をできるだけ早く把握することですが、それは簡単な作業ではありません。例えば「固定資産税のこと」といわれてもそれで終わりにはなりません。固定資産税の課税の内容について説明を受けたい、あるいは苦情が言いたい、もしくは期限内に固定資産税が納付できないので相談したい、などさまざまなケースがあります。ベテラン職員でなければ対応は困難です。

窓口の業務は多岐にわたります。納税の相談、納付書の発行、自動車税の減免、他部門への案内などがあり、一番多いのは納税証明の発行です。何回も訪れている人以外、自分一人で申請書を記載できる人はほとんどいません。何の税金の納税証明かもわからないで来られる方も相当多くいらっしゃいます。

現在、自治体窓口の民間委託やデジタル化が急速に進んでおり、税務職場も例外ではありません。東京都主税局は、2019年度から都税事務所の窓口と郵送受付センター業務の民間委託を導入しました。その結果、窓口では職員が発行していた時は数分で済んでいた各種証明の発行に何倍もの時間がかかり、郵送も発行まで10日程度かかる事態となり都民の強い怒りを引き起こしました。2020年度以降は入札が不調に終わり直営に戻されましたが、東京都が完全に断念したとは思えません。

また今年7月、東京都主税局は「主税局ビジョン2030─更新版─」を公表しました。その中の「主税局のデジタルトランスフォーメーション(DX)」という図によれば、「バーチャル都税事務所」では、納税者からのパソコン・スマートフォンによる問い合わせに対してAIチャットボットが答え、マイナポータル・eLTAX(地方税ポータルシステム)を用いた税務相談にはオンラインで回答するようになっています。そして、「デジタル機器に不慣れな方・複雑な相談への対応」として、「窓口業務」には「*証明書自動発行機(自動収納機による対応)*対面相談(複雑な相談、質問対応 電子手続の相談対応)」と記載されています。そして「都税に関する申請や申告は、都税事務所に来庁することなくパソコンやスマートフォンからオンラインで手続可能になる」「各種証明書の発行は、マイナポータル等を経由して、電子的に取得が可能になり、紙の証明書が不要になる」と記しています。

デジタル化を含め科学技術の発展は住民の利便性につながれば喜ばしいことです。しかし、デジタルデバイド(情報格差)の問題等にきちんと対応しなければ、特に高齢者などは置き去りにされかねません。デジタル化を進めるなら、住民や職員の意見・要望を十分くみ上げたシステムを構築すべきです。

自治体の窓口は、どこも住民の生活と密接につながっており、そこで住民の権利を守るのは自治体労働者の非常に重要な任務です。職場からベテラン職員が退職などでいなくなった現在最も求められるのは、委託ややみくもなデジタル化推進ではなく住民の声に的確に答えられる職員を多く配置することです。