地方自治体を住民・業者の守り手に


 民商・全商連は、地方自治体を地域事業者・住民にもっとも身近な行政と位置づけ、10年におよぶ自治体要請運動に全国で取り組んでいます。2022年5月の第55回定期総会でも、政策提案能力を高めて自治体へ働き掛けをと方針に掲げました。具体的には、①中小企業・小規模企業振興条例の制定と振興策の具体化を提起し、自治体施策に業者の声を反映するよう要求すること、②大企業の儲け優先のまちづくりではなく、食料、エネルギー、医療・介護を自給する持続可能な循環型地域社会と、商店街振興など地域活性化を重視した提案を強めること、を提起しています。

 コロナ禍が直撃した2022年以降、地方創生臨時交付金を財源に、全国の自治体がコロナ対応の事業者支援制度を創設しました。多くが事業者の経営実態に即したきめ細やかな制度設計だったことが、独自のアンケート調査で明らかになっています。政府の給付金・支援金が売上50%以上減少などと対象を限定したのに対し、自治体独自の支援には売上要件を緩和する支援制度や、国民の行動制限とセットで飲食店に限定していた支援対象業種を広げる制度もありました。固定費補助、雇用補助、休業補償、観光業等補助、感染防止対策補助、芸術補助など、地域特性に対応した多彩な支援も行われていました。

 この時期、各地の民商や県連が、積み重ねていた経験を生かし、会内外の中小業者の厳しい実情と切実な要求を、自治体に直接、届けて、支援制度の創設や改善を求めてきました。

 取り組みで実感されたのは、①自治体は地域中小業者の実態と要求を知る機会を求めていること、②日頃の懇談や要請を通じた信頼関係があれば、中小業者からの提案は、より前向きに受け止められること、などでした。コロナ禍に苦しむスナックのママたちが、民商の呼び掛けを通じて自治体首長に面会し、切実な訴えを行った取り組みもありました。「首長と会って話せるなんて思いもしなかった」という人たちが、政治や行政の必要を身近に感じる貴重な機会ともなりました。

 ロシアのウクライナ侵略による資源・エネルギー価格、食品価格の高騰に、超低金利政策による円安が拍車をかけ、物価高騰が収まりません。いま政治に求められるのは、中小業者の経営とそこで働く労働者の雇用を守り、地域経済を維持するなどといった、新型コロナ対応として講じられた自治体支援策の教訓を、物価高騰下でも生かし、危機打開の直接支援を継続・拡大することにあると考えます。

 しかし、岸田首相は財界言いなりに、ガソリン価格や電気・ガス料金の高騰対策を縮小・廃止しようとし、地方創生臨時交付金も、2023年秋の交付決定を最後に終了させようとしています。新型コロナの感染症法上の位置づけが「5類」に下げられ、各種支援策が打ち切られるとともに、払い切れない税金や保険料を厳しく取り立てられるなど、切実な相談が急増しています。

 自治体を地域の守り手とするには、住民・事業者の働き掛けが欠かせない、ということがこの間の教訓です。民商はいま、インボイス中止や、所得税法第56条廃止などの意見書採択を求めて、地方議会要請を積み重ねています。暮らしも営業も厳しい状況に置かれているだけに、引き続き声を届ける運動に努力したいと考えています。

牧 伸人
  • 牧 伸人(まき のぶひと)
  • 全国商工団体連合会 常任理事