【論文】子ども・子育て支援新制度スタート―見えてきた課題と国および自治体への提案―


新保育制度のスタートで、国および自治体の責任と費用負担が鋭く問われています。児童福祉法24条1項に位置づく自治体の保育所保育実施責任を拡充する取り組みが求められています。

新制度の本質

2015年4月から子ども・子育て支援新制度(以下、「新制度」という)がスタートしました。新制度は、すべての子どもを対象としており、子育て支援、保育所・児童館・児童養護施設・幼稚園等での保育・教育のあり方に関わるものですが、中心は保育制度の改革にあります。

子どもの出生数が減少し少子化社会となっているにもかかわらず、労働者の所得が伸び悩み低下するなかで、夫婦共働き化が進行し保育を必要とする家庭が増えています。ここ数年にわたって保育所定員は4~5万人程度増えていますが、保育ニーズに追いつけず、2014年10月1日現在、待機児童は全国で4万3184人となっています。待機児童の存在は、その家庭にとって大きな悩み事となりますが、経済成長を目指す政府・経済界においても女性労働力を確保できないといった点から大きな問題となっています。政府は、2013年から17年にかけて40万人の保育の受け皿をつくると表明しています。

保育制度改革の本質は、人口減少時代のなかで、経済成長へ女性労働力を活用するために保育の受け皿を拡大しようとするところにあります。この本質規定から保育制度改革の矛盾が見えてきます。つまり豊かな保育制度・施策をめざすものとは言い難い側面をもっており、保育現場では多くの問題や矛盾をもたらしています。新制度の進捗状況を紹介しながら、問題点と改善課題について提案します。

介護保険化を狙った保育制度改革

1990年代末からの経済成長の行き詰まりのなかで、社会福祉基礎構造改革が登場しました。それは、国および自治体の責任と費用負担を回避した安上がりの社会福祉を推進し、そしてその社会福祉を企業の利潤追求の対象にするといった政策といえます。トップバッターが介護保険制度です。表1にみるように、社会福祉の原理・原則を大転換しました。保育制度もその方向での改革が追求されましたが、当時の民主党政権を批判する自民党・公明党勢力とも合流した大反対運動で完全実施は阻止され、児童福祉法24条1項(市町村の保育実施責任)が復活しました。新制度の本命といえる24条2項(認定こども園・小規模保育事業等で直接契約)は強引に実施されましたが、24条1項を堅持する保育制度の仕組みは維持されました。①の直接契約化は、そういう意味で△といった評価になります。

また、②の利用者負担においても応能負担の堅持、③の3歳児未満の給食費実費負担の阻止(3歳児以降の主食費は実費徴収となっており変更なし)、④の運営費(公定価格・保育費用と名称変更)の月払い制の堅持等が運動の成果として指摘することができます。だが、これらも今後、改悪される危険性をはらんでおり、警戒が必要です。その意味でも保育制度で堅持された原理・原則を介護保険及び障害者福祉制度においても早急に取り戻し、社会福祉全体の原理・原則として再生する必要があると思います。

⑤の企業参入については、保育所ではすでに参入を許しています。新制度で推奨されている認定こども園は学校教育施設ということで、企業参入は認められていません。小規模保育事業等は企業参入が容認されています。⑥の保育の財源負担のあり方ですが、国民からの収奪である保険化については実施されていません。だが、低所得者への負担度が高い不公平税制である消費税依存となっており問題といえます。

子ども・子育て支援新制度の問題点と改善課題

新制度のスタートで、保育をめぐる状況にはどのような変化が生まれているのでしょうか。問題点の指摘と改善課題を提起します。

1 保育所にやはり入所できない

新制度は待機児童の解消が最大の目的でした。改正児童福祉法が今春スタートしたわけですが、そこには「市町村は……保育を必要とする場合において…当該児童を保育所において保育しなければならない」(24条1項)と謳(うた)われています。旧法では「保育に欠ける」となっていた箇所を「保育を必要とする」に改められましたが、市町村の保育所での保育実施義務は引き続き光り輝いています。にもかかわらず、保育所に入れない人たちが依然として発生しています。もっとも待機児童が多い自治体である東京都では、2015年4月1日現在の都内の待機児童は7814人であると発表されています。都内は集団異議申し立て運動が活発であり、認可保育所を過去最高となる165施設増やしたものの、待機児童は解消できません。

東京新聞(2015年7月12日)では、「隠れ待機児童」が存在しているといった報道がされています。これは、自治体独自事業の認証保育所等の利用児童、育児休業の延長で対処している児童、幼稚園の預かりを利用している児童のことで、これらは行政が把握する待機児童にはカウントされていません。例えば、川崎市では、待機児童はゼロと発表されていますが、この「隠れ待機児童」は1695人も存在していると報道されています。

国が示す待機児童の定義が狭くなっているために生じた現象であり、このような状況に置かれている児童の保護者は「おかしい」「認可保育所に入りたい」と思っており、まさに「隠れ待機児童」であり、自治体行政はこれら待機児童の解消も図るべきです。

2 認可保育所の整備が軽視されている

(1)認定こども園の推進

市町村の保育実施義務を回避する仕組みとして推奨されている認定こども園(幼稚園と保育所の一体化)は、表2に示したように、2014年に比べ2015年は2倍になりましたが、幼稚園・保育所総数からみると約8%程度に過ぎず、国の思惑通りに認定こども園化は進んでいません。市町村の保育実施義務が明確な保育所保育を継続すべきといった関係者の強い意志の反映です。4時間程度過ごす子どもと8~11時間過ごす子どもが、同一園で保育・教育を受けることに違和感を覚えることの反映でもあります。引き続き、認定こども園は推奨されると思います。認定こども園の懸念される実情を把握しながら、安易な認定こども園化はストップさせるべきです。

認定こども園の推進は、定員割れをしている幼稚園からの移行によって進むのではないかと思っていましたが、予想に反して保育所からの移行がかなりあります。これは、幼稚園は都道府県ごとの私学助成制度があり、それとの対比で条件が相対的に良い都道府県においては幼稚園にとどまっている傾向があるようです。保育所からの移行は、総数が同じでも1号認定(3歳以上・教育標準時間)の定員を15人程度と少数設けることで年間運営費が2000万円程度増えるといった公定価格の仕組みに誘導されていると思います。この公定価格の基準は不当なもので是正すべきです。

認定こども園化は、積極的に推進すべきではないと思います。一定数の子どもがいる地域では、幼稚園と保育所の棲(す)み分けを基本とすべきです。子どもの減少で幼稚園と保育所をそれぞれ運営・維持していくことが困難なため、幼稚園と保育所機能を有している認定こども園が必要との見解を示している地域がありますが、保育の必要性認定がされない子どもも特例給付として保育所入所ができることになっており、そのような運用も検討に値します。

公営の幼稚園と保育所において、認定こども園化が進んでいる地域(静岡市・岡山市等)がありますが、認定こども園化は民営化につながる危険性があることを押さえておく必要性があります。24条2項に位置づく認定こども園は市町村の設置義務がないということによって、容易に民営化される危険性をはらんでいます。また、認定こども園化は、統廃合とセットで進められる傾向があり、保護者による送迎が不便になったり、地域とのつながりが遮断されてしまったりすることにも目を向けるべきです。

認定こども園化を押し切られた場合には、次のようなことを大事にすべきです。保育時間の差を減らし、全員の子どもが8時間の保育が可能となるようにする、1号認定(4時間)の子どもと2号認定(8ないし11時間)の子どもは別クラスにする、といった考え方も一案です。保育施設の整備において、手洗いやトイレ等において3歳未満児のことを配慮すべきです。給食設備を設け、すべての子どもが自園調理による給食の提供を受けられるようにすべきです。

(2)小規模保育事業等の推進

2014年10月1日現在の待機児童は4万3184人となっており、その内3歳未満児が90・4%を占めています。この3歳未満児対策の目玉として小規模保育事業等(定員19名以下)が経費節約になるとの理由から推進されつつあります。本事業は保育の担い手を保育士資格者にしていなかったり、自園調理の給食を義務づけていなかったりといったように、認可保育所に比べ低水準の事業となっています。

厚生労働省は、2015年4月1日現在の小規模保育事業等の認可件数を発表しています(表3)。家庭的保育事業が931件、小規模保育事業が1655件、居宅訪問型保育事業が4件、事業所内保育事業が150件、合計2740件です。かなりの件数となっています。そのなかで、株式会社・有限会社が622件、全体の22・7%を占めている点は注視しておくべきです。認可保育所における企業比率(2014年4月1日現在)は2・7%(657件)であり、小規模保育事業等への企業参入は顕著です。

子ども数が19人以下とアットホームな小規模保育事業等への入所を希望される保護者もあり、その必要性はあると思いますが、保育基準において認可保育所並みにすべきです。保育の担い手はすべて保育士、自園調理による給食の実施は緊急の課題です。また小規模保育事業等における連携施設(保育内容の支援、休業代替え、3歳児入園)の設定は5年間の経過措置が設けられていますが、早急に設定すべきです。とくに3歳児入園に関して緊急に対処すべきです。連携施設の設定は公立保育所において積極的に進めていくべきといえますが、仮に民間保育園に依頼するのであれば、連携施設への補助金を市町村が出すこと等によって推進すべきです。横浜市では、連携施設受託促進加算費として月額22万9500円の補助金を出す予算を立てています。

(3)民営化の推進

少子化であるにもかかわらず夫婦共働き化の拡大で保育の必要性は増しており、保育の量的拡大が必要な市町村がたくさんあります。そのような市町村では、必要な保育体制を確保していくために財源負担がかさむことから、相対的に低コストの民間保育所へ公営保育所を移管しようといった動きが各地で起こっています。

新制度においても公私連携型保育所といった考え方が導入されました。「当該市町村から必要な設備の貸付け、譲渡その他の協力を得て、当該市町村との連携の下に保育及び子育て支援事業を行う保育所」(児童福祉法56条の8)というもので、「当該設備を無償又は時価よりも低い対価で貸付け、又は譲渡するものとする」(児童福祉法56条の8の④)となっています。公営保育所を時価より安い値で貸付けたり譲渡できたりするといったものであり、市民の財産を安易に投げ捨てることを許容する考え方です。東京都三鷹市・墨田区では実施の方向で検討されています。

2014年4月より推進されている総務省・公共施設等総合管理計画の策定要請にも注視すべきです。計画に基づく公共施設等の除去について、地方債の特例措置を創設(充当率75%)するといったもので、老朽化している公営保育所の解体経費の節約につながり民営化に拍車をかける面があります。2015年4月、京丹後市において本計画として、公営保育所14カ所に関して「民営化に伴う施設の移譲等についても検討を進めます」「一定期間を経過しても、活用の用途が定まらない場合は、除却を検討する」と明記しています。

民営化は市町村の保育実施責任を後退させるものですし、移管該当園の関係者の不安と混乱を発生させています。公営保育所の民営化をストップさせる運動が求められています。

(4)認可保育所の整備を中心に

必要な保育の提供は、それぞれの市町村で策定された子ども・子育て支援事業計画によって具体化されていきます。市町村の保育実施義務が明確な認可保育所を中心に整備していくべきです。前述した認定こども園や小規模保育事業等への偏りはないでしょうか。

新制度の導入を契機に国が示す待機児童の概念は、保育所のみの待機児童でなく認定こども園及び小規模保育事業等にも入所できない児童に変更されました。したがって、各市町村では保育所の待機児童数が不明確になってしまいました。各市町村レベルで保育所に入所希望を持ちながらも入所できなかった児童数の実態を明らかにさせ、保育所待機児童がいる場合は、保育所整備の拡大を求めていくことが大切です。また、異議申し立ても視野に入れた保育所入所運動を行っていくべきです。

3 保育所運用のなかでの問題

(1)保育所入所をめぐるトラブル

保育所整備が不十分であったり特定の保育所への希望が殺到したりするために、点数制による優先度判定基準が明確に示されるようになりましたが、従来基準だと、きょうだい同一入所ができていたのに、新制度スタートの今年度から叶わなくなった市町村があります。就労時間に基づく点数や、きょうだい同一入所を希望する場合の加算点の低さ等によって発生している矛盾です。

京都市の基準では、就労時間が週40時間以上で40点、35~40時間未満だと35点となっています。弟妹同一園を希望する場合は2点の加点があるので、35~40時間未満だと37点になりますが、40時間以上の方が40点なので優先されてしまいます。京都市以外の基準に目を向けてみますと、東京都江戸川区の基準では、1日7時間以上が50点となっており、週35時間以上は同じ点数です。そこにおとうと・いもうと同一園を希望する点数が加点(江戸川区では6点)されれば、おとうと・いもうとの同一園入園が叶います。京都市の基準が「きょうだい同一入園」への配慮をしていないことによって発生している問題です。

また、育児休業を取得した際、すでに入所していた上の子どもの退所が強要されている地域もあります。埼玉県所沢市では、育休を取得した場合2歳以下は原則退園とするとしました。それに対して、当該保護者が子どもの保育を受ける権利を求めて提訴しています。

今まで可能であった保育所入所ルールを、保護者の事情を配慮することなく高圧的機械的に変更することは問題です。

(2)保育時間をめぐるトラブル

保育時間認定区分における混乱もあります。新制度では、8時間の保育短時間と11時間の保育標準時間といった2区分の認定がされることになりました。そのような認定区分の実施において、保育短時間(8時間)を超過した場合、延長保育と見なされ延長保育料の負担を求められる自治体が発生しています。

名古屋市営保育所では、日額、B階層で100円、C・D階層で200円となっています。料金負担を公平に扱いたいとの考え方からでしょうが、名古屋市営保育所では、超過したか否かを電波時計を設置して時間管理の徹底を図ろうとしています。硬直した運営は、保護者と保育者の関係を悪くさせます。

佐賀県佐世保市では2区分の設定も設けないし、保育短時間を超えた延長保育料の負担もありません。公定価格を精算する上で、佐世保市の負担が発生するでしょうが、従来の保育時間の考え方が継承されており、参考にすべき事例です。

(3)上乗せ徴収の発生

保育料に関しては、所得に応じた徴収金(応能負担)が堅持されましたが、一方で、通常保育とは別に英語・体操教室等を実施した場合、保育料とは別に上乗せ徴収ができる仕組みが導入されました。「保育の質の向上を図る上で特に必要」と認められるもので、直接契約である認定こども園および小規模保育事業等は保護者の同意を得ることで導入できることになっています。民間保育所の場合は、市町村の委託となっている関係から保護者の同意に加え、市町村の同意が必要であり、市町村の判断が問われています。安易な上乗せ徴収は、保護者負担の増大を招くものであり、慎重に対処すべきです。

英語教室等は、保護者が求めているということで安易な導入がされようとしていますが、就学前の子どもに必要な保育とはどうあるべきかをしっかりと吟味すべきではないかと思います。

(4)「直接契約」的な運営

新制度は直接契約を基本とした制度であり、十分な情報公開によって保護者の保育選択権を保障しようといった考え方となっています。にも関わらず情報公開が甚だ不十分です。

京都市では「平成27年度保育園等の保育時間の一覧」が公表されていますが、法人種別、小規模保育事業等の種別も明記されていません。施設・事業を選択する上での情報が欠けています。それらの情報に加え、職員勤続年数、離職率(3年間の離職者/就職者)、保護者会の有無、職員賃金台帳の公開等の早急な情報提供が求められています。

重要事項説明書の提示、およびそれへの署名・捺印が求められていますが、直接契約ではない認可保育所においてもこのような扱いを実施している市町村があります。どうしても保育所保育において契約を結ぶとするなら、保育所保育に関しては市町村との契約が先決事項であり、その不充足部分に関して民間保育所と契約するというならまだ理解できます。また重要事項説明書において、京都市等では「他の利用者に対する……政治活動はご遠慮ください」といった文言の挿入がひな形で示されていますが(適用は施設の任意事項)、このような文言は行き過ぎといえ、ひな形であっても削除すべきです。

4 公定価格・保育費用をめぐる問題点

新制度の下、公定価格(民間保育所は保育費用)によって園運営が実施されるようになりましたが、幼稚園と保育所の公定価格において大きな開きがあることが分かってきました。

表4にみるように、開所時間・開所日数に大きな隔たりがあるにもかかわらず、公定価格はほとんど一緒です。幼稚園では、子どもが園にいるのは4~5時間なので、数時間は一日のまとめをやったり教材準備等ができますが、保育所では子どもが8~11時間在園していますので、幼稚園のような就労環境を確保することが厳しくなります。

表5は、幼稚園等に預かり保育機能を加えた場合の経費比較です。同じ8時間保育でも保育所は3割程度低い経費で運営をしなければならない状況になっています。幼稚園等では教材準備等の研修時間が保障され子どもと向き合う職員が別途配置できますが、保育所ではそのような人員配置ができるような経費になっていません。

保育所も幼稚園等と同じように、研修時間等が保障される人員配置が可能となるような公定価格・保育費用の引き上げが求められます。

いま、求められる制度改革

ますます高まる保育の必要性に対して、安易な保育の受け皿づくりは見直すべきです。小規模保育所事業等に見られるような劣悪な保育水準は是正すべきです。児童福祉法24条2項に位置づく直接契約の認定こども園や小規模保育事業等は改め、保育所が位置づけられている児童福祉法24条1項にすべての保育を収れんさせ、国と自治体の責任と費用負担に基づく制度に改めていくべきです。

また、介護や障害者福祉の分野において先行実施された国と市町村の責任を解体する制度改革を見直し、保育制度改革で求められる方向性と軌を一にすべきです。そのようななかで、望ましい保育制度が安定し確実なものへと発展していくといえます。

藤井 伸生

1956年岡山県津山市生まれ。龍谷大学卒業。大阪自治体問題研究所理事。京都保育団体連絡会会長。共著『保育白書2020年版』(2020年、ひとなる書房)など。