【論文】連携中枢都市圏構想からみえてくる自治体間連携のあり方


連携中枢都市圏構想のねらい、圏域形成に用いられる連携協約制度の問題点、自治体間の役割分担の問題点、自治体間連携における自治の制約の可能性を踏まえて、自治体間連携のあり方を考えます。

自治体間連携の仕組みのなかで、連携中枢都市圏における自治体間連携の留意点、住民の意思の反映からみた自治の課題と、自治体間連携の今後のあり方を検討することとします。

連携中枢都市圏とは

連携中枢都市圏とは、2014年11月に制定された「まち・ひと・しごと創生法」(以下「地方創生法」)に基づいて国が作成した「まち・ひと・しごと創生総合戦略」(以下「国版総合戦略」)において、地域間の連携を推進するために新たに設けられた都市圏概念です。

連携中枢都市圏では、連携中枢都市と連携市町村は、圏域全体の経済をけん引し、圏域の住民全体の暮らしを支えるという観点から、①圏域全体の経済成長のけん引(経済戦略の策定、戦略産業の育成、地域経済の裾野拡大、戦略的な観光施策など)、②高次の都市機能の集積・強化(高度な医療サービスの提供、高度な中心拠点の整備・広域的公共交通網の構築、高等教育・研究開発の環境整備)、③圏域全体の生活関連機能サービスの向上(生活機能の強化に係る政策分野、結びつきやネットワークの強化に係る政策分野、圏域マネジメント能力の強化に係る政策分野)、の3つの役割につき相互に分担をして、当該圏域における行政および民間機能のコンパクト化・ネットワーク化を進めることになります。

すなわち、圏域において、①および②の役割については、主に連携中枢都市が中心となって実施し(コンパクト化し)、連携市町村の住民がその便益を享受できるように、地域公共交通、ICTインフラ、交通インフラの整備等といった物理的なネットワークだけでなく、病診連携などといった都市機能のネットワークをも強化することで、「人口減少・少子高齢社会においても一定の圏域人口を有し活力ある社会経済を維持するための拠点」を形成しようとするところに、連携中枢都市圏の目的があります。とはいえ、連携中枢都市圏における自治体間の連携は、差別的役割分担であることが前提とされていることに留意する必要があります。

連携中枢都市圏への選択と集中

連携中枢都市には、①「経済成長のけん引」および「高次都市機能の集積・強化」の取り組みに対して、圏域人口に応じて算定した金額(圏域人口75万の場合、約2億円)が普通交付税として措置され、②「生活関連機能サービスの向上」の取り組みに対して、1市当たり年間1・2億円程度を基本として、圏域内の連携市町村の人口・面積および連携市町村数から上限額を設定の上、事業費を勘案して算定した金額が特別交付税として措置されます。

連携市町村には、「生活関連機能サービスの向上」の取り組みに加え、「経済成長のけん引」および「高次都市機能の集積・強化」に資する取り組みに対して、1市町村当たり年間1500万円を上限として、当該市町村の事業費を勘案して算定した金額が特別交付税として措置されます。

このような財政的措置とは別に、連携中枢都市は、2014年に改正された地域再生法を利用して、自らの役割である「圏域全体の経済成長のけん引」と「高次の都市機能の集積・強化」を効果的かつ効率的に進めることができるようになります。すなわち、連携中枢都市が、単独であるいは連携市町村と共同して、地域再生計画を作成すると、2014年に地方創生法関連法として改正された地域再生法に定められた地域活性化関連の計画にかかるワンストップ手続を利用して、連携中枢都市内ないしは連携中枢都市圏内において、企業誘致とインフラ整備、コンパクトシティ化と公共交通機関によるネットワーク化、農業の6次産業化をワンパッケージとして推進することができます。

連携中枢都市圏の形成の仕組み

総務省は、前述の国版総合戦略を受けて、2015年1月28日に従来の「地方中枢拠点都市圏構想推進要綱」(2014年8月25日制定)を改正して、「連携中枢都市圏要綱」(以下「要綱」)を新たに定めました。この要綱に従って、2016年2月16日現在、13市(盛岡市、金沢市、姫路市、倉敷市、福山市、広島市、下関市、高松市、北九州市、久留米市、大分市、熊本市、宮崎市)が連携中枢都市宣言を行い、このうち6都市圏(盛岡市など3市5町、姫路市など8市8町、倉敷市など7市3町、福山市など6市2町、高松市など3市5町、宮崎市など1市2町)が連携中枢都市圏形成連携協約を締結しています(広域的な市町村合併を経た市である下関市は一市単独で圏域を形成することが認められています)。また、総務省は、連携中枢都市圏を目指す新たな広域連携促進事業(2015年度)として12市(八戸市、山形市、郡山市、新潟市、金沢市、岐阜市、静岡市、岡山市、松山市、久留米市、長崎市、大分市)の事業を選定しました。

それでは、連携中枢都市圏はどのようにして形成されるのでしょうか。

要綱によれば、まず、連携中枢都市圏の連携中枢都市になろうとする市が「連携中枢都市宣言」をすることが必要です。連携中枢都市宣言を行うことができる市となるためには、原則として、①政令指定都市または中核市(人口20万人以上)であること、②昼間人口を夜間人口で除して得た数値がおおむね1以上であること、すなわち、昼間人口が夜間人口よりも大きい市であることが必要です。連携の相手方になる近隣の市町村としては、当該市に対する通勤通学割合が0・1以上である市町村が予定されています。

つぎに、「連携中枢都市宣言」をしようとする市は、地方圏において相当の規模と中核性を備える圏域の中心都市となるべく、近隣の市町村との連携に基づいて、圏域全体の将来像を描き、圏域全体の経済をけん引し圏域の住民全体の暮らしを支えるという役割を担う意思を有することなどを宣言において明らかにします。

こうして連携中枢都市宣言をした市は、宣言に記載した市町村と、連携する取り組みを定めた「連携協約」を締結し、当該市町村と連携中枢都市圏を形成します。もっとも、連携協約は、連携中枢都市と市町村とが1対1で締結するものなので、連携協約だけでは連携中枢都市圏の圏域の全体の将来像は明らかではありません。そこで、連携中枢都市圏の形成に併せて、連携中枢都市は、「連携中枢都市圏ビジョン」(以下「ビジョン」)を策定することとされています。連携中枢都市は、ビジョンに当該連携中枢都市圏の中長期的な将来像を提示し、その実現に向けて関係市町村が連携して推進していく具体的な取り組み内容を定めることで、当該圏域の全体像を明確にするわけです。

要綱では、ビジョンの策定に際して、連携中枢都市は「連携中枢都市圏ビジョン懇談会」を設置し、そこでの検討を経て決定することとされています。要綱は、同懇談会の構成員について、連携中枢都市圏の取り組み内容に応じて、産業、大学・研究機関、金融機関、医療、教育、地域公共交通等の代表者や、地域コミュニティ活動・NPO活動の関係者等に加えて、大規模集客施設、病院等都市機能の集積や強化を検討している施設等の関係者を含めることが望ましいとしています。しかし、連携市町村は同懇談会の構成員としては想定されていません。各連携市町村は、当該市町村に関連する部分について個別に協議ができるにとどめられています。

これまでの説明から、連携中枢都市圏においては連携中枢都市のリーダーシップが重視されているということをうかがい知ることができるでしょう。

連携中枢都市のリーダーシップを強化する連携協約制度

連携中枢都市圏の形成の法的な手段は、連携協約です。連携協約制度は、2014年の地方自治法の改正によって創設されました。連携協約制度の導入を提言した第30次地方制度調査会(以下「30次地制調」)は、人口減少・少子高齢社会において市町村間の広域連携をそれに対する有効な方策と位置づけました。

広域連携、すなわち自治体間連携を推進する方法として、従前から事務の共同処理というものがあります。いわゆる一部事務組合、広域連合といった事務処理のための別の法主体を設置したり、法主体には至らないけれども、協議会、機関等の共同設置といったように事務処理の権限のみを持ち寄ったりする仕組みのことです。

ところが、30次地制調は、「現に事務の共同処理を行っている市町村から、事務の共同処理の各方式について、それぞれの制度の特徴により、たとえば、一部事務組合や協議会については迅速な意思決定が困難ではないか、機関等の共同設置については中心的な役割を果たす市町村の負担が大きいのではないか」との指摘があるとして、従前の制度よりも使い勝手の良い自治体間の連携制度を設けることにしました。それが連携協約制度なのです。

この制度の使い勝手の良さとしては、従前の事務の共同処理の方式と比較した場合に、①政策面での役割分担について自由に盛り込むことが可能である(地方自治法252条の2第1項)、②別組織を作らない、より簡素で効率的な仕組みとすることが可能である、③バイ(1対1)で締結する、④自治体間の連携を安定的なものとする(同法252条の2第3項・4項)、⑤裁判所によらない紛争解決の手続があらかじめビルトインされている(同法251条の3の2、252条の2第7項)、といった点が挙げられています。

具体的には、A市とB町とが図書館の整備について連携協約を締結するとします。連携協約でA市が中央館の役割を分担し、B町の、これまでの中央館は分館の役割を分担する旨を定めます(①)。しかし、両自治体の公立図書館を管理するための共同の機関は設置されないので、連携の趣旨に則って、それぞれの自治体の自主的な判断で図書館の整備を進めればよいことになります(②)。B町はA市の図書館に中央館の役割を委ねることになりますが、他の施設の整備についてはC市と連携することもできます(③)。かりにA市がその負担の重さのため連携から離脱しようとしても、連携協約の変更・廃止には議会の議決を要するので、首長の判断だけではそれはできません(④)。また、かりにA市が中央館としての図書館の整備を怠り、B町の住民の図書利用に支障が生じている場合には、B町は自治紛争処理委員に紛争処理を求めることができます。自治紛争処理委員の紛争処理の方針がA市に図書館の整備を促す内容であれば、A市はこれを尊重して必要な措置をとらなければなりません。

連携協約は、連携した自治体にそれぞれの役割を安定的に果たさせることを確実するための法的な手段といえましょう。もっとも、これらの長所は、連携中枢都市圏においては連携中枢都市のリーダーシップの強化につながるとともに、運用によっては連携市町村を連携中枢都市に従属させる契機にもなります。

たとえば、連携協約はバイ(1対1)で締結するため、連携市町村は自分の役割分担との関係において連携中枢都市の役割分担を認めたにすぎないにもかかわらず、圏域の将来像として連携中枢都市が策定したビジョンに自動的に組み込まれることになるために、連携中枢都市圏の展開に応じて、圏域にある自治体としてこれを自分の政策として共有させられることになります。そして、ビジョンの下での役割分担を嫌う民意に基づいて新たに選出された首長が、連携中枢都市の主たる役割と抵触するような事業を展開しようとすれば、それは連携協約に関する紛争となり、自治紛争処理委員による紛争処理に委ねられることになります。また、連携市町村が連携中枢都市圏から離脱しようとしても、連携協約を変更・廃止するためには議会の議決が必要とされるために、容易には離脱することはできません。さらに、要綱は、廃止の議決に基づく連携協約の失効の通告後、2年間の効力の存続を求めています。

自治が及ばないおそれのある連携

連携協約の締結に際して、関係自治体は議会の議決を経なければなりません。議会を通じてではありますが、住民自治の要請に応えているといえます。もっとも、連携協約に基づく事務の執行については、個々の自治体が個別に実施するか、あるいはその基本的な事項を連携協約に規定した上で、事務の委託(地方自治法第252条の14など)や事務の代替執行(同法第252条の16の2など)などのほか、民事上の契約(請負契約)などにより事務を処理することになります(同法252条の2第6項)。

事務の委託や事務の代替執行などにより自治体間で連携して事務処理を行う場合には、その形式に応じて地方自治法に基づき規約の作成などの手続を経ることとなるので、関係自治体の議会の議決を要します。しかし、個々の自治体が条例などに基づいて自主的に実施する場合や民事上の契約(契約額によりますが)によって実施する場合に、当該事務の処理の内容や方法は、当該事務を処理する自治体が決定し、事務処理の代行を求めた自治体の議会の議決を要しません。

たとえば、連携協約によって図書館サービスの提供を連携中枢都市がもっぱら担うことになった場合、図書館の利用については連携中枢都市が定める条例によることになります。そうすると、当該事務を担当しない連携市町村の議会の議決は要せず、したがって、住民の意思が直接には反映されないことになり、住民自治が及ばない領域が生まれることになります。

自治体再編の可能性

連携中枢都市圏は、前述したとおり、自治体間の差別的な役割分担を予定しています。

圏域では、連携中枢都市へのひと、もの、しごとの集積が促進され、連携市町村の役割が生活関連機能に限定される結果、連携市町村の区域の空洞化が進行するおそれがあります。圏域内の空洞化の進行に対する批判と連携中枢都市に集積した富の再配分の要求が住民からでてきた場合、この問題は連携市町村だけでは実現できません。そうだとすれば、短絡的な問題解決の方法として、連携中枢都市圏を単一の自治体とすることが提案されることになるでしょう。連携中枢都市をスポークの軸として締結された連携中枢都市圏の形成は、圏域内の自治体を合併に誘うものとなる可能性があります。「ステルス(隠れた)合併」とも揶揄されています。

自治体間連携のあり方

去る2月29日に開かれた第31次地方制度調査会において取りまとめられた答申は、昼夜人口比率が1を超える隣接する2つの市が中核となる複眼型の連携中枢都市圏を許容したり、中核市は存在しなくとも、圏域全体としては中核市並みで、規模・態力が一定以上の都市が複数存在する地域も広域連携として許容したりしています。連携事例を増やしたい政府の焦りともいえましょうが、連携中枢都市圏構想に対する自治体側の拒否反応が強いこと、あるいは、使いづらいものであることの証左ともいえましょう。2015年12月に改訂された国版総合戦略では、連携中枢都市圏の形成の目標数は30とされ、連携中枢都市の条件を満たす候補都市61のすべてとはされていません。

連携中枢都市圏の形成を奨める総務省の担当課長も、近隣市町村には「再び合併の話につながるのではないか」、「中心市だけ活性化するのではないか」といった疑念・警戒心があることや、候補都市には中核市への移行への躊躇や構想不足といった悩みがあることを認めています。

総務省は、連携中枢都市圏はそういうものではないと繰り返し強調していますが、そもそも自治体間の差別的な役割分担を前提とする連携中枢都市圏構想自体が、自治的な水平的連携による地域の持続的発展を求めている自治体のニーズに合っていないともいえましょう。

日本社会は人口減少期に入っており、現在の行財政構造を前提とすると、市町村が従前どおりの行政サービスを維持することが困難となりつつあることは否定できません。しかし、連携中枢都市圏の形成を通じた行政サービスの提供および水準の維持を図る途を直ちに選択するのではなく、地域にある行政資源の再活用、たとえば住民参加による公共施設の多機能化、などを通じた地域づくりや地域内再投資力を強化することを基礎におくべきでしょう。それを補完するために市町村は当該区域内の地域間の連携と市町村間の連携を進め、それを都道府県が補完するといった、市町村と都道府県からなる地方自治の二層性の機能回復を図ることが重要だと思われます。

そして、住民の意思を反映させるためには、連携協約に定める役割分担にしたがって実施される他の市町村の事務の実施状況については相互に定期的に情報共有を行い、これをそれぞれの議会に報告するとともに、住民にも積極的に公開することが必要でしょう。

連携中枢都市圏の制御

それでは、すでに連携中枢都市圏の形成に踏み出した市町村は、この差別的な連携をどのように制御すればよいのでしょうか。

連携市町村にあっても、やはり連携市町村における地域内再投資力を強化することが必要です。圏域の経済成長のけん引については連携中枢都市が中心的な役割を果たすとしても、連携市町村が地域の持続的発展を実現するためには、地域内循環経済の確立が求められるからです。そして、連携中枢都市に依存することなく、自主性を確保するためには、連携市町村間ないしは圏域外の市町村との連携を図ることを追求するのもよいでしょう(井原市および笠岡市は2つの連携中枢都市と連携協約を締結しています)。

また、連携中枢都市への都市機能の過剰な集約が生じないようにすることも重要です。都道府県にあっては、政令指定都市や中核市以外の市町村の区域で責任を負っている事務(保健所事務等)を連携中枢都市に委託ないし移譲することに慎重でなければならないでしょう。

【参考文献】

  • 岩﨑忠「定住自立圏構想と地方中枢拠点都市制度」『都市問題』106巻2号、2015年
  • 小宮太郎「連携中枢都市圏構想」『地方自治』812号、2015年
  • 本多滝夫「自治体間の広域連携と連携協約制度」『龍谷法学』48巻1号、2015年
  • 松谷朗「『連携中枢都市圏構想』の最新の動きについて」『地方自治』810号、2015年
  • 村上博「広域連携の問題点と課題」『自治と分権』61号、2015年
本多 滝夫

1958年愛知県生まれ。専門は行政法学。主な著書に、共編著『辺野古訴訟と法治主義―行政法学からの検証』(日本評論社、2016年)、共編著『地方自治法と住民 判例と政策』(法律文化社、2020年)など。