【論文】2016年参院選結果を読む―野党共闘と安倍改憲政治のゆくえ―

  • 二宮 元(にのみや げん)
    流通科学大学経済学部准教授

2016年8月15日

月刊『住民と自治』 2016年9月号 より

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7月10日に実施された参院選では、改選121議席のうち、自民党が56議席、公明党が14議席を獲得し、与党が過半数を大きく上回る結果となりました。それにたいして、野党の側では、民進党32議席、共産党6議席と2013年に実施された参院選と比べるとやや復調しましたが、獲得議席数では依然として与党に水をあけられています。

ただ今回の選挙では、与党が勝つかどうかということ以上に、自民、公明におおさか維新の会などを加えた改憲勢力が、改憲発議のために必要となる参議院の3分の2以上の議席を獲得するかどうかがもう一つの対決点として注目を集めました。改憲勢力にたいして、民進、共産、社民、生活の4野党が野党共闘の態勢を組んで対抗するという構図がつくられたことが、今回の参院選の最大の特徴でした。

自民党の得票構造

3年前の2013年に行われた前回参院選では、自民党は、改選議席の過半数を超える65議席を得て大勝をおさめました。それと比べると、今回の自民党の獲得議席は56議席と9議席減らしていますから、一見すると自民党は一時の勢いを失ったかのように見えるかもしれません。しかし、今回の自民党の得票状況を詳しく見ていくと、安倍自民党への支持が実は予想以上に堅実であることが見えてきます。

今回自民党は、比例区で2011万票、得票率にして35・9%の支持を得ました。実は、これは、第二次安倍政権のもとで行われた3回の国政選挙のなかで最も高い得票です。比例区での自民党票が2000万票の大台を超えたのは、小泉政権期の2005年の郵政選挙以来のことです。

現在の安倍政権は、2012年に成立して以来、アベノミクスを通じた地方への公共事業投資の増額、リニア・整備新幹線の前倒し、地方創生などの方針を打ち出すことで、新自由主義構造改革のなかで疲弊した地方へのてこ入れを図ってきました。その結果、地方での自民党にたいする支持が回復してきたことが、この間の国政選挙での自民党の連戦連勝を支える一つの重要な要因になっています。自民党が、前回2013年の参院選で大勝できたのは、地方での得票を大きく伸ばしたからでした。その後、2014年に行われた衆院選では、自民党は地方での支持を少し落としましたが、今回の参院選ではそれが再び上昇しました。表1は、衆院選の比例ブロックの区分にあわせる形で、全国の地域ごとに自民党の得票率がどう推移してきたかを示したものです。2014年の衆院選と比較して、今回の参院選では自民党の得票率が、東北で5・1%、北陸信越で5・9%、四国で6・8%、九州で5・2%も上昇しており、自民党への支持がとくに地方において強かったことがわかります。

表1 自民党の比例得票率の推移(地域ブロックごと)
2012年衆院選2013年参院選2014年衆院選2016年参院選14年→16年の変化
北海道26.4%30.2%29.8%32.8%+3.0%
東北28.6%37.0%32.9%38.0%+5.1%
北関東28.1%35.5%34.6%36.2%+1.6%
南関東26.4%34.3%34.0%36.1%+2.1%
東京24.9%31.9%32.1%34.4%+2.3%
北陸信越31.7%40.1%36.1%42.0%+5.9%
東海27.6%34.2%33.3%35.8%+2.5%
近畿23.9%29.4%28.9%28.6%-0.3%
中国34.5%41.5%38.2%41.8%+3.6%
四国30.7%39.7%34.9%41.7%+6.8%
九州29.9%37.8%34.3%39.5%+5.2%

筆者作成。

したがって、実は得票数や得票率だけを見れば、自民党は、65議席の大勝をおさめた3年前の参院選以上に大勝ちしてもおかしくありませんでした。では、なぜそうならなかったのか。その答えは、自民党に対抗した側に求められなければなりません。つまり野党共闘という新しい試みのもとで、民進、共産、社民、生活の4野党が共同して自民党に対抗する態勢がとられたこと、これが自民党の大勝を阻んだ最大の要因です。

野党共闘の効果

今回の参院選では、32ある一人区のすべてで野党4党による統一候補が擁立されました。いうまでもなく、こうした野党共闘を可能にしたのは、昨年夏以来の安保法制(=戦争法)に反対する運動の高まりでした。市民運動や労働運動、学生、弁護士、学者など多様な人びとが安保法制反対に立ち上がるなかで、それまではなかなか進まなかった野党間の共闘が一気に進むことになったのです。昨年夏、全国各地の安保法制反対集会で、共産党と民主党、社民党、さらには生活の党や維新の会の代表が並んでスピーチをするという光景が数多く見られましたが、これは日本政治史上においてもかなり画期的なことでした。安保法制反対運動のなかでのさまざまな人びとの共闘に突き上げられる形で、野党間の共闘が成立したのです。

今回、32ある一人区のうち、11の選挙区で野党統一の候補が、自民党候補に競り勝って議席を獲得しました。前回2013年の参院選では、31あった一人区のうち29選挙区で自民党が勝ちましたから、それと比べると明らかに野党共闘の試みは成果をあげたといえます。今回自民党は、得票を伸ばしたにもかかわらず、一人区を独占できなかったために、前回参院選ほどには多くの議席を獲得できなかったわけです。

また、新聞などでも報じられましたが、今回の野党共闘は、単なる「足し算」以上の効果をもたらしました。野党統一候補が選挙区で獲得した得票数と、共闘4野党の比例票の合計を比較すると、32のうち28の選挙区で、前者が後者を上回りました。つまり、野党統一候補は、ほとんどの選挙区で4野党の支持層を超える幅広い支持を集めることに成功したといえます。平均で、野党統一候補の得票は、4野党の比例票の合計を20%上回っています。逆に、自民党候補の得票は、32のうち12の選挙区で自民・公明の比例票の合計を下回りました。共同通信が行った出口調査でも、自民支持層の10%、公明支持層の23%が、野党統一候補に投票したという結果が出ています。

さらに注目しておきたいのは、野党共闘が成果をあげた多くの選挙区で、投票率が上がっていることです。表2は、今回の選挙で投票率の高かった上位10県をあげたものですが、このうちなんと7県は野党統一候補が勝った地域です。この間、自民党の「一強」状況が続くなかで、国政選挙での投票率は低水準に落ち込んだままですが、今回の野党共闘は、自民党にかわる選択肢を提供することで、投票に行くのをあきらめてしまった人びとをつなぎとめる役割を果たしたといえます。

表2 投票率の高かった上位10県
投票率14年衆院選との比較
①長野62.86%+7.38%
②山形62.22%+3.07%
③島根62.20%+2.96%
④秋田60.87%+5.09%
⑤新潟59.77%+7.06%
⑥三重59.75%+3.55%
⑦山梨58.83%-0.35%
⑧大分58.38%+2.27%
⑨岩手57.78%+1.55%
⑩岐阜57.74%+4.82%

筆者作成。

安倍改憲のゆくえと野党共闘の今後

安倍政権は、昨年集団的自衛権の行使を認める安保法制を強行的に成立させましたが、次なる課題として改憲を掲げ続けています。今回の参院選は、今後の安倍改憲のゆくえにとって二つの点で重要な意味をもっていました。一つは、選挙戦でも強調されたように、自民・公明におおさか維新などを加えた改憲勢力が、改憲発議のために必要となる参議院の三分の二以上の議席を確保することを野党共闘が阻止することができるかどうかという点でした。この点については、結果的には、無所属の改憲派議員を含めると改憲勢力が3分の2を占めることを許すことになりました。

ただ、この結果によって、安倍政権による改憲準備が整ったかというと必ずしもそうではありません。まず、改憲派議員のあいだでどの条文をどのように変更するかという点で合意ができなければ発議ができないという問題がありますが、それ以上に安倍政権にとって悩ましい問題は、改憲、とくに安倍政権による改憲に反対する世論が多数を占めていることです。今回の選挙戦で徹底した改憲の争点隠しが行われたことからもわかるように、そうした世論があるなかでは、改憲のための国民投票をそう簡単に行えるものではありません。おそらく安倍首相は、国民投票で否決されるリスクを最小限にするためにも、野党第一党である民進党も含めた国会内の圧倒的多数の合意事項として改憲案を国民投票にかけたいと考えているはずです。その意味で、民進党が野党共闘の枠組みのなかで改憲反対の立場に立ち続けることは、安倍改憲にたいする重要な歯止めとなります。

今回の参院選のもう一つの意味は、民進党を今後も改憲阻止の野党共闘のなかにとどまらせることができるかどうかという点にもありました。今回の選挙で、野党統一候補が惨敗するようなことになっていれば、民進党内の改憲派からの巻き返しは避けられなかったのではないかと思います。しかし、野党共闘がある程度の成果をあげたために、改憲派が民進党内の主導権をそう簡単に握れるような状況にはいまのところなっていません。そもそも護憲政党ではない民進党が、安倍改憲反対の立場を明確にすることになったのは、昨年夏来の安保法制反対運動からの突き上げがあったからこそのことです。今後も民進党が安倍改憲反対の立場を貫かざるをえない状況をつくっていけるかどうかが、安倍改憲のゆくえを大きく左右していくことになると思います。

2016年8月15日

月刊『住民と自治』 2016年9月号 より

  • 二宮 元(にのみや げん)
    流通科学大学経済学部准教授

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