【論文】「大阪都構想」による財政危機 ―都構想・万博・カジノ―

  • 森 裕之(もり ひろゆき)
    立命館大学教授

2019年6月1日

月刊『住民と自治』 2019年5月号 より


大阪維新の会と大阪の財政問題

この十年の大阪の政治は、2008年に大阪府知事となった橋下徹が率いる大阪維新の会(以下、維新の会)によって翻弄されてきました。このような動きに対しては、わたしも長年にわたり批判的な論陣をはってきました。

その一方で、わたしは維新の会を支持してきた大阪の人々の心情に理解できる面も感じてきました。それは自治体の財政問題です。橋下氏が知事になった直後に発したものが「大阪府は破産会社」という言葉と公務員に対するバッシングでした。当時は、大阪府・市ともに1980年代以降の開発行政の後始末に追われ、「三位一体改革」や「夕張ショック」などの自治体財政に対する関心が高まっていました。維新の会は「身を切る改革」「官から民へ」というスローガンを掲げてきましたが、その背景には人々の自治体財政のあり方への不信感があります。地方自治の危機は財政問題に端を発することをわたしたちは強く認識しておかなければなりません。

橋下・維新の会が権力を一気に高めるために取り組んできたのが「大阪都構想」です。「大阪都構想」とは、政令指定都市である大阪市を廃止・分割したうえで、それらを特別区にしてしまうものです。2015年5月17日に行われた大阪市の住民投票では反対が賛成を上回り、大阪市の存続が決まりました。しかし、同年11月に行われた大阪府・市のダブル首長選挙ではいずれも維新の会の幹部が当選し、彼らはそのことをもって「都構想の再挑戦」をいいだすことになります。2019年4月の「大阪府・市ダブル入れ替え首長選挙」では「都構想の再挑戦」がほとんど単一争点となりました。

「大阪都構想」が一番アピールしてきたのも、大阪府・市による「二重行政の無駄」という財政問題です。これは人々には単純で感じ取りやすい言葉です。維新の会が人々に訴えてきたポイントが財政問題であるという点は一貫しているのです。2015年の住民投票で反対派が勝った最大の要因も、「大阪都構想」によって大阪市の財政がさらに悪化するという事実が広がったことにありました。

しかし、こうした「大阪都構想」の財政をめぐる事実が人々の間に確固たるものとなっているかは疑問があります。昨今のように、政治行政がうそやデマを流しても平然としているような社会状況においては、人々が何を信じてよいのかわからなくなるのは当然だからです。自分で理解しようとしても、都区財政調整制度などは仕組みが複雑すぎます。

新たな「大阪都構想」による財政悪化

2015年の「大阪都構想」では、維新の会は大阪府・市の「再編効果額」は900億円以上に上るとする一方で、野党は1億円しかないとしていました。当時、わたしも大阪府・市の資料に基づいて同じ計算をしたところ、二重行政の廃止による財政効果は府・市合わせても年間2~3億円程度しかプラスになりませんでした。その一方で、初期コスト680億円と年間運営コスト15億円が発生しましたので、「大阪都構想」とは莫大な財政的損失を引き起こす代物であることが判明しました。

維新の会が「バージョン・アップ」と呼ぶ現在の「大阪都構想」の案では、大阪府・市は140億円の「改革効果額」があるとしています。しかし、その中身はほぼすべてが二重行政とは無関係な民営化・民間委託・経費節減であり、それらを除外した二重行政の廃止による財政効果は全体でたったの4000万円しかありません。このようなゼロに等しい財政効果に対して、新たに必要となる財政負担は初期コスト520億円、年間運営コスト24億円と試算されているのです。財政的にみれば、「大阪都構想」はまったく論じるに値しません。

さらに、2025年万博の大阪開催を隠れみのにしたIR(Integrated Resort、統合型リゾート)という名のカジノ施設の開発誘致が進められています(カジノは2024年開業)。万博・IRの会場建設のためには、候補地の人工島・夢洲で155㌶の埋め立てを2022年度中に終了させる必要があり、そのための土地造成とインフラ整備の総事業費は7年間で950億円にのぼります。この財政負担は所有者である大阪市が負うことになります。大阪市はこのなかに含まれる地下鉄(大阪メトロ)の延伸分540億円のうち200億円をカジノ業者に負担させるとしていますが、これこそ夢洲整備の真の目的がカジノであることを示しています。大阪メトロは新しく「夢洲駅」を整備し、それに直結するタワービルを高さ275㍍、総事業費1000億円超で建設すると発表しました。これは、「二重行政の象徴」と維新の会が喧伝し、人々が財政への不審を募らせた大阪ワールドトレードセンタービルディング(WTC、現在の大阪府咲洲庁舎)とほとんど同じ規模です。さらに、万博の会場建設費1250億円については国、経済界、大阪府・市が3分の1ずつ負担することになっています。

大阪府・市はIRの年間売上額4800億円のうちカジノでの売り上げは3800億円(8割)に上るとしています。IRによって大阪府・市には年間700億円の収入が見込まれ、これを両者で折半するとしていますが、その前提となるIRの年間入場者数はなんと2480万人です。大阪市にあるユニバーサル・スタジオ・ジャパンの過去最高の入場者数は2016年の1460万人ですので、このような前提が現実離れしていることがわかります。

財政民主主義の確立を

以上のことは、人々が維新の会を支持してきた背景である大阪の財政問題そのものです。それにもかかわらず、このような政策を推し進める維新の会を支持し続けるというのは、責任ある有権者としての一貫した姿勢とはいえないのではないでしょうか。

維新の会による大阪の政治は、財政民主主義を求めてきた人々が翻弄されてきた歴史だったといえます。日々の暮らしが苦しくなり、将来への経済不安が増していくなかで、人々が財政に対して厳しい目線を浴びせてきたのは当然のことでした。しかし、いまの大阪で進められようとしている政策群は、大阪府・市に深刻な財政危機を引き起こす可能性が極めて大きいものです。

大阪の人々には、住民本位の財政のあり方を求めた原点にいま一度立ち返ってほしいと願っています。そこから現在の大阪を見直すことによって財政民主主義が再生するのです。

2019年6月1日

月刊『住民と自治』 2019年5月号 より

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