【論文】問われるべきは沖縄差別を放置してきた日本政府の不作為(やるやる詐欺)


市民連合・野党間合意の意義

遠藤乾北海道大学教授は「抑圧された地域の反乱」(『琉球新報』2019年8月2日付)という評論において、4つの事例を取り上げています。香港での逃亡犯条例改正案に対する反対運動の高まり、香港と同様の一国二制度での統合を習近平総書記に持ちかけられた台湾で、北京との接近を志向する国民党への支持が低下し、独立志向の強い民主進歩党の蔡英文総統に対する支持が増加していること、中国新疆ウイグル自治区でウイグル人や文化への弾圧が続き、海外のウイグル人たちが猛反発していること、そして日本における辺野古新基地建設の強行に対する沖縄の人々の抗議や反対運動です。遠藤教授は「まがりなりも民主国家であり、自由な言論が保証されている日本と、一党独裁の下にある中国を同列に扱うつもりは毛頭ない」と述べつつも、「程度は異なれど、中央の政策を、周辺の民意にかかわらず、押しつけていることにかわりはない」のであって、「中国による抑圧に反対する運動に連帯するのと同時に、それを他山の石とし、自らが似姿にならぬよう、常に自己点検する日本でありたい」と結んでいます。

翻ってみると選挙というのは、わたしたち主権者が国のあり方を「自己点検」する絶好の機会だといえましょう。選挙を盛り上げて多くの人々を投票に向かわせる鍵は、わたしたちが政権がやってきたことをしっかりと「点検」し、争点を明確にできるかにかかっています。この点では、先の参議院議員選挙に先立つ2019年5月29日に「安保法制の廃止と立憲主義の回復を求める市民連合」が、5野党・会派と合意した13項目の政策は、すばらしい「点検」の成果だったと思います。その4番目には「沖縄県名護市辺野古における新基地建設を直ちに中止し、環境の回復を行うこと。さらに、普天間基地の早期返還を実現し、撤去を進めること。日米地位協定を改定し、沖縄県民の人権を守ること。また、国の補助金を使った沖縄県下の自治体に対する操作、分断を止めること」が盛り込まれました。これは、沖縄の人々に対する現政権の理不尽な仕打ちをやめさせる焦眉の課題を的確にまとめています。残念ながら選挙結果を見る限り有権者に十分浸透してはいませんが、野党が国政選挙に臨むに際してここまで合意できた意義は大きいといえるでしょう。

歴史に学んでさらに踏み込んだ「自己点検」を

しかしながら、差別といってもよい基地負担の沖縄への偏在を正すにはさらに踏み込んだ「自己点検」が求められていると思います。というのは、日本政府は長年にわたり機会あるごとに「負担軽減」を唱えますが、それが目に見える成果をあげたことはほとんどないからです。宜野湾市の普天間飛行場の撤去問題の場合は、次のような約束が繰り返されてきました。

①1995年9月の米海兵隊員による少女乱暴事件を契機として、沖縄が日本の支配下に戻った1972年から20年以上が過ぎても何ら変わらない基地過重負担や不平等な日米地位協定に対する県民の怒りの高揚に直面して、日米両政府が普天間飛行場の返還に合意したのは1996年4月のことでした。その際、沖縄県内に新基地を建設することを条件として「5~7年後」に返還とされていました。

②1998年の知事選挙で当選した稲嶺恵一氏は、使用期限15年などの条件をつけて新基地建設を容認しました。政府もその条件の尊重を閣議決定したのですが、米側とまともな交渉もせず、2006年の在日米軍再編に関する閣議決定では、稲嶺氏がつけた条件は一方的にほごにされました。

③2009年の総選挙に際して、民主党の鳩山由紀夫代表が「最低でも県外できれば国外」を掲げて勝利し政権を獲得しました。その実現のために鳩山首相は努力したのですが、迷走を重ねたあげく、1年ももたずに退陣を余儀なくされました。

④安倍政権も2つの約束をしました。2013年4月に普天間飛行場の返還期日について「2022年度またはその後」とすることで米側と合意したのですが、今強行している辺野古埋め立てが順調にすすんだとしても、2022年度までに返還が実現することは困難であることを、政権が認めています。また2013年末に仲井真弘多知事(当時)が「県外移設」の公約に反して埋め立てを承認した際には、普天間飛行場の「5年以内の運用停止」が事実上の前提条件でしたが、5年の期限である2019年2月はもう過ぎています。

このように政府は、沖縄の人々と約束した施策の実現にむけて、鳩山政権を除くと誠実に努力していません。まさに「やるやる詐欺」というほかありません。

より腹立たしく、かつ情けないのが日本政府の姑息な振る舞いです。というのは、選挙などの機会に新基地建設の必要性を堂々と訴えるよりは、市民連合と野党の合意で批判されている「国の補助金を使った沖縄県下の自治体に対する操作、分断」策に終始してきたからです。にもかかわらず沖縄の人々は、選挙だけでなく、1997年12月の名護市住民投票、2019年2月の県民投票などで、繰り返し新基地建設に反対の民意を示してきました。この二十余年間、「地方分権」が内政上の重要課題として取り組まれてきたはずです。県民の支持が得られない、文字通りの愚策に固執して「勝つまでジャンケンをやめない」日本政府の姿勢は、沖縄には決して自治を認めないといわんばかりです。

そもそも、もっぱら米軍によって強奪されたという在沖米軍基地形成の歴史を学べば、県内のどこか新たな場所を差し出さないと返さないなどという政策の不条理・不合理さは明白です。長年にわたる差別的な基地過重負担を放置し、その解消策を有していない日本政府の不作為こそ、最も直視しなければならない「自己点検」ではないでしょうか。

川瀬 光義

専門は地方財政学。主要著書に『基地維持政策と財政』日本経済評論社、2013年、『基地と財政』自治体研究社、2018年など。