【論文】さいたま市 大宮駅周辺で急速に進む巨大再開発―首都圏広域地方計画・スーパーメガリージョンを追い風にして―


一度は頓挫した大宮駅前の再開発事業が、より巨大化して復活しました。その手法は公共施設再編による連鎖型まちづくりです。

2都心4副都心構想と国土形成計画

さいたま市は、浦和、与野、大宮の合併(2001年)で政令指定都市(2003年)となり、その後岩槻市を編入(2005年)し人口は126万人となっています。さいたま市は、政令指定都市としての都市構造として2都心4副都心構想を掲げ、浦和駅周辺と大宮駅・新都心駅周辺を2つの都心として、また、宮原駅周辺、武蔵浦和駅周辺、美園地区、岩槻駅周辺を4つの副都心として位置付け、都心開発と主要幹線道路整備を市の重点事業として推進してきました。これまで浦和駅周辺と武蔵浦和駅周辺の開発が先行してきましたが、ここにきて大宮駅周辺の巨大プロジェクトが急速に動きはじめました。

大宮駅東口地域は、1983年に旧大宮市施行の駅前再開発事業が都市計画決定されましたが、20年にわたって大規模に展開された住民運動やバブル崩壊などの経済状況の下で、2004年に都市計画決定を廃止しています。一度決めた駅前再開発の都市計画決定の廃止は、全国的に見ても前例のないものでした。

大宮駅東口地域の巨大プロジェクトが本格的に動きはじめたのは、2都心4副都心構想による大宮駅周辺都心開発の本格化と2015年に閣議決定された「国土形成計画」およびその具体化として翌年策定された「首都圏広域地方計画」で、大宮が「東日本の玄関口機能を果たし、スーパーメガリージョンを支える対流拠点」に位置付けられことを背景としています。一度は頓挫した大宮駅前の再開発事業が、国の国土政策を追い風にして、より巨大化して復活したといえそうです。ここでは、大宮駅周辺地域における巨大開発プロジェクトの概要とその背景、問題点と課題などを紹介します。

大宮駅周辺地域戦略ビジョン

大宮駅東口周辺は、駅前再開発をめぐる攻防が30年近く続き、それに代わる修復や整備の方針もなかったことから、衰退が顕著になっていました。かつては大宮中央デパート、十字屋、長崎屋、西武百貨店などの商業施設やハタプラザ、東宝白鳥座、東映オスカーなどの映画館や娯楽施設も多く、南銀座商店街は県下有数の飲食店街でした。しかし、2006年には最後の映画館が閉館、百貨店や大型商業施設が次々に撤退し、2013年には東口駅前にあったロフトが西口のそごうデパート内に移転しました。東口駅前や周辺地域の慢性的な交通渋滞も長年の懸案事項となっていました。

駅西口は1990年に駅前の大規模な区画整理が終わり、現在ではソニックシティ、大宮スカイビル、DOM、アルシェなど近代的ビルが立ち並び駅前広場や大きな歩行者デッキ、鐘塚公園なども整備され、オフィスや店舗が集積したさいたま市を代表する地区となっており、この駅西口との歴然とした格差が、大宮駅東口の現状に対する危機感を広げました。

こうした状況を打開し、「大宮駅周辺地域を東日本の交流拠点都市として、また、政令指定都市さいたま市の顔にふさわしい都心として再構築する」として2010年に策定されたのが「大宮駅周辺地域戦略ビジョン」です。

このビジョンは、策定委員会、まちづくり分科会、交通戦略分科会、大宮駅周辺地域まちづくり連絡会などを立ち上げ、学者、研究者、県・市の担当部署職員、JRや東武鉄道関係者、県警察本部、商業関係団体、自治会連合会や住民団体などの参加するワークショップなども行いながら策定されています。

ビジョンの対象面積は約190㌶で、このうち約半分を占める駅西口はおおむね整備が終わっていることから、駅東口地域を重点にして、大宮駅と駅前をターミナル街区に、既存の商業・業務集積エリアを多様性のある商業機能や高次業務機能などをそなえたおもてなし機能集積ゾーンに、そして、地域の周縁部は住宅・商業・業務機能が複合する市街地ゾーンに位置付けています。そして、このまちづくりを推進していくプロジェクトの基本となるのが「公共施設の再編による連鎖型まちづくり」です。

公共施設再編による連鎖型まちづくり

駅東口の対象エリアには、大宮区役所、大宮小学校、中部公民館、市民会館、県合同庁舎、大宮図書館、さいたま市博物館など公共施設がたくさんありますが、これらの公共施設の統廃合、移転、利用転換などを通じて開発に必要な土地を次々に創出していこうとするのが連鎖型まちづくりという手法です。さいたま市は、人口減少への対応を理由に始まった国主導の公共施設等総合管理計画・立地適正化・コンパクトシティ政策より早い段階で公共施設再編を中心市街地における再開発のツールとして位置付けていたのです。

この「公共施設の再編による連鎖型まちづくり」のスタートとなったのが大宮区役所別館敷地と埼玉県大宮合同庁舎の交換でした。この土地交換の議案が県議会で議論されたとき上田県知事(当時)は「平成24年(2012年)5月にさいたま市の清水市長から、老朽化した大宮区役所の建て替えにあたって大宮合同庁舎敷地を活用させていただけないかという要請がございました。一般的に、都市の再開発は種地がないため開発が進まず、また開発してもペンシルビルが立ち並ぶなど良好なまちづくりが難しい傾向にございます。その意味で、区役所跡地を種地として活用するアイデアというのは…すごいビックアイデアだな、と感じたところでした。…この土地交換議案が可決されれば、大宮区役所跡地が再開発事業の種地となることによって、40年以上止まっていた大宮駅まちづくりが進み、地域の活性化が期待できます。東口のまちづくりが具体的に動き出す大きな第一歩になると思います。さらに、再開発事業が具体的に動き出すことによって…大宮駅が日本有数のメインステーションとして埼玉県の顔になり、東日本の顔になるものだと考えております」と答えています。

今日までに、大宮区役所と大宮図書館が旧大宮合同庁舎跡地に移転新築され、市民会館おおみやは現在工事中の大門町2丁目中地区の再開発ビル内への移転が決定しています。この移転によって3カ所の跡地が、駅東口の巨大開発プロジェクトの種地になりました。

図 現在決まっている公共施設の移転予定
図 現在決まっている公共施設の移転予定
出典:大宮駅東口周辺公共施設再編/公共施設跡地活用全体方針(2018年10月)

また、大門町2丁目中地区再開発事業は、施行地区1・4㌶、敷地面積8600平方㍍で地権者50人と三井不動産、大栄不動産の2社を参加組合員とする組合施行の再開発事業ですが、資金計画では工事費が620億円でその財源は市と国の補助金等172億円と保留床処分金448億円で賄う計画になっています。保留地処分金の約半分は、市民会館おおみやなど公共公益施設の床を市が買い取る分であり、620億円の事業費のうち400億円以上が公費で賄われることになります。再開発ビルの保留床の平方㍍あたり価格は、商業・業務用の民間部分が86万円に対して、公共施設部分は180万円と2倍以上になっています。「公共施設再編による連鎖型まちづくり」は、民間主導の市街地再開発を成り立たせる不可欠のツールとなっています。ちなみに「日経」(2016年12月15日)は「市民会館おおみやをもとの場所で建て替えれば5分の1の費用で済んだはず」と述べており、再開発事業を主導する企業の利益を高額な補助金交付と高い価格の床を市が買うことで支えていく構造になっているのです。

「大宮駅グランドセントラルステーション化構想」

国がスーパーメガリージョン構想を打ち出した「国土形成計画」および「首都圏広域地方計画」の発表後に、にわかに最優先プロジェクトとして浮上したのが「大宮駅グランドセントラルステーション化構想」(2018年7月)です。「グランドセントラルステーション」といえば、ニューヨーク・マンハッタンにある世界最大の鉄道駅ですが、これに匹敵する大宮駅を目指す壮大な構想と位置付けているようです。

図 「大宮駅グランドセントラルステーション」構想実現案<br>出典:「(仮称)GCSプラン骨子案のパブリック・コメントを実施します」
図 「大宮駅グランドセントラルステーション」構想実現案
出典:「(仮称)GCSプラン骨子案のパブリック・コメントを実施します」

この構想は、「首都圏広域地方計画に掲げる『運命の10年』を重要視し、駅周辺街区のまちづくり、交通基盤整備及び駅機能の高度化を三位一体で進め、…首都圏、さらには東日本全体の発展に寄与していくために…策定」したと清水勇人さいたま市長が述べているように、「首都圏広域地方計画」を大きな追い風に、「大宮駅周辺地域戦略ビジョン」の中核プロジェクトとして推進されています。

国が、2017年8月に大宮駅周辺地域戦略ビジョンのエリアにかぶせて緊急かつ重点的に市街地の整備を推進すべき「都市再生緊急整備地域」に指定したことが、この巨大開発構想のスタートを促すことになったのです。

図 構想の目的と位置づけ
図 構想の目的と位置づけ
出典:大宮駅グランドセントラルステーション化構想特別委員会(2019年9月2日)資料

構想は、駅前に巨大交通施設を整備し、併せて4つの開発街区にそれぞれ高層の再開発ビルを建設し、駅機能の高度化を図りながら巨大な駅前空間を形成しようとするものです。

今後、地権者や参加組合員となる企業との協議で、容積率の緩和などを認める都市再生特別地区の指定も検討されることになるでしょう。大門町2丁目の再開発から類推すれば、数千億円の事業費になることが確実な超巨大プロジェクトであり、さいたま市の財政負担は莫大な額になると想定されます。住民のなかには、駅東口周辺の都市整備の必要は認めながらも、「民間大企業と行政主導の巨大開発は、地元の住民の暮らしや営業を排除するものにならないか」、「市の財政を圧迫し、市民の暮らしと権利を守るという自治体の責務がないがしろにされることにつながるのではないか」との危惧が広がっています。

構想と現実のギャップで犠牲になるのは市民

現在、大宮駅グランドセントラルステーション化構想については、さいたま市の東日本交流拠点整備課やJR、東武鉄道などもかかわって権利者の勉強会が4つの街区ごとに重ねられ、再開発準備組合に移行したところも出ています。参入する企業はまだ決まっていないようですが、今日の市街地再開発は、参加組合員となる企業の儲けを最大化することが優先されることから、規模の巨大化と公共負担が肥大化する例が続発しています。

さいたま市の副都心開発として進められてきた武蔵浦和駅周辺再開発では、開発地区面積30㌶のうち6つの街区(計13㌶)で再開発が完了していますが、開発地区周辺の小・中学校がすべてマンモス校となり、校庭面積は県平均の3分の1以下、全国平均の5分の1以下、教室不足が深刻で、臨時教員は専用の机がなく2人で共用する、部活では校庭での走り込みができない、学校建設が行われないため1棟のマンションで下層階と上層階で学区が違うなどの問題も出ています。公園が不足し、児童センターや子育て支援センターは人があふれ、子どもが安全に遊ぶ場所がない、保育所は第10希望まで申し込んでも入れないなど、市民の暮らしを無視した採算優先の再開発の弊害が広がっています。

商業や業務の需要を過大に見込んで事業規模を大きくし、商業・業務需要が見込みを下回れば、マンションの割合を大きくして売りぬいていくやり方か、公共の施設を増やして公共負担で乗り切るかが迫られるのです。

武蔵浦和駅周辺再開発では、6つの街区で再開発事業が終了していますが総事業費1717億円のうち483億円が公的補助金として交付されています。一方、武蔵浦和駅周辺再開発によって約3000戸の住居が増えましたが、この再開発事業に対応した学校、保育所、公園、児童館や公民館などの整備計画を市は全く持っていませんでした。まちづくりは、人々の暮らしと権利、地域の文化を育むものです。一部の拠点開発の採算だけが独り歩きし、市民の暮らしの現場である地域と自治体の財政に犠牲を押し付けることは許されません。

おわりに

大宮駅グランドセントラルステーション化構想を核とした大宮駅周辺の巨大開発構想は、多くの識者がその実現性を疑問視するリニア新幹線の開通を含めたスーパーメガリージョン構想を事業の意義や可能性の最大の根拠としていることや、東京オリンピック後の経済状況の不透明さが叫ばれていることなどを考えると、大きな負の社会資本整備となりかねません。国の大言壮語に踊らされることなく、しっかりした社会動向に対する見通しをもち、市民の願いを聞き取り、美しく、安全で快適な、市民のよりどころとなる駅周辺整備となるよう注視していきたいと思います。

渡辺 繁博
  • 渡辺 繁博(わたなべ しげひろ)
  • 埼玉自治体問題研究所事務局長

1950年山梨県生まれ。1973年上尾市役所入庁、都市計画課、公聴企画課、自治振興課、広報課、社会福祉課、障害福祉課、等に勤務。2010年3月に定年退職して以後現職。