【論文】種苗法改正の問題点―種子条例の意義と地方自治体に今後できること


廃止された種子法に代わる種子条例制定が地方から広がっている。しかし、多国籍企業の本当のねらいである自家増殖(採種)禁止のための種苗法改正が上程された。

多国籍企業による種子の支配

種子法が廃止されて2年が経過し、私達の生活はどのように変わるのでしょうか。

私たちは毎日おいしいご飯をあたり前のように食べています。しかも伝統的かつ安全な固定種の米で、1日あたりの価格がペットボトル一本分と安価ですが、これができなくなっていきます。これまでは種子法によってコメ、麦、大豆は日本の主食としてその種子を国が管理して、各都道府県(以下、県)に優良な種子を安定して農家に提供するように義務付けてきたからです。

この法律を廃止する時に、政府は種子法による公的な種子の存在が民間の種子の普及を妨げているので廃止するのだと説明したのです。筆者は本当にそうなのかどうかを確かめようと、民間の種子を実際に栽培しているコメ農家を20軒ほど訪ねました。民間の種子はいずれも味はコシヒカリ以上、収量もコシヒカリの1・3~1・4倍はあると宣伝していますが、味はコシヒカリより落ちるし、収量も実際にはそれほどではありません。

筆者は生産者から日本モンサントと住友化学の契約書などを見せて頂きましたが、種子と農薬、化学肥料はセットで、違約金の定めなど全体として農家にとっては厳しい一方的な内容でした。

私たちにとって大事な種子法は、2017年に衆参合わせてわずか11時間足らずの審議で廃止が決まったのです。このようなスピード審議の裏に、最高裁判所も認めるようにTPP協定があります。

種子法に代わる条例を制定

種子法廃止が国会で可決されてから地方は動き出しました。コメどころ新潟県はことに心配だったのでしょう。柏崎市が最初に県に対して「種子法に代わる県条例を制定して欲しい」と意見書をあげたのです。次々に各市町村から意見書が出され、ついに知事は2018年1月の県議会で種子条例を作ることを表明、3月23日に可決成立しました。兵庫県も酒米がF1の品種、もしくはゲノム編集のコメになっては味が心配だと3月20日に種子条例を可決。続いて埼玉県も制定しました。

今日では北海道から鹿児島県まで24の道県で種子条例が制定もしくは制定準備中で、これらの県では従来通り伝統的なコメ、麦、大豆の種子を農家は安価に安定して提供を受けることができるようになったのです。

しかも国会でも野党提案の種子法廃止撤回法案に自民党、公明党が応じて審議が始まっているのです。農林水産省もいまでは、種子条例の制定は地方の特性、独自性を生かすもので歓迎すると言い始めました。まさに地方が変わることによって、国の政治も変わったのです。地方の住民たちがこの2年の間に法律は廃止されても諦めることなく、自分たちの生活を守るために地道な勉強会、粘り強い署名活動などを通じて見事な成果を上げた実例なのです。このことは地方分権一括法案が制定されて20年、まさに日本における地方自治の歴史に残る輝かしい1ページです。

同法ではこれまで国が地方自治体を指揮監督、命令してきていたものをすべて禁止、法の下に国と地方自治体は対等の関係としたのです。「通達」は禁止され過去の「通達」も全て効力を失いました。国は各省庁から地方自治体に対して「通知」を出すことしかできなくなりましたが「通知」は単なる技術的な助言に過ぎないのです。法律に反しない限り、地方自治体はなんでも条例で定めることができ、条例に違反するものには懲役罰金等の刑罰を課すこともできます。また一括交付された予算はどのように使ってもいいのです。

しかも法律に反しているかどうかの第一義的な判断は地方自治体にあるので、国が自治体に対して法律に反して無効であるとするには裁判で最高裁まで争わないと覆すことはできないのです。

登録品種の自家増殖(採種)一律禁止が本命?!

種子条例が全国各地で制定されましたが、じつは多国籍種子化学企業の日本に対する本当の狙いは種苗法の改定にあります。30年前に中南米諸国を席巻し、モンサント法案と呼ばれた自家採種禁止法案、これこそが多国籍企業の種子支配の本当の狙いです。つまりそれは、農家が種子をすべて毎年多国籍企業から購入せざるを得ないような法制度にして莫大な利益を得ようとすることです。

このモンサント法案(自家採種禁止法案)は中南米諸国では一旦成立した後、農民の暴動もあって次々に廃止されてきましたが、いまでは日本、東南アジア、アフリカなどに自家採種禁止法案の成立を迫ってきています。

種子法は自家採種禁止を実現するに当たって邪魔だったから先に廃止したに過ぎず、今回の自家増殖禁止の改定案の狙いはそこにあります。

今回の種苗法改定の問題点は、以下の通りです。

①農林水産省はシャインマスカットなど日本の優良な育種知見が中国、韓国など海外に流出するのを防ぐため種苗法改定が必要だと述べています。しかし次の理由で、私は改定の理由にはならないと考えています。

ア、政府は種子法廃止法案と同時に、農業競争力強化支援法を成立させて独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構(以下、農研機構)、各都道府県の優良な育種知見を民間に提供することを促進するとしています(8条4項)。同法の審議の際に当時の齋藤農水副大臣は 民間とは海外の事業者も含まれると答弁しており、またシャインマスカットは農研機構の登録品種のため同法と矛盾して理由にならないことになります。

イ、現行の種苗法第21条4項では明文で登録された品種を購入して消費以外の目的で輸出することを禁止するとしています。中国などほとんどの国が POV(ユポフ)「91年条約」を批准していないので、種苗法を改定して同条項を削除しなくても現行の種苗法のままで刑事告訴、民事の損害賠償もでき、十分防ぐことはできます。ただ韓国は「91年条約」を批准していますが、農林水産省知的財産課が2017年に文書で育種知見の海外流出を防ぐことは物理的に不可能なので、その国で育種知見の登録をすることが唯一の方法であると述べています。

シャインマスカットの場合には、農研機構の登録品種ですから、政府は農研機構の代理人として 韓国で育種登録の手続きをすれば、改定しなくても差し止め訴訟もできるので、より確実に各都道府県の優良な育種知見は保護されることになります。

②種苗法が改定されると、農業者は登録された品種の育種権利者から自家増殖(採種)の対価を払い許諾を得るか、許諾が得られなければ全ての苗を新しく購入するしかなくなるので、登録品種は自家増殖(採種)一律禁止になり、違反すると10年以下の懲役または(併科あり)1000万円以下の罰金、農業生産法人では3億円以下の罰金になり、しかも共謀罪の対象です。例えば公共の種子が廃止されて民間の「みつひかり」などになったら、現在でも約8~10倍の価格なので、4000万~5000万円の負担増になりかねません。コメに限らず麦、大豆などの専業農家ほど、新しく購入した登録品種を3年ほど自家採種していますから、それができなくなれば大きな打撃を受けることになります。

日本は30年前までは伝統的な種子で、かつ国産100%でした。ところが今ではF1の種子になり、モンサントなど多国籍企業が海外で生産した種子を毎年購入して、価格も40~50倍に上がっています。

③自家増殖禁止とは、いちご、芋類、サトウキビや、苗を購入してそれを自家増殖しているりんご、みかん等の果樹で、それができなくなることです。例えば、いちご農家では登録された県の奨励品種を1本250円で10本ほど購入して、ランナーで6000本に増やしてハウスに移植して栽培しています。これからは育種権利者にお金を支払って許諾を毎年得るか、許諾が得られなければ毎年全ての苗を購入しなければならなくなります。芋類やサトウキビなどでも同様なことになります。紫芋などの登録品種も禁止の対象になります。他にも伝統野菜と思われていたエゴマで3種類、ウドでも4種類育種登録されており、毎年800種類の作物が新規登録されているので注意が必要になります。サトウキビは沖縄県、鹿児島県の南西諸島などでは5年に1回収穫したサトウキビから節ごとに切断し芽出しして増殖していますが、それが自家増殖禁止になれば、これからは島の重要な産業が消えていくことになりかねません。果樹栽培農家は一本の苗木を購入して接木や挿し木をして増殖してきましたが、これからは同様に対価を払って許諾を得るか、苗木を全て購入しなければならなくなります。

④農林水産省は種苗法の改定によって育種権利者が代わる場合、 農家の立場はどうなるかを説明しました。その場合にも自家増殖はこれまでのように続けられるでしょうか。

例えば、「ゆめぴりか」(コメ)は現在北海道が育種権利者ですが、北海道がその権利を企業に売却した場合、従来通り自家増殖が続けられるでしょうか。

農業競争力強化支援法第8条4項では、農研機構および各都道府県の優良な育種知見を民間に提供するとなっています。農林水産省はすでに企業に売却した場合のことを想定して種苗法改定の説明をしました。このような場合は、 農業者が北海道と交わした契約の内容を、新しく売却譲渡を受けた育種権の権利者(企業)が引き継ぐことになります。これまでは農業者は北海道から種苗の提供を受けているだけで契約など交わしていないのが普通です。契約がないと毎年許諾が必要になって、結局は許諾の代価を支払うか、もしくは種苗を企業の言いなりの価格で買わざるを得なくなります。

⑤今度の改定案では、育種知見を保護するために、種苗の持つ「特性表」が新たに法律になります。

農林水産省は裁判で、育種権利者の権利を守るために新たに特性表による権利の保護が必要であると説明しました。実はその背景に2015年の「なめこ茸事件」の高裁の判決があります。伝統的な茸キノコの栽培農家が企業から育成者権を侵害しているとして損害賠償を求めて訴えられた事件です。裁判所は、新種の持つ特徴の特性だけをみれば確かに権利を侵害しているかにみえますが、現物を比較しなければ分からないとして企業の主張を棄却したのです。

今回の改定案では、育種権利者を守るため、新品種の持つ開花時期、葉の色などの特徴を特性表にし、それだけで裁判に勝てるように改定第35条の3を新たに加えたのです。

新しい品種を育種登録するには数百万から数千万円の費用がかかり、年間維持費も2万円ほど要するので、企業しか新しい品種の登録はできないことになります。しかも新品種であると農林水産省が認めるには、従来の伝統的な品種との違いがなければできないはずですが、どのようにして新しい品種として判断しているのでしょうか。知財課長は遺伝子解析では不可能で人的能力によるしかないと説明しました。

日本には、大豆だけでも各地によって色も形も味も異なる何万種類もの昔ながらの伝統的な大豆が栽培されています。大根でも沖縄県では島ごとに種類の違う大根があり、三浦大根でも屋号がひとつずつ付いているほどです。農林水産省の担当課の言う、人的能力(現在20人)で年間800種類の新規登録を全て現物を比較して新品種だと判断することは事実上不可能です。

農林水産省は「自家増殖禁止は新しい品種に限られるから、有機栽培農家が伝統的な品種を採種して栽培を続けることは何の問題もなく大丈夫です」と述べているので、ほとんどの農家は安心していますが、筆者は育種権侵害の裁判例からしても大変心配しているところです。政府は農業者を守るのではなく企業の利益を守るために種苗法を改定しようとしているとしか思えません。

⑥ゲノム編集の種子が、今年から安全審査の手続きもなされないまま、表示もなく、飼料用米などで作付けが始まる恐れがあります。

日本政府は「ゲノム編集食品は遺伝子組み換え食品と違って、異なる種の遺伝子を組み換えて入れるのではないのでアミノ酸に変わりがなく安全である」としています。実際に、昨年の10月からゲノム編集食品については、食品安全委員会の審査手続きもなく、生産の届出も任意で表示もされないままに流通が始まりました。しかしゲノム編集はまさに遺伝子組み換えによるもので、Eなど各国ではNew GMOとして遺伝子組み換えと同様の厳しい扱いをしているのです。

農林水産省は2019年11月30日ゲノム編集による種子を有機認証できないかと検討会で審議した経緯すらあります。米国同様、有機認証はできないとしたものの、これからゲノム編集による種子が作付けされる可能性が現実のものになってきました。そうなれば日本は花粉の交雑により、有機栽培のできない遺伝子組み換え汚染農地となってしまうのではないでしょうか。北米大陸では、日本ほどの面積の農地が遺伝子組み換え作物による汚染地帯となって、有機栽培ができなくなっています。

種苗法改定にあたり地方自治体でできる対策

私たちは地方自治体の住民として、種苗改定案が成立した場合に種子法廃止の時のようにどのような反撃の方法があるか考察しました。

①都道府県は県が独自に開発した優良な育種知見を条例で守ることです。このままでは農業競争力強化支援法第8条4項を盾に、県が独自に開発した育種知見を民間企業に提供することを求められた場合に抵抗できなくなります。

その場合に備えて「〇〇県の多様な品種を保護する環境条例」を制定する方法があります。条例の中で例えば〇〇県の開発した育種知見を民間企業に提供する場合の条件を厳しくして、最終的には県議会の承認が必要だとする内容の条文にすることができます。このことは地方自治法第14条からしても合法的な措置です。

それにこれまでの種苗法では、一旦種苗を購入した場合には自作以降も引き続きその品種の自家増殖採種を続けることが自由にできましたが、改定後では契約で取り決めがなされない限り種苗を2年目以降も採種または増殖を続けることは禁止されます。少なくとも県の独自に開発した品種については、一旦農家に種苗を提供した場合には従来の種苗法同様に自家採種を保障する条文を条例に加えるべきです。改定案で削除されて無くなった21条を各県が環境保全条例などで復活させるのです。種子条例と同様な考え方です。

②育種権利者(企業が多い)から農家に育種権を侵害しているとして裁判を申し立てられる場合は、次のような対策が考えられます。

30年前から広島県は野菜などがハイブリッドF1の品種になって農家が自家採種しなくなり多様な伝統的な品種を守るためジーンバンクを設立しました。いまでも伝統的な品種2万種類以上を保存、管理して、農家に無償で貸し出しています。そのような制度を、各県は農業試験場などをもとに条例で設けることができます。作物の特徴を早く特性表にして現物とともに保存管理していれば、育種権侵害の裁判をされても、すでにこのような品種は栽培されていたのだと対抗でき、育種権登録の取り消しの申請もできます。

③ゲノム編集、遺伝子組み換えの種子については、愛媛県今治市、北海道、神奈川県の遺伝子組み換え作物に関する条例を参考にして、そこにゲノム編集の種子による作付け条件を厳しくして事実上遺伝子組み換え、ゲノム編集の種子による作付けをできなくすればいいのです。

山田 正彦
  • 山田 正彦(やまだ まさひこ)
  • 弁護士・元農林水産大臣

1942年生まれ。長崎県五島で牧場や肉屋の経営の後、弁護士としてサラ金問題に取り組む。1993年から衆議院議員を5期務め、菅直人内閣で農林水産大臣として農業者個別所得補償を実現。現在は弁護士業務に加え、TPPや農業の問題点を明らかにすべく現地調査を行い、各地で講演や勉強会を行っている。