【論文】コロナ禍における地域福祉-豊中市社会福祉協議会の現場から


はじめに

2020年1月から新型コロナウイルス感染症の流行が始まり、4月には緊急事態宣言が出されました。私たちはこの3年の間、3つの命のリスクと闘ってきました。

1つ目は、コロナ感染症で命を落としてはいけないということ。どうやって感染拡大を防ぐのかということを考えてきました。

2つ目は、けれどもそれで経済活動が止まってしまうとコロナで命を落とさなくても経済的に厳しくなって、自殺してしまう人が出てくるので、緊急小口資金・総合福祉資金のコロナ特例の貸し付け現場として全国の社会福祉協議会は、全国300万人、2兆円の貸し付けで命を支えてきました。

3つ目は、コロナ禍で外出自粛が続き地域活動が自粛する中での孤独死を防ぐ戦いです。コロナが危ないからとずっと社会活動を止めてしまうと、家の中で孤立したり弱っていく高齢者がたくさん出ました。

ここでは、コロナ禍で見えてきた地域福祉の課題を、豊中市社会福祉協議会(豊中社協)の実践から報告します。

1 コロナ前の豊中社協の取り組み

地域には、ご自身でSOSを出せなかったり、孤立している方がたくさんおられます。コミュニティソーシャルワーカー(CSW)は、そうした方を地域のつながりを通じて発見し、行政の関係機関や地域住民と一緒にさまざまな社会資源を使って問題解決してきました。

きっかけは28年前の阪神淡路大震災で、豊中市が大阪府内最大の被災地となり、避難所、仮設住宅、復興住宅へと人が移動していくたびにコミュニティを失い、多くの孤独死と出会いました。震災をきっかけに、「孤独死を作らない」ということで小学校区を単位とした校区福祉委員会による住民主体の見守り活動や市域全体を対象にした専門的なボランティアグループなどが、およそ8000人の方々をいろいろな形で支えてきました。

SOSを発見しても丸ごと支えてくれる人がいないと、見守り、気づいた人が縦割りの行政の中をたらいまわしにされたり、自分で解決するなどの対応を迫られます。そこで、地域の見守りでさまざまな問題を発見し、制度の狭間の課題を断らないという体制で市内に18人配置されているコミュニティソーシャルワーカーが地域づくりと個別支援を一体型で解決していく、豊中のセーフティネットの仕組みを2004年から進めてきました。

2 新型コロナウイルスで社協現場は貸し付け現場に一変

しかし、新型コロナの感染が拡大した2020年3月から、私たちの仕事はコロナの影響で収入を絶たれた人たちへの生活資金の貸し付けが中心となりました。コロナ特例で、緊急小口資金20万円(単身世帯は15万円)、総合福祉資金が20万円×3カ月(単身世帯は15万円×3カ月)、さらに総合福祉資金が延長されて、20万円×3カ月(単身世帯は15万円×3カ月)、そしてコロナ禍が収まらないために、またさらに総合福祉資金再貸し付け20万円×3カ月(単身世帯は15万円×3カ月)と緊急事態宣言が発令されるたびに貸し付けの延長が実施され、全国の社会福祉協議会ではすでに200万世帯の支援を行っています。当初、相談窓口を訪れる人たちは、飲食、イベント、観光、タクシー、インバウンド関連から始まり、個人事業主や非正規、パート、外国人などなど、社会保障制度に十分カバーされていない人たちの貸し付け窓口となりました。「収入がなくなり、死ぬしかない」「お金を借りても返さないといけない」そんな悲痛な思いを受け止め、「命をつなぐために貸し付けを借りてほしい」と命を守る窓口になりました。

(1) 生活保護になるくらいなら死んだほうがまし

貸し付け窓口での手続きを終えた方が「正直不安でいっぱいです。借りても返せるめどが ない。でも生活保護になったら、事業のための借金もできなくなる。どうしたらいいのか」と、涙ぐんでいました。

そもそも、収入が途絶えた人のために生活保護の制度があります。しかし多くの人が、「生活保護になるくらいなら死んだ方がまし」と言います。その理由は、生活保護を受けるためには、住宅ローンがあれば家を売却し借金を整理しなければならず、学資保険や生命保険も解約等しなければならないからです。原則として、財産があると受けられません。今回のコロナ禍で経済的な困窮に陥った人の多くは個人事業主などですが、たいてい車を持っていたり店舗付きの住宅をローンで買っていたりします。コロナさえ収まれば、ワクチン接種が進めば元の暮らしに戻れる人たちです。こうした方々が生活保護を受けようとすると、貯蓄や学資保険などを全部解約して生活保護の相談に行く=身ぐるみはがされることになるのです。さらに、親族に扶養照会(生活保護を受けることが知らされ援助できるかどうかの問い合わせがある)されることも大きな阻害要因になっています。さらに、それより厳しいのが社会の目です。生活保護者へのバッシングは激しく、自分もそう見られると思うと躊躇してしまうのです。それが「生活保護になるくらいなら死んだほうがまし」と思わせるのだと思います。この間の支援の現場からの働きかけで、生活保護の要件については一定の緩和策が出されましたが、生活保護はコロナ禍の2年はほとんど増えていない状況です。それほど、コロナの困窮者を社会福祉協議会の貸し付けが支えたということになります。

(2) 家を失う人が増えている

こんな中で、地域の民生委員さんから「朝、公園でウォーキングをしていると、公園にホームレスの人が増えている」という連絡をもらいました。日が昇ると人目を気に していなくなると言われたので、夜明け前の早朝4時に訪ねました。マスクや食料を持っていき、名刺を渡しました。出会った男性は、無言のまま人が増えてくる公園から一刻も早く立ち去ろうとして いましたが、別れ際にこちらから「不快な思いをさせたらごめんなさい。連絡をお待ちしています」ともう1枚メモを書いた名刺を渡し、握手を求めました。彼の目に光るものがありました。3日後に連絡があり「何カ月も人として扱ってくれる人と出会わなかった。あの時ふと人としての気持ちが戻った。あんな早朝わざわざ来てくれたのに無礼な態度で申し訳なかった」と話してくれました。今では仕事も決まり、毎日働いています。この1年で路上や公園で生活している人たちを37人助けることができました。これまでも生活がギリギリだったのに、コロナで収入を絶たれ住 居を失った人が多くいました。多くが自分からはSOSを出さない、出せない人たちです。役所に行けば支援はあるとわかっていても自分とは別だと感じています。公園で声をかけても「自分よりもっと大変 な人を助けてあげてください」と。「自分が悪かったから仕方がない」とも。自己責任論の大きな圧力を感じます。 最近では、倒産により寮や社宅を失った人や、住宅ローンが支払えず、差し押さえになり、家を失った人等、待ったなしの状況が増えています。すべての人に、人としての尊厳があることを忘れてはいけないと痛感します。そうでないと相談に訪れる方々に、「自分も人生をやり直せる権利がある」と思ってもらうことができません。一番厳しい人を見捨てる社会は、いつか自分も見捨てられる社会だと感じています。

2023年1月から貸し付けの返済が始まりました。非課税の人は返済免除になりますが、そもそも手続きが苦手な人たちにはその手続きすらできない人も多くいます。また、物価高・円安などの影響で今、返済が困難な人も多くあり、返済猶予の手続きを行ったり、生活再建への支援が例年続きます。コロナで出会った不安定な生活困窮者がどう生活を再建させていくのか、生活困窮者に伴走するエッセンシャルワーカーとして、これからが力の発揮のしどころだと思っています。

  

① キッチンカー

3 孤立する高齢者が増えている

最初の緊急事態宣言から少したった頃、あるボランティアの女性から、「勝部さん。私たち阪神淡路大震災からずっと高齢者の見守りをしてきたけど、コロナでもう何カ月もしていない。私たちがしてきたことは、止めてもいいものだったんだろうか」と言われ、頭を強く打たれたような気がしました。コロナで死ななくても孤立して孤独死が増える、地域で高齢者が弱っている実態を、改めて痛感しました。これまで、みんなで集まってワイワイガヤガヤ、食事を作って、カフェを開いて、体操教室を行ってと、地域のつながりを作ってきた私たちの手法は、すべてソーシャルディスタンスという言葉で実行不可能になりました。

(1) 離れていても つながろう

途方に暮れていた私に、地域の皆さんからアイデアが出ました。「往復はがきを出そうと思っているけど、どうかなあ?」。それまで思ってもみなかった前向きな意見でした。そこで、「離れていても つながろう」をテーマに、コロナ禍でもできる活動を工夫し始めました。往復はがき、電話、ポスティングなどによる見守り、手作りマスクの配布、食材を宅配する支援、そして豊中社協のユーチューブチャンネルの開設など、直接会えなくてもできる支援を次々に立ち上げていきました。さらに、緊急事態宣言が解除される際に「新しい生活様式下での地域活動再開に向けてのガイドライン」を感染症の先生に監修していただき作成しました。これまでの調理と会食を楽しむ会は、感染症対策を徹底させてテイクアウトに。子育てサロンは、ひと家族ずつ2メートル四方の枠内に入ってもらい、室内ではなく青空のもとで開くなど、一つ一つの活動に丁寧なガイドラインを作りました。ガイドラインは、それ以来バージョンアップを重ね、第8弾まで作成してきました。

(2) コロナ自粛下で高齢者はどうなったか

コロナでの外出自粛により、高齢者にどのような影響があったかについて2020年6月に調査を行いました。「コロナ外出自粛化における社会参加に関する調査」として市内で活躍する校区福祉委員会のボランティアの方、ボランティアセンターに登録するボランティアの方、そして「ぐんぐん元気塾」(介護予防体操)に参加する高齢者の方を対象に調査を行いました。

その結果はぐんぐん元気塾の方はおよそ3割の方が歩行に困難を生じました。また、登録ボランティアの方は21%、校区福祉委員会は17・8%でした。活動の減退が筋力低下に影響があること、年齢が高いほど影響が大きかったことが分かります。

コロナで外出自粛したことは高齢者のみならず地域活動がなくなったボランティアにも大きな影響がありました。裏返すとボランティアや地域活動に参加されていた人は大きな介護予防となっていたことが分かります。

そこで、たとえ緊急事態宣言が出て外出自粛となっても、すべての活動を中止するのではなく、体操なら室内では行えなくても、屋外で距離を空ければ行える。会食なら、会場までウォーキングを行い、 テイクアウトにすることで顔を見合って、うつ状態に陥るリスクを防ぐなど、感染予防をしっかりしながら、取り組みを行うこととしました。コロナ禍ではこうした活動をさらに進めていくことが重要だと感じています。そうしないと、コロナが終息したころには高齢者の多くが弱り、介護度がずっと上がってしまうことも考えられます。コロナの中でもできる介護予防を。 うつを防ぎ、 を予防する活動を。感染拡大による命のリスクと、経済的困窮による命のリスク。そしてもう一つの人が孤立することのリスク。私たちがこれまでも取り組んできた、人と人とのつながり作りをソーシャルディスタンスの中でどう再構築していくのか。コロナで途絶えたつながりの再構築が問われます。

  

② 路上の声掛け

  

③ 食材の宅配

最後に

コロナは、以下のように社会保障の在り方を問いました。①生活保護になるなら死んだほうがましだと思わせてきたセーフティネットはいったい誰のためのものだったのでしょうか。入りやすく出やすい生活保護の在り方が問われます。②さらに、社会福祉協議会は貸し付けで多くの生活が厳しい世帯と出会いました。ここから新しい支援が始まります。10年もの長い間貸し付けで縛る多くの人たちの支援が今後求められます。これらの人をこの機会をきっかけに自立への支援につなげていくためには、今後の支援にかかわる人材確保の財源や体制強化が不可欠です。③ソーシャルディスタンスで人と人との関係や距離を考える機会となりました。つながっている人とはどうつながり続けるのか。一方でこれまで見えてこなかった人たちとのつながりも考えるきっかけとなりました。非正規や不安定な労働環境の人たち、ホームレス状態の人たち、外国人、シングルマザーや大学生、留学生、定時制高校、夜間中学等やっと見えるようになってきた人たちとしっかりつながる必要性を感じています。その手法も問われます。④また、コロナで死ななくてもコロナで外出自粛することが孤独死を生むという地域活動の大切さについても警鐘を鳴らしました。アフターコロナで多くの高齢者のフレイルが進んでいる可能性があります。

誰一人取り残さない社会の実現は、このコロナで浮き彫りになった多くの課題と向き合うことから始まっていくのだと思います。

勝部 麗子