パブリックコメントへの大量投稿を問題視する報道が相次いでなされています。こうした状況を踏まえ、政策決定プロセスのあり方と市民参加について、特にエネルギー・気候政策の観点から現場の状況を伝えます。また、より良い市民参加のあり方を考えます。
はじめに
2025年3月下旬、政府がパブリックコメント(意見募集、以下パブコメ)の「大量投稿」を問題視し、意見募集方法や集約方法を再検討しているという旨が相次いで報道されました。その後4月より、受付番号の乱数化など一部の対策が取られています。
しかしそもそも、政策決定プロセスに対し、市民参加の機会がほぼパブコメのみに限られているということ自体が問題です。しかも、政策案が詳細にまとめられた最後の段階での実施であるため、数多くのパブコメが寄せられたとしても、その意見が政策決定に反映される余地はほとんどありません。
報道を機に、未成熟な日本の市民参加プロセス、意思決定プロセスこそ見直さなければならないと、幅広い市民団体が集い、集会や議論を行いました。本稿では、パブコメと市民参加をめぐる議論について、特に私自身が活動するエネルギー・気候政策分野を中心にご紹介できればと思います。
パブコメが制限されかねないという危機感から
2025年3月末から4月にかけての各社報道によれば、昨年から今年にかけ、パブコメで1万件を超える意見が寄せられるケースが相次いでいるといいます。2024年11月から意見募集した感染症予防関連では9万件余り、同12月からのエネルギー基本計画には4万件余り、2025年1月からの除去土壌の復興再生利用には20万件超などがあったそうです。パブコメを所管する各省庁では、意見の読み込みや整理、回答の作成といった作業で対応にあたる職員の長時間労働などにつながっているとのこと。総務省が負担軽減に向けた対策を検討していくと報道されました。その際、一つのメールアドレスやIPアドレスからの複数投稿を集計対象から外す、すなわち1アドレスあたり1件の意見提出に制限する案も上がっているという内容もありました。そのため、ただでさえ限られた市民参加機会がさらに制限されるのかとの危機感から、様々な市民団体が結集してこの問題に声を上げました。なお、総務省によるパブコメへの対応は今のところ、受付番号の乱数化(これまでは通し番号だった)や「数が重要なのではない」旨の注意書きの追加が4月に行われましたが、メールアドレスによる制限等については現在のところは実施されていません。
しかし、問うべきなのは「大量投稿」なのでしょうか。パブコメは現状数少ない、場合によってはほぼ唯一、市民が政策に意見を届けられる機会とも言えます。そこにたくさんの意見が集まることは、「関心の高さ」を示していることにほかなりません。限られた機会にもかかわらず、そこに寄せられた意見に対してすら、政府は真摯に向き合わず、内容を具体的に政策に反映しようという姿勢はみられません。パブコメの形骸化、そしてそもそもの市民参加機会の少なさ、政策形成過程の硬直化こそが問われるべきであり、問題提起をしていく必要があります。そこで、私たちFoE Japanも含む環境団体や開発系団体などは4月15日に緊急記者会見を開くとともに、この問題に関する意見交換を改めて重ねました。5月に集会を開催してについて情報共有するとともに共同声明を採択、9月には情報公開と市民参加を考える集会を開催しました。
市民社会が求めること
共同声明では、パブコメの制限は論外であり、そもそも市民の政策決定への参加が非常に限られていることを改めて問題提起、政策プロセスの早期の段階から十分な市民参加の機会を保障することを求めました。残念ながら現状では、その状態からは程遠く、議論の最終段階での形ばかりのパブコメがほぼ唯一の参加の機会となっていることが、特にエネルギー政策の関連ではほとんどです。
日本は参加していませんが、オーフス条約では環境分野について「情報へのアクセス」「意思決定における市民参加」「司法へのアクセス」を三つの柱として定めています。環境権と人権が明確に結びつけられ、環境NGOの存在意義も明らかにされています。オーフス条約については、大阪大学大学院法学研究科教授の大久保規子さんが長年研究され、オーフスネット(オーフス条約を日本で実現するNGOネットワーク)が条約の日本語訳をウェブサイトで紹介しています。
日本のエネルギー・環境政策においても、政策形成に関する情報の十分な公開と、プロセスへの多様な形での市民参加を担保するために、抜本的な改革が本来必要です。
電力会社や電力多消費産業中心のエネルギー政策決定
特にエネルギー関連の政策において、市民参加の場は非常に限られています。エネルギー基本計画について主な議論を行う審議会、総合資源エネルギー調査会基本政策分科会の委員構成は、電力業界や産業界、特に電力多消費産業につながりの強い委員が多数を占めています。エネルギー政策基本法ができた2000年代初頭であればまだしも、その後SDGs、気候変動、地域、人権といったテーマが国際的にも国内的にも大きくなるなかで、それらのバックグラウンドを持つ委員が現在でもほとんどいないというのは、いびつなものです。その審議会での議論は、事務局である経済産業省が準備するシナリオを大きく変えることはありません。
市民参加の機会は、資料として掲載・配布されるのみの「意見箱」とパブコメにほぼ限られています。今回の第7次エネルギー基本計画の議論中、「意見箱」には1000を超える投稿がありましたが、その内容の分析も反映も行われていません。またパブコメ終了前後の1月末から2月中旬にかけて全国10カ所での「意見交換会」が開催されましたが、議事録の作成も公開もなく、その場での意見をどのように反映するのかについて、政府からの回答はありませんでした。
一方、少し興味深い動きもありました。昨年、エネルギー基本計画と並行して行われた環境省の「地球温暖化対策計画」に関する議論です。こちらの審議会は、環境省と経済産業省の審議会の「合同会合」という形で開かれ、またその趣旨から、再エネや気候変動、自治体などの関係者が委員に入っていました。議題設定など基本的に事務局主導であることは変わりませんが、議論の終盤に再エネ事業を行う委員が、気候変動目標をもっと高めるべきであるという事務局案とは異なる意見を強く主張、複数の委員がそれに賛同し、会議時間を大幅に延長して議論が行われるということがありました。最終的には事務局案のまま今月2月に閣議決定されましたが、当然のことではあるものの、審議会の委員構成によって違った結論になりうることが示されました。
2012年の国民的議論
プロセス全体で全く違った取り組みが行われた2012年の議論を振り返ってみましょう。2011年から2012年にかけて、原発事故を受けたエネルギー政策の大々的な見直しが行われました。当時は民主党政権であり、2010年に改定されたばかりの「エネルギー基本計画」がありましたが、その改定ではなく新たなプロセスが設計されました。
まず、エネルギー基本計画を議論する審議会は経済産業省が所管しているのに対し、この時は、「国家戦略室」のもとで経産省と環境省が合同で事務局を担う「エネルギー・環境会議」が設置されました。その委員構成は、原子力推進、中立、反対のそれぞれの立場の委員がおおむね3分の1ずつを占めていました。環境政策や再エネの専門家なども委員に入っていました。この点がまず注目すべきところです。
ここでの約9カ月の議論を経て「エネルギー・環境に関する選択肢」(2012年6月)がまとめられました。そこでは、「原発をゼロにする」「15%程度とする」「20~25%以上に拡大する」の三つのシナリオが示されました。その後、7月から8月の約2カ月にわたり、パブコメだけでなく討論型世論調査、各地での意見聴取会、各メディアの世論調査結果、各種団体の意見表明などが総合的に検討されました。それぞれの手法により、結果は異なります。例えばパブコメや各地意見聴取会での意見表明では関心の強い層が参加するため「原発ゼロ」を支持する意見が圧倒的に多かった一方、世論調査では、中間の「15%程度」を支持する声が多数でした。討論型世論調査では、情報提供や議論を経て、「原発ゼロ」を支持する割合が増えました。これらについて検討会を設置して検証した結果、「国民の過半が原発ゼロを望んでいる」とまとめられ、「2030年代の原子力からの脱却」が一度(ごく短期間でしたが)決められたのでした。
ここからわかることは、パブコメの結果だけを民意とすることはできないということと、だからこそ、複数の多様な手段や機会が必要だということです。
昨今、無作為抽出の市民が参加して議論を重ねてその結果を気候政策に反映させる「気候市民会議」という手法が注目されています。年齢や職業などのバランスを見ながら無作為抽出で参加者を選定することで、特定の層だけでなく幅広い層の意見を反映することができるとされています。2012年8月に行われた討論型世論調査は、まさにこの方法でした。
私自身、3・11(東日本大震災)以降、脱原発とエネルギーシフトを求めて多くの環境団体や市民団体、市民が立ち上がり連携してうねりが起こっていった過程をFoE Japanスタッフとして経験しており、2012年の国民的議論はとても印象深いものでした。当時は、このプロセスに対しても批判はありましたが、今思えば、エネルギー政策のプロセスとして大変画期的な取り組みでした。それが、政権交代によってわずか3カ月弱で「白紙撤回」されたことは残念でなりません。2013年に開始した第4次エネルギー基本計画の議論のなかでも、このプロセスや結果については完全に切り捨てられ、資料として参照されることすらありませんでした。
市民の関心を高め参加を促すには
政策に市民の声を届けるにはどうしたらよいのでしょうか。政策決定過程や市民参加が十分でないという現状のうえでの、環境団体などの取り組みをご紹介します。
私たちは、エネルギー基本計画や地球温暖化対策計画、原発の関係など、重要な局面ではパブコメへの参加を促すための呼びかけを行っています。そもそも、そうした呼びかけを行わない限り、ほとんどの人はパブコメへのアクセスは難しいでしょう。パブコメの募集ページを開いても、難解で何十ページもある文書を読んで意見を送ることは相当に高いハードルです。パブコメ大量投稿に関する報道の中で、「通常は数十件程度である」と書かれていました。関心の強いごく一部の人がコメントすればよい、それ以上多くの人に知られる必要すらない、というような意図が感じられ大変残念なことです。自治体のパブコメでも、少し話題になれば100件を超えます。国レベルでは多数のパブコメが行われているため、難解な内容や、細かい規則の改定など、ほとんど意見が出ないものもあります。しかし多くの人が関心を持ちうるテーマについて、それらと並べて論じるべきではありません。
パブコメ呼びかけでは、いくつかの重要なポイントを紹介し、問題点や意見の例を示すウェブページを作成しています。また解説セミナーやワークショップを開催し、実際にパブコメ提出をサポートしています。ワークショップには、初めてパブコメを出すという人も参加し、それぞれが自分の言葉で意見を作成して提出しています。「難しいイメージだったが解説を聞いて書くことができた」「友人知人にも知らせたい」などの感想が寄せられます。このような機会は、政策への市民の関心を高め、実際の参加を促すために重要な取り組みです。もちろん、パブコメの時点で結論は99%決まってしまっており、そのプロセスに大きな問題があることも同時に伝えています。
政策変更のためには、パブコメのような政策への直接意見だけでなく、国会議員への陳情や、企業への働きかけなどさまざまなアプローチが必要であり、効果的な方法を常に探す必要があります。いずれにしても、市民の関心を高め、いろいろな形で話題を作っていく取り組みが今後も欠かせません。あるべき政策形成プロセスと市民参加を求め、今後も活動を続けます。
【注】
- 1 原子力市民委員会ほか合同記者会見「パブリックコメントの制限ではなく、真の市民参加の実現を」2025年4月15日(https://www.ccnejapan.com/statement/18985/)
- 2 ワタシのミライほか院内集会「政策決定プロセスに幅広い市民参加を」2025年5月13日(https://watashinomirai.org/20250513_process/)
- 3 同「政策決定への市民参加と情報公開」2025年9月18日(https://watashinomirai.org/20250918_disclosure/)
- 4 注2の院内集会で大久保規子さんより話題提供。資料など記載のサイトに掲載あり。
- 5 基本政策分科会「意見箱」意見をワタシのミライで分析。2024年12月25日(https://watashinomirai.org/eneki7_ikenbako/)
