【ZOOM IN】「新宿ごはんプラス」から見えてくるもの

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2008-2009年の「年越し派遣村」をきっかけに路上での相談・支援活動に本格的に参加するようになり、現在、東京23区各地での取り組みにボランティア医師として参加しています。この10年、支援現場は大きく様変わりしました。本稿では、新宿都庁前で毎週行われている「新宿ごはんプラス」を中心に、支援現場の実態と課題について報告します。

食料配布・相談活動の現場─新宿ごはんプラス

新宿ごはんプラスは、認定NPO法人自立生活サポートセンター〈もやい〉が中心となり2014年に始まった活動です。「ごはん」をきっかけに人とつながり、貧困をなくすことを目指しています。開催当初は、奇数週の土曜日に開催していましたが、コロナ禍の2020年春からは毎週開催となり、盆暮正月も含め、文字通り毎週の開催を続けています。役所が閉まる時期こそ、支援の必要性が高まることも実感しています。

配食数は10倍以上に

活動開始当初、食料配布に並ぶ方は60~70人ほどで、その多くは安定した住まいのないホームレス状態の方々でした。しかし、コロナ禍以降、食料配布に並ぶ方は10倍以上に増え、2025年9月27日には過去最多の922人、その後も800~900人の方々が並び続けています(図1)

図1 「新宿ごはんプラス」食料配布人数の推移

路上で暮らす人は少数派

変化したのは人数だけではありません。若者や現役世代、女性、ベビーカーを押す若いご家族、学生、年金生活者の方々など、さまざまな層の方々が並ばれています。正社員として働いている方にも出会ったことがあります。「自分がこんな場所に並ぶとは思わなかった」という声も聞かれます。「家がある」「仕事もある」「年金を受け取っている」人たちが食料配布を利用せざるを得ないのです。路上で暮らす男性が「俺たちの方がマイノリティだな」と仰ったのは、このことを象徴的に示しています。

外国籍の人々の困難

コロナ禍以降、外国籍の方々からの相談が急増しました。難民申請中や仮放免中の方々は働くことができず、医療保険にも入れず、生活保護も利用できず〝八方塞がり〟です。妊婦さんが路上に放り出されることすら珍しくなく、病気があっても医療機関を受診することが極めて難しい状況が続いています。精神疾患などのある方は自立支援医療制度が利用できる場合がありますが、その他に利用できる公的制度はほとんどありません。それどころか、公的病院を中心に保険証を持たない外国籍の方々に高額の医療費が請求されることが多くなっています。これは政府や東京都が進めている医療ツーリズム(医療観光)の影響です。都内のある公的医療機関の掲示(写真)にあるように、海外から治療目的で受診する外国人患者(主に富裕層)に対し、インバウンド料金として通常の診療報酬の2倍から3倍の医療費を請求する医療機関が増えています(図2)

写真

公的医療機関に掲示された「インバウンド診療料金の改定」のお知らせ(筆者提供)

図2 自由診療における診療価格(診療報酬点数「1点」あたりの請求額)の分布

保険証を持たない日本人なら10割負担ですが、外国人というだけで自動的にこのインバウンド料金になります。今日明日の食事にも困っている人々に、高度先進医療を求めて訪日する富裕層と同じ水準の医療費が請求され、払えなければ治療が拒否される。そうした現実が、いま日本で起きています。

で無保険外国人の対応をしてくれる医療機関はごく少数で、民医連(全日本民主医療機関連合会)や済生会加盟の医療機関の中でも一部に限られています。仮放免中で透析が必要な方を受け入れ、治療を続けているある病院の「持ち出し」は、2025年春の時点で累計750万円に達し、その後も毎月30万円ずつ増え続けています。

本稿では紙幅の都合で詳しく触れることはできませんが、入管に収容されている方々の実態も深刻です。支援団体の方々の案内で10名ほどの方と面会しました。診療記録を取り寄せ確認すると、被収容者の方々の人権・受療権が著しく侵害されていることが分かりました。人権を守り、適切な医療の提供を求める医師意見書を法務省に提出するなど、法律家や支援団体の方々と連携してきました。この活動も継続していきたいと思っています。

医療相談から見えてくる「受療権」の侵害

保険証はあるが受診できない

かつては相談者の多くが保険証を持たない人でした。しかし近年では「保険証はあるが窓口負担が払えない」という相談が急増しています。2022年秋以降は、後期高齢者からの相談が目立っています。医療費の窓口負担が引き上げられたことで糖尿病や高血圧の治療を中断せざるを得なくなった方など、影響を受けている方が少なくありません。年金だけでは生活が苦しくアルバイトをしたいが、収入が増えると医療費の窓口負担が2割に増えるため悩んでいるという話も聞きます。若い世代、現役世代の方々からも「よっぽどでなければ病院には行けない」という話をよく聞きます。

生活費を削って高い国民健康保険料(税)や後期高齢者医療保険料を払っているのに、いざという時に病院にかかれない。ただただ高い保険料で生活をさらに苦しくしているだけなら、何のための公的保険なのかと憤りを禁じ得ません。生存権を保障した憲法25条が求めるように「国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努める」べきです。

無料低額診療の壁と限界

無料低額診療事業は本来、困窮者の受診を支える制度ですが、「保険証がない」「実質的に生活保護水準にある」ことを理由に利用を断られることが多いのが現状です。制度の運用は医療機関に委ねられており、かつてなく経営が困難な状況にある医療機関に「持ち出し」で困窮者支援を求めても限界があります。前述したように、外国籍の方々を含め保険証がない人々を善意で受け入れてくれる一部の医療機関に負担が集中しており、これ以上の努力を医療機関に求めるのは困難です。

「自己責任」論を乗り越えるために

相談には高いハードル

800人が食料を受け取っても相談は40件。「食料は受け取るが相談はしない」人がほとんどです。生活の困難を相談すること自体に大きなハードルがあります。

最大の壁は「自己責任」論とスティグマ

相談に訪れた人でも「生活保護だけは結構です」「迷惑を掛けられません」と遠慮する方がほとんどです。背景には役所や医療機関でのつらい経験、貧困ビジネスによる被害、自己肯定感の欠如などさまざまな要因がありますが、最大の障害は「自己責任」論です。自民党が選挙などを通じて執拗しつように振りまいてきた「自己責任」論とスティグマ(負の烙印)は、人々の心に深く刻まれており、その呪縛から抜け出すのは容易ではありません。

支援者同行でも医療機関受診は大きなハードル

2025年3月、ひどい黄疸おうだんがあり、ぐったりされた高齢男性を何とか説得し受診につなげることができたという経験をしました。何軒かの病院に電話で相談をしましたが、受け入れ先がなかなか見つかりません。すると「もういいよ。これ以上迷惑を掛けられない」と帰ろうとされました。必死で引き留め、最終的には車で1時間のところにある病院への受診が決まりました。私も同行し病室へ入院するまで励ましました。後日病室に伺うと「看護師さんは優しいし、ご飯も美味しい」と話してくださいました。硬かった表情は和らぎ笑顔が見られました。登山が趣味だった若い頃の話も聞かせてくださいました。

諦めを強いてきた政治の責任は重大

医療が必要な状態であっても、そして支援者が同行しお金の心配がないことを説明しても、受診につながることは極めてまれです。そこには「自己責任」論の影響とともに「諦め」があるといつも感じます。行政の窓口や医療機関など様々な場面でSOSを出しても、まともに対応してもらえなかったり、心無い言葉を浴びせられたり、そんなことの繰り返しの中で諦めを強いられてきたのではないでしょうか。社会保障費削減、雇用の破壊、公共の破壊などで日本社会を壊し、生きづらさとともに諦めを強いてきた政治の責任は重大です。

行政の役割が問われている

新宿都庁前に並ぶ人々の列は、日本社会の貧困の深刻さを象徴しています。その背後には声を上げられないまま孤立している、はるかに多くの人々がいます。行政の窓口に勇気を出して相談にみえる方にどう向き合うか、行政の役割が根底から問われていると感じます。活用できる制度をフル活用することはもちろん、地域の支援団体との連携、アウトリーチの強化、〝生活保護は権利〟との発信など、行政の役割はますます重要になっています。誰もが安心して暮らせる社会へ向け、ともに力を合わせていければと思います。

  • *拠点的な医療機:特定の専門医療や治験・臨床研究で、地域の中核を担う高度な機能や体制を持つ医療機関。
  • *JMIP認証医療機:多言語や宗教・文化への配慮など、外国人受入れ体制を備え認証を受けた医療機関。
  • *JIH認証医療機:日本への医療ツーリズム促進のため、一般社団法人Medical Excellence JAPAN(MEJ)が渡航受診者の受入れ体制や通訳対応等を審査し、一定基準を満たしたとして認証を受けた医療機関。

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