子育て支援拠点の廃止問題


2023年2月、「浦添市 子育て支援拠点の民間委託打ち切り」が新聞、テレビで報道されました。那覇市に隣接する人口11万人余の浦添市は、平均年齢42歳という、若い世代と子育て世帯の多い街でありながら、市は乳幼児やその保護者らが交流し子育て中の保護者からの相談対応してきた支援拠点7施設の廃止を2021年度から進めてきており、さらに民間に運営委託してきた3施設を打ち切り、市郊外の商業施設に入る市直営の1カ所に集約する方針を決めました。こうした動きに対して「地域子育て支援拠点」事業を所管する厚生労働省は、報道に対して、「『こども園』とは別に支援拠点は必要だと考えており廃止ではなく拠点を増やしてほしい」とし、内閣府の所管する「認定こども園」との機能的違いを踏まえた事業展開を進めるようコメントしています。

こうした状況に、子育て支援事業関係者のみならず一般市民からも疑問が呈され、保護者らは支援拠点の存続を求める署名570筆を集めて提出し、その存続を訴えています。しかし、市長は、「市内『認定こども園』24園をその受け皿として活用し『点から面への展開』をする」として、子育て支援拠点の廃止が繰り返されました。また、市議会臨時会では、市議会野党側から拠点事業廃止の見直しを求める決議案が提出されましたが反対多数で否決され、市の廃止・集約方針を認める決議を与党の賛成多数で可決しています。

近年では、待機児童対策などで保育施設の増設や、幼稚園と保育園を合わせた認定こども園の整備といった制度変更が著しく、子育て期にある保護者など当事者がおかれた状況を把握することは簡単でありません。

そこで、おきなわ住民自治研究所では、2023年4月8日(土)、沖縄大学にて市民向け講座を開催しました。「地域子育て支援拠点-その施策と課題」と題し、沖縄女子短期大学教授の砂川麻世先生から、現状の子育て支援事業について、浦添市のような事業推進のあり方がどのような問題をはらみ、なぜ各自治体により施策が異なるのかなど、問題点や課題について学び合いました。

砂川先生は、子ども・子育て支援新制度とは、「子ども・子育て支援法等」(平成24年法律第65号)に基づき、2015(平成27)年4月から、子どもの健やかな成長を支援するために、すべての子どもに質の高い教育・保育の提供や、地域の子ども・子育て家庭の支援が目標に掲げられ、子育て支援が必要な理由について、母親は、出産後にホルモンの分泌の変化によって強い不安や孤独を感じやすくなるしくみがママ(人類)の体に備わり、不安や孤独を感じ仲間と一緒に子育てしたい「共同養育」という気持ちになることが科学的に証明され、これが子育て支援をしなければならない根拠であると解説されました。フロアからは「3月末で打ち切られた後は、自主事業として対応せざるを得ない状況」が紹介されたことに対して、「一番大事なことは『子どもが育つこと』すなわち『子どもの権利擁護』であり、当時者からの声を大事にした行政のあり方が求められる」とされました。

コロナ禍により久しぶりとなった市民講座でしたが、約60名の市民、拠点関係者や議員らとともに子どもの権利と、私たちの地域社会の未来をどのように守るのか、参加者どうしの意見交換も活発に行われ、問題意識の共有の大切さを再認識した会となりました。

島袋 隆志
  • 島袋 隆志(しまぶくろ たかし)
  • おきなわ住民自治研究所理事長 ・自治体問題研究所理事