近年、参加型予算が日本で再び注目されています。自治体の予算は、基本的に首長により編成され、議会によって審議・議決されます。参加型予算とは、市民が予算の編成に参加する制度のことです。1989年にブラジルのポルト・アレグレ市ではじまった参加型予算は、新自由主義に代わる「もう一つの世界は可能だ」というスローガンを象徴する取り組みとして、世界的な反響を呼びました。その後、世界各国に広がり、2019年には53カ国で実施が確認されています。
日本では2000年代に、埼玉県志木市の「市民委員会」や愛知県名古屋市の「地域委員会」が参加型予算の一種として注目されたものの、長続きしませんでした。近年は、2013年に三重県が導入したのを皮切りに、2017年には東京都、2023年には杉並区、豊島区、長野県などで、予算の一部について、市民がアイディアを提案し、事業を選定する制度の導入が進んでいます。
筆者は、2020年からポルトガルで調査を行ってきました(詳細は拙稿(2023)「ポルトガルにおける参加型予算の制度と実践」『自治総研』通巻542号、55-77ページ)。
ポルトガルでは、ポルト・アレグレ市を調査した大学研究者と地域づくりNPOの実務家が自治体と連携し、参加型予算をはじめとする市民参加制度を開発・普及してきました。その取り組みは、市民参加制度を採用する自治体の全国ネットワークの形成にまで発展しました。
2002年から2019年にかけて、ポルトガルの約40%にあたる130自治体で参加型予算が実施されました。その導入の目的は、行政や議会に対する市民の信頼回復にありました。2000年代以降、投票率の低下が問題とされ、とりわけ2011年の緊縮財政下ではその傾向が顕著となりました。間接民主主義を補完する手段として、参加型予算への関心が高まりました。
ポルトガルの参加型予算は、実践と改良を重ねながら、より民主的な制度へと進展してきました。これまでの経験から、市民に与えられる権限が大きく、透明性の高い制度ほど、市民の支持を得られ、継続性も高いことが明らかとなっています。その代表例が、リスボン近郊に位置するカスカイス市における制度で、国内外から高く評価されています。
カスカイス市の参加型予算は、市民の主体性を重視し、市民があらゆるプロセスに関与し、行政と共同で事業をつくり上げる仕組みとなっています。市民は事業の提案のみならず、事業の具体化、選定、実施に至るまで関与できます。行政は、運営規則を整備し、透明性を確保するため、参加型予算で使用されるすべての資料を公開しています。その結果、この制度は市民の強い支持を受け、提案や投票に参加する市民の数は多く、2011年から継続しています。
特筆すべきは、参加型予算を契機に議員や行政職員の意識が変わり、行政運営全般に市民参加の手法が取り入れられ、透明性が高められたことです。大学やNPOと連携し、約30種類の市民参加の手法が開発・導入されています。カスカイス市はまさに「民主主義の学校」としての地方自治の姿を示しているといえます。
日本では、杉並区において、市民参加により地方自治の強化を目指す「ミュニシパリズム(地域主権主義)」の手法として参加型予算が導入されました。杉並区をはじめ、日本の自治体における参加型予算の今後の展開に期待したいと思います。