【論文】改訂版 どこを目指す、地方版人口ビジョンと総合戦略


はじめに

現在、各自治体は2015年度中に地方版人口ビジョンおよび総合戦略を策定するため、急ピッチで作業を進めている。政府の発表(2015年7月)によれば、交付金の上乗せがされる10月末までの策定状況は、都道府県(以下「県」)が38団体(81%)、市区町村が773団体(44%)である。

策定に向けては、既存の総合計画との調整や人材・ノウハウの確保、重要業績評価指標(KPI)の設定、PDCAサイクルの導入、効果検証等が求められ、民間シンクタンクへの丸投げや地域間格差の拡大も懸念されている。マスコミも「人材やノウハウが十分とは言えない自治体が、実効性のある戦略を立てられるのか」「具体的な施策は地方に委ねられる部分も多く、地域間の『勝ち組と負け組』による格差の拡大が懸念される」「内閣府関係者も『自治体が丸投げしてシンクタンク系が大儲けすることにならないか心配だ』と漏らしている」(朝日新聞2014/12/19・28)と報道している。

こうした中、政府は相談窓口の設定や人材支援、策定指針、膨大なビッグデータの活用、細かな政策パッケージを示し、国の戦略・方針の徹底を図り、財政誘導を行って早期の提出を求めているが、その地域・自治体の30年後、50年後の姿、あり方を展望する計画づくりを、短期間の検討で拙速に進めようとしていること自体に問題がある。

いま自治体にとって大事なことは、地域にしっかり根をおろし、住民、職員、議員、地元企業、研究者等の参加で地域挙げての計画、まちづくりを進めていくことである。政府はこうした自治体の自主的、自律的な取り組みを支援し、医療や教育、雇用分野での制度整備を早急に行うべきである。

1 総合戦略等の策定に向けた政府の対応、自治体の動き

(1)地域住民生活緊急支援交付金の創設と総合戦略策定費の確保

政府は、今年1月に総額3.5兆円の経済対策を決定し、「地方創生」施策の目玉である地域住民生活緊急支援交付金(総額4200億円)を設けた。交付金には地域消費喚起生活支援型(2500億円)と地方創生先行型(1700億円)の2種類がある。前者は地元の商店街で使うプレミアム付き商品券とふるさと名物商品券・旅行券の発行が基本であり、後者は地方版総合戦略の策定、地域しごと支援や創業支援、小さな拠点づくりなどに助成される。地方創生先行型交付金には基礎交付分(1400億円)と上乗せ分(300億円)がある。基礎交付分では、①総合戦略策定費相当分として1県2000万円、1市町村1000万円を確保、②人口を基本としつつ小規模団体に割増、財政力指数、就業率、人口流出、少子化状況等に配慮して交付される。上乗せ分は地方版総合戦略の策定時期、事業内容等を踏まえて交付される政策誘導を伴う競争的な交付金である。国の総合戦略、方針に沿った運用が徹底される。これは自治体間の競争を煽るものであり、これは本来の地域再生にはなじまず、基礎交付に一本化すべきである。

(2)連携中枢都市圏の推進と財政措置

政府は、「地方創生」戦略の核である「新たな広域連携」=連携中枢都市圏構想を推進するため、2014年度から「地方中枢拠点都市圏構想推進要綱」に基づき「新たな広域連携モデル構築事業」を全国9団体(盛岡市、姫路市、倉敷市、広島市、福山市、下関市、北九州市、熊本市、宮崎市)に委託した。圏域内市町村数は85以上になる。委託費は、2014年度予算額は約1,3億円で1団体概ね700~1250万円である。本格実施に向けては、連携中枢都市には「経済成長の牽引」および「高次都市機能の集積・強化」の取り組みに対して圏域人口75万人規模で約2億円の普通交付税措置、「生活関連連携機能サービスの向上」の取り組みに対して1,2億円の特別交付税措置がされ、連携市町村には1市町村当たり上限1500万円(年間)の特別交付税が措置される。

具体的な動きでは、姫路市は、同市と周辺7市8町が2015年4月に連携中枢都市圏形成に向けて連携協約を締結し、協約では産学金官民一体で経済戦略の策定や高度な医療サービスの提供、スポーツ・文化芸術振興など23の取り組みを定めている。

宮崎市は、2014年12月に全国に先駆けて連携中枢都市を宣言し、同市と国富町、綾町が2015年3月に連携協約を締結し、4月に圏域ビジョンを策定した。同宣言では、人口減少の中で「『共創』の考え方を基本に国富町や綾町をはじめ周辺の自治体、産業界、大学や金融機関など、多様な主体と連携して、雇用の場の創出、地域や企業ニーズに合った人材の育成、地域資源を生かした交流人口の拡大など、定住や移住に向けた取組を促進し、人口減少が食い止められるよう、圏域の経済の活性化や公共サービスの確保を図っていく」と述べている。

福山市は、同市と広島県・岡山県にまたがる近隣5市2町が、2015年3月に連携協約を締結し、「びんご圏域ビジョン」を策定した。2015~2019年度までの5年計画で、産業振興や広域観光の推進、都市機能の充実や住民協働の地域振興など7つの基本方針を掲げている。雇用対策では、福山市の東京事務所を活用したU・I・Jターンの推進やインターシップ等の就労支援策の調査、就職情報の発信などを行い、高度医療サービスの提供では、福山市は市民病院の救命救急センターやがん医療などの充実、圏域内の医療機関との連携強化、医師・看護婦の確保対策を図る。

広島市は、近隣10市6町との連携による経済活性化と200万人超都市圏の形成に向けて地方創生に取り組む。連携中枢都市圏の形成は、2016年度からの取組開始を目指し、2016年2月議会で連携中枢都市宣言を行い、3月に連携協約と人口ビジョンを策定する予定である。

熊本市は、同市を中心に3市9町1村で圏域を形成した。取組内容は、全国有数の農業算出額を活かしオール九州の展示商談会を通じて6次産業化や販路拡大を促進することや、外国人観光客の増加を見込み「もっと歩く観光」を推進することなどが検討されている。

「新たな広域連携」の推進は、「地方創生」の重点施策であり、政府は2015年度に下記の団体に追加で委託をした。今後も更に拡大を図っていく方針である。

  • ○連携中枢都市圏(新規) 12件 八戸市、山形市、郡山市、新潟市、金沢市、岐阜市、静岡市、岡山市、松山市、久留米市、長崎市、大分市  (継続) 3件  盛岡市、倉敷市、福山市
  • ○都道府県(市区町村連携) 6件 千葉県、長野県、静岡県、奈良県、宮崎県、鹿児島県
  • ○三大都市圏 5件 千葉市、国分寺市、茅ケ崎市、京都市、神戸市

なお、広域連携は、拠点となる中枢拠点都市と周辺自治体が対等平等の関係、自治の保障の上に構築されるべきものである。今回、新たな創設された連携協約は、定住自立圏での協定とは異なり、長期的・継続的施策として展開していく観点から、より安定的な市町村間の連携を担保する制度として地方自治法に位置付けられた。協約内容の執行に関しても、自治体間の紛争が生ずることを想定し、自治紛争処理委員会による紛争処理規定が定められている。実質的にどんな関係で運用されていくのか、先行事例の今後の推移を見極め、具体的な問題点、課題の検討もしていきたい。

(3)先行したプレミアム付き商品券等の発行

プレミアム付き商品券・宿泊券等の発行は、総合戦略づくりに先行して全国に急速に広がり、全自治体の97%が発行する予定である。これらは地域消費喚起生活支援型交付金の9割を占めている。販売に当たってはどこも窓口に買い手が殺到し、途中で打ち切った自治体もある。また、これらの商品券、宿泊券が転売される事例も出ており、対策に苦慮している。

具体例では、プレミアム付き商品券では横浜市が3月に額面1万2000円の商品券を1万円(規模100億円、国交付金23億円)で販売すると発表、川崎市も額面1冊1万2000円の商品券を1万円(規模33億円、交付金6億円)で発行した。また、プレミアム付き宿泊券は、鳥取県が4月に県内宿泊施設で利用できる額面1万円の宿泊券を5000円で、宮崎県は5月に額面5000円の宿泊券を2500円で、京都府も府北部の指定宿泊施設限定で額面1万4000円の宿泊券を1万円で発行した。熊本県では、阿蘇地域の農産物直売所や宿泊施設で使える地域限定のプレミアム付き商品券(額面1冊5000円を3500円)・旅行券(額面1冊5000円を2500円)を発行した。これは阿蘇山・中岳の噴火で被害を受けた農業・観光業の応援を目的にしたもので、こうした政策的な発行事例は他府県でも若干見られる。

しかし、これが消費増税等で冷え込んだ地域の消費喚起に繋がるのか。単年度施策であり識者の中では、経済効果は限定的、一過的、一時的との見方が強い。端的にいえば、それは今年4月のいっせい地方選挙と「地方創生」施策の国民受けを狙って創設された、政府自身が強く主張していた“バラマキ”施策である。

(4)総合戦略等の策定業務の委託拡大

地方版人口ビジョンと総合戦略の策定に向けては、策定費相当分として地方創生先行交付金(基礎交付)の中で、都道府県は上限で1団体2000万円、市町村は1団体1000万円が確保されている。ところがこの間、この策定業務を外部に委託する動きが全国の自治体に広がっている。

例えば、天理市は人口ビジョンと総合戦略の策定、策定体制の運営支援業務を委託した。委託上限額は1100万円、期限は2016年3月末となっている。委託先は公募型プロポーザルで最終的には日本IBMが最優秀提案者に選ばれた。また、斑鳩町では人口ビジョンと総合戦略策定支援に加え、第4次総合計画の策定等業務も同時に委託した。委託上限額は1100万円で、人口ビジョンと総合戦略策定支援費は648万円、総合計画後期基本計画策定業務は378万である。 

この他にも、利根町(1000万円)、竹富町(1000万円)、新居浜市(975万円)、伊予市(950万円)、吉岡町(910万円)、浦安市(900万円)、小平市(897万円)、広陵町(850万円)、人吉市(800万円)、日向市(780万円)、鎌倉市(756万円)など、多数の自治体で委託が行われている。

勿論、業務委託すべて悪いわけではない。民間シンクタンク系への「丸投げ」に近いところもあるが、同時に日ごろから協力・連携している調査研究機関やコンサル等への委託もある。問題はそれらの結果をどう活用し、共同で作業を進め、独自の計画づくりに繋げていけるかである。そのためにもこの業務を担う専門職を含む自治体職員の配置(増員)は急務である。

(5)「フォーラムの会」が調査を実施

平成の大合併に際して、合併に反対し自立の道を選択した小規模町村の集まりである「小さくても輝く自治体フォーラムの会」(以下「フォーラムの会」)は、2015年5月に同会の会員を対象にして地方創生総合戦略づくりに関するアンケート調査を実施した。回収率は70%(44/63)で、その概要は次の通りである。

  • 1)政府の地方創生総合戦略への評価
    ①大いに評価11% ②ある程度評価67% ③あまり評価しない18% ④全く評価しない2%
  • 2)地方版総合戦略の策定期間(2015年度中)
    ①十分である15% ②やや短い52% ③短すぎる32%
  • 3)策定プロセスへの住民参加
    ①入れた23% ②予定している64% ③予定していない13%
  • 4)人口ビジョンと総合戦略の策定時期
    <人口ビジョン> ①10月まで61% ②11~12月16% ③1~3月18% ④未定5%
    <総合戦略> ①10月まで43% ②11~12月16% ③1~3月36% ④その他5%
  • 5)人口ビジョンと総合計画等との整合性
    ①こだわらない41% ②整合性をとる50% ③その他9%
  • 6)取り組む事業
    <小さな拠点づくり> ①実施済み11% ②検討中43% ③予定ない43% ④未定2%
    <地域おこし協力隊> ①設置済み38% ②検討中43% ③予定ない16% ④未定2%
  • 7)外部委託の状況
    <人口ビジョン> ①全て委託34% ②一部委託46% ③予定なし20%
    <総合戦略> ①全て委託23% ②一部委託50% ③予定なし27%

この結果について、調査を担当した平岡和久氏(立命館大学教授)、中島正博氏(和歌山大学准教授)は、「町村の担当者の評価は肯定的なものが多い。反面、策定期間や検証期間の短さを感じている担当者も多く、KPI設定の困難性もうかがえる。各町村の取り組みをみると「小さな拠点」づくりや地域おこし協力隊等を実施又は検討しているところ、先行型交付金事業では観光や移住促進に取り組むところが多い。総合戦略づくりに住民参加を入れている町村が8割を超えていることは小規模自治体の優位性を発揮したものと言える」と述べ、策定業務の外部委託では「全部委託が一定割合あるが、自治体組織や住民の意見がどう反映されるかに関して課題がある」と指摘している。

詳しくは「住民と自治」誌2015年9月号(自治体問題研究所)を参照されたい。

(6)持続可能な地域の活性化、再生に向けて

このことについて、総合戦略の施策づくりのなかで何を重視して取り組んでいくべきなのか、当研究所の研究者の提言を踏まえて考えていきたい。

1)地域内経済循環、再投資力の強化を

岡田知弘氏(京都大学教授)は、「フォーラムの会」参加自治体等には注目すべき地域づくりの実践と成果があり、それらに学び、今こそ地域内経済循環、再投資力の強化、実践的住民自治によるまち・むらづくりを進めるべきと提言している。

①地域内にある経済主体(企業、農家、協同組合、NPO、自治体)が、毎年、地域に再投資を繰り返すことで、そこに仕事と所得が生れ、生活が維持、拡大される、②地域産業の維持・拡大を通して住民一人ひとりの生活の営みや地方自治体の税源が保障される、③地域内の再生産の維持・拡大は、生活・景観の再生産に繋がるうえ、農林水産業の営みは土地・山・海といった「自然環境」の再生産、国土の保全に寄与する。

地域経済の持続的な発展、個性あふれる地域の再構築、自治体の役割については、①地域の「宝もの」、個性の発見、②地方自治体による個別経営体、協同組合等への支援と再投資力の形成、③自治体施策を通した仕事・雇用の創出、④地域金融機関による地域内企業への金融円滑化、⑤大企業の地域貢献、⑥中小企業振興条例の実現、それに伴う振興計画の具体化、⑦公契約条例の制定による適正価格による公共調達などが重要になる(自治体問題研究所編「人口減少時代の地域の再生と「地方創生」の課題」参照)と提起している。これらは各自治体の施策の柱になるものである。

2)人口減少社会の国土計画と都市部の課題

このことについて、中山徹氏(奈良女子大学教授)は次のように提言している。

1つは、人口流出の主な理由は地方に安定した就労先がないこと。これまでは工場の地方移転、公共事業で雇用を確保してきたが、今後は第1次産業と社会保障分野で地方に雇用を確保していくこと。この分野は政策によって拡大することが可能である。2つ目は、人口減少等によって生み出されるゆとりを活用して災害に強い国土、まちをつくること。3つ目は、自然災害に対する脆弱性を克服し、自然・生活・教育環境を整え、都市の格、質を高め、大都市圏の国際化を進めること。4つ目は、市街地のコンパクト化、縮小よりも地域に人口を維持する方策を考えていくこと。集落の統合は、共同意識が失われ、より利便性の高い都市部への転出に繋がる可能性がある。5つ目は、「国土のグランドデザイン2050」では、三大都市圏のインパクトを地方拠点都市に、地方都市のインパクトを農山村に波及させ、「小さな拠点」と周辺集落をネットワークで結ぶとしているが、これはトリクルダウン理論の地域版である。地域の活性化を進めていくには、この理論を乗り越え、インパクトの波及を小規模から大規模に転換していく国土計画づくりが必要である(雑誌「経済」2014年11月号、新日本出版社)。この視点も極めて重要である。

3)「フォーラムの会」などの先進的な事例

平成の大合併で自立の道を選択した小規模自治体は、すでに様々な施策や努力を重ねて地域の活性化、まち・むらづくりに取り組んできた。その計画、実践そのものが、ある意味では地域再生(創生)戦略の基礎をなすものである。ここではその取り組みの一端を紹介したい。

まず、人口減少対策・集落維持では、北海道東川町、福島県大玉村、長野県原村、阿智村、下條村等では、若者用賃貸住宅建設や住宅地の確保、定住補助金等の交付、子育て負担の軽減等で1万人以下の町村でも人口を着実に増やしている。また、U&Iターンの受け入れでは、群馬県上野村は後継者定住促進条例の制定、村営住宅の建設、雇用確保、生活補給金制度の創設等で今やIターンが人口の17%になっている。こうした取り組みは島根県海士町や岡山県西粟倉村、群馬県神流町等でも取り組まれており、それぞれに成果を上げている。

農業・林業振興では、宮崎県綾町、徳島県上勝町、秋田県羽後町、北海道訓子府町等では、自然との共生・有機農業の推進、農産加工による6次産業化、公社や集落営農組織による農業振興、農業基盤整備事業や農業の近代化などで成果をあげ、長野県根羽村は植林から建設までを一貫して行う「トータル林業の村」づくりに取り組んでいる。

再生可能自然エネルギーの開発では、大分県九重町、徳島県上勝町、長野県原村、北海道ニセコ町等で、地熱発電や太陽光発電、木質バイオマス発電などに積極的に取り組み、北海道の下川町は豊かな森林資源を活用した森林総合産業の創造、木質バイオマス活用によるエネルギーの完全自給、誰もが安心して暮らせる高齢化に対応したまちづくりで成果を上げている。

この他、島根県邑南町では田園回帰の戦略として日本一の子育ての町、A級グルメの町、徹底した移住者ケア「おせっかいします」を掲げ、毎年定住者を増やしている。また、Uターン者が住民の意識を変え、一緒に自治体を動かし、離島で小中学校を再開させ、地域再生に努力している香川県男木島の実践例もある。こうした先進的な取り組みを、それぞれの地域に合った形で具体化し、それを地方版総合戦略に組み込んでいくことが必要である

2 地方版人口ビジョンおよび総合戦略の策定状況と内容、課題

ここではこうした現況を踏まえ、業界紙や一般マスコミ等の記事や自治体の資料から、各自治体の地方版人口ビジョンおよび総合戦略の策定状況と検討内容、課題を概括的にまとめてみた。現在は県段階での策定が先行しているが、10月末には700余の市区町村の総合戦略の内容が明らかになり、その段階で改めて調査、分析が必要になる。

(1)策定した自治体の検討内容と課題

○京丹後市(京都府)

同市は2015年3月、全国初の市版人口ビジョンと総合戦略を公表した。これは2014年に国の地域再生・地方創生の動向を念頭に入れて策定された第2次総合計画の内容を活用し、産官学金労等からなる住民代表会議等の審議を経て策定したものである。

焦点の2060年の市人口(現在58000人)は、国立社会保障・人口問題研究所(以下「国立人口研」)や国の長期ビジョンの推計値(26000人、44000人)を大幅に上回る75000人に設定した。出生率を同市の最大経験値である2.32に早期に引き上げ、人口流出の歯止め、若年層・壮年層の社会的流入人口の増加、若い世代の就労・結婚・子育て等の生活環境の整備、健康長寿の推進と市外からの定住化の促進を図って実現するとした。この内容について、増田寛也氏は「客観的な根拠が示されていない」「いつまでも成長願望や人口増への淡い期待を持つのではなく、縮小社会への賢い対応の仕方を考え出すキッカケになることを願う」(自治日報2015/4/17)と述べている。この指摘は概ね妥当と思えるが、今回、財政誘導までして拙速提出を求めているのは政府側である。

中山市長は、「人口減少の趨勢解消を巡る“慎重さ”とそれ以降の人口増加局面における加速的“積極さ”が並存している形である。これを最近における全国の市の5年ごとの人口増加率と比較して検証すると、出生率が総じて低い現状の中でも、①69にのぼる都市が人口増加率5%以上、②8つの都市が人口増加率10%以上(最大16%以上)を達成している。中長期的に真剣な対策を積み重ねていくことにより、30年、40年かけて全国的な居住魅力地域に変貌すれば、現実感のない数字では全くない」(2015/7/12 日本地域政策学会全国研究大会)と述べている。なお、同市の総合戦略は2014年度版で、今後、京都府の総合戦略づくりとも連携して毎年度必要な見直しを行う。

○会津若松市(福島県)

同市は2015年4月に市版人口ビジョンと総合戦略を策定した。人口ビジョンでは、現状の人口動態が今後も続いた場合、2035年には人口10万人を切り、2060年には6万5000人程度まで減少すると推計されている。高齢化率も42%に達し、現在の25%を大きく上回り、市全体としての活力を維持することが難しくなる。こうした現状分析を踏まえ、①合計特殊出生率を2040年までに2.2まで上昇させる、②2030年を目途に社会動態±0を目指す、③ICT技術や観光を核とした交流人口の増加を図る。総合戦略では、同市にはICT専門大学である会津大学や再生可能エネルギー施設や医療機器製造業、植物工場などの産業が立地し、これらの産業はアナリティクスやICT技術との融合により更なる高度化が期待されるため、アナリティクス産業・ICT関連企業の集積を図っていく。なお、今年1月にはこれらを柱にした地域再生計画が国の認定を受けている。

各政策の主なKPIは次の通りである。

  • 柱1のアナリティクス産業・ICT関連企業の集積では、アナリティクス・セキユリテイ人材輩出数は140人/年、ICT関連企業誘致数は15社(5年間累計)とする。
  • 柱2の歴史・文化観光や産業・教育観光による地域連携と交流促進では、観光客数を2014年度の290万人から400万人に、外国語対応観光案内所利用者を6000人から1万5000人に、産業観光客数は今年度以降840人/年に、教育旅行学校数(県外)は5年間で475校から706校に増やす。
  • 柱3の既存産業・資源を利用した効率化・高付加価値化による仕事づくりでは、ICT活用型農業による新規雇用数110人(5年間累計)、ICTと農業の融合による農産物の向上3%増、認定農業者数20%増、介護理美容施術件数は500件にする。
  • 柱4の伝統とICTを融合させた人・企業が定着したくなるまちづくりでは、5年間で中心市街地歩行者通行量を5.8%増、市内路線バス利用者数を年間195万人から210万人に、地域コミュニティカードの利用可能店舗数も増やす。
  • 柱5の結婚・出産・子育て支援と教育環境の整備では、出生数は973人/年(2014年度)を維持し、出会いコンシェルジェ事業で成婚数5組/年、デジタル未来アートの来場者数も2000人/年にする。

○那須塩原市(栃木県)

同市は2014年3月、少子高齢化の進展、生産年齢人口の減少等で地域の賑わいが喪失している、独自のサービスを提供し、本市の個性を明確にして、住民から選ばれるまちづくり、人口の減らないまちづくりの実現を目指すとして定住促進計画を策定した。市版総合戦略は、この計画をベースにして今年3月に策定した。人口ビジョンでは、合計特殊出生率を1.47(2013年)から1.8(2030年)程度に引き上げ、社会移動率は福島原発事故等の影響により、近年は転出超過になっており、第1に転入超過を目指し、5年間で転入者数が転出者数を上回ることを目標に掲げ、中期目標では10年後も現在の人口規模11万7千人と生産年齢人口(15~64歳)比率60%の維持を目指すとした。

総合戦略では、子育て環境の整備や学校教育の充実を重点施策に挙げ、妊娠・出産支援や子どもの健康対策、待機児童ゼロの達成、小中一貫教育の導入、英語教育の推進、不登校児童への自立支援などを盛り込み、主な重点施策の約20に数値目標を掲げた。

○岩美町(鳥取県)

同町は2015年9月に地域創生総合戦略-チャレンジする若者が集うまちを目指して-を策定した。同町では近年、人口減少や少子高齢化が急速に進み、2040年には人口(2010年12362人)が7700人を下回ると推計されている。合計特殊出生率(2013年1.48)は、国や県の推計を勘案し2020年に1.7、2030年に2.07とした。社会移動率は今後10年かけて半減し、2026年以降は社会増減ゼロ(2010年△82人)とする。それにより人口は2040年に約9000人、2060年に約7500人にするとした。

重点戦略では、専門スキルを有する各種団体による「いわみチャレンジサポートネットワーク」をつくり、①豊かな自然環境、地域資源を活かし、観光・交流の拡大、農林水産業の活性化(付加価値化や販路拡大、新規就業者支援)、人のつながりを最大限に活かしたまちづくり、②若者の交流・結婚、出産、子育て、教育環境を整備し、安心して暮らせるまちづくり、③移住相談体制の整備、住まいの確保、産業振興・雇用創出を進め、都市から岩美町への人の流れをつくり、若者のチャレンジを支援していく。その一環として、同町は8月に鳥取市等に事務所を持ち、IT事業を展開する企業と地方創生パートナーシップ協定を締結し、移住促進を図っている。

○青森県

県は2015年8月、長期人口ビジョンと総合戦略を策定した。同県は1983年以降人口減少が続き、国立人口研の推計によれば2040年には93万人(現在132万人)に減少し、老年人口比率も41%になる。そのため、極端な少子化・高齢化と人口減少に歯止めをかけ、持続可能な人口構造へ徐々に転換していくため、2100年までの長期シミュレーションを実施し、2080年には人口約80万人で安定し、老年人口比率も改善していくとした。自然減対策では、結婚・妊娠・出産・子育て希望の実現、若い世代が安心して働き、子どもを産み育てられる環境づくり、健康長寿県の実現に取り組んでいく。社会減対策では、県内定着や移住促進に向け、魅力あるしごとづくりを重視し、同県の強みを生かした戦略的な企業誘致、創業・起業の促進等で雇用の創出に取り組む。また、若者の地元定着や県外流出人材が県内に戻って活躍できる環境づくり「人材の地産地活」等に取り組む。

なお、知事は人口減対策で出生率の数値目標を掲げることは「センシティブな問題、ためらいがある」、また「集落が崩壊すると本当に駄目、集落を経済的、社会保障的、文化的に強化し、守っていくことを進めている」「数字に強くこだわり、数字のために何かをやるのではなく、農村集落を守りながら、青森県として守られる方向に政策を持っていきたい」と述べている。

○高知県

県は2015年3月、2015年度版総合戦略を決定した。同県の人口は1956年の88万人をピークに減少が続き、現在は73万人である。1990年に県では初めて死亡数が出生数を上回る自然減となった。社会減は今も続いているが、以前ほど多くはなく、自然減の影響の方が大きい。

総合戦略の基本目標では、①地産外商により安定した雇用を創出する、②新しい人の流れをつくる、③若い世代の結婚・妊娠・出産・子育ての希望をかなえる、女性の活躍の場を拡大する、④コンパクトな中心部と小さな拠点との連携により人々の暮らしを守る、の4つを掲げている。

早い時期にできたのは「産業振興計画など土台があったため」であり、これにより市町村に県の戦略を踏まえた総合戦略の策定を促すとしている。今後、県は少子化対策の意識調査、就職地や進学地の希望調査を行い、より具体的な人口の将来展望を示す。9月には総合戦略の改定方向を示し、中山間地域の生活を支える小さな拠点「集落活動センター」の市町村総合戦略への位置づけ、少子化対策の強化などを盛り込んだ。すでに県は2012年度から地域の支え合いや活性化に向けて集落活動センターの開設や運営を支援している。総合戦略では「2015年度末までに30カ所にする」とのKPIを掲げ、2021年度までに130カ所を目指すとした。また、経済界や教育・保育関係者らによる少子化対策推進県民会議の議論を総合戦略に反映させる(自治日報2015/4/3-9/18)。

○和歌山県

県は2015年6月、県版人口ビジョンと総合戦略を公表した。同県の人口は1985年(約108万人)以降減少し、2015年現在、約96万人で65歳以上人口は27%超となっている。自然増減では、1995年を境に死亡数が出生数を上回り、自然減の状態が続いているが、合計特殊出生率は回復傾向にある(2005年1.32→2014年1.55)。社会増減は一貫して減の状態で、県外に進学先や就職先を求める若年層の大都市圏への転出が顕著である。このままでは、2040年に約70万人、2060年には約50万人まで激減する、2060年には65歳以上人口が42%まで増え、高齢者1人を概ね現役世代1人で支える人口形態になる。あるべき将来人口では、「高齢者1人を現役世代2人で支える人口形態」を達成するため、2060年に人口70万人を確保する。そのため、産業政策やインフラ整備等で働く場を増やし、暮らしやすさや企業の存在をアピールし、転入者を増やし、社会減を抑制する。

また、今以上に子育て環境を良くすることで出生率を高め、自然減を減らす。具体的には、合計特殊出生率を2019年に1.80(2014年1.55)、2030年には2.07まで上昇させる。

総合戦略では、4つの基本目標に沿って次のように設定した。

  • ①県内で就職を希望する人をすべて受け入れ、5年間で4000人の雇用の場を確保する。柱は県内企業の成長力強化、たくましい農林水産業の創出、観光振興である。
  • ②暮らしやすさに磨きをかけ、転出者と同程度の転入者を呼び込むとして、直近5カ年の転出超過累計数を今後5か年で半減させる。
  • ③合計特殊出生率を2030年までに2.07に上昇させる。柱は出会い・結婚の支援、妊娠・出産・子育て支援である。
  • ④災害対策、医療・福祉の充実、良好な生活環境を維持するとして、津波による犠牲者ゼロとそれを目指すための必要な対策を概ね10年で完成させる、がん年齢調整死亡率を25%減少させる。健康寿命の延伸、環境由来・食品由来の健康被害ゼロ、消費者被害、犯罪、交通事故のないまちづくりを推進する。
  • ⑤秩序ある都市の形成と生活拠点を中心とした生活圏を形成するとして、拠点都市相互を高速道路ネットワークで結ぶ。日常の生活サービスが享受できる拠点および交通インフラの整備、まちなか居住・都市機能の誘導を推進する都市再開発等の推進、地域を支える活動者を倍増させる。

○徳島県

県は2015年7月、県版人口ビジョンと総合戦略を策定した。人口ビジョンでは、現在約76万人の人口を2060年には国立人口問題研究所の推計(約42万人)を上回る60~65万人を確保するとした。合計特殊出生率を2025年に1.80、2030年以降は2.07に上昇させ、転入・転出者数を2020時点で均衡、2030年以降は転入者が毎年3000人超過すれば約65万人になるとの展望を示した。

総合戦略では、5年間で4000人の雇用創出、2025年に希望出生率(1.80)の実現、徳島版地方創生特区を10区にするなどの基本目標を掲げた。実現に向けては移住者数850人、6次産業化事業数350件、年間宿泊者数310万人など主要128項目の重要業績評価指標を設定した。

地方創生特区は2016年度に創設し、市町村の課題解決を県の規制緩和、県税の減免措置、財政支援等のパッケージで支援する。この他、2地域居住者促進のため、地方と都市の学校移動を容易にし双方で教育を受けられる「デュアルスクール」のモデル化、「移住コンシェルジェ」の配置、クリエイティブ関連企業の集積、もうかる農林水産業、徳島大学との連携による「アグリサイエンスゾーン」の構築、第3子以降の保育料無料化制度の創設、企業の本社機能移転補助の拡充、政府関係機関の誘致などを盛り込んだ(自治日報2015/6/12、7/24)。

(2)現在、検討中の自治体

○仙北市(秋田県)

同市は、定住・人口減少対策に本格的に取り組むため定住対策推進室を新設した。市長は「地域の特色からすれば、国際交流や世界規模の観光を展開する」など独自の戦略づくりに意欲を示した。

2015年3月には地方創生特区の指定を受け、医療分野の規制緩和をテコに温泉を使った医療ツーリズムを拡大する。外国人医師が地方の診療所でも研修医として働けるよう政府が規制緩和をする。医師不足の地方で外国語が話せる医師を確保しやすくして内外からの観光客を呼び寄せるとしている(日経新聞2015/3/19)。また、9月の国家戦略特区諮問会議で、国有林野の民間利用拡大、農林業振興の提案が認定され、今後はそれらにも取り組む。

市は2015年9月に第1回総合戦略策定委員会を開き、12月までに市版総合戦略を取りまとめる。市長は「大都市圏等への人口集中や少子高齢化により加速する人口減少を食い止め、地域課題を解決できる具体の政策を立案する」「仙北市は地方創生特区に指定された。現行の法律で規制があることで提案を諦めるようなことはしない。規制は特区で乗り越える」と述べている。

○杉並区(東京都)

区は2017年度に南伊豆町と共同で特養ホームを同町に整備する。都道府県の枠を超え自治体が連携し特養ホームをつくるのは初めて。同区は待機高齢者を減らせる他、南伊豆町は雇用創出が期待できる。都市部で急増する待機高齢者を減らすために都市と地方が手を結ぶモデルケースとなる。杉並区と南伊豆町、静岡県は2014年12月に基本合意し、今年3月に覚書を締結した。

町有地に整備する特養ホームは100人程度、要介護度などの条件が同じなら杉並区と南伊豆町の住民が優先して入所できる。建設や運営は、区と町が公募する社会福祉法人が担当する。

杉並区の待機高齢者は約1800人に上り、田中区長は「地価が安い所で施設を造り、中身に資金をかけた方が入所者にとってよい面もある」と話す。区は南伊豆町に児童向け施設を長年所有していた経緯があり、交流があった同町と組むことにした。伊豆半島最南端に位置する南伊豆町は高齢化が進み、主力の観光産業は低迷している。特養ホームができれば、入所した区民の家族が訪れたり町民も入所できたりする他、「70~80人の新規雇用も期待できる」(静岡県)。

入所者の医療費は入所前の自治体が負担する特例制度があるが、75歳以上になると施設がある自治体に公費負担が移るため、静岡県などの負担が増す懸念があった。厚生労働省は前の自治体が負担し続けるように制度の見直しを検討する一方、本人の意に反して遠方の施設に入所させられることがないようにする(日本経済新聞2014/12/11)。

○日野町(滋賀県)

同町の総合戦略等の策定に向けた基本方針は、次の通りである。

1)総合戦略は、①第5次総合計画の進捗管理・評価の延長線上で対応する。②総合計画上の位置付けは、計画期間中の情勢変化に対応して計画を遂行のための戦略「自律の町づくり計画」に相当し、名称を「日野町くらし安心ひと創り総合戦略」とする(住民が安心して暮らし続けられ、地域に自信と誇りを持ち、これを支える人を育む町。行ってみたい、住みたいと思ってもらえる顔の見える関係の町とする)。③総合計画等策定委員会の所掌事項として進捗管理する。④総合計画懇話会から評価に基づく提言を受ける。⑤策定作業を行う庁内組織として「日野町くらし安心ひと創りプロジェクト委員会」を設置する。委員会は主に40歳以下の職員で構成し、将来のまちづくりはもとより自分たちの仕事・職場のあり方、各自の仕事を総合的とらまえる機会として取り組む。

2)総合戦略は、国事例の4項目と総合計画の趣旨との整合性を図る。4項目に関係する総合計画の施策を紐付け・具体化し、現行施策の充実強化、取組の進んでいない施策等を補強する。具体的には、①安定した雇用を創出する⇒まちのたからで雇用を創る。たからを掘り起して様々な資源と繋げていくこと、地域課題解決に結びつく仕事起こしを進める。工業団地未利用地の活用、在来・進出企業と地域とのつながりを活発化する。②新しい人の流れを作る、出会いと発見で人の流れを作る。観光、田舎体験、空き家ツアー、婚活などを通じて顔の見える関係を築き、繋げていく。また、町内企業の優秀な取組を周知し、若者が就職して誇りを持って頑張りたいと思える企業と地域との繋がりづくりを進める(地元高校への入学を含めて)。③若い世代の結婚・出産・子育ての希望をみんなで支えてかなえる。若い世代の希望は地域の希望であり、地域の繋がりのなかで育む。④時代に合った地域をつくり、安心なくらしを守るとともに、地域と地域を連携する。暮らしやすい地域と繋がり、安心して住み続けられるまちをつくる。少子高齢化が進む地域の運営や自治のあり方を含めて議論し、地域内・間の繋がりを大切にして発展させていく。

3)人口ビジョンは、第5次総合計画は人口減少を前提として策定した経緯から人口維持、増加のイメージを持っていない。総合計画懇話会で人口減少の現実をふまえて適正人口について議論する。国の目指す人口1億人程度(2060年)に合せる方向とすれば1万8000~9000人になる。転出入者、地元高校生に対してアンケートを実施する。

4)今後の課題としては、①産官学金労言との関係(総合計画懇話会で産官学とは構築済)、金融機関とは地元企業・事業者ニーズを把握している強みを活用し施策に反映させる、②KPIの設定と検証組織への金労言の参加、③連携中枢都市圏(条件不利地域おける県との連携を含む)、定住自立圏との関係、④多様な地域づくり、結婚・出産・子育て支援など多くの事例が公表され、条件不利地域が地道にコツコツ築きあげてきたことが地域間競争に巻き込まれる懸念と顔の見える関係による他者に真似できないことの強みへの確信、⑤日野のたからの掘起しと再認識により誇りとまちづくりへの確信を更に高める、⑥上記のための情報発信・共有などが挙げられる。なお、同町の総合戦略と人口ビジョンは2015年12月までに策定する予定である。

(2015年5月自治体問題研究所政策セミナー報告から)

○京都市(京都府)

市は2015年3月に中間案を報告、全局・全区で議論し、総合戦略を2015年度前半に策定する。行政主導でなく市民や地域、企業、大学等が強い危機感を共有し、人口減少問題に本気になってもらうこと、すべての主体が行動を起こし、行政が総合的に支援・コーディネートし、相互に連携・協力しながらそれぞれの持てる力を最大限発揮できるようにしていくことが重要と指摘した。

施策例では、子育て・若年層の住宅支援や健康寿命の延伸を目指す市民ぐるみの健康づくり・介護予防の推進、移住相談員「都ぐらしコンシェルジェ」の設置など京都への移住支援「住むなら都」事業、京都ソーシャル・イノベーションセンターの設置とソーシャルビジネス企業への支援等を掲げた。文化庁・観光庁移転誘致の具体的検討と誘致構想の策定、日本のこころを受け継ぐ人材育成基金の創設、北部山間地域の活性化や農家民宿の支援等も盛り込んでいる。

2015年4月、市長が市民や地域団体、NPO、企業等から地方創生に関する主体的な取組提案を募集すると発表、提案内容は「京都創生・お宝バンク」に登録する。内容は人口減少社会の克服、東京一極集中の是正等に関する取組で、具体的には若い世代の出会いの機会を増やす、地域で子育てを支える、京都への移住・定住を促進することなど。提案は、実現に向けて市職員や外部有識者で構成するコーディネーターが知恵を絞り、支援策や助成制度等を見つけ、関係部署や窓口の照会、他団体とのマッチング等を行う(自治日報2015/4/3-24)。

○倉敷市(岡山県)

市は2015年6月に市版人口ビジョンと総合戦略の骨子案を提示した。今後、有識者会議やパブリックコメントを通じて最終案を固め、9月議会に示す。市の人口は自然増の状態が続き、2004年以降はリーマン・ショック時を除いて転入超過となっている。人口ビジョンでは、人口(2014年48万人)は2019年の48万人をピークに減少に転ずると分析し、人口の自然増と社会増に加え、地域連携の推進という3つの視点から施策を推進する。

総合戦略は、豊かな農産物や全国有数規模のコンビナートなど市の強みを最大限に生かす、世代を超えて暮らしたいといわれる取組の2つを柱に設定した。施策展開の方針では、働く場づくり、ひとを呼び込む、結婚・出産・子育ての希望をかなえる、安全な暮らしを守り地域をつなぐ、を基本としてそれぞれの数値目標を掲げる(2015/5/1自治日報)。なお、同市は連携中枢都市として2014年度に県内6市3町との「新たな広域連携モデル構築事業」の委託団体となっている。

○北九州市(福岡県)

市長は2015年2月、公害を克服した経験を持つ同市が「環境技術の供与等でアジア諸都市とフレンドリーな関係を築き上げている」と述べ、今後はアジアの環境関連の人材育成で地方創生を図る考えを強調した。有識者会議では「人口が減少しても豊かな社会を作り上げるという視点が必要、働いていない女性に働いてもらうなどの構造転換も必要」「市内の都心部に未利用地が少ない、それを活性化していくところに税金を安くするなどの差別化が必要」などの意見が出た。

市は4月に総合戦略の骨子素案を公表した。「新しいひとの流れ」「若い世代の希望」など5分野の政策パッケージで構成、女性や若者の定着に向けて各分野で「日本トップクラスと評価されている子育て環境の一層の充実」といった基本方向を示し、第3子以降の保育料・保育所入所の優遇という施策の具体例も挙げている。市の弱みとして首都圏や福岡市への人材流出が指摘されており、施策例の中には地元企業のインターシップの抜本的拡充や留学生の地元就職支援を盛り込み、かつ北九州に住んで福岡圏に通勤・通学するライフスタイル支援の検討など新たな視点も取り入れた。

市は今後、有識者会議や市議会などの意見を踏まえて、7月中に数値目標も示した総合戦略案を公表する予定である(自治日報2015/5/15他)。

○九重町(大分県)

同町は2015年10月に総合戦略(素案)を公表し、パブリックコメントを実施し、同月末までに策定する。国立人口研の推計によれば、今後も人口減少が続き、2040年には6366人(2010年10421人)になると推計した。人口ビジョンでは、同町の合計特殊出生率(2013年1.74)は、国や県よりも高いことから2030年に2.07、2040年に2.3(大分県仮定値)と設定した。また、社会増減は容易なことではないが2020年までに均衡を目指すとした。これにより、2040年に7104人、2060年に6055人を確保し、人口減少を緩やかにする。

総合戦略の具体策では、新たにあとつぎ促進奨励金事業の実施や町が100%出資する株式会社、町・団体共同出資の農業公社の設立、起業・第二創業相談事業や支援補助事業の開始、ここのえ“夢”ブランド創造事業の推進、宅地・空き家バンクの設立・充実、移住・定住に向けたお試し住宅や町営住宅の建設・整備、お助けリーダー養成事業、子宝支援補助金の創設、高齢者世帯および多世帯同居リフォーム支援事業、スポーツおよびヘルスツーリズムの推進・研究、地域内消費の拡大、幼保小中連携(ここのえ学園)推進事業など、多彩な施策を打ち出している。

○秋田県

県は2014年12月、全国最速で進む人口減少の対策をまとめ、県議会に提示した。県外からの移住や定住を促進し、少子化対策にも重点を置く。県の人口は103万人(2014年10月現在)で、昨年の人口減少率は1.18で全国最大だった。県は人口減の要因について、①産業規模が小さく新規学卒者の雇用の場を作れなかったこと、②全国に比べ賃金など雇用条件に格差があること、③第3子以降の出生割合が他県と比べて低いことなどを挙げた。

対策の方向性では、①社会減への歯止め、②少子化対策、③持続可能な地域づくりの3つを柱に据え、若者へのきめ細かな起業ノウハウの提供、大都市の高齢者が健康なうちに移り住み、必要な医療・介護サービスが受けられる地域共同体「CCRC」の導入、子どもたちの全国トップクラスの学力など秋田の優位な点を生かして様々な世代の県外からの移住・定住の促進などに取り組むとした。人口が減った地域の集落移転や県内に複数の拠点都市を設ける構想などを研究し、地域社会の維持・活性化に繋げることを検討する(朝日新聞2014/12/11、自治日報2014/12/19-26)。

県は今年9月に第3子以降の幼稚園や保育所の保育料無料化を柱とする総合戦略案をまとめ、県議会に提示した。「全国トップクラスの子育て助成」を掲げ、医療費の助成拡大も組み合わせて少子化に歯止めをかける。10月中に最終案を固め国に提出する。

少子化対策では、来年4月以降に第3子以降の子どもが生まれた場合、第3子以降の子どもに加え第2子も保育料を全額助成。国の制度に上乗せし、事業を実施する市町村に補助を出す。医療費助成では、対象を小学生から中学生までに拡大する。負担割合は市町村により異なる見込み。

若者の流出防止に関しては、県内で就職した新卒者に対して、大卒は3年間、短大・高卒は2年間、奨学金返還額の3分の2を助成。航空機や新エネルギー関連など県が重点を置く特定業種に就職した場合は同期間の返還額の全額を助成する。子ども3人以上の家庭を対象にした新たな奨学金制度も設ける。一連の対策により、合計特殊出生率を14年の1.34から19年に1.50に引き上げる、2014年に494だった農業法人数を2019年に6割増の795に増やす、空き家を活用して移住した世帯数を5年間の累計で110世帯にする等の数値目標を掲げた(河北新報2015/9/4)。

○茨城県

県は2015年6月、「県内の44 市町村が戦略策定に取り組んでおり,施策の方向性を摺り合わせながら、10月ごろを目標に総合戦略を策定したい。これは県の総合計画の策定作業と重複しており、地方創生の観点に立った施策をできるだけ反映させていきたい」と述べている。

知事は今年1月の記者会見で「本県は平地が多く、可住地面積から見ると日本で4番目である。東京、首都圏に近く一部首都圏と言ってもいい。インフラ整備面でも高速道路や港湾、空港、鉄道など大分形が整い、北関東、埼玉も含めた地域の活力を維持していく上で重要になっている」「本県も2010年に297万人だった人口が2040年には242万人に減少すると推計されている。特に県北地域は減少率が高く、そういう地域をどうするのか。これからも買い物や医療などがしっかり確保され、日常生活ができていく地域にすることが大事である。一部で集約化が言われており、それも施策の一つではあるが、道路などは一旦放置されるとすぐに草木が生えてしまい、元に戻らない。どのような形で社会資本を維持していくのか、これからの課題である」と述べている。

有識者会議の蓮見座長は、「問題は第1 次ベビーブームの際に子どもであった団塊の世代が高齢者となり、老年人口割合と年少人口の割合が逆転していること。子どもの数を減らさず、増加する高齢者への対応をどうするかが大きな課題。高度経済成長と東京への一極集中を背景として、大都市の生活はバラ色で田舎はボロボロといった間違った認識ができてしまった。茨城のよさを親も含めて認識できるような教育が必要である。茨城の強みは豊かさであり、弱みは危機感のなさである。県民所得も上位であり、第一次、第二次産業が強い一方で、サービス産業などの第三次産業が弱く、それが茨城の特徴を作っている」と指摘した。次回で骨子案を作り、次々回でまとめる。

なお、県は婚活に積極的に乗り出し、2006年に「いばらき出会いサポートセンター」を設立、少子化対策で重要な婚活を、お見合い、サポーター(無償の仲人)、パーティーの3つのチャンネルで応援し、1,316組の婚活に繋げたと強調している(地方創生全国大会2014/12/5)。

○東京都

都は2014年9月、今後10年間の施策目標を盛り込んだ新たな長期ビジョン案を公表した。2020年の東京五輪等を見据えて外国人観光客の受け入れ環境の整備を進め、2024年に1800万人に増やす目標を提示した。また、五輪に向けて交通アクセスを改善する。少子高齢化対策では、保育所の開設補助や出産などを機に辞めた保育士の復職支援を通じ、2017年度末までに待機児童ゼロを実現する。2025年には都民の4人に1人は高齢者になるのに対応し、特別養護老人ホームの定員を最大で現在の約1.5倍の6万人に拡大するとした。また、2015年6月、2040年代の東京のあるべき姿を検討する「東京のグランドデザイン検討委員会」を開催し、ハード分野に加えてソフト分野の課題も検討し、2017年に策定する予定である。

○神奈川県

県は2015年6月、第1回地方創生推進会議で県版の人口ビジョン、総合戦略の骨格を提示した。人口ビジョンでは、①人口の変化が地域の将来に与える影響の分析・考察、②将来展望に必要な調査・分析を行い、それらを踏まえて③目指すべき将来の方向や基本施策、④出生率等の仮定値を設定し、人口の将来展望を示すとした。総合戦略では、4つの基本目標に沿った基本施策として、①未病産業の創出・育成や観光振興等による県内経済の活性化、京浜臨海部ライフイノベーション国際戦略特区、さがみロボット産業特区、国家戦略特区等の最大限活用による成長産業の創出、競争力のある農林水産業の育成、②県内各地域の魅力を活かした個性的なライフスタイルの発信、県内への移住促進を図る、若い世代への雇用対策、移住支援、強いマグネット力で企業や人を引き付ける、③結婚から育児までの切れ目のない支援や女性の活躍支援を行い、若い世代が安心して結婚、出産、子育てできる環境を整える、長時間労働を解消し、誰もが生き生き働ける環境づくりを促進する、④道路など老朽化対策や有効活用、都市機能の集約化を図るなどを打ち出した。

また、すでに人口減少が始まっている横須賀・三浦地域の活性化に向けては、今年4月に同地域の魅力アップに繋がる事業を大学から募集している。書類による予備審査、公開プレゼンテーションを行い、明確な成果目標や実現可能性、独創性などの観点から6月までに採択事業を決める。県が求める提案内容は、観光振興、交流拡大、定住促進、創業支援、販路拡大、少子化対策などである。

○静岡県

県は2015年6月、県版の人口ビジョンと総合戦略の素案を策定した。基本的視点では、本格的な人口減少局面を迎え、どのような地域を創るのかという明確な意志を持ち、人口減少社会を切り開く先駆けとなる静岡を「創造」するという発想を持って実践することが重要だと述べた。

人口減少の抑制戦略では、社会が安定する静止人口状態の緩やかな実現に向けて、「生んでよし」「育ててよし」「老いてよし」の地域を目指す人口の自然減対策、静岡県に人の流れを呼び込む社会減対策を官民一体となって推進する。人口減少社会への適応戦略では、人口が減っても快適で安全な生活が保証されるシステムの構築、静岡の特性を活かした魅力の最大化を図ることにより、人口の自然減と社会減に歯止めを掛けていくとした。

この内容について、静岡新聞は社説(2015/7/1)で要旨次のように述べている。

人口ビジョンでは、2060年時点の県人口を300万人程度と想定した。今年6月現在の人口は約368万人、専門機関の推計では2060年に238万人に減ると見通されるが、「オール静岡の取り組みで未来を変える」と威勢がいい。総合戦略は「命を守り、日本一安全・安心な県土を築く」ことを柱にし、その下に雇用創出、移住・定住の促進、子育て支援の充実、地域社会活性化などを置くとの構成になっている。雇用も転入も、結婚・出産・子育ても、強くしなやかな県土あればこそという。ただ、これで「60年に300万人」を実現するには、相当緻密で高度な独自性ある政策が求められそうだ。今回の素案を概観すれば、これまで進めてきた「内陸のフロンティア」(新東名高速道を中心とした内陸部の発展、沿岸部の再整備、蓄積した防災対策の強化)の取組に、地方創生の政府オーダーをミックスさせたようなもので、目新しさはない。何より、防災と地域経済戦略をどう関連させると地方創生の解が得られるのかが分からない。鍵を握るのは危機感だ。静岡県も道府県別の人口移動報告で全国ワースト2位の転出超過となるなど危機感を起点に動いている。その危機感の程度が問題である。地方創生は新たな地域間競争に他ならない。危機感の大小で成果に差がつく。現状で「60年に300万人」はスローガンにすぎないと言わざるをえない。

○山梨県

県は2015年9月に人口ビジョンの原案を示した。新たに「リンケージ人口」という概念を取り入れた。観光で訪れる旅行者、別荘を利用する二地域居住者、帰省する県出身者などを「県と繋がりを持つ人口」と定義した。現在の県人口は83万人、原案では2060年に定住人口は75万人に減少すると試算、リンケージ人口で少なくとも25万人~50万人を上乗せし、「やまなし共生・連携人口」を100万~125万人とするとした。有識者会議では「ここまで人口の定義を緩めると取組に影響が出る」「市町村の目標はどうなるのか、混乱する」等の意見も出た。知事は今年1月の知事選で「人口100万人」への挑戦を公約に掲げていた(自治日報2015/9/11)。マスコミ各社は「ハードルが高いからと、挑戦する前に自ら(目標を)下げる手法」、「分かりづらい100万構想」、「根拠ない幻想で大型開発推進」等と批判、リンケージ人口を取り入れた100万構想に疑問の声が上がっている。

○岐阜県

県は2015年2月、地方創生県民会議に県版人口ビジョン、総合戦略の暫定案を提示した。2100年に人口130万人を維持する政策を県内各地域の状況に応じて展開するとして、県内42市町村をダム機能都市型、愛知県通勤圏型、自己完結型など5類型に分類し、合計特殊出生率も現在の1.48を2030年までに1.8に上昇させるなどの各指標や企業誘致、移住促進策等を盛り込んだ。社会減対策では、各地域のダム機能を強化し、自治体間連携を促進するとの方針を示した。

具体的施策と施策ごとの重要業績指標(KPI)では、①結婚相談事業など非婚化・晩婚化対策(婚活サポーター登録者数240人)、②不妊治療への助成(出生率2030年に1.8)、③高齢者所有住宅を子育て世帯向けに活用する住み替え支援(子育て世帯における誘導居住面積水準達成率を2020年に65%)、④首都圏に総合移住相談窓口を設置(年間移住者数1000人)、⑤補助制度拡充や優遇税制など企業立地支援強化(5年間の平均企業立地件数36件)などを掲げている。今後、基本目標の成果指標を設定し、3月中に内容を固め、2015年度中に決定する(自治日報2015/2/20)。

なお、「2014年度の県外からの移住者は、前年度比で31%増の782人、30~40代が56%、20代以下が29%であり、移住ニーズが高い名古屋市周辺での相談会等が奏功した。新たに移住・定住の支援制度を創設した大垣市や大野町、川辺町への移住者の増加が目立つ」(自治日報2015/5/22)。

○長野県

県は2015年9月、県市長会、県町村会、経済・労働団体などで構成する「人口定着・確かな暮らし実現会議」を開催し、県版総合戦略(案)を公表した。人口ビジョンでは、人口試算をもとに結婚や出産などに関する調査結果等から、県としての目標数値を設定した。県の人口は2000年をピークに減少し、2010年の県人口215万人は特段の政策を講じない場合は2060年に129万人まで減少すると推計、一定の対策を講じれば2016年に161万人、2080年ごろから150万人程度で定住化する生産年齢人口(15~64歳)も2050年ごろから80万人強で推移するとした。

合計特殊出生率は、県民の希望出生率を2025年時点で1.84に設定、人口置換水準の2.07には国の長期ビジョンより5年前倒しの2035年に到達、転出入による社会移動は、現状で続いている社会減の流れを2025年に転出入の差がゼロになる移動均衡の状態へ移行するとした。

「信州創生の基本方針」では、①人生を楽しむことができる多様な働き方・暮らし方の創造、②若者のライフデザインの希望実現、③活力と循環の信州経済の創出、④信州創生を担う人材の確保・育成、⑤賑わいある快適な健康長寿のまち・むらづくり、⑥大都市・海外との未来志向の連携を打出し、具体的な「信州らしさを伸ばす突破策」を盛り込んだ。阿部知事は「各市町村長と話し合うなど具体的な施策を現在検討しているが、観光をもっと強く打ち出したり、市町村との間で人材の共同確保システムを構築したりするなどの施策を打ち出したい」と強調し、他県の総合戦略よりも中長期を見通した施策目標を盛り込むことに意欲を示している。

○石川県

県は、2014年8月に人口減対策検討チームを発足させた。同県の人口は2005年に戦後初めて減少に転じ、能登地域9市町の総人口は1990年からの20年間で約5万5000人も減少した。これまで能登地方の人口減少分は加賀地方で取り戻し、増加傾向が続いていたが、2005年度からは県全体で人口減少となっている。流出の大部分は20代を中心とした若年層である。

2015年6月の有識者会議では、3月に延伸開業した北陸新幹線について「他にない優位性を手に入れた」として、新幹線の活用策、企業誘致、就職による人口流出防止のための愛郷心教育、地域資源の活用等の意見が出た。総合戦略の先行実施課題としては、①北陸新幹線金沢開業効果の最大化と県内各地・各分野への波及、②多様な人材を惹きつける魅力ある雇用の場の創出(本社機能の立地促進、新産業創出、農林水産業の活性化)、③学生のUターン・県内就職と移住定住の促進、④子育て環境の向上、出生率向上などの自然減対策、⑤高齢化社会への対応が提起された。

○鳥取県

県は2015年1月に市町長や経済・農業・林業関係者、市町村コンシェルジュらが参加して鳥取創生チームを開催し、3月には総合戦略に盛り込む案を柔軟に考えるため「若手タスクフォース」を立ち上げ、子育て・女性、高齢者・中山間地域、移住定住・Uターン、起業・地域づくりなどを検討してきた。9月に総合戦略(案)をまとめ、県議会に報告した。

県の人口は1988年をピークに人口減少が続き、2007年には総人口が60万人を切った。国立人口研は2040年に県人口は約44万人になる、日本創成会議も県内で消滅可能性都市が13町発生するとの推計を示した。近年、人口の最も少ない県としての機動性を発揮し、全国に先駆けた子育て支援の充実や移住施策に取り組んできた結果、出生率の上昇や移住者の増加などの変化が現れてきた。「積極的な人口減少対策を行うことで未来を変えることができる」と確信した。

人口減少・少子高齢化の下で、住み慣れた地域で安心して暮らし続け、自然環境や歴史・文化等の地域の豊かな資源を活かし、県が将来にわたって発展していくためには、県内すべての市町村が活力を持続していく必要がある。そのため総合戦略では、「県内の消滅可能性都市をゼロに」を目指し、自然減・社会減それぞれの課題に立ち向かい、鳥取発の地方創生を推進するとしている。

自然減対策では、2030年までに合計特殊出生率を県民の結婚・出産の希望が叶う水準(希望出生率1.95)まで引き上げ、国の想定よりも早く合計特殊出生率を人口置換水準(2.07)まで引き上げる。また、社会減に対する目標では、転出超過を今後5年かけて半減させ、その5年後、転入転出者数を均衡させるとした。

○熊本県

県は2015年8月、県版人口ビジョンと総合戦略の素案を公表した。新産業による雇用創出などで人口流出を抑制するとともに、結婚や出産、子育てでの希望を実現できる環境を整備する。県の人口(2014年179万人)について、国立人口研は2060年に117万人に減ると推計したが、県は144万人に維持することを目標に掲げた。人口ビジョンでは、人口減が労働力不足や地域経済規模の縮小などを招くとして対策の必要性を強調し、2014年で1.64の合計特殊出生率を2030年に2.0、2040年2.1に引き上げ、60年時点の人口減少を推計より26万人抑制するとした。

総合戦略は、県政運営の基本方針として策定済みの4カ年戦略(2012~2015年度)をベースに立案、最終目標では社会減を半減、出生数を微減にとどめ、県民幸福量の増大を図るとした。

具体的な施策では、①1次産業の支援強化や自然共生型の新ビジネスの創出、②阿蘇くまもと空港の拠点性を高める「大空港構想」の推進、③新たな海外マーケットの開拓、④地域の医療介護提供体制の整備、⑤移住・定住の促進、⑥市町村間の広域連携の支援、⑦幹線道路網の整備を挙げ、各施策には数値目標を盛り込んだ。県は県民からの意見公募も始め、10月中に決定する。

なお、県は市町村の総合戦略の策定を支援するため、県職員19人を県版コンシェルジェとして任命し、一体的に取り組んでいる。また、熊本市と政策連携会議を開催し、熊本市を人口減少に歯止めをかける「県全体のダム」と位置付け、県市の密接な連携の強化を確認している。

若干のまとめ

1つ目は、地方版人口ビジョンおよび総合戦略の策定状況を見ると、都道府県は地方の県が先行し38団体8割以上が10月末までに策定する。市区町村は4割強で、過半数が年度内の策定、あるいは次年度に繰り越すと思われる。それは当然に予測されたことであり、人口減少が急速に進む中、各自治体の30年、50年後の姿を模索し、展望する計画づくりであり、もっと時間をかけて検討すべきである。財政誘導を絡めて拙速に策定、提出させる政府の進め方には批判がある。

2つ目は、策定業務の外部委託である。これは人口ビジョンや総合戦略の基礎になる合計特殊出生率や社会移動率、あるいは重要業績評価指標(KPI)をどう設定するのか、各自治体はそこで苦労しており、それが委託の拡大に繋がっていると思われる。そもそもそれらを客観的に推計できるのかという基本問題もある。すでに策定した自治体では、例えば合計特殊出生率では、国の想定値1.80や2.07をそのまま活用しているか、それに地域の特徴を付加して設定している。また、重要業績評価指標(KPI)の設定では、国は手引きの中で「基本目標はアウトプット型ではなく、アウトカム型で数値目標を設定する」よう指示しているが、政策パッケージのKPIまでアウトカム型で客観的に設定するのは簡単なことではないし、検証も難しいと言われている。結果的にシンクタンク頼りになりかねない。

3つ目は、各自治体の総合計画との関係である。「フォーラムの会」の調査では、「整合性をとる」が50%、「こだわらない」が41%となっている。総合計画の中にきちんと位置付けている自治体もあれば、逆に総合戦略に沿って計画を見直す自治体、あるいは策定、見直しの時期が重なり、一体的に進めている自治体もある。政府は政策・財政誘導を図って国の総合戦略、方針に沿った見直し、修正を示唆しているが、それは自治への介入(侵害)である。

4つ目は、重点施策との関係である。どの自治体も成果を上げようと子どもの医療費や保育料等の無料化、減免措置を率先して講じているが、それを自治体任せ、自治体間競争の道具にしていいのか。全国市長会は今年5月、医療・教育はナショナルミニマムとして国が責任を持ち、子どもの医療費等は国が一律負担、無償化すべきと提言している。これが基本である。

5つ目は、住民参加である。「フォーラムの会」のような小規模町村では、「住民参加を入れている」が8割にもなるが、都市部では後退している。多くの自治体はパブリックコメントを取り入れているが、それも形式的で形骸化している。総合戦略づくりは、現在、政府が進めている公共施設総合管理計画(統廃合・集約化)とも連動しており、地区レベルでの住民説明会・懇談会が必要である。住民、地域が本気にならなくては総合戦略も絵に描いた餅になる。

6つ目は、議会との関係である。広島県では人口ビジョンは議会の議決に、総合戦略は分野別計画と位置付け議会への報告義務として扱い、兵庫県では「地域創生条例」を定め、議会の議決事件にしている(自治日報2015/7/31)。実態的には「フォーラムの会」の調査もそうであるが、全員協議会での説明・意見交換が圧倒的に多い。議会の役割をもっと重視すべきである。

7つ目は、県と市区町村の総合戦略の関係である。市区町村側からは「包括的なものではなく、それぞれの地域の特性を活かせるものにしてもらいたい」(山口県)との要望も出されている。基本は市区町村であり、押し付けにならずボトムアップ型にしていくことが重要である。

8つ目は、地域政策づくりでは、中山間地域研究センター等が提起している集落単位からの調査・研究、それを踏まえた具体的、実践的な提言が重要である。自然増、社会増対策でも、同様の視点からきめ細かな取り組みを進めている自治体もあるようだ。その一方、重点施策の具体化に向けて、アベノミクスの成長戦略をベースにした地方施策での規制緩和、民間開放、それを後押しする政府の財政誘導や地方創生特区の活用等を重点にしている自治体も見受けられるが、それが本当に持続的、安定的な地域の発展に繋がるのか、事実に即した検証が必要である。

以上、地方版の人口ビジョン・総合戦略について様々な角度から検討してきたが、具体的な施策の分析、評価、提言づくりは、市区町村の総合戦略700余がほぼ出揃う11月段階で改めて調査し、検討していきたい。皆さん方の率直なご意見、情報等をいただければ幸いである。