【論文】学校統廃合で広域化が進む学区域とマンモス校―学校再編の実態と課題―

  • 山本 由美(やまもと ゆみ)
    和光大学教授

2018年9月10日

月刊『住民と自治』 2018年9月号 より


コスト削減、新自由主義的な地域再編のため、政策誘導による学校統廃合が急増し、「義務教育学校」や小中一貫校を用い、合併した旧自治体の全小・中をまとめる広域学区が出現しています。

増加する統廃合

全国で学校統廃合が急増しています。文科省は廃校数の公表に積極的ではないようです。図は廃校数の年度推移について文科省が公表した2つのデータをもとに作成したものですが、同年度の廃校数がデータによって微妙に違っていました。また2016、17年度の廃校数は公表されていませんが、2018年7月に直接文科省に問い合わせたところ、まだ集計中であるとの回答が戻ってきました。

図 公立学校の年度別廃校発生数(1992年度~2015年度)
図 公立学校の年度別廃校発生数(1992年度~2015年度)
※1992年~2001年度の数値については、文科省(2012)「廃校施設等活用状況実態調査の結果について」(http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/24/09/1325788.htm)を参照している。
2002年~2015年度の数値は、文科省(2017)「廃校施設活用状況実態調査の結果について」(http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/29/01/1381024.htm)を参照している。なお、2018年7月現在、2016~2017年度分の廃校数については、明らかになっていない。筆者作成

この増加の背景には、第1に、2014-2016年度の間に全自治体が総務省に提出を「要請」された公共施設等総合管理計画の影響があります。人口減に対応して「算定」される赤字を前提に公共施設の総量(延べ床面積)を減少させることを数値目標に掲げさせようとする同計画のために、多くの小中学校が統合対象にされています。計画に沿えば、施設解体費や規模の「最適化(単なる統廃合であろうが)」、施設の「複合化」などに地方債を適用することが可能になるなど、強力な財政誘導によって統廃合が進められています。第2に、2015年に文科省が58年ぶりに公表した「公立小学校・中学校の適正規模・適正配置等に関する手引」も大きく影響しています。第3に、2016年度から開設された新たな学校種である「義務教育学校」および増加する小中一貫校の影響があります。

文科省は「小中学校及び高等学校の統廃合の現状と課題」という資料で、2014-2016年までの統廃合件数とそれに伴う校数の減少を、順に216件(531校⇨225校)、202件(503校⇨219校)、221件(543校⇨234校)と公表しています。そのうち、2016年度から導入された義務教育学校および施設一体型小中一貫校による統廃合が29件あり、94校が48校に減少したと公表しています。文科省自身が小中一貫校を統廃合の方途として認識しているのです。

表は、2016・2018年度に開設された「義務教育学校」の一覧です。「義務教育学校」とは小・中9年間を一貫させた、校長1名、教職員集団1つの学校です。9年一貫の教育課程は適当なコピー&ペーストでも作れる上に、教員の定数削減には有効な手段となります。2016年度に22校、表にはありませんが2017年度に26校、2018年度の開設校の約2分の1が過疎地の小規模校であり、地域に学校を存続させるために小・中を一体化させざるをえなかったケースも多くあります。他方、教員定数を確保するためか、もしくは極端な変更を避けて保護者や住民の抵抗感を和らげるために、「義務教育学校」化せず、とりあえず小中校長2名体制の施設一体型小中一貫校をめざすケースもあります。

表 2016年度、2018年度に開校した義務教育学校
表 2016年度、2018年度に開校した義務教育学校
<2016年度開校の児童生徒数は2015年度もしくは2016年度のもの、2018年度開校の児童生徒数は2018年度のもの。
2018年7月31日 筆者作成/span>

それらのなかには、同時に「小規模特認校」となり、学区外から入学者を集めて存続を図る学校もあります。不登校傾向や大規模校を避けたいなどの理由から、あるいは小規模校ならではの「特色」を求めて、市街地から越境して入学してくるような学校となっています。

全校児童生徒が十数名の「小中併置校」がそのままスライドしただけの学校も複数あります。他方、2016年度の茨城県つくば市の春日学園の約2100人(2018年度に新設校に分離)を筆頭に1000人以上の規模の学校も一定程度開設されており、二極化が進んでいます。一度に統合する校数もつくば市の秀峰筑波義務教育学校の2中学校7小学校を筆頭に、多くの校数を一度にまとめるケースが増えています。同校は旧筑波町のすべての小中学校を約1000人規模の新設校にまとめたもので、スクールバス20台を利用する広域学区の学校になりました。当初は旧町東部の1中学校4小学校のみの統合計画だったものに、西部の1中学校3小学校が地元の「要望」を発端に参入することになったという異例のケースです。その背景には、統合しないと校舎が老朽化したままにおかれることへの不安や、同市の「義務教育学校」の過剰なブランド戦略があると思われます。

増加の背景には「義務教育学校」法制化に伴う「義務教育諸学校等の施設費の国庫負担等に関する法律」改正の影響があります。これまでは小学校同士、中学校同士の統合の場合のみが、校舎建設費の2分の1国庫負担の対象となっていましたが、「義務教育学校」も加えられたのでした。それに対して危険校舎の改修の場合、国庫負担は3分の1のみです。

すなわち、もし小学校と中学校を統合し「義務教育学校」にしさえすれば、2分の1を国が負担して校舎を建てられることが統合を誘導しています。単なる「施設一体型小中一貫校」では対象にならないのです。たとえば、岡山県美咲町では、老朽化した中学校のみの改修で済むのに、補助金を得るためにわざわざ近隣の小学校2校を巻き込んで「義務教育学校」を計画しています。町は、財政的理由を前面に出しています。しかし、多くのケースで保護者や住民は「義務教育学校」とは何か十分に説明されていません。

広域化する学区域

また、合併した旧自治体の全小中学校を1校にまとめるような強硬な統廃合、小中一貫校化が出現しています。平成の合併から10年を経て地方交付税減額期を迎え、5年後には合併後自治体分のみの交付となり、財政難から以前の自治体が保持してきた公共施設を維持できなくなることを「口実」にあげることも多いです。とくに延べ床面積の大きい小中学校施設が絶好のターゲットにされています。たとえば、2町2村が合併した愛知県愛西市では、公共施設等総合管理計画の筆頭に、まず地方交付税減額期を迎える財政事情が図示されています。その上で、30年間で公共施設の延べ床面積の約30%を削減することが数値目標とされ、学校統合計画が盛り込まれています。それを受けて2中学校4小学校を1校に統合する計画が教育委員会で議決されました。この計画が実現すれば、合併した旧八開村からはすべての学校施設がなくなることになります。

このような施策によってこれまでの小学校区は消滅します。小学校区は昭和の合併前の旧村であることが多く生活圏として自治的な機能を持ち、福祉などの基礎単位でもありました。それを壊すことで地域は自治的な機能を奪われ、容易に大企業が活動しやすい新自由主義的な大規模再編の対象となります。何より小学校を失った地域に子育て世帯がもう戻ることはなく、衰退を待つだけになってしまいます。せっかく自然豊かな教育環境を求めてIターンやUターンした家族が増えてきた小学校区コミュニティーが簡単に壊されてしまいます。そして、このような家族と小学校区単位の町会など自治組織が、最も強く地域の学校統合に反対しているのが現状です。前者は地域のしがらみに縛られにくい、といった理由も存在するのでしょうが、何よりも地域で子どもを育てることの教育的価値を実感として認めているからこそ、抵抗するのです。

利用される「教育的」理由と保護者の切り崩し

このような統廃合、小中一貫校導入に際して、行政は「教育学」的根拠を利用し不安をあおられた保護者が分断されます。まず統合理由として学校規模、児童・生徒数についての自治体の独自基準が用いられます。昭和の合併期に、当時の文部省が人口8000人に1中学という行政効率性から算出した学級規模である「12~18学級」が「標準学級数」として学校教育法施行令などに残っています。それを独自に「適正規模」とし、それ以下の学校を統合対象とするケースは一般的です。しかしそれ以上に統合したいターゲットに合わせて勝手に基準を小さめに設定する自治体が多くあります。前出の文科省「手引」も、単学級以下校の「統廃合の適否を速やかに検討する」などと「学級数」別対応基準を公表しています。1973年に文部省が公表した、いわゆるUターン通達が小規模校の教育的価値を認め機械的な統廃合を否定しているにもかかわらず、それを無視した形になっています。

たとえば広島県福山市は1学級16人以上・単学級の小学校を「第1要件」とし、2020年までに統廃合で「適正規模」にするといった期限付きの極めて厳しい統合基準を公表しています。その計画に従うと、合併した旧内海町(離島)の1中学校2小学校はすべて消え、橋を越えた旧沼隈町の小中学校と一体化されてしまいます。

さらに、教育的俗説なのに多用されてきた「切磋琢磨」などに加え、新学習指導要領に盛り込まれた「新しい学び」「対話的な学び」「双方向的な学び」などを行うのに一定規模の集団が要る、という説明が保護者の不安をあおります。そのような「学び」は具体的にどのようなもので何人が必要なのか、また教育的効果との相関など実証されているわけではありません。究極の脅しは「複式学級の導入」です。しかし2011年の「公立義務教育諸学校の学級編成及び教職員定数法」の一部改正などにより、自治体の学級編成は自由裁量が認められるようになっていて、長野県阿智村などは村費講師で複式学級を解消しています。また、複式学級と普通学級の教育的効果やデメリットの相違については教育学的には差異は認められていません。複式学級には独自の学びのスタイルなどの豊かな教育学的蓄積があるのに、それを無視して行政は偏見的な批判を行っているのです。

巨大規模校の出現も

表において、過疎地の小規模校とは対照的に大規模な学校も出現しています。最初に「義務教育学校」になった東京都品川区の6校は全国モデルとして施設一体型小中一貫校からスライドしたものですが、生徒指導面などの課題も多く早急な検証が必要であると思われます。また、前述のつくば市の春日学園は2017年度の1年生が9クラス編成となり、運動会は1年生のみ対象、2~4年生対象、5~9年生対象と3回に分けて行われました。2018年度から、新たに近隣地域に学園の森、みどりの学園という2校の義務教育学校が新設され、春日学園の児童生徒が移行して、それぞれ1000人規模の学校となっています。

この背景には、つくば市を含むつくばエクスプレス(2005年開通)沿線への子育て世帯の大量流入があります。同沿線の千葉県流山市にもさらに大量の児童・生徒増が見られます。流山市では、当初、子育て世帯を呼び寄せる目玉とされたおおたかの森小中併設校は、1学年4クラスを予定していましたが、児童生徒数急増に対応して増築し、現在1~9年生で56クラス(特別支援級を含む)の巨大校となっています。さらに、市はやや離れた農地に新設小学校を予定していますが、「適正規模」の上限を「48学級(学年8クラス)」に設定しています。しかし学校が大規模すぎることや、新たな学区割りが、生活圏を無視し従来の住民自治組織を分割するものになるなど、多くの課題が生まれています。何よりも、一過性の人口増に対応するだけで、小学校区を核に地域コミュニティーをつくっていくなど持続可能なまちづくりのビジョンがない点は問題です。コミュニティーが形成されないと反対運動が組織されません。

他にも、東京都杉並区高円寺地区の1中学校2小学校を統合する6階建て大規模小中一貫校など、教育の中身は後回しにした大規模「収容」型の学校が、地域住民の反対を押し切って建設されています。新自由主義教育改革が進むアメリカで、切り捨ての対象となる都市の代表格であるデトロイト市において、校種を超えた統廃合が繰り返され、幼稚園から短大を含むような超大規模「収容」型学校が出現したことを後追いするかのようです。それによって同市の公立学校数は10年で3分の1以下になりました。このような地域の切り捨て・再編に教育が利用される改革に対して、コミュニティーが共同して対抗していくことが求められます。

2018年9月10日

月刊『住民と自治』 2018年9月号 より

▲ ページの先頭へ戻る