【論文】公共施設縮減の現局面と学校再編・統廃合


学校統廃合の動きが止まりません。一方では学校施設の複合化・集約化への動きも強まっています。その背景には何があるのでしょうか。

「平成の合併」を機に加速した学校統廃合への動きが、いまだに止まっていません。その背景には公共施設総量削減目標を達成するために小・中学校を減らすことが重視されていることがあります。また、学校施設に他の公共施設を集約し、複合化させる動きも強まっています。

本稿では、公共施設等総合管理計画の現段階について、ここ10年間の市町村公共施設の変化をデータによって把握するとともに、コロナ禍を契機とした公共施設・学校再編の動向を検討します。

公共施設等総合管理計画の現段階

総務省はここ数年間公共施設の総量削減を推進してきました。その背景には、公共施設の老朽化に伴い過去に整備した多くの公共施設が今後更新時期を迎えることとなり、更新費用が自治体財政を圧迫することが予測されることがあります。さらに、地方一般財源抑制政策のなかで、今後、政府が地方の公共施設の更新費用や維持管理費用に対する財源保障を縮減していく方向性があると考えられます。

人口減少が続くなかで、従来提供してきた公共施設を必要量に合わせて住民合意を図りつつダウンサイジングさせていくことは、一般的に首肯できるものです。しかし、現実の公共施設の見直しは、政府の財政抑制路線によって大きく歪められてしまいました。公立学校については、財務省の教育予算抑制圧力のもとで、文部科学省の学校適正規模論が縦割の教育行政に影響を及ぼし、学校統廃合への前のめりの動きにつながりました。さらに財務省の地方財政抑制圧力のもとで、総務省の自治体行財政合理化の一環としての公共施設再編策が自治体の首長や企画財政部局に影響を及ぼし、市町村の公有財産(建物)の延べ面積の4割近くを占める学校をはじめとした公共施設再編への前のめりの姿勢につながっていったのです(公共施設再編と学校統廃合の関係については、安達・山本(2018)を参照)。

*ダウンサイジング:コスト削減や効率化のために小型化すること。

総務省は都道府県、市区町村に対して2016年度までに公共施設等総合管理計画の策定を要請し、2021年3月末時点で都道府県、政令市は全団体で策定済み、市区町村の99・9%が策定済みとなっています。総務省はさらに都道府県、市区町村に対して2020年度までに公共施設等総合管理計画にもとづき個別施設計画を策定するよう要請しました。

公共施設等適正管理推進事業債の事業期間は2021年度までとなっています。ただし、2021年度までに建設工事に着手した事業については、2022年度以降も現行と同様の地方財政措置を講ずるとしています。また、2022年度以降の公共施設等適正管理推進事業債のあり方については検討課題となっています。総務省は、公共施設等適正管理推進事業債の見通しを示さないことによって、自治体の取り組みを急かせているといえます。

総務省は、都道府県、市区町村に対して2021年度中に個別施設計画等を反映した総合管理計画の見直しを行うことを要請しています。それとともに、市町村の専門家の招へい、業務委託、公共施設等総合管理計画見直しなどの経費に対して、2021年度に限り、新たに特別交付税措置が講じられました。

総務省が公共施設等総合管理計画の見直しを重視する背景には、自治体の個別施設計画において十分な公共施設の総量削減ができていない状況があると思われます。

公立学校縮減の現段階

平成以降の公立小学校数の推移をみると、1989年度から1999年度の10年間で▲664(▲2・7%)であったのが、「平成の合併」期にあたる1999年度から2009年度までの10年間では▲1970(▲8・2%)と学校数の減少が加速しました。さらに2009年度から2019年度でみると▲2542(▲11・6%)とさらに加速しており、直近の2019年度から2021年度の2年間でも▲400(▲2・1%)と学校数の減少速度において高水準が続いています。公立中学校については小学校と比べると減少速度が緩やかですが、やはり近年減少速度が上がっています(図1)。

図1 公立小・中学校数の推移

出典:総務省資料から筆者作成。

表1は2011年度から2019年度にかけて市町村の公立小・中学校の建物延べ面積の変化をみたものですが、小学校は▲2・3%、公立学校全体として▲1・1%と減少率は小幅にとどまっています。ただし、都道府県による減少率の違いもみられます。秋田県、山形県、和歌山県、島根県、徳島県、愛媛県、大分県など人口減少や市町村合併が進んだ地域では公立学校の建物延面積の減少率が全国平均より高くなる一方、東京都、埼玉県、愛知県、岐阜県、滋賀県、沖縄県などはむしろ全体として延べ面積が増加しています(図2)。

表1 市町村の公立学校の延面積の推移(2011年度ー2019年度)

出典:総務省資料から筆者作成。

図2 都道府県別市町村の公立学校延面積の変化率(2011-2019年度)

出典:文部科学省資料から筆者作成。

公立学校の個別施設計画(長寿命化計画)の策定状況を調べた総務省行政評価局の「学校施設の長寿命化計画の策定に関する実態調査・結果報告書」(2020年12月)(66の市町村を対象としており、その多くは老朽化した学校施設を有する)によれば、学校統廃合等を検討している市町村のうち、検討途上にあるため長寿命化計画に学校統廃合等の内容を反映しないケースがかなりあるといいます。

これらは、学校再編に対する熟議や地域住民との合意形成に配慮する自治体の状況や住民運動が活発な自治体の状況を反映したものと思われます(学校統廃合を止めた住民運動については、山本(2019)を参照)。

公共施設(建物)の延べ面積の変化をみる

市町村の主な公共施設数の変化(2011年度─2019年度)をみてみましょう。施設数が急激に減少したのが市町村立保育所(▲25・6%)と市町村立幼稚園(▲45・4%)です。また、公民館(▲11・4%)、プール(▲11・4%)、児童館(▲4・1%)なども減少しています(表2)。

表2 市町村の主な公共施設数の変化(2011年度ー2019年度)

出典:総務省資料から筆者作成。

次に市町村の主な公共施設(建物)の延面積の変化(2011年度─2019年度)をみると、市町村立保育所(▲18・7%)と市町村立幼稚園(▲30・1%)が減少しており、認定こども園を合わせた全体でも▲10・3%となっています。その他に減少しているのが職員公舎(▲18・5%)、公民館(▲10・5%)、プール(水面面積、▲12・2%)、陸上競技場(敷地面積、▲9・5%)などとなっています。一方、市町村の本庁舎(9・4%増)、博物館(面積、28・

1%増)、図書館(9・7%増)など面積が増加している施設もあります(表3)。

表3 市町村の主な公共施設建物延面積等の変化(2011年度ー2019年度)

注:2011年度の公民館・図書館・博物館・陸上競技場・野球場およびプールの数値は2012年度のもの。
出典:総務省資料から筆者作成。

さらに、市町村の公有財産のうち建物の延べ面積の変化をみると、2011年度から2019年度にかけて、行政財産(建物)の延べ面積は1・2%増、普通財産(建物)の延べ面積は25・7%増、公有財産(建物)全体では2・1%増となっています(表4)。

表4 市町村の公有財産(建物)の延面積の変化(2011年度ー2019年度)

出典:総務省資料から筆者作成

以上から、全体としてみれば、市町村の公共施設総量削減が進んでいないことがわかります。もちろん、個別にみれば、公共施設の総量削減を実現した自治体もあるでしょう。しかし、全体として公共施設総量削減が進んでいない状況からみれば、総量削減目標を達成するために大ナタを振るおうとする動きが強まることが予想されます。そのなかでも、これまで先行して公共施設再編を進めてきた市町村において公立学校、公立保育所、公立幼稚園、公民館などが大きく削減されてきたことをみれば、これから公共施設再編を本格実施する自治体においてもこれらの公共施設がターゲットになるおそれがあることがわかります。

コロナ禍と公共施設・学校施設

コロナ禍にあって「ニューノーマル」という発想が生まれ、人が集まり、交流する施設そのものの存在意義が問われるきっかけとなりました。民間のオフィスなどだけでなく、公共施設に対しても問われることになります。財政的理由から公共施設の総量削減を目指す立場からみれば、「ニューノーマル」は格好の理由付けとなります。

しかし、コロナ禍が公共施設の役割の再認識につながったという指摘もあります。南学著(2021)は、2020年2月末に安倍首相が要請した全国一斉休校が教育のみならず、地域社会に大きく影響し、あらためて公立学校が地域社会のなかで大きな役割を果たしていることを認識させたことを指摘しています。また、朝岡・山本(2021)は、コロナ禍にあって教育・学習権を守り、学びを止めないための自治体の教育行政のあり方を問うています。むしろ、コロナ禍を契機として、首長、自治体各部局、住民、議会それぞれが公立学校や公民館をはじめとした公共機関の役割やそれらの機関の拠点となる公共施設の役割を再認識し、熟慮することが求められているのです。

学校統廃合への動きが強まる一方で、学校統廃合への地域住民の抵抗の強いところでは、学校存続を認めつつ、他の公共施設の機能を学校に集約し、複合化を図っていく動きが強まってくるでしょう。文科省も2022年度予算編成において学校施設の複合化・集約化における補助率の引き上げを要望しています。また、財務省の審議会である財政制度等審議会もこれまで学校以外の施設との複合化・集約化を推進していくべきという提言を行ってきました。ここで注意すべきは、いずれにしても公共施設の総量削減が目指されていることに変わりがないことです。財政制度等審議会の「令和4年度予算の編成等に関する建議」(2021年12月3日)では、「学校施設以外の施設との複合化・集約化が自己目的化してはならない。あくまでも建設費や維持管理コストの縮減につながるからこそ、推進する政策的意義がある。そのためには、管理運用面の見直し、スペースの共用・集約化等の取組が必要であり、こうした取組により建設費や維持管理コストの縮減につながることが定量的に検証された事業に限定すべきである」としています。

学校施設の複合化や地域開放などについても、公共施設の総量削減ありきで進めば歪んだ方向に動くおそれもあります。公民連携と称して学校施設の管理権を首長部局に移したうえで民間委託やPFIなどを進めようという動きには注意が必要です(南(2021)では学校施設の複合化・集約化の推進とともに、学校施設の管理権を校長の責任から切り離すことや包括業務委託などを提案しています)。こうした動きは教育の自治を掘り崩す危険性を孕んでいます。学校施設のあり方については、市民社会の主人公を育てる教育機関とその施設の役割を発揮するという基本に立ったうえで、学ぶ権利を保障するための自治を維持・拡充する視点に立つことが求められます。

もうひとつコロナ禍の影響としてあげられるのが、税収減や使用料減による自治体財政の悪化です。自治体財政の悪化は公共施設の総量削減への根拠を強化することになります。しかし、2020年度と2021年度の国税収および地方税収の実績や見込みをみれば、税収は当初の懸念に反して維持されています。2020年度の国税収は2019年度を上回っており、2021年度は2020年度をさらに上回ることが見込まれています。また、2020年度の地方税収は2019年度から微減にとどまっています。2021年度の地方税収も地方財政計画における見込みより増加するものと予想されます。こうした事実をみれば、コロナ禍による自治体財政悪化をことさら強調して公共施設の総量削減を煽ることは根拠に乏しいことがわかります。

これまでみたように、市町村において学校施設、保育所、公民館などの総量を削減しながら、他の施設については延べ面積等が増加する例もみられます。公共施設においてどのような考え方で何を優先するのかが問われなければなりません。一方、これから総量削減を進める市町村においては、今後は、学校を残すという「個別最適」ではなく、財政制約のなかで「全体最適」を目指すべきだという考え方を浸透させることによって、学校統廃合や複合化・集約化の正当化を図る動きが強まると思われます。それに対して、学校を維持するという「個別最適」においても公共施設全体の「全体最適」においても、住民運動におけるビジョンと合意形成が求められることになります。

【注】

平岡 和久

1960年広島県生まれ。専門は財政学・地方財政論。著書に『<人口減少と危機のなかの地方行財政―自治拡充型福祉国家を求めて>』(自治体研究社、2020年)、共著に『「自治体戦略2040構想」と地方自治』(自治体研究社、2019年)、『新型コロナ対策と自治体財政 緊急アンケートから考える』(自治体研究社、2020年)など。