【論文】学校統廃合の新しい段階と対抗軸の可能性


教育論をかなぐり捨てた学校統廃合

学校統廃合は新しい段階を迎えています。これは全国で見られる現象ですが、特に東京都の市部で劇的に、公的施設の「複合化」「多機能化」などを伴いながら、教育論や「子どものため」の議論をかなぐり捨てたような(あるいは勝手に捻じ曲げたような)施設建設が計画化されているのです。東京都の町田市、清瀬市などは、全市的な公共施設再編計画の中で、大規模学校統廃合計画が進められています。そして同時に、公教育の民営化が強力に推し進められています。

中でも東京都の東村山市では、6年間「地域拠点をつくる」と学校「複合化」施設のプランを市民にさんざんワークショップで考案させておいて、2023年にいきなり学校統廃合計画を盛り込んで彼らを驚愕させました。そこでは、小学校と中学校を統合することも「小中の集約」と説明され、全国でこれまでアリバイ的にであれ用いられてきた「小中一貫教育」の教育的な意味すら一切触れられません。

東村山市で突然統廃合が公表されたこのシンポジウムでは『学校という「ハコモノ」が日本を救う』(2022年)の著者、大竹弘和氏(神奈川大学・スポーツ産業マネジメント論)が報告しました。それは、学校を〝地域の共有資産『ハコモノ』〟ととらえ、塾やスポーツ系施設、警備会社など民間事業に運営参入してもらうとともに、ボランティアが集う『中核』とするという内容でした。氏は の活用を推奨し、稼働率の低い学校施設を持論の官民連携の「地域交流デパートメント」に転じることで、教育格差の解消、 などが実現できると持論を展開しています。ただし、歴史的に形作られてきた学校と地域の強い結びつきや小学校区コミュニティの価値には関心を示していません。

本稿では、これまで行われてきた学校統廃合政策の変遷を整理した上で、前述のような「複合化」「民営化」を伴う学校統廃合の問題点を考察します。

図表1

全国および東京都の公立小中高廃校数の推移

増加する廃校数を押し上げた新自由主義的政策

全国で廃校数は2000年頃から高止まりしていますが、図表1に見る様に東京都は最初にそれを押し上げています。1970~1980年代に産業構造の劇的な転換が行われた東京で、新自由主義的教育改革が先行して行われたことが背景にあります。すなわち製造業、卸売・小売業の都市からサービス業、情報・金融などの都市への劇的な転換が行われました。「少子化」が統廃合の主要因といわれますが、廃校数(過去18年分の総計:文部科学省)が北海道に次いで多い東京都の人口は増加しており、都心を中心に出生率が増加に転じている自治体も多いのです。

品川区、足立区などを皮切りに、1999年頃から自治体ごとの学校選択制と学力テスト及び学校評価が導入されました。それは、企業の「人材」要請に向け公教育を序列的に再編するために競争的環境を導入し、同時に学校と地域、教職員組合と保護者・市民の分断を図るものでした。すなわち、それまで東京都ではかなり実態があった「学校自治」の破壊を伴うものとなったのです。進藤兵氏はこの時期の東京の「新実施指針(学校行事で教師に国旗敬礼・国歌斉唱を強制した)」などの強硬的政策について「公立学校における従来型の学校運営原理を壊し、民間企業型経営手法を導入する際に、 を解除して『意識改革』を図る手段」だったと評しています。

教育行政は「小規模校=ダメ論」宣伝を展開し、不安を煽られた親の選択行動が利用されました。選ばれない小規模校は一層小規模化して自治体が勝手に設定した「最低基準」を下回ると機械的に廃校にされました。東京では2000~2007年の間に140校近い公立学校が廃校になっています。学校を守るために機能するはずの保護者、住民と教職員組合教師の共同は、一部を除いてかなり弱体化されていきました。

「義務教育学校」には乗らなかった東京

地方では2005年頃をピークとする平成の大合併により、合併自治体で学校統廃合が増加していきました。周辺に位置づけられた力の弱い自治体の複数の小・中学校を一度に小中一貫校にまとめていくような強引な統廃合も各地で行われました。

2010年頃から経済産業省、財界が「グローバル人材」養成を提唱し、そのためには学校制度を早い段階から複線化し、エリート校に重点的に資源配分をしていくとの議論が起きてきます。それが結実したのが、2012年の第2次安倍政権発足後「戦後6・3制の見直し」として鳴り物入りで登場した「義務教育学校」制度でした。学校教育法が改正され、校長1名、教職員集団1つ、小中一貫9年間の教育課程を有する新たな学校制度が導入されたのです。

しかし、2015年の学校教育法改正後、2016年度開設に向けた実際の制度化は難航したようで、従来の小中「6・3制」が抜本的に崩されることはありませんでした。東京では、すでに統廃合により大型の施設一体型小中一貫校6校を開設していた品川区のみがそのまま「義務教育学校」にスライドさせたにとどまり、全国では22校が開設されました。

施設一体型小中一貫校、「義務教育学校」は、統廃合の方途としては有効でしたが、教育的効果もデメリットも十分に検証されておらず、「エリート校」として位置づけられるには実態が伴っていませんでした。またその後、増加していく公立中高一貫校の方が「複線化」になじむものであり、従来私学に行く層より幅広い階層の保護者からの支持を集めていきました。例えば茨城県は、県立高校最上位ランクを中心に13校を「起業家精神を備えたトップレベル人材や地域リーダーの育成」中高一貫校に移行させていますが、いずれも高倍率となっています。

都内では、三鷹市がすべての小・中学校を施設分離型小中一貫校(複数の小中学校に学園と称する上部組織を被せる。)にしていましたが、2016年の時点での「義務教育学校」への移行は見送りました。しかし2023年に、市の公共施設等総合管理計画を受け、小学校を統合し図書館施設なども「複合化」する計画を公表しています。これが三鷹市では初めての「義務教育学校」化提起であり、市民による反対運動が起きています。同市は、教委が委嘱した地域委員などから構成される「学校運営協議会」を全校に設置して、コミュニティ・スクール化したことを特色としています。同制度は、小中一貫校による大規模統廃合を複数行った京都市で典型的に利用されたように、トップダウンの施策を「下から」支える「学校参加」制度として機能する側面を持っています。

公共施設等総合管理計画が強力なインセンテイブ、統廃合の新しい段階へ

2014年からスタートする「地方創生」によって廃校数高止まりは維持されていきます。特に、2014~2016年度に総務省が全自治体に計画策定を「要請」した「公共施設等総合管理計画」は、公共施設総量を「延床面積」として捉え、人口減少や税収減などを前提に将来の施設更新費用を算定して、予め施設の総量を減らすような計画化を求めたことから、学校統廃合の強力なインセンテイブとなっています。一般的に、自治体の全公共施設の約3~6割は学校教育施設が占めていますが、前述の東村山市などは6割を超えています。

そして、計画には多くの財政誘導が準備されました。例えば、地方交付税交付団体であれば、計画策定費用、不必要となった公共施設の解体費用などに地方債が適用されます。また、施設「複合化」、「規模最適化(実質的な統廃合)」「長寿命化」などを行った場合には、期限付きの公共施設等適正管理推進事業債(当初は2021年度まででしたが2026年度まで延長されました)が適用されます。学校施設は児童生徒急増期の1970~1980年代に建設されたものが多く、一斉に老朽化による改修時期を迎える自治体にとって、これらの財政措置は魅力的なものとなりました。

全県ぐるみで公共施設再編を進める代表例として埼玉県、岡山県などが挙げられます。埼玉県ではすでに2015年段階で、全市町村担当者に対して、県レベルでコンサルタントをしていた東洋大学PPP研究センターの経済学者、根本祐二氏が施設種類別の再編方針を指導しています。彼は、国政レベルでの公共施設再編政策の主たる政策立案者でもあります。そこでは、学校施設は「公共施設として残す」が「総量削減」の対象であり、その方策は「統廃合」のみが示されています。全校児童生徒「236人以下(学年2クラス以上、定数35~40人以下の最低規模)」は廃校対象とされ、徹底的な「人数主義」が採られ、地域性には一切配慮しないこと、また施設が隣接している場合は「小中一貫校」化、と方針が示されています。同県ではその後、ほとんどの自治体が方針に従って、あるいは独自のコンサルタントに指導されて施設再編に取り組んでいくことになり、各地で強引な計画に対する反対運動が起きています。

さいたま市は、施設除却に地方債を適用することを全国で初めて提案し「ハコモノ三原則(総量規制、新設しない、作る時は複合化)」を最初に提起した「再編」〝優等生〟ですが、人口急増地域の武蔵浦和地区に全校児童生徒3600人、3つの校地からなる全国最大規模の義務教育学校、「武蔵浦和学園」開設を計画しています。人数を800名程度ずつ5つの「ユニット」に分け、それぞれに副校長を置くことから、文科省が言うところの「過大規模校」には該当しないと市教委は説明します。しかしその区分は、小中一貫教育の「4・3・2制」に沿った「1~4年生」と「5~9年生」で別の施設にされています。それにより「小学校高学年が最高学年として機能せずリーダーシップを育てられない」といった一貫校の子どもの発達に関するデメリットが強化、固定化されることが懸念されます。また、利用者の多い市民プール施設を含む公園を廃止して学校用地に転用する点についても、市民から反対の声があがっています。

他方「地方創生」の柱である「コンパクトシティ構想」の〝優等生〟、富山市では、交通網の整備による中心部への人口移動促進を行った後に、2022年、突然に周辺地域を一斉に切り捨てる大規模な小中学校統廃合計画が公表されました。両計画の策定に関わった委員会には教育学者は参加しておらず、「地方創生」政策の行きつく先が子どもの十全な成長・発達や従来の教育論を無視した学校改革であったことが端的に示されています。

PFIを活用することの問題点、消える教育の住民自治

多くの自治体の「公共施設等総合管理計画」では、「施設総量の圧縮」などとともに「官民連携によるサービス向上」、具体的には「PPP、PFIの導入」が基本方針にあげられています。近年、民間企業に学校建設計画、維持管理、運営など、あるいはその一部を担わせるPFI(パブリック・ファイナンス・イニシアチブ)の手法が広く取り入れられるようになっています。PFI事業にした場合、公立小中学校・特別支援学校の建設費は国庫補助の対象になっています。

このような公民連携の手法を用いた施設再編、「複合化」は何が問題なのでしょうか。

学校施設「複合化」にPFIを用いた代表的事例として、京都市初のケース、市立御池中学があげられます。同校は小中一貫校(施設分離型)第1号として、御所南小などとともに京都市小中一貫教育のモデル事業とされてきました。乳幼児保育所、老人デイサービ スセンター、在宅介護支援センター、賑わい施設(商業施設)などによる複合施設の設計・建設、維持管理・運営する事業を民間(5社が協力)に2004年より2021年までを事業期間として委託したものです。他地域の保護者が施設見学に連れてこられ、豪華な施設と「高学力」の宣伝に、自分たちの学区の一貫校化、統合に賛同するようになるのですが、そこで行われる教育の質について確認することはできませんでした。

行政による評価点としては、維持管理業を民間事業者に任せたため運営者が業務専念できたとか、商業施設による地域活性化などが挙げられていますが、子ども、教師など学校教育関係者にどのようなメリットがあったのかについては触れられているわけではないのです。

学校施設にPFIを用いることの問題点として以下のような点が挙げられます。

第1に、企業は利潤追求のために事業を行うものであり、「公共性」の実現とは対立する性格を持ちます。尾林芳匡氏は「公共サービス」に共通することが求められる視点として「①専門性、科学性、②人権保障と法令遵守、 ④民主性、⑤安定性」をあげています。特に学校建設における利潤追求は、教育の住民自治の実現とは真っ向から対立してきます。例えば、建設計画は企業の都合による「スケジュールありき」で進められ、地域の意向を反映することが極端に難しくなります。形だけの「市民参加」はワークショップでの「校名決定」などにとどめられる傾向が強いです。また、企業は情報公開が不十分なままで事業を進めるため、市民側が運動を進めることに困難が伴います。

公立学校は「平等な公共サービスを提供するもの」ではありますが、歴史的に地域コミュニティと結びついて形成されてきたそれぞれ独自の文化や伝統を持っています。特色ある教育内容や方法、伝統芸能の継承、避難拠点としてのあり方、学校行事など、慣習的に積み重ねられた多くのものは、子どもの十全な成長・発達にとって決定的な役割を果たしているのです。統廃合には一瞬でそれらを失わせるリスクがありますが、民営化はそのリスクを決定的に高めます。

多くの公共施設再編にPFIを活用する町田市では、適正規模を「12~18学級」から独自の「18~24学級」に教育学的根拠なしに拡大した上で、市内小中学校の3分の1を廃校にするという大規模統廃合計画を強行させています。その際、最も重要で地域と合意形成を図る必要のある「対象校の選定」と「統合校の場所」の決定については市民の意向を反映させていません。それらは「すでに決まった事項」とした上で、委託企業も参加させた対象地域ごとの「新たな学校づくり基本計画検討会」で形式的な「市民参加」をさせるにとどまっているのです。

第2に、行政と事業者の癒着が懸念されます。特に大規模な施設一体型小中一貫校といった新しい制度の場合、特定の情報に基づいたノウハウを持った同じ業者がプロポーザルなどで事業を受託しやすい傾向が見られ、全国で同一業者による似たような一貫校が計画されています。一般に「複合化」で施設が複雑になった場合、事業を受託できる事業者が限られてくるため、行政やコンサルタントによる情報提供によって特定企業が選ばれてしまいます。

第3に、企業が破綻、撤退した場合のリスクは、子どもの成長・発達を保障する施設にとって致命的なものになりかねません。例えば、給食の民間委託事業者が倒産するケースは、2023年度(10月時点)だけで17件と増加しています。一般入札によって最安値で引き受けた企業が材料費高沸騰に耐えられなくなっているのです。

第4に、PFIに果たして経済的な抑制効果があるのか疑問視されます。一般に人件費などが抑えられがちですが、算定方法が適正なのか十分な検証が必要です。

 民営化を伴わない複合施設の課題、改革の対抗軸は

もしPFIなどを伴わず、意思決定に民主的なプロセスを導入した「複合化」施設を実現する場合はどうなのでしょうか。例えば人口減少の地域に学校を存続させるために、小学校と中学校を統合して義務教育学校や一貫校にしたり、他の施設と統合するケースは実際に多いです。

教育的な課題はあっても、地域に学校施設を残すことは重要です。ただし、学校施設、児童相談所、保健所など、子どもの生存や発達に直接関わってくる公共施設の場合、それが目的に合った施設でありうるのか、という点の検証は決定的に重要になるでしょう。いくら時間やスペースで利用を切り分けようとしても、その利用上子どもの安全に問題はないのか、セキュリティ上の課題は生じてきます。情報保護や教育条件の悪化も課題となります。

さらに、学校統廃合や新たな施設を開設する場合には、それに対する子どもの意見表明や市民の声を反映するルートが保障される必要があるでしょう。大阪府交野市など、学校の存続、統合をめぐって住民投票条例制定運動が行われたケースもあります。今後、トップダウンの計画が強行された場合、市民が住民投票を求めるようになる可能性は高いでしょう。

東京の西部、主に中央線沿線の自治体で、市民の公共インフラを守る運動を背景に新しく「非自民」を掲げるリベラル系の首長が当選しています。杉並区では児童館の全館廃止と道路開発に反対する区民の声が、岸本聡子区政誕生につながりました。武蔵野市では、東洋大学PPP研究センターによる全小中学校の義務教育学校(小中一貫校)化計画に反対する公約を掲げた松下玲子市長が当選しています。その後、同市では、公共施設等総合管理計画は書き換えられました。練馬区では、区立美術館と図書館、公民館施設の「複合化」構想、保育園廃止に反対する声が、僅差で現職を追い詰めるまでに至りました。

このような地域コミュニティのインフラを守る運動は、新自由主義的な自治体改革の対抗軸になっていくと思われます。その中でも学校を守る運動は、正確な情報提供により保護者を巻き込んでいくことによって大きな勢力となっていくことが期待されます。

山本 由美

横浜国立大学教育学部教育学科、東京大学大学院教育学研究科教育行政学専攻修士課程を経て、同博士課程満期退学。2010年度から和光大学の教員、現在に至る。2019年から東京自治問題研究所理事長。著書『学力テスト体制とは何か~学力テスト・学校統廃合・小中一貫教育~』花伝社、『教育改革はアメリカの失敗を追いかける』花伝社。共編著書『新自由主義教育改革』大月書店、『「小中一貫」で学校が消える 子どもの発達が危ない』新日本出版社など。