防衛省が作成した冊子『はじめての防衛白書』が小学校に直接送付されました。特定の国を脅威と描き、防衛力拡大を正当化し、子どもたちを自衛官に勧誘するものです。学校送付に反対する全教の取り組みを報告します。
全日本教職員組合(以下、全教)は結成時から「教え子を再び戦場に送るな」というスローガンを掲げてきました。この国を戦場にしない、誰ひとり戦争によって死なせない、殺傷させない。それは先の戦争の痛恨の反省から出てきた決意です。このスローガンが今、危機感と共に現実化しています。
防衛省が、小・中学生を対象とした『はじめての防衛白書』(以下、冊子)を作成し、防衛省ホームページで公開したのは、2021年8月16日でした。防衛省がこれを冊子にして、2025年5月ごろ、ある県の小学校に直送したことが判明しました。報道によると全国8県、2400校の小学校に、6100冊が送付されたとのことです。配布県について防衛省が公表しているのは、青森、秋田、栃木、長崎の4県で、あとの4県は公式には不明です。
2024年度版の『はじめての防衛白書』は中国、北朝鮮、ロシアを名指しし「脅威」であるかのように強調し、北朝鮮は「すでに日本を攻撃する能力を保有しています」と記述しています。また「ウクライナはどうして攻められたのか」という問いに「防衛力が足りなかったため」と解説し、事実関係が不確かなまま軍備増強を正当化して、防衛力拡大に子どもたちの思考を誘導しようとしています。現在の学校は、外国にルーツを持つ子どもたちが多く在籍し、共に学ぶことを大切にする教育が行われています。しかし、この冊子は、子どもたちに特定の国に対する偏見や対立意識を抱かせ、差別や排除を助長し、共生社会を築く上での障壁ともなりかねません。
「抑止力」や「敵基地攻撃能力」を積極的に肯定することは、憲法9条の、武力による威嚇と武力行使の放棄を謳った平和主義の理念に大きく反しています。さらに「平和外交」の大切さについてはどこにも触れられていません。武力に依存しない平和構築の観点に触れないことは、未来を生きる子どもの平和観の育成に大きな影響を与えます。発達段階に照らしても、「抑止力」や「集団的自衛権」といった概念は理解が難しい上に、戦闘機などの装備の写真や「攻撃される」などの記述は、強い恐怖心や深い不安感を与えることも懸念されます。
全教は7月11日に防衛省要請を行い、送付中止と回収を求めました。しかし、防衛省は、「我が国の将来を担う小中高生にも安全保障環境や自衛隊の活動の理解を深める機会とするため作成した」「文科省から、学校に配布する書籍は教育委員会に直接依頼し、配布は各自治体が判断するという返答があり、直接都道府県教育委員会の了承を得られた小学校へ配布した」という回答に終始しました。7月24日には文科省要請を行いましたが「他省庁の作成物の内容についてコメントする立場にない」と無責任な回答しか得られませんでした。
加えて、2025年7月15日には2025年度版の冊子『まるわかり!日本の防衛』が発行されました。これは、2021年度版から記載されてきた「非核三原則」「専守防衛」「軍事大国にならないこと」の記述が削除されています。ページを大幅に増やして災害支援派遣での自衛隊の活躍を前面に出し、処遇の良さを強調しています。さらに巻末に多種多様な自衛官コースを載せ、自衛官募集情報を義6務教育段階の子どもたちに提供していることは、極めて問題があります。しかし、防衛省はこの冊子も「配布のあり方を検討していく」と述べています。
全教は、新日本婦人の会、日本平和委員会、自由法曹団と連名で要請書を提出し、12月1日に4団体共同で防衛省と文科省に要請を行いました。
小学生への自衛官勧誘行為であり、子どもの権利条約に照らしても問題であることをさまざまな根拠を示しながら指摘しましたが、誠意ある回答は両省庁共にありませんでした。
さらに全教が防衛省とやりとりして分かってきた問題が2点あります。一つは防衛白書の冊子と共にアンケート用紙が送付され、「活用実績」や「今後の望ましい活用方法」の設問項目に、「総合的な学習の時間に使用」があり、授業等で活用したか、活用する予定があるかを問うていることです。このアンケートには31件の返答があり、そのうち7件で「総合的な学習の時間に使用」したという返答があったそうです。つまりこの冊子が授業で扱われたということです。全教は、授業の教材としては不適切であることから再度文科省に要請を申し入れています(2026年3月現在)。もう一つの問題は、防衛省がこの冊子を小学校に直送することの承諾を都道府県教育委員会からとる際に、送付した事実を「公表する」「公表しない」という選択肢を設けたことです。8県中、実に4県が公表しないことを条件に承諾したために、4つの県については、保護者も関係者も、配布され、授業で使われ、子どもたちの目に触れている可能性があるという事実を知ることすらできません。国が集団的自衛権の行使を認めた頃から自衛官が減り続け、自衛官不足の状態に陥っています。しかしいかなる背景があろうとも、教育課程への政治的介入や、学校を自衛隊の勧誘行為の場にすること、さらにはその事実の一部を非公表にすることは許されません。
子ども版防衛白書の配布は、すべて2022年12月に閣議決定された「安保3文書」の中に記載されている「我が国と郷土を愛する心を養う」ことや「安全保障教育の推進」などの方針の具体化に他なりません。国会議員の間で、憲法9条の「戦争放棄」を削除し「自衛のための軍隊を保持する」と明記すべきなどといった改憲議論が活発化しています。平和憲法をもつこの国は憲法を変えるのではなく、世界に向かって非戦を訴えるべきですし、戦争を回避するのは政治の責任です。
次世代を担う子どもたちが、平和な国際社会をつくり、国際交流しながら豊かに生きていく未来を築けるように、全教は日本国憲法と子どもの権利条約に基づいた教育の実現のために、引き続き保護者・市民など多くの皆さんと共に取り組みを強めたいと切に考えています。
