2023年改正地域交通法でローカル線の分離・廃止が進められています。新自由主義的交通政策批判の観点から公共交通における国の責務と自治体の役割を考えます。
はじめに
ローカル線と路線バスの廃止が相次ぎ、公共交通の衰退はとどまることを知りません。
今日の公共交通の衰退を生じさせた最大の政策要因は、国鉄分割民営化以降、自由競争原理と自立採算原則という「新自由主義的交通政策」が採用されたことにあります。
本年1月に閣議決定された第三次交通政策基本計画でも、民営化や規制緩和政策のもとで、地方部において「交通サービスの維持・確保が困難となる地域が増加している」ことを認めています。
政府は2013年施行の交通政策基本法や、2007年施行の地域公共交通の活性化及び再生に関する法律(以下、地域交通法)とその後の数度の改正で、新自由主義的交通政策の一定の修正を図るとともに、地域公共交通の政策主体を自治体に移行させてきました。
とくに地域交通法については、2023年と2026年にも改正が行われました。2023年の改正では、主にローカル線をJRから分離してバス転換するか、一定の政府支援のもと自治体負担で事業再構築するかの選択を自治体に迫っています。2026年の改正では、交通空白を自治体が資源を総動員して埋めることを求めています。
しかし、地域公共交通の維持を自治体のみに委ねることができるでしょうか。何よりも、これらの施策によって民営化や規制緩和から脱出して、地域住民のための公共交通を再生できるのでしょうか。とくに、前者では、財政負担の懸案から自治体からの批判がなされ、再検討されています。本稿では、主に、この問題を取り扱います。
社会的共通資本としての公共交通
公共交通の重要性は次の二つの点から把握できます。第一は、社会的共通資本としての性格です。宇沢弘文によれば社会的共通資本は、生存権を中心とする市民的権利を保障するサービスで、その供給は市場の自由競争に委ねてはならず社会的に管理される必要があります。
社会的共通資本は制度資本、自然資本、社会インフラに分かれますが、公共交通は電力、水道などとともに社会インフラに属します。社会インフラは通常、ネットワークを形成しています。も、一般的に、ユニバーサルサービスや所得再分配の観点から正当化されます。
交通に即して言えば、公共交通は徒歩や自転車とともに基礎的交通手段として移動の権利を保障するものです。今日では、自家用車を利用し得ない移動制約者への移動権を保障するという考え方とも共通しています。対して、自動車は社会的費用(大気汚染・騒音、交通事故など)が高いのです。欧州では、両者の競争条件を平等化する意味からも鉄道の上下分離が実施されています。
第二は、公共交通が社会的価値ないしは社会的便益を持っていることです。一つはです。もう一つは地域づくりの価値です。芸備線再構築協議会では,単に定量的な「地域経済効果」だけでなく、安心感などの定性的側面も議論されています。
最後に鉄道とバスの関係を述べておきます。両者とも公共交通としての役割は共通していますが、輸送需要量とコスト比較から鉄道のバス転換がされている現状にあります。しかし、バス転換された多くの事例では利便性が低下します。宇都宮浄人は「レールボーナス」(バスに比較した鉄道のプレミア価値)の存在を指摘しています。
交通の衰退要因と新自由主義的交通政策
我が国の旅客鉄道の経営形態は、1987年4月の国鉄分割民営化によって発足した六つのJR旅客、大手私鉄、中小私鉄、公営地下鉄および主な出資者が自治体である第三セクター鉄道に分かれます。
1990年以降、鉄道路線はローカル線を中心に全体で約1600キロ廃止されました。2010年頃までは地方中小私鉄、大手私鉄の近郊路線および第三セクター鉄道が中心でしたが、その後、JR路線が廃止の中心になります。2010年代以降の廃止(739・7キロ)のうちJR各社の路線廃止は700・4キロです。とくにJR北海道は427・2キロと全体の57・8%を占めます。同社が2016年から赤線区の「整理」を開始したからです。現在、同社はの改革を求めています。
乗合バスの路線の廃止は鉄道以上です。輸送量の減少を背景に1985年以降、とくに2000年および2015年以降、地方だけでなく都市部でも増加します。これらの廃止に代わって登場するのが、自治体やNPOが運行主体を引き受け、多くは民間事業者に運行委託するコミュニティバスやデマンドタクシー、自家用有償運送です。
こうした鉄道路線の廃止や路線バスの休廃止の直接的原因は、地方における輸送量の減少にあります。その要因は何でしょうか。
政府やJRは、自動車依存と人口減少をあげています。確かに、移動における自動車分担率は、とくに地方で高くなっており、過疎地の人口も他の地域よりも減少しています。この要因を政府やJRが強調しています。
ですが、それは「外的要因」です。同時にそれと相互に関連した「内的要因」をみる必要があります。列車の減便・優等列車の廃止、駅の無人化などの経費削減が利便性を低下させ、自動車への逸走などにより、輸送人数を減少させ、そのことが再び収支を悪化させるのです。負のスパイラルです。この悪循環の最後が路線の廃止です(図1)。
たとえばJR久留里線の久留里~上総亀山間の列車本数は1987年には28本(往復)でしたが、1993年に26本、2013年25本、2014年19本、2017年17本と削減されました。その結果、上総亀山発木更津行きは4本目の8時48分の次は14時27分まで待たなければなりません。住民は、不便なダイヤが利用者の減少を招いたと批判しています。同じく輸送人数が減少している同線の木更津~久留里間の列車本数は1987年以来34本のまま削減されていません。
こうした外的要因や内的要因を促進したのが、自由競争原理と自立採算原則を内容とする新自由主義的交通政策です。
国鉄再建監理委員会意見書は「望ましい交通体系の形成は、各交通機関の競争と利用者の自由な選択が反映されることを原則とすべき」と、自由競争に基づく交通政策を主張し、インフラネットワーク整備における鉄道と道路との調整を放棄しました。1999年と2002年に鉄道事業法と道路運送法で事業休廃止が許可制から届出制へと規制緩和されたのも、自由競争原理の適用です。「撤退の自由」が与えられたのです。
自立採算原則も、公共負担からの自立を意味し、国鉄分割・民営化で確立しました。関連して指摘しなければならないのは、JR各社に特定地方交通線を除くローカル線を継承させることによって、新幹線や首都圏の黒字でローカル線を維持するという内部留保を認めたことです。国鉄再建監理委員会は、その理由を「今のうちに分割・民営化という抜本的な改革を行えば、地域と一体となった活力ある経営が行える結果、鉄道を地域住民の足として再生し、残していくことが可能となる」と述べています。
自立採算原則と自由競争原理に基づく交通政策は、自治体が政策主体となり、公的関与を拡大する方向で修正されていきます。もちろん、基本的枠組みの修正ではありません。交通政策基本法では交通の基礎的需要の充足や、各交通機関の連携もうたわれましたが、「各交通機関の競争」はそのままですし、鉄道事業法と道路運送法の退出の自由規定もそのままです。地域交通法は改正により、自治体に地域公共計画を義務付けるとともに鉄道の上下分離やバスの共同経営を認めてきましたが、自立採算原則の根本的修正にまで至っていません。
それでも、公共交通の利便性を高める動きが見られます。えちぜん鉄道の事例が最も有名ですが、ローカル鉄道では「奇跡の名松線」や只見線、和歌山貴志川線、ひたちなか海浜鉄道が、バスでは、2003年10月にNPOが設立した「生活バス四日市」があります。特に強調したいのは、自治体の姿勢が公共交通再生を左右したことです。名松線が復活し三江線が廃止された背景の一つに三重県知事と島根県知事の姿勢の差があったと言われています。
2023年地域交通法制定に至る経緯と現在の存廃協議
2023年地域交通法は、国土交通省の有識者委員会「鉄道事業者と地域の協働による地域モビリティの刷新に関する検討会」が2022年7月に作成した報告書が骨格となっています。同検討会設置の直接的な契機は、コロナ禍の2020年度に会社発足後初めて大幅な経営悪化を経験したJR東日本やJR西日本によるローカル線分離の主張=「内部補助崩壊論」でした。
2023年地域交通法の「基本方針」では、輸送密度が4000人未満の路線を、大量輸送という鉄道特性が発揮されにくい路線とし、当面は特急や貨物を除く1000人未満の路線をJRからの分離の目安としました。
その路線距離は、筆者の計算ではJR東日本・JR西日本・JR九州3社合計で2730・5キロ、在来線合計の1万2018・1キロの22・7%に相当します。地域のまちづくりとの関連で存続が必要な場合、自治体負担による再構築事業 (上下分離や第三セクター鉄道化)としての存続は可能です。財政負担ができないときは廃止、すなわちバス(を含む)転換が選択されます。もちろん、再構築事業には社会資本総合整備交付金からの助成がありますが、それは鉄道整備に限定され、しかも期限付きです。
再構築事業には、現在までに23件の事案が認定されていますが、多くは既存の第三セクター鉄道で、JR関係は3件です。JR西日本城端線・氷見線の第三セクター鉄道への移管、JR九州長崎線の江北~諫早間の上下分離およびJR東日本只見線の会津川口~只見間の上下分離です。後二者は2017年までにJR各社と自治体が合意した路線です。
2023年以降、JRからの申し出で協議が開始されたのは表1の9線区です。
これらには三つの特徴があります。一つは協議形式です。芸備線のみが国が仲介する再構築協議会で、他は任意の検討会議から始めたことです。二つ目は、一部を除き路線全体でなく輸送需要が最も低い区間が協議対象とされたことです。三つ目は津軽線と米坂線の対象区間と、美祢線が被災で運休している区間であることです。津軽線と久留里線の対象区間は2026年3月に廃止届が提出され、2027年4月に廃止(バス等への転換)の予定です。
自治体からの批判と再論議
JRからの分離は、ネットワークのあり方と内部補助を中心に自治体関係者から批判や疑問が提出されました。そのため、モビリティ刷新検討会が2025年10月10日に再開されることになりました。同検討会は6回の会議を経て、本年の4月10日付けで「課題整理・今後取り組むべき方向性」(以下、方向性文書)を公表しました。6点に整理されています(表2)。以下で、自由競争原理と自立採算原則に関わる三つの論点から、この方向性文書の内容を検討していきます。
表2 方向性文書での課題整理
- ①ローカル鉄道の再構築推進等のための制度の充実・強化
- ②鉄道ネットワークの基本的な在り方
- ③地域とローカル鉄道の関係
- ④国鉄分割・民営化の経緯を踏まえたJRが果たす役割
- ⑤内部補助に関する考え方
- ⑥全国の鉄道ネットワークを支える財源確保について
論点1 鉄道ネットワークとローカル線ー国の責務の範囲
第一の論点は、鉄道ネットワークとローカル線と、国の関係です。自由競争原理と自立採算原則の下で、政府は、新幹線を別にすれば在来線ネットワークに対する国の責任を明示してこなかったからです。
方向性文書は、国とJRが維持責任を有する基幹的ネットワークとして、①輸送密度4000人未満の線区=ローカル線以外の線区、および、②同未満線区であっても特急列車や貨物列車を現に走行しているか、その可能性がある路線をあげています。従来通りの説明ですが、注目すべきは、「広域的な地域間の移動を支える役割」などからすると、③「鉄道が地域の幹線として機能する場合」も基幹的ネットワークに含まれる可能性を指摘していることです。自治体から「中山間地域」に果たす「鉄道の多面的な機能に」も考慮した見解といえます。現在、協議中の路線も③の「広域的な地域間の移動を支え」ているのではないでしょうか。
これらの問題点は次の2点です。まず、自由競争原理の修正という観点からは、国が責任を持つ基幹的ネットワークの範囲を「広域的な地域間の移動を支える鉄道」にも拡大しようとしていることは評価できますが、「引き続き国において基幹的ネットワークに関する検討を深める」にとどまっています。
次に、基幹的ネットワークの形成はJRの経営政策、収益性に左右されるということです。特急列車が走行するか否かの決定はJR各社に委ねられているからです。ローカル線のネットワークも収益性で分断されています。先の表1にみられるように、路線全体ではなく、低密度の線区だけが協議の対象とされています。この分断は、例えば久留里線の場合、バス利用者に乗り換えを余儀なくさせるという問題に加えて、路線全体の活性化を等閑視するという問題を生み出します。
関連して指摘すべきは、自治体から要請のあった、自然災害で運休した路線の復旧問題が、方向性文書では言及されていないことです。道路復旧では国の負担割合が90%で自治体負担は交付税措置を含めて1・7%にすぎません。対して鉄道復旧では、国の補助割合は25~33%と低いのです。道路と鉄道の負担を公平にすべきです。
論点2 内部補助とローカル線維持
第二の論点は、内部補助によるローカル線維持の賛否です。内部補助は国鉄分割・民営化時において認められており、JR各社の完全民営化における大臣指針においても路線維持は明記されたと自治体側は述べます。否定論者は、国鉄再建監理委員会でも大臣指針でも輸送需要の低い路線の分離を可能と規定していると言います。
内部補助について次の2点を指摘します。
1点目は、内部補助の議論は、JR東日本とJR西日本、JR九州が対象だということです。政府支援を不可欠としているJR北海道やJR四国では内部補助が崩壊する一方、東海道新幹線の高収益性に支えられたJR東海は、ローカル線の収支も公表せず、ローカル線を内部補助で維持しています。まず必要なのは、こうした不均衡な状況を解消することです。
2点目は、内部補助を考慮する場合に、各社が高い利益を上げているだけでなく株主への配当額がローカル線の赤字合計額に匹敵する規模になっていることです。JR東日本では2024年度の輸送密度1000人未満の赤字額(収支差)合計が523億円であるのに対して配当額は681億円です。JR九州では39億円に対して154億円です。JR西日本の赤字額は216億円(3カ年平均)ですが、配当額(同)は350億円です。
こうした状況で方向性文書は、ローカル線については過度の内部補助は控えるべきとしつつ、「今後の『維持すべき基幹的ネットワーク』の在り方に係る議論も踏まえて、一定の内部補助も活用しながら線区を維持し、利用を促進していくことも期待されると考えるべきではないか」と結論付けています。しかし、どこまで内部補助が認められるのか不明です。株主還元のあり方についても明確にする必要があります。というのは、内部補助を否定する者は、都市圏や幹線でのサービス向上とローカル線維持を対立させているからです。
論点3 全国の鉄道ネットワーク維持の財源
最後の論点は財源です。基幹的鉄道ネットワークの維持は国とJRの責任であり、一定の内部留保も活用するという方向性文書の記述からすると、全国の鉄道ネットワークを支える財源には、公費負担と内部留保が含まれるはずです。方向性文書では、その点には触れず、人口減や運賃値上げの限界などから「安定的な財源の確保」の必要が強調されています。
「安定的な財源」とは「幅広い受益者から負担を収受する仕組み」です。2025年12月に国土交通省が実施したアンケート(方向性文書に添付)で、ローカル線維持の方法の一つとして、ユニバーサルサービス料やクラウドファンディングへの賛同があったことを根拠としています。滋賀県の交通税(案)と共通し、一つの方向として評価できます。
しかしアンケートでは、そうした賛同は22~24%しかなく、「黒字路線の利益で維持する」や「国や地方自治体の税金など公的負担で維持する」が各々約30%でした。アンケート結果は、ローカル線の維持には公費負担(国と自治体)と内部補助、そして上記の「安定的財源」を求めています。
ローカル線問題と自治体の役割
最後にローカル線問題における自治体の役割に言及します。方向性文書は存廃いずれの場合も自治体の能動的主体的な関与の必要性が強調されています。国の責務が不明確という限界はありますが、名松線や只見線等のように住民の利益を反映した主体的な姿勢をとることが必要です。ウェブサイト「鉄道協議会日誌」で、千葉県検討会議と地域公共交通会議の議事録を確認すると、バス転換を容認する上での君津市長の主体性は見いだせず、JR任せであったと指摘されています。住民がJR主導だと批判するところでもあります。
このように見てきますと、方向性文書においてローカル線が「広域的な移動を支える役割」としてのネットワークを形成する可能性が明らかにされ、安定的な財源の模索もされている点は評価できます。これらは自治体による批判の一定の成果でもあります。
しかし一方で、ネットワークの形成を私企業に委ねていることや、収益性に基づく線区区分、さらには公費負担の限界など、自立採算性原則と自由競争原理の根本的修正には至っていません。さらに廃線が進む可能性があります。自治体はその中で主体的に住民と協力しつつ、地域・住民の利益になるようにローカル線対策に取り組むことが重要です。
【注】
- (1)『鉄道統計年報』などによる。
- (2)国土交通省資料「乗合バス路線の許可・休止・廃止状況の推移」。
- (3)JR東日本千葉支社「JR東日本久留里線について」2023年5月。
- (4)日本国有鉄道再建監理委員会事務局監修『国鉄改革ー鉄道の未来を拓くためにー国鉄再建監理委員会意見』運輸振興協会、1985年、18ページ。
- (5)日本国有鉄道再建監理委員会事務局監修『国鉄改革ー鉄道の未来を拓くためにー国鉄再建監理委員会意見』運輸振興協会、31ページ。
- (6)保母武彦「JR名松線(三重県)の全線復旧から学ぶこと」関 耕平 他『三江線の過去・現在・未来ー地域の持続可能性とローカル線の役割』今井出版、2017年。
- (7)安藤 陽 他編著『次世代につなぐ地域の鉄道ー国交省検討会提言を批判する』緑風出版、2023年。
- (8)2025年4月9日の石破首相への29道府県知事の要望。
- (9)永井孝弥「被災した鉄道の復旧形態に関する研究」(学位論文)、筑波大学理工情報生命学術院システム情報工学研究群、2023年3月84~85ページ。
- (10)各社「決算短信」と「輸送密度二〇〇〇人未満の収支」から算出。
- (11)アンケートでは、沿線住民(利用者)、都市住民の70%以上、沿線住民(非利用者)の約50%がローカル線の維持に賛同しています。
