障害福祉事業所の現状と課題
「尊厳の保障」と「市場化」の狭間で自治体がなすべきこと

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人手不足や物価高騰、報酬単価の据え置きで深刻な経営危機に直面する障害福祉事業所の現状を報告。また、一部の「ビジネス型・儲け主義」事業者による給付金不正請求など、現場の歪ゆがみや課題を浮き彫りにします。


はじめに─優生保護法最高裁判決が私たちに突きつけたもの

2024年7月、最高裁判所大法廷は、優生保護法のもとで不妊手術を強制された被害者への国家賠償を認める歴史的な判決を出しました。この判決は、憲法が保障する「個人の尊厳」や「法の下の平等」を国が著しく侵害していたことを明確に認め、全ての人が障害の有無によって分け隔てられることなく尊重される権利があることを厳粛に宣言したものです。

しかし、判決の意義を本当の意味で生かすための歩みは始まったばかりです。法的な救済が進む一方で、社会の根底には、今なお障害のある人を真に一人の人間として尊重し、共に生きようとする姿勢が十分に根付いているとは言えません。

現在、障害のある人が地域で自立して暮らすための重要な基盤である「障害福祉事業所」は、制度の歪みや社会情勢の変化の中で深刻な危機に直面しています。本稿では、特に障害者の「働く」を支える就労支援事業の現状に焦点を当てながら、いま現場で何が起きているのか、そして地方自治体が果たすべき役割は何かを考えます。

福祉施設を取り巻く厳しい現実─人手不足と物価高騰の三重苦

現在、多くの障害福祉事業所は、かつてない運営難に直面しています。その大きな要因が、「深刻な人手不足」「物価高騰」「据え置かれる報酬単価」です。

福祉は、人と人との信頼関係の上に成り立つ専門性の高い労働です。しかし、他産業の賃金が上昇する中、報酬を原資とする職員の処遇改善は追いつかず全産業平均(賞与・手当込み月給)と月額約6万3000円の格差があり、深刻な人材不足が続いています。職員が確保できないため受け入れ人数を減らさざるを得ず、さらなる減収の悪循環に陥っています。

支援する人の手が足りないことによって、障害のある人の当たり前の生活を守ることさえできなくなっている現状があります。

さらに、近年のエネルギー価格の上昇や物価高騰が事業所運営を直撃しています。利用者の生活を守るための光熱費や食材費は上がっていく一方ですが、負担をそのまま利用者に転嫁することはできません。多くの事業所が、身を削るような経営努力によって障害者の権利擁護と生活の質の維持を両立させようと懸命に奮闘しています。

就労支援における「儲け主義」の台頭

このように、多くの良心的な社会福祉法人やNPO法人などが歯を食いしばって事業を継続している一方で、障害福祉の基本理念から大きく外れ、利益の追求を最優先する事業者の問題が表面化しています。その象徴が、就労移行支援事業や就労継続支援事業などを多角的に展開していた「絆ホールディングス」(以下、絆)による、給付金の不正請求問題です。障害者の「働く」を支える福祉の現場が、いかに一部の「ビジネス型・儲け主義」の事業者に食い物にされているかを浮き彫りにしました。以下、三つの問題点を上げます。

①加算要件の偽装と給付金の不正請求

一般就労への移行実績や職員の配置基準など、国が定める「加算」の要件を満たしていないにもかかわらず、書類や実績を偽装して多額の給付金を不正に請求・受給していた点です。特に絆では、A型事業所の利用者を名簿上はグループ会社の社員として雇用し、一般就労への移行実績を偽装して「就労移行支援体制加算」を受給。その後、事業所の利用者に戻すというやり方を繰り返すことで、大阪市から約80億円もの加算金を不正受給していました。

②「障害者ビジネス」としての囲い込みと質の劣化

こうした事業者では、利用者を「一人当たりいくらの報酬を生む存在」として計算する傾向が強くあります。耳障りの言い宣伝文句で障害者を集め、実際には適切な就労の場や移行のための支援を提供することなく、個別の意思決定支援、権利擁護がおろそかになっているケースが散見されます。利用者の自立のためではなく、事業所が給付金を得続けるために利用者を「囲い込む」といったことも起こっています。

③「市場参入」の死角と利益至上主義への傾斜

2006年の障害者自立支援法施行以降、障害福祉分野への民間企業の参入が広く認められるようになりました。事業所数が増え選択肢が広がったかに見えますが、利益の最大化を至上命題とする一部の事業者が、公的な資金からいかに効率よく利益を搾り取るかという、歪んだビジネスモデルを生み出す結果につながっています。

就労継続支援(A型・B型)を巡る状況

障害者の「働く」を支える就労支援事業、特に「就労継続支援A型」(雇用契約を結ぶタイプ)と「就労継続支援B型」(雇用契約を結ばず、生産活動の工賃を支払うタイプ)も、ビジネス化の波と制度の限界に直面しています。

①就労継続支援A型の「スコア方式」と経営の歪み

A型事業所は、障害者と労働契約を締結し、最低賃金以上の給料を支払うことが義務付けられています。かつて、国からの給付金をそのまま利用者の給料に回し、自ら事業収入を上げないA型事業所が横行したため、国は法改正を行い、「給料は原則として事業の利益から支払わなければならない」というルールを作りました。さらに現在は、成果(労働時間、生産活動収入、一般就労への移行実績など)を点数化する「スコア方式」が導入され、スコアに応じて国から支払われる報酬単価が変動する仕組みになっています。

この仕組みは、真面目に工賃を上げている事業所を評価する一方で、大きな副作用を生んでいます。作業効率の上がりにくい、比較的重度の障害のある人をA型事業所から排除したり、スコアを維持するために、利用者の希望にかかわらず無理な短時間勤務を強いたりする事態などが発生しています。

②就労継続支援B型の臨時報酬改定の問題点

就労継続支援B型は、一般企業で働くことが難しい障害者に、働く場を提供する事業です。利用者に支払われる「工賃」の全国平均が月額約1万7000円と低く、工賃引き上げや事業所運営の安定に向けた制度改定が進められてきました。

2026年度臨時改定では、事業所急増による国の予算逼迫ひっぱくを抑えるため、6月以降「新規事業所の基本報酬を引き下げる」という前例のない措置が取られました。また、既存の事業所も、国が支給する報酬区分の基準となる平均工賃月額が3000円引き上げられました。そのため、利用者の工賃を上げられない事業所は、国から受け取る報酬が下がってしまう仕組みとなりました。

国は、「サービスの質の向上(工賃引き上げや一般就労への移行促進)のため」と主張しますが、本当にそうなるのか。利用者の障害特性や地域条件などにより工賃引き上げが容易でない既存の事業所では、報酬が減り経営難に陥るなど、本末転倒ではないかとの指摘もあります。

国の対策への疑問─利用契約制度は福祉に馴染むか

国は、これらの対策について、サービスの質の向上や不正防止を目的としていると強調します。他にも「指導監査の厳格化」「過剰な参入を防ぐ総量規制の適用拡大」などの措置を講じようとしています。

しかし、これらの対策はあくまで「対症療法」にすぎず、問題の根本的な解決につながるのかは極めて疑問です。障害者福祉にが本格的に導入されて20年、市場原理がもたらした実態を確認し、本来の在り様を検討していくことが必要になっています。

支給決定権者の地方自治体は何をすべきか

では、国が作った枠組みの中で、障害者の福祉と生活の最後のとりでとなる「地方自治体(市町村・都道府県)」は、どのような役割を果たすべきでしょうか。

市町村は、「支給決定権者」であり、地域における福祉の基盤整備に直接の責任を持つ当事者です。自治体は、国から与えられた事務を淡々とこなすだけの窓口であってはならず、地方自治の本義を発揮することが求められています。

①「公的なセーフティネット」としての基盤整備と直接経営

「重度障害」「行動障害」「医療的ケアが必要」の人のための事業所が不足しています。地域の状況を正確に把握し、社会福祉法人などへの財政的支援(単独補助)を行うか、公設の施設を維持・整備するなどの方策があります。「誰も取り残さない」ための受け皿作りが必要です。

②単なる「書類チェック」を超えた伴走型の指導監督

現在の監査は、人員基準や書類の整合性を確認する「形式的なチェック」に偏りがちです。本当に大切なのは、利用者がそこでどのような支援を受け、尊厳が守られているかという実態です。専門職を中心としたチームを構成し、日頃から事業所に足を運ぶという「伴走型」の関わりが大事です。不正の早期発見だけでなく、真面目に奮闘している事業所の課題をいち早く察知し、独自の支援策につなげることができます。

③支給決定プロセスにおける「意思決定支援」の徹底

障害福祉サービスの支給決定を行う際、機械的な基準で当てはめるのではなく、本人がどのような暮らしを望んでいるかを丁寧に聞き取ることを徹底する必要があります。本人の声が反映されないままの契約とならないよう「公共」を支える中核に自治体がなるべきです。

伴走型監査や丁寧な意思決定支援を行うには、自治体職員にも高い専門性と時間的余裕が必要です。しかし多くの自治体では職員不足や非正規化が進んでいることも見逃せない状況です。

おわりに─社会福祉法改正の動向とこれからの地域社会

福祉を巡る状況が激変する中、6月19日に、「社会福祉法等の一部を改正する法律案」が、国会で成立しました。改正内容として、福祉人材の確保や処遇改善に向けた法的な枠組みの強化、そして事業者の経営基盤の透明化やガバナンス(組織統治)の強化などが盛り込まれています。

しかし日本障害者協議会(JD)が指摘するように、人員配置基準の緩和は地域間格差やサービスの質の低下につながり、包括的支援の名のもとに、障害福祉を介護保険へと統合させようとする意図が見え隠れしています。当事者不在のままに効率化や保険原理を優先させることは、制度を後退させることにつながります。

国が示す画一的な制度の限界を見据えながら、地域の住民に最も近い地方自治体が、福祉の質を担保し基盤を支えていくことが必要です。今年は障害福祉計画の見直しが、全ての自治体で行われる年度にあたります。真に「障害のある人と共に生きる社会」を足元から創り出していくことが必要です。

雨田 信幸

1966年11月、大阪市生まれ。いのちのとりで裁判全国アクション運営委員などを務める。共著に『“次期”介護保険改悪と障害者65歳問題』(日本機関紙出版センター、2023年)など。

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