【論文】人口減少社会に向けた農村・都市・国土計画

  • 中山 徹(なかやま とおる)
    奈良女子大学教授

2014年12月15日

月刊『住民と自治』 2015年1月号 より

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政府は人口減少を前提とした国土のあり方を示しました。地方に示されたのはコンパクト+ネットワークですが、それをどのように考えたらいいのでしょうか。

人口減少社会は不可避

1 このまま進むと人口減少率は世界一位

日本の人口は人口統計を取り始めてから一貫して増え続けました。二〇世紀になった頃(一九〇〇年)、日本の人口は四三八四万人でした。それが増え続け、一九六七年に一億人を超え、二〇〇四年には一億二七七八万人に到達しました。ところが二〇〇五年に初めて日本の人口が減少しました。減少幅は一万九〇〇〇人でした。その後、一進一退を続けましたが、二〇一一年から本格的な人口減少が始まりました。

国立社会保障・人口問題研究所の将来人口推計によりますと今後、人口は減り続けます。二〇一三年は一年間で二一万七〇〇〇人程度の人口減でしたが今後、減少幅が増大し二〇三〇年頃からはおおよそ年間一〇〇万人程度の人口減となります。そして二〇四八年には九九一三万人と一億人を割り込み、二二世紀を直前にした二一〇〇年には四九五九万人となります。この値は一九一一年(明治四四年)とほぼ同数です(出生中位・死亡中位の推計値。以下同様)。

2 万全の少子化対策を取っても人口減少は避けられない

日本の人口が減り続けるのは出生率が低迷しているからです。かつて三・〇を超えていた日本の合計特殊出生率は、徐々に低下しましたが、それでも高度経済成長期は、二・〇を超えていました。しかし一九七四年の二・〇五を最後に出生率は二・〇を割り込み、二〇〇五年には一・二六まで低下しました。その後、若干回復していますが、二〇一二年で一・四一です。

抜本的な少子化対策をとり、出生率を回復させることが重要です。フランスは一・七〇まで下がった出生率を二・〇〇まで引き上げ、スウェーデンは一・五〇を一・九〇まで回復させています。このような国々の経験に学び日本でも出生率の回復を目指すべきです。先進国の医学の水準では、出生率が二・〇七ですと長期的に人口が安定すると言われています。

人口の国境を越えた移動を無視しますと、人口の増減は出生数と死亡数の差で決まります。前者が多ければ人口は増え、後者が多ければ人口は減ります。二〇一三年、日本の出生数は一〇三万人、死亡数は一二五万人、その差二二万人が人口減です。今後高齢化が進むため、死亡数は増え続け、二〇二四年には一五一万人になるとされています。そして二〇三〇年には一六一万人となり、二〇四九年まで一六〇万人以上の死亡数で推移すると予測されています。

一方、出生数は減り続け、二〇二三年には七九万人と八〇万人を割り込み、二〇三七年には六九万、二〇四七年には五八万人になり、その後も減り続けます。その結果、二〇四〇年には人口減が年間一〇〇万人を超え、二〇七六年まで年間一〇〇万人以上減り続けます。

さて、以上は将来予測ですが、もし日本で出生率を二・〇程度まで回復させることができたら、このような人口減少は生じず、人口を維持できるのでしょうか。話を単純にするため、一〇歳間隔で人口を見ます。二〇一二年で四〇歳の人は一九八万人、三〇歳の人は一五六万人、二〇歳の人は一二一万人、一〇歳の人は一一七万人、そして二〇一二年に生まれた人は一〇四万人です。四〇歳の人は団塊の世代の子どもで、第二次ベビーブームの世代です。

次に三〇年後の二〇四二年を考えます。二〇四二年に四〇歳になる人は、二〇一二年時点で一〇歳の人のためおおよそ一一〇万人、三〇歳になる人は二〇一二年に生まれた人なので約一〇〇万人です。二〇一二年と比較すると六割程度に減ります。三〇年後に四〇歳、三〇歳になる人はすでに生まれているため、今後いかに少子化対策を進めても増えません。

今後、抜本的な少子化対策をとり、出生率を一・四から二・〇まで四割程度上昇させたとしても、子どもを産む世代の人数が四割程度減るため、出生数は現状維持となります。一方、死亡数は増えるため、年間数十万人単位での人口減少は避けられません。

もちろん出生率を二・〇まで上げるのは容易ではありません。二・〇というのは一九六〇年代~七〇年代の値です。それができても、人口減少幅が年間一〇〇万人から年間五〇万人に減るだけであり、人口が維持されるわけではありません。

3 政府の人口目標

政府は二〇一四年六月に「経済財政運営と改革の基本方針2014(骨太の方針)」を閣議決定しました。この骨太方針では中長期的な対策を重視しており、その柱が少子化対策です。そこで示されたのは、「50年後にも1億人程度の安定的な人口構造を保持する」という目標です。

そして国土交通省は二〇一四年七月に、「国土のグランドデザイン2050」(以下「グランドデザイン」と呼ぶ)を策定しました。もし、今のまま推移すると二〇五〇年では、人口が九七〇八万人となります。それに対して出生率を二・〇七まで引き上げると、二〇五〇年で人口は一億人、その後も穏やかに人口は減りますが、九一〇〇万人~九五〇〇万人で安定するという試算を示しました。

これが最近、出された政府の考えです。先に見たように出生率を二・〇七まで引き上げるのは容易ではありません。もし、少子化対策に失敗したら日本の将来は相当厳しくなります。長期的に見ると少子化対策が日本の命運を握っているのは間違いありません。ただし、少子化対策が順調に進んだとしても、現在よりも二五%程度の人口減となります。少なくとも数十年間は日本で人口が増えることはあり得ず、人口減少は不可避です。日本のこれからの農村、都市、国土計画を考える場合、この点を前提にしなければなりません。

安倍政権が示した人口減少社会の国土計画

1 スーパー・メガリージョンの形成

安倍内閣はグランドデザインを策定しました。このグランドデザインで示された国土の方向性は二つです。一つ目は、リニア中央新幹線によって国土構造を大きく変えることです。二〇五〇年までにリニア中央新幹線が東京~大阪を結びますと、三大都市圏が一時間で結ばれ、世界最大のスーパー・メガリージョンが形成されるといいます。東京~大阪が一時間で移動できるため、三大都市圏が一体化し、三都市間の移動が都市内移動のようになります。そのような流れを促進させる施策を展開すれば、「圧倒的国際競争力を有する世界最大のスーパー・メガリージョンが我が国を牽引し、大都市圏域は国際経済戦略都市となる」といいます。

要するに、リニア中央新幹線をきっかけに、東京~名古屋~大阪の一体化を進めるような施策を展開し、全国的に人口が減少しても、国際競争に勝てる大都市圏を形成するということです。

2 コンパクト+ネットワーク

一方、地方に対して示されたのは、コンパクト+ネットワークです。これには二種類あります。一つ目は「小さな拠点」です。これは集落が散在するような地域に、商店や診療所など日常生活に不可欠な施設を集積させた地区を形成することです。大きさは歩いて動ける範囲を想定しています。このような「小さな拠点」と周辺地域をネットワークでつなぎ、農山村の生活を維持するとしています。

もう一つは地方都市です。「市役所、医療、福祉、商業、教育等の都市機能や居住機能を、都市の中心部や生活拠点等に誘導し」コンパクトシティの形成を図りつつ、公共交通ネットワークで周辺と連携させるといいます。さらに「複数の地方都市等がネットワークを活用して一定規模の人口を確保し…相互に各種高次都市機能を分担し連携する『高次地方都市連合』を構築する」としています。想定しているのはおおむね人口規模が三〇万人以上の都市圏です。

要するに地方では人口の大幅な減少が避けられません。そのため、各地域が自立するのは困難であり、コンパクトとネットワーク形成でがんばれということです。

3「国土のグランドデザイン2050」の問題点

グランドデザインでは地域ごとの将来人口推計を行った上で、コンパクト+ネットワークを提案しています。二〇一〇年では全国の人口が一億二八〇五万人、三大都市圏の人口が六五四五万人、それ以外の人口が六二六〇万人です。それが二〇五〇年には全国の人口が九七〇七万人、三大都市圏が五三〇六万人、それ以外は四四〇一万人になると予測しています。人口減少率は、全国で二四%の減、三大都市圏は一八%減、それ以外は二九%減です。その結果、三大都市圏の人口比率は五一%から五四%に上昇します。

グランドデザインでは人口減少を前提に国土の将来像を描いています。ただし、地方では今後三〇%程度人口が減るという予測を与件とし、大幅な人口減少をコンパクト+ネットワークで乗り越えようとしています。一方、三大都市圏ではリニア中央新幹線などのインフラ整備を進め、スーパー・メガリージョンを形成し、全国的に人口が減少しても、東京の国際競争力を強化しようとしています。

二〇世紀の国土計画は、将来予測される国土のひずみ、つまり大都市圏への人口集中を国土計画で改善しようとしていました。もちろん計画内容が妥当であったか、目標が達成されたかは議論しなければなりません。ところがグランドデザインは、将来予想される大都市圏への人口集中を国土計画で改善するのではなく、その集中を与件として国土の姿を描いています。この点がグランドデザインの最大の問題です。

新たな国土計画、地方創生でもたらされること

1 グランドデザインで想定以上の東京一極集中が進む

グランドデザインでは東京~大阪をリニア中央新幹線で一時間以内で結ぶと東京、名古屋、大阪が一体化されるとしています。しかし、一時間以内になっただけでは一体化されません。大阪と名古屋は以前から新幹線で一時間以内ですが、一体化されていません。社会資本整備重点計画を見ても、公共事業を大都市圏に集中させようとしています。今後、東京オリンピックに向けたインフラ整備、リニア中央新幹線に関連するインフラ整備、成田・羽田空港関連の整備等を優先的に進めますと、全国的には人口が減りますが、首都圏ではあまり人口が減らず、予測を超えた東京一極集中が引き起こされそうです。

一方、グランドデザインでは、二〇五〇年までに三大都市圏以外では人口が三〇%程度減ることを前提としています。そのため過疎化は今後も進みます。しかし、グランドデザインを進めると東京一極集中が前提以上に進みそうなため、地方は三〇%程度の人口減少ではなく、それ以上の人口減少が生じると思われます。

2 コンパクト+ネットワークはコスト削減の新たな方策

小泉構造改革では市町村合併、地方向け公共事業費の削減、地方交付税の見直しなどで地方向け予算の削減を進めてきました。今回、新たな仕組みとして考えられているのは道州制です。道州制で予算を削減し、それをてこに市町村合併をもう一度進めれば、地方向け予算の削減をさらに進めることができます。

一方、市町村合併で予算を削減しましたが、その多くは人件費の削減によります。行政区域を合併させても、人々が元の地域で住んでいる限り、行政需要に対応したコストは簡単に減りません。ここを大きく減らすためには、人々を集めて住むようにしなければなりません。たとえば、ばらばらの集落に住んでいると一日に二軒しかへルパーさんは訪問できませんが、都市部に集めると一日に四軒回ることができます。このように人々を集めて行政コストの引き下げを進めようとするのがコンパクトシティの一つの狙いです。

3 地方創生をどう見るべきか

二〇一二年に誕生した安倍内閣は、小泉内閣以上の構造改革路線を掲げ、消費税率の値上げ、TPP、法人税率の値下げ、雇用規制の緩和、首都圏のインフラ整備などを進めています。小泉構造改革は様々な問題を引き起こしましたが、中でも地方経済の衰退はひどく、二〇〇七年の参議院選挙、二〇〇九年の衆議院選挙で自公政権が負けた大きな原因となっています。構造改革をさらに進めようとしている安倍内閣にとって、東京一極集中→地方の衰退→反安倍内閣の世論形成はどうしても避けなければなりません。

そこで用意されたのが地方創生です。地方創生は政府が主張するようにバラマキではなく、競争的資金です。そのため、なぜ地方が衰退しているのかなどを考えず、目先の財源確保に向けて自治体は一斉に走り出しています。本格的な構造改革を進めながら、地方創生を進めようとしても大半の地域ではうまく進まないでしょう。しかし、地方衰退の本質が覆い隠されると、うまく進まないのは地方の努力が足りないからだという自己責任論になってしまいます。

また地方創生の個々の予算には実態がある程度反映されています。しかし、競争的資金の内容を決めるのは政府であり、それは政府の意図で方向付けられています。その方向は構造改革であり、地方創生を進めれば進めるほど、地方の衰退は進みます。

国土の目標像

1 コンパクトではなく既存集落の維持

コンパクト+ネットワークは、人口減少とともに地方向け予算を減らしても、一定の生活が成り立つ空間的目標像として提案されています。そのため、コンパクトの是非ではなく、地方での大幅な人口減少という設定がそもそも妥当かどうかを考えなければなりません。日本が抱える問題は多岐にわたりますが、大きな問題としては、安全な居住地の確保、安全で地域性豊かな食糧の安定供給、安全で安定したエネルギーの供給、安定した雇用、社会保障・教育条件の整備、多彩な文化の継承等々を上げることができます。

地方は、食料、エネルギーの供給基地としての潜在的可能性が高いといえます。地方には様々な文化が蓄積しており、それらが全体として日本の豊かで多様な文化を形成しています。一方、このまま事態が進みますと大都市圏では急速に高齢化が進み、高齢者対策が追いつかないでしょう。また、大都市は経済効率優先でつくられたため、危険で過密な空間となっています。国土全体で人口の減少が避けられない中で、これらの問題を解決する方向を考えなければなりません。

その場合、地方を食料、エネルギーの供給基地、社会保障の受け皿、観光資源として位置づけ、それを通じた安定雇用の確保を進めた方が望ましいといえます。日本の食糧自給率は三九%、木材の自給率は二八%です。これらが八〇%ぐらいまで上がると農山村でかなりの雇用が発生します。ちなみに一九六五年の自給率は各々七三%と七一%です。

今後、全国的に見ますと二〇四〇年ぐらいまでは高齢者数が増え続けます。しかし、地方では二〇二〇年あたりから高齢者数はほぼ一定となります。高齢者が急増するのは首都圏などの三大都市圏です。特に東京都では高齢者が急増し、高齢者施設の利用者数も増えます。二〇一〇年と単純に比較しますと、二〇二五年には約二・五倍の利用者となり、これらの高齢者数を前提とした施設を東京都で整備するのは困難です。六〇歳前後で定年退職した人々は元気で、要介護状態の人はごく少数です。労働力としても期待できます。自然豊かな地域で第二の人生を歩みたいと考える人は多く、地方はそれらの人々を積極的に受け入れるべきです。後期高齢者になると要介護状態になる人も出てきますが、それとともに雇用も生まれます。地方では社会保障分野の雇用が重要な位置を占めています。ここが減りますと地方の雇用状況がますます厳しくなります。

食料、エネルギー、観光、社会保障で地方が積極的な役割を果たしますと、地方でかなりの雇用が確保できます。かつての国土計画では工場の地方移転で雇用を確保しようとし、また公共事業費の傾斜配分で雇用を確保してきました。今後は第一次産業、エネルギー、社会保障分野で雇用を優先的に確保すべきです。この分野での安定した雇用は政策によって拡大することが可能です。日本全体では人口が減りますが、地方ではできるだけ人口を維持した方が、先に上げた日本が抱える問題を解決しやすくなります。

地方の人口維持が前提になりますと、コンパクトは安全確保などを進めるための例外措置となります。むしろ既存集落を維持しながら食料、エネルギー供給源としての役割をどう果たすべきか、高齢者や観光客の受け入れ先をどう確保するかが重要となります。コンパクト+ネットワークではなく、既存集落の維持+ネットワークです。

2 巨大都市化ではなくゆとりの回復

都市部では災害に対する安全性の向上、急速な高齢化の回避、自然と歴史の回復、住宅をはじめとした居住環境の向上を進めるため、人口減少を計画的に進めるべきです。

人口減少で生み出された空間を、公園緑地の拡充、公共施設のゆとり確保などに充てるべきです。また活断層の上部、土砂災害危険区域など災害危険区域に居住している人たちが移り住める宅地として位置づけるべきです。子どもの数が減ると小学校の統廃合を考えがちですが、学級の人数を減らし、教育条件の向上を進めるべきです。人口急増期に都市の景観がかなり乱れましたが、建物の低層化を図り、都市景観の回復も進めるべきです。

国際化も重要です。しかし、スーパー・メガリージョンを形成し、世界最大の人口を確保することが国際競争に勝つ方法ではありません。安全、文化、歴史、自然等が確保されている都市が、国際都市として成功するでしょう。日本の大都市は、人口減少を積極的に生かし、現存する諸問題の解決を進めた方が国際都市として発展できると思われます。コンパクト化は地方向けに提案されていますが、むしろ大都市部でコンパクト化の可能性を検討したらいいと思います。特に一九七〇年代から八〇年代に開発された郊外の小規模住宅団地では、これから人口の減少幅が大きくなります。そのような地域では、市街地の計画的な縮小が必要な場合もあります。

さいごに 地域におけるトリクルダウン理論を乗り越えるべき

グランドデザインでは、三大都市圏のインパクトを地方拠点都市に波及させる、地方都市のインパクトを農山村に波及させる、「小さな拠点」と周辺集落をネットワークで結ぶとしています。インパクトの波及は大規模から小規模です。これは、大企業が栄えれば中小企業も栄え、労働者の所得も上がるというトリクルダウン理論の地域版です。

しかし、地方の活性化を考える場合、農山村で安定した雇用をまず確保し、それで得た所得で「小さな拠点」を維持すべきです。そのような集落が地方都市の公共施設、商業施設を支え、それらの地方都市が地方拠点都市を支えるように考えなければなりません。インパクトの波及は小規模から大規模にすべきです。

そのような視点に立てば、最初に整備するのは最も小さな農山村の周辺集落であり、そこが限界集落のような形で放置される限り、地方と国土の再生は困難です。

2014年12月15日

月刊『住民と自治』 2015年1月号 より

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