【論文】孤独死を起こさせない豊中市社会福祉協議会の取り組み-高齢者の孤立・引きこもり、8050問題

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この30年で生活困窮が広がり、頼る人がない人間関係の貧困も深刻です。地域共生社会実現には、自治とつながりの再構築が大きなカギ。「助けて」と言い合うことがポイントです。

はじめに

「台風が来るが一人暮らしでベランダの植木鉢を運べない」「大型ゴミの搬出ができない」「近くのスーパーがなくなって買い物に行きたくてもいけない」「妻が認知症で共倒れになりそう」「50になる息子の引きこもり状態が30年も続き、このままこの子を置いて死ぬことができない」「身寄りがなく死後のことが不安。入院しても保証人がなくて手術を受けることができない」「物価高騰で(年金の振り込まれる)偶数月の月初めになると食べるものが足りない」など、社会福祉協議会には地域から毎日待ったなしのSOSが入ってきます。この30年で地域は生活苦(=生活困窮)が広がり、孤立孤独は単身化・高齢化で頼る人も支援者もいない人間関係の貧困も深刻になってきました。高齢者対策大綱が令和6(2024)年9月に出されましたが、今地域で何が起こっているのか、人間関係の貧困を中心に現場が抱える課題を報告します。

社会福祉協議会の活動

社会福祉協議会は地域福祉を推進することを目的とした社会福祉法人です。私たち豊中市社会福祉協議会は、阪神淡路大震災をきっかけに、孤独死を起こさない地域づくりを進めてきました。一人暮らしの高齢者や老々介護、、ひきこもり、子供の貧困など、地域で気になる人に対して地域住民や事業者などによる見守り活動を拡げ、6年前の大阪北部地震の際には、4時間で1万2000世帯の見守りを行えるような自治的な地域活動を創ってきました。また、平成16(2004)年から全国に先駆けて大阪市、豊中市で制度の狭間にいる人たちを支援していくコミュニティソーシャルワーカーを中学校区ごとに配置したことで、地域住民の発見(=ニーズ把握)と解決(=課題解決)を行うセーフティネットの仕組みが生まれました。それによりゴミ屋敷、ひきこもり、8050問題、ホームレス、ヤングケアラー等の子どもの貧困など様々な制度の狭間にある人たちを地域住民とともに支え、支えていくための地域の仕組みづくりを行ってきました。

*8050問題:80代の親が、自立できずに自宅にひきこもる50代の子どもの生活を支え、社会から孤立し経済的に困窮して行き詰まってしまう問題。

高齢者をめぐる地域で見えている課題

(1)孤立・身寄り問題(=人間関係の貧困)

一人暮らし高齢者は増え続け、ちょっとした困りごとを自分で解決できないお年寄りが増えています。電球交換ができない、スマホの操作が分からない、大型ゴミの搬出ができない。いずれも介護保険を受ける状況でなくても、サポートしてくれる人のいない人がたくさんいます。さらに、緊急連絡先や入院手術時の保証人がいないために住居の転居や施設入所、手術や入院時にも影響を受けている人が多くいます。

介護保険導入に伴い福祉サービス利用手続き支援や金銭管理事業としてスタートした日常生活自立支援事業は、今日の単身化、身寄りのない人たちの増加、高齢化などの影響で利用対象者はますます増加傾向にあります。予算の限りもある中、ここ数年、対象者の増大で、待機者を抱えて積極的な利用を促進していくことも困難な状態が続いています。

一方、成年後見制度の利用促進が続いているものの、いったん後見人が受任すると生涯にわたり報酬が発生すること、希望する後見人が選択されないこと、専門家が後見人になると高額な報酬がかかること、制度を途中でやめられないことなど多くの課題もあり、令和4(2022)年に国連からの廃止勧告もありました。これらを受けて、成年後見制度はスポット的な後見制度へと制度改正が求められ、意思決定支援や手続き支援、金銭管理などをトータルで行う日常生活自立支援事業への期待はさらに高くなっています。このままの体制では持続可能な事業としては難しく、財政的にも、全国一律の支援をしていくためにも、国の制度見直しが求められています。さらに、この事業では対応困難な保証人問題、死後事務委任等の課題についても整理が必要です。身内ありきで考えられてきた日本型社会福祉は限界を迎えています。

(2)認知症の増大・男性介護者の孤立

令和7(2025)年、いわゆる団塊の世代800万人が75歳以上つまり後期高齢者となり、65歳以上の認知症患者が5人に一人になると言われています。老々介護の家庭は増え、昭和62(1987)年に豊中市社会福祉協議会が実施した介護者の調査では妻、娘が上位でしたが、3世代同居が減り、夫婦で介護する世帯や単身世帯が増大しています。特に地域とつながりがなく、孤立しがちな男性介護者は家事や介護ができず、そして弱音が吐けません。介護保険は本人へのサービスとともに家族を孤立させないことが求められます。男性介護者は言います。「女性の下着売り場に買い物に行けない」「屋外で妻を連れて女性トイレに介助にいけない」「まだまだ自分が介護をしないといけない」と共倒れ寸前で発見されることも多くあります。男性介護者の組織化や男性が参加できる等も全国的にはまだまだ少なく、男性介護者へのつながりづくりは喫緊きっきんの課題の一つです。

*オレンジカフェ:認知症の人やその家族、ボランティア、地域住民、 介護や福祉などの専門家などが気軽に集える場。認知症支援のシンボルカラーがオレンジであることからくる。

(3)定年後の男性のつながり居場所づくり

高齢者の介護予防を推進していく生活支援体制整備事業の中でも、特に男性の社会参加の場は全国でなかなか構築できていないのも実情です。

都市部の定年退職者は、これまでつながりのないまま生活しているために〝産業廃棄物〟などと揶揄やゆされる始末です。会社と家の往復、転勤でそもそも自宅にいない男性たちが、定年により会社人間から地域へと言われても地域の活動になじめず、地域のつながりづくりサロンなども女性に圧倒され、なかなか参加できずに孤立しています。定年後の男性のつながりづくりへ、平成28(2016)年から豊中市では、有志から宅地を無償で借りたことをきっかけにその宅地で共同農園を行う「豊中あぐり」をスタートさせました。現在は9カ所に広がり、競争社会から共生社会を目指していくこの取り組みは全国から大きな注目を集めています。健康寿命も延び、野菜の移動販売車「豊中あぐり 動くマルシェ」、子ども食堂への野菜の提供、高齢者宅でのゴミ出し、海外赴任していた人たちは多文化ボランティアなどとしても活躍し、会員も180名になりました。生産性と役割と社会貢献が揃うこれらの取り組みは、大いに全国への教訓になると考えています

イギリスでも定年後の男性のため「男の家(男の小屋)」という拠点を作り、DIY等を行っていることがわかりました。定年後の男性の孤立は、先進国の共通の課題ということです。65歳以下の女性についても、男女雇用機会均等法のもとで、今後は地域とつながらない新たな女性の層も生まれてきます。こうした女性たちへの新しいプログラム開発も求められます。

(4)8050問題などの引きこもり親子は社会的課題

引きこもり家族は、近所からも親戚からもどんどん孤立していきます。80代が過ごしてきた時代は、経済は右肩上がりで高度経済成長の時代でした。一方、50代はリストラ、非正規雇用等の時代です。時代の違いを受け入れられず、親子が一触即発の状況の家庭も多くあります。

8050問題は9060問題へと進行し、90代の親は入所、入院、死去等となり、生活力の乏しい60代前半の人が残されSOSを出せずに、ゴミ屋敷など家の管理ができない状態で近隣の困りごととして登場する人も多くいます。

引きこもり状態だった本人が、働きたいと思ってハローワークに行ったとします。職歴も学歴もずっとなかったりすると、仕事に就くことはなかなか難しいです。病気や障害があるというわけではなく、高齢でもなければ社会保障の制度につながることも難しい。そのままチャンスを見つけられず、ずっと家の中に閉じこもる状態が続いてしまいます。昼夜逆転の生活になったりして、ますます社会から遠ざかってしまいます。月日が重なり、10年、20年、場合によっては30年ぐらい引きこもりが続いているケースもあります。

今ある制度は、そうした人たちが取りこぼされてしまっています。解決の難しさもあって、具体的な解決策をはっきり示した制度がありません。最初の一歩を踏み出す機会をつかめないままでいるから、引きこもりが続いているのです。自己責任論と社会的孤立の中で見えなかった引きこもり問題は、社会的課題であると啓発し、親が元気なうちに地域の機関とつながることが求められています。

最後に─地域共生社会は実現するのか

2025年になり、介護保険の現場は人手不足、ケアマネジャーやヘルパーは70代でも活躍しています。人口減少からすべての業種で人手不足となり、定年延長・定年廃止を掲げる企業も広がっています。年金の受給年齢は引き上げられ、物価高騰も進み、一生働き続ける人たちが広がる中、地域で支え合うということは本当に可能なのかと危機感を感じざるを得ません。

自治会の組織率は減少し、PTAの解散など、余裕を失い、自分の生活だけで精一杯な社会になっています。そして、生活の余裕のなさを支えるサービスは地域に増え、なりわいとして福祉サービスを行うNPOや事業所は増えました。福祉サービスは購入するようになり、買える人たちと買えない人は分断されました。プレーヤーは増えても地域を作るという視点でつながらないと、SOSはますます言い出せなくなっていきます。子どもの自殺率は年々増大しています。自己責任が問われ、「助けて」と言えない社会へと社会的孤立は深刻化しています。

そんな中で、私たち社会福祉協議会では、ゴミ出しや電球交換を地域で支え合ったり、オレンジカフェで支え合ったり、「豊中あぐり」で居場所を見つけたり、地域の見守り活動で声をかけてもらったり、外国にルーツのある人たちとたこ焼きパーティをしたり、子ども食堂を運営したりと、多くの人のつながりが人を元気にしています。このように、仕事や家族以外の地域に多様な居場所や役割を見出すことができない人たちのために、地域に多様な居場所や役割、出番を作っていくことが、自分の問題を社会の問題としてとらえ、課題を社会化していく近道になります。地域共生社会は、自治とつながりの再構築が大きなカギだと感じて奮闘しています。自己責任からの解放で「助けて」と言いあうことがつながりを生み出すポイントだと考えます。

【注】

勝部 麗子

入職以来、地域組織化活動や地域福祉計画、活動計画に携わる。NHKドラマ10「サイレントプア」(2014年放映)のモデルとなり、同ドラマの監修を務めた。著書に『ひとりぽっちをつくらない―コミュニティソーシャルワーカーの仕事―』(全国社会福祉協議会、2016年)など。

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