戦争できる国づくりと自治体の役割

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Ⅰ 戦争できる国づくりの現段階

1 集団的自衛権を行使するための戦力の抜本的強化

2015年に平和安全法制が制定されて何が大きく変わったかというと、日本のそれまでの憲法解釈は、日本は集団的自衛権はあるけれども憲法9条があるからそれを行使することはできないというのが、日本政府の公式な見解でした。それを安倍内閣が、「一定の条件の下であれば集団的自衛権を行使できる」と変えてしまいました。これは戦後の極めて大きな転換点でした。

戦争できる国づくりが本格的に動き出したのは2022年の安保三文書の改定で、一つは日本国憲法の下で敵基地攻撃能力を持ってもいいということが明記されたわけです。もう一つは、それまで日本の防衛予算はGDPの1%であったものを、2027年には2%まで引き上げるとしました。

その結果、わずか5年ぐらいの間に次々と南西諸島で新たな基地が造られています。既に今年度予算で1兆円以上の整備費がついて、種子島の西側にある無人島、鹿児島県馬毛まげしま全体に今、基地が整備されています。2030年完成予定で、自衛隊だけでなくアメリカ軍も使います。また、7月9日にオープンしましたが、佐賀空港に隣接して佐賀駐屯地を造り、今自衛隊が持っている17機のオスプレイを全部ここに移していく計画です。

広島県のくれ市では、陸海空の3自衛隊が共同で使う複合防衛拠点を整備する構想があります。日本製鉄の製鉄所跡地130ヘクタール、小学校区一つ分ぐらいの広さのところへ、自衛隊基地だけでなく無人機等を製造するための民間企業も誘致するのですから〝複合防衛拠点〟です。

基地だけではありません。自衛隊や海上保安庁が民間の空港・港湾を円滑に利用できるように、特定利用空港・港湾の指定を行っています。平時は民間の飛行機が飛び、自衛隊も訓練で利用します。有事の際は部隊展開を行うというもので、必要なインフラ整備、例えば滑走路を延長するとか岸壁を整備します。九州や北海道に多く、すでに3次の指定が行われています。自衛隊の施設から港に至るまでの道路を整備するため、道路も今回から特定利用空港・港湾の指定に入ります。

土地利用規制法も既に制定されています。内閣総理大臣は、注視区域、特別注視区域にある土地建物の所有状況、利用状況を調査し、機能阻害行為に対して勧告・命令することができます。すでに全国で500カ所以上が区域指定されていますが、そのうち自衛隊基地が一番多くなっています。自衛隊基地、米軍基地、海上保安庁の施設などから大体1キロ圏内が注視区域、特別注視区域に指定されています。地元の市町村に指示して調査をさせて、それでもし自衛隊の基地機能を阻害するような行為があれば内閣総理大臣が勧告・命令することができるという法律です。

さらに、特別注視区域内で所有権の移転を伴う場合は、あらかじめ内閣総理大臣に届け出なくてはなりません。私の専門は都市計画ですが、基地から1キロとなると、都市部でしたらかなりの住宅もあるため、これは結構大変です。しかもまちづくりというのは、戦後の都市計画法では、都市計画を決定するのは都道府県か市町村ですが、今回は内閣総理大臣です。防衛に関する土地利用は内閣総理大臣が直接やるように動いています。

そういう防衛体制の強化をやりながら、もう一方では戦争を想定した避難計画の作成をすでに始めています。具体的に策定しているのは沖縄県の先島諸島です。宮古島みやこじま市、石垣いしがき市、竹富町たけとみちょう与那国町よなぐにちょう多良間村たらまそんです。この五つの自治体で有事を想定して、住民と観光客も併せて12万人を九州・山口県へ避難させる計画を2、3年前から進めてきて、この3月に最新の計画を発表しています。

例えば石垣島だったら、石垣島の空港から飛行機で福岡空港まで行って、そこから地下鉄で博多駅まで行く。そこから新幹線に乗って新山口駅まで行き、そこから指定されているホテルや旅館にバスとか徒歩で行く。こういう計画を12万人分も作って、「石垣市の何々集落200人はどこの旅館街に避難しなさい」という計画を発表してるわけです。12万人がだいたい6日間で避難できるだろうという計画です。2026年度には、有事を想定した実働訓練も具体的に開始されようとしています。

この計画には、どう考えても矛盾があります。一つは沖縄本島の住民・観光客は130万人で、避難計画の対象外です。12万人を避難させるのに6日かかっていますから、それと同じペースですと2カ月かかります。それでは有事に間に合わないので、沖縄本島は避難計画から除外しています。

また、今回計画を読んでびっくりしたのは、食事の提供です。避難者に金銭を支給して、避難者の好みに合わせて付近の飲食店で食事を取ってもらうというのです。有事で大変だといって避難してきて、「じゃあお金をもらったから今日は中華食べに行こうか」とか「イタリアン食べに行こうか」とか、そんな悠長なことはありえないわけです。

さらに、今回新たに「特定臨時避難施設」というのが入りました。通称「避難シェルター」です。これは先島諸島で使うのですが、地震などではなく軍事的有事の際です。県外避難が完了するまで6日かかるので、その間を過ごすためのシェルターを造る計画です。これも具体的に進んでいまして、例えば石垣市だったら、新設する防災公園の地下に避難シェルターを造る。驚くことに、今年からもう工事着手なんです。しかも90%という、普通の補助金ではありえない国の補助率で工事が始まります。

2 米軍と自衛隊の一体化、新たな軍事ブロックの形成

さらに、新たな軍事ブロックの形成も着々と進んでいます。日米共同声明が石破総理の下で出されましたが、米軍と自衛隊の一体化を着実に進める、日米同盟最大の変化の一つと言われています。自衛隊は今年の3月、すでに陸海空の自衛隊を統括的に指令する統合作戦司令部を設置し、それに対応する形で在日米軍も統合軍司令部を設置する方向で動いています。それができると、アメリカの統合軍司令部と自衛隊の統合作戦司令部が一体化を図っていく動きになります。

しかも、軍事ブロックは単にアメリカと日本だけで形成されるわけではありません。オーストラリアとはアメリカに次ぐ強固な関係ですし、韓国と共同訓練を行い、インドともいろいろな作戦を共同で行っています。フィリピンは「準同盟国級」といって、今後準同盟国として扱えるようにしていきたいようですが、そういう軍事ブロックの強化がされています。

また、今年は能動的サイバー防御法が制定されました。これは、政府が平時からネット上の情報を監視して、攻撃の兆候を察知した場合は、攻撃元のサーバーに侵入して無害化できるというものです。しかも攻撃の兆候を察知したら対応できることで〝能動的〟と言っています。見方によっては先制攻撃になりますし、対応には米軍基地に対する攻撃も含みますから、アメリカの世界戦略にますます組み込まれていく危惧があります。

3 軍事産業の育成

さらに、大きな変化として挙げられるのは、軍事産業の育成です。もともと日本には「武器輸出三原則」があって、3地域、つまり共産圏、紛争中の国、それと国連が禁止している国には武器を輸出しない、それ以外の地域には輸出を慎むというものです。それが大きく変わったのが2014年です。安倍政権の下で「武器輸出三原則」を「防衛装備移転三原則」に変え、「原則として武器の共同開発や武器の輸出は認める」と180度方針を変えました。ただ輸出できる武器は、とりあえずは救難や輸送など5類型に限定して、アメリカのライセンス生産品については部品のみ輸出できるなど、かなり限定的でした。

ところが2023年にはその三原則の運用指針を見直して、ライセンス生産品をライセンス元国に輸出する場合は、殺傷能力のある完成品でも輸出は可能だと変えました。その第1号がパトリオットミサイルです。さらに2024年、もう1回見直して、日本とイギリス、イタリアが戦闘機の共同開発をするのですが、その戦闘機まで輸出できるようにしました。

また、防衛装備庁は、2015年に安全保障技術研究推進制度をつくって、直接の兵器開発ではないけれども、それに応用可能な基礎研究に研究費を助成することになりました。戦争の反省から、直接の兵器開発につながる研究はしないというのが日本の大学の教育研究でしたが、2015年以降、すでに22大学が23億3000万円の助成を受けています。

4 新たな戦前の構築

(1)国民監視体制の強化

さらに〝新たな戦前〟と言われていますが、国民監視体制の強化が進んでいます。2013年に秘密保護法ができて、防衛、外交、特定有害活動、テロリズムの4区分の安全保障に関する情報のうち、特に秘密にすることが必要なものを「特定秘密」として指定しました。扱うのは基本的には公務員で、大きな問題になったのは適性評価です。犯罪とか懲戒歴、薬物乱用とか精神疾患、飲酒についての節度、こういう点を評価して「大丈夫」となると機密を扱えるという制度です。

昨年、これを民間に広げる形で「経済秘密保護法」ができました。行政が重要経済安保情報を指定して、民間事業者がそういったものを扱う場合は、それを扱う人に対して適性評価をしなければならないという制度です。対象となるのは、電気、ガス、通信、放送、航空、金融、半導体、工作機械、先端電子部品、重要鉱物などです。

(2)地方自治の形骸化

これもご存知だと思いますが、昨年、地方自治法が改正されました。国は、「国民の生命、身体又は財産の保護のため緊急に自治事務の的確な処理を確保する必要がある場合等特に必要と認められる場合」には自治体に「指示」を出せるようになりました。今までも「指示」はありましたが、例えば災害対策基本法や、感染症予防法といった限定的なものでした。それを、個別法ではなくて一般法の地方自治法に入れるということは、国と自治体の関係が対等平等から主従関係に変化することを意味します。

「指示」を出すのは、「国民の安全に重大な影響を及ぼす事態が発生、または発生するおそれがある場合」です。具体的には、「大規模災害、感染症の蔓延、その他」で、「その他」を入れると何でもよくなります。この地方自治法改正に先立って、地方制度調査会で議論された時は、「国民の安全に重大な影響を及ぼす事態」を「非平時」と呼んで、3類型は、自然災害、感染症、武力攻撃となっていました。それが法改正では、その「武力攻撃」を「その他」に変えて、非平時を「国民の安全に重大な影響を及ぼす事態が発生」と変えました。武力攻撃を念頭に置いた改正だと思っていいと思います。地方自治の形骸化を進めないと本格的な戦時体制はできませんから、そういうことを念頭に置いた地方自治法改正だと見るべきではないでしょうか。

(3)刑事デジタル法成立(刑事訴訟法等改正)

さらに今年の国会では、刑事訴訟法等を改正した刑事デジタル法が成立しました。これはデジタル情報を扱っている事業者は、個人のメールやラインなどのデータを、提供命令があれば提出しなければいけないというものです。

(4)日本学術会議法改定

また、今年の国会で日本学術会議法が改定されました。学術会議の外に学術会議評価委員会を設置して、政府が介入できる仕組みを作りました。前の日本学術会議法の前文には、「日本学術会議は、科学が文化国家の基礎であるという確信に立つて、科学者の総意の下に、わが国の平和的復興、人類社会の福祉に貢献し、世界の学界と提携して学術の進歩に寄与することを使命とし、ここに設立される」とありましたが、今回による改定でこの前文が全部削除されました。もう理由は明確です。学術会議は、防衛装備庁による研究助成に対しても、制度開始の翌々年である2017年に、「軍事的安全保障研究に関する声明」を出して、研究者はこういった研究に関わるのはもっと慎重にすべきだと主張してきました。政府は、だから日本の大学の研究者が軍事的研究に参画しにくいのだと考え、今回こういう改定が行われてしまったのです。

5 防衛予算の急増

安保三文書で2027年度には防衛費をGPD比2%にすると決めましたから、2023年度以降、防衛費が急増しています。戦前、日本がものすごく軍事費を膨らました財源は赤字国債でした。赤字国債を軍事費の財源に充ててしまうと軍事費の膨張に歯止めがかかりません。それで戦後の財政法は、建設国債を例外に赤字国債の発行を禁止したのです。1965年に「景気対策のために赤字国債を発行する」と政府が方針を変えた時も、国債は防衛費に充てないというのが政府の一貫した説明でした。

ところが、2023年に防衛予算に建設国債を4343億円充て、2024年には5000億円、2025年には7000億円を充てました。自衛隊の庁舎や戦艦の建造費に充てています。戦艦は実弾とは違い20年、30年使えるから、公共事業と一緒だという理屈です。赤字国債ではありませんが、国債で防衛費を確保するようになりました。

表 戦争できる国づくりと憲法の蹂躙状況

Ⅱ 戦争できる国づくりの到達点と次の争点

1 防衛費3・5%もしくは5%

20年、30年前では考えられないようなことが、すごいスピードで動いています。ここで大きな問題になるのが防衛費です。安保三文書ではGDPの2%と言っていますが、アメリカの国防省は、日本を含むアジアの同盟国は防衛費をGDP比5%まで上げよと言い出しています。報道では日本政府は、「今までの計画の範囲内だ」と言っていますが、今までの計画の範囲内であればわざわざ協議で合意する必要はありません。すでにEは5%で動き出しているし、台湾に対しては10%まで言っています。

なぜそういうことになるかといいますと、2008年時点では、アメリカ軍の海外駐留軍人の数のうち日本は全体の11%でしたが、今は30%を超えています。海外に駐留しているアメリカ軍人のおおよそ3分の1は日本にいるのです。そのようになっている理由の一つは、対中国戦略の中で日本の位置が極めて重要であり、地理的な理由で日本を重視しているからです。もう一つはいわゆる「思いやり予算」で、よその国では考えられないぐらいの優遇措置を与えられているからです。また、アメリカ軍の訓練には日本の法律は適用されませんから、アメリカ本土ではできないような訓練を日本だったらできるからです。

できるだけ日本にお金を出させて、自衛隊をアメリカの世界戦略に組み込んでいければ、米軍の財政負担を減らしながら戦力を維持できます。だから今アメリカは、日本にもっと防衛費を増やせということを執拗に言い出しているのです。

2%でも大変ですが、これが関係費も含めて5%になったら破滅的なことが起こります。2025年度の予算で、防衛関係費は8・4兆円、予算全体の7・3%です。GDP比5%になった場合、防衛関係費は28兆円になります。2025年度予算よりも20兆円増えます。予算規模が変わらなければ予算全体の24%、ほぼ4分の1が防衛関係費になります。仮にこの20兆円分を消費税で確保しようと思うと、税率18%ぐらいになります。

また、歳出削減で確保する場合、国債費は借金の返済でなかなか削減できないため、防衛関係費と国債費を除くと、それ以外は一律25%ぐらいカットしないと20兆円は確保できません。25%カットは、地方交付税も全部含めてです。社会保障や教育予算の大幅な削減、増税による地域経済の冷え込みで財政悪化も避けられなくなります。皆さんが地域で、市民の福祉を向上させるためにどういうことをやったらいいのか一生懸命考えようと思っても、ほとんどできなくなります。

2 非核三原則の見直し

もう一つ大きなポイントは、国是としてきた非核三原則の見直しです。非核三原則は、「核兵器を持たず、作らず、持ち込ませず」という1968年の佐藤首相(当時)の国会答弁の言葉です。その一方で日本は、アメリカの核抑止力に依存しています。非核三原則とアメリカの核抑止力は両立しません。一方、「核共有」という考え方がNATOで導入され、核非保有国のドイツ、イタリア、オランダ、ベルギー、トルコがアメリカの核兵器を受け入れています。「核兵器を持ち込んでいるけれども、アメリカ軍が管理している、だから核拡散防止条約に違反しない」と屁理屈を言っているのです。日本が、ヨーロッパと同じように「核共有」へと進んでいくのかどうか。ここに一つの大きなポイントがあると思います。

Ⅲ 自治体はどうすべきか─自治体が協力しなければ戦争はできない

1 国の政策から地域、市民生活を守る

そういう中で、地域・自治体は一体今何をすべきでしょうか。自治体にとって重要なことは、国の政策から地域の市民生活を守るという視点です。地域の平和や安全を守るということと、市民生活を向上させる、地域経済を発展させていくことは、不可分の関係にあります。

かつて1970年代、美濃部みのべ東京都政や黒田大阪府政などの革新自治体は、公害から市民の命を守ることを最も大きな政策に据えました。市民福祉や教育もやるけれど、そもそも命が守られなかったら地域は成り立ちません。当たり前のことを当時の革新自治体は行いました。国の公害行政を上回る施策を自治体が展開する中で、国も環境政策を転換しました。国の公害行政も動かしていくきっかけを、革新自治体がつくったのです。今でも沖縄県は平和を守るためにずっと頑張っています。

全国の多くの自治体が、戦争できる国づくりに地域から反対できるかどうか。もし今の自治体が取り組まなければ、そういうことを取り組むような自治体に変えていくことが、今最も求められているのではないでしょうか。

例えば、先ほど特定利用空港・港湾の指定の話をしましたが、沖縄県で指定されているのは、国が管理する那覇空港と、石垣市と宮古島市が管理する二つの港だけです。沖縄の13空港のうち、那覇空港を除く12の空港は県が管理しています。港は41のうち39は県もしくは県が入った管理組合が管理しています。だから、空港で指定されているのは一つ、港で指定されているのは二つだけです。あまりにも時間がなくて県民的な議論ができないことを理由に県が同意しないので、特定利用空港・港湾の指定ができないのです。ですから、自治体がどういう態度を取るかというのがすごく重要です。

沖縄県うるま市で、自衛隊の訓練場整備計画が2023年12月に発表されました。うるま市のゴルフ場跡地に訓練所を整備するという計画です。真っ先に周辺自治会が反対を表明し、それに地方議員さんらが一緒になって「自衛隊訓練場設置計画の断念を求める会」をつくって反対運動を展開し、知事や自民党の県会議員、市長やうるま市議会も全会一致で計画の白紙撤回を求める意見書を出したのです。そうした保革を超えた運動の広がりの中で、防衛省は地元の理解を得ることは難しいと判断して2024年4月、計画を発表してから5カ月で計画断念を表明しました。地域のそういうきちっとした心構えが非常に重要です。

2 平和のための条例の制定

また、今全国的に見てもいろいろな条例制定が進んでいます。神奈川県藤沢市には「核兵器廃絶平和推進の基本に関する条例」があります。これは、「市内での核兵器の製造、保有、核持ち込み及び使用に協力しない」という、藤沢市版非核三原則か四原則というものです。兵庫県宝塚市の「宝塚市の核兵器廃絶平和推進基本条例」は、「市長は、核兵器の実験等が行われた場合は、当該実験等に対する反対の旨の意見を表明する」ことを決めています。北海道苫小牧市や長崎県時津町ときつちょうも同じような条例です。東京の「中野区における平和行政の基本に関する条例」「三鷹市における平和施策の推進に関する条例」では、基金を設けて財政的にも裏づけしていくことを決めています。

沖縄県の「西原町にしはらちょう平和条例」では平和事業推進委員会を設置することを、千葉県の「我孫子あびこ市平和事業推進条例」では、我孫子市平和事業推進市民会議を設置し、市民的に取り組んでいくことを決めています。岡山県の「倉敷市国際平和交流の推進に関する条例」では、「市は国際平和交流を推進するため、市民参加の機会の提供に努めるものとする」「市は、国際平和交流を推進するため、関係団体の自主性及び自立性を尊重し、その活動を支援するよう努めるものとする」としています。こういった条例を作って、地域から平和づくりに取り組んでいる自治体も増えています。

3 自治体版非核三原則

次に自治体版非核三原則です。1975年に神戸市議会で非核神戸方式が全会一致で可決され、神戸港に入港する外国の艦船には非核証明書の発行を依頼し、非核証明書が発行されない場合、神戸市は入港を許可しないことを決めました。神戸港の管理者は神戸市だからです。核保有国であるフランスとインドは、非核証明書を出して今まで入港していました。アメリカの艦船は、今年の2月まで1回も申請せず、入港も許可されませんでした。核兵器を積んでいようといまいと、積んでいるかいないかは明らかにしないというのがアメリカの方針だからです。ところが3月に、アメリカの掃海艦といって機雷などを除去する艦船「ウォーリア」が、非核証明書を発行しないまま入港しました。神戸市が外務省に、核兵器の搭載について問い合わせたところ、外務省から「機雷を除去する船だから核兵器は積んでいないだろう」と返事があったため、証明書なしに入港を認めてしまったのです。

非核神戸方式に大きな穴があきました。北海道苫小牧とまこまい市も同じ趣旨の条例を定めています。苫小牧市の条例には、「本市において、国是である非核三原則の趣旨が損なわれるおそれがあると認める事由が生じた場合は[…]適切な措置を講じるよう要請する」とあります。そこで今年6月、アメリカの艦船が寄港を要請した際、核兵器の有無についてアメリカの領事館に問い合わせたところ、アメリカは寄港をやめました。今まで何度か苫小牧港に入港しているそうですが、今回は有効に機能したわけです。自治体がどういう姿勢を見せるかも非常に重要ではないかと思います。

4 自衛隊への名簿提供の取りやめ

安保三文書では、自衛隊員は防衛力の中核という位置づけです。最近の採用状況を見ますと、2020年以前は大体80~100%採用できていましたが、最近急速に下がって、2023年では採用計画数1万628人に対して採用者数は3221人、計画達成率30%です。今若い人が自衛隊に行かなくなっています。そのような中で、2021年に防衛省と総務省が「自衛官又は自衛官候補生の募集事務に関する資料の提出について」という通知で、市町村が自衛隊に募集対象者の名簿を出しても、住民基本台帳上問題がないという見解を出しました。その後、名簿を自衛隊に提供する自治体が増えました。でも、これはあくまでも「問題がない」ということであって、「出しなさい」というものではないのです。名簿を提出する市町村が増えている一方で、市民の反対の声を受けて提供をやめる自治体も出始めています。やはり市町村がどう対応するのかが、大きな課題ではないかと思います。

5 自治体が協力しなければ戦争できる国づくりは進まない

現在、戦争できる国づくりが着々と進んでいますが、お話ししたように、自治体が協力しなければ戦争できる国づくりは進みません。戦争の反省があってできた、「国と自治体は対等平等」という状況をどうやって生かしていくのかです。今、特に地域では基地建設に反対する運動が全国で広がっています。今の日本の憲法や法律の下では、自治体を飛び越えて国が一気に戦争できる国づくりを進めるのは簡単ではありません。今ならまだ、自治体が地域で市民と連携して踏ん張れば、戦争できる国づくりをかなり食い止めることができます。自治体自身がそういう役割を認識できるかどうか、そういう自治体をつくれるかどうか、そこが日本の将来を決する大きなポイントになるのではないかと思います。

(本稿は、7月26日の第67回自治体学校in東京の基調講演を要約しまとめたものです。)

中山 徹

1959年大阪生まれ。京都大学大学院博士課程修了。工学博士、一級建築士。主な著書に『人口減少と大規模開発』2017年、『人口減少と公共施設の展望』『人口減少時代の自治体政策』2018年、いずれも自治体研究社。

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