獣害を起点に地域の再生と新たなつながりをー実践の現場から

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人口減少や里山の衰退と絡み合う「複雑な地域問題」として鳥獣害を解決するためにはどうしたらよいのか。丹波篠山市での実践を手がかりに、今後求められる自治体の対応や役割を考えます。

近年、クマの出没や人身被害が注目を集めていますが、鳥獣問題はクマに限りません。全国の農村では、シカ・イノシシ・サルなどの農作物被害が深刻で、生活環境や精神的負担にも及びます。さらに鳥獣害は、人口減少・高齢化、耕作放棄地の増加、里山林の荒廃化などと絡み合う「複雑な地域問題」として顕在化しています。本稿では、こうした状況のもとで、問題解決のために必要なアプローチや自治体の役割を考えます。

「獣害対策」の限界―単一策では解決に至らない

対策として真っ先に求められがちな「捕獲」は問題解決に万能な対策ではありません。被害を抑えるには、加害状況に応じて捕獲を適切に組み立てる必要がありますが、担い手や体制の制約から、現場のニーズに即した運用が難しい場合が少なくありません。また仮に、捕獲によって一時的に被害が収まっても、別個体の侵入が想定されます。ジビエ活用は、食肉利用の都合が優先され、被害現場の要求とずれたり、受益者と受苦者が乖離したりする課題を抱えがちで、直ちに一石二鳥の対策になるとは限りません。また「地域主体の獣害対策」が推奨されますが、農村には担い手不足の現実があり、正しい方法論が分かっていても継続できない地域が少なくないのが現実です。仮に獣害対策がうまくいったとしても、人口減少・高齢化により地域が衰退してしまっては、なんのための獣害対策かわからなくなります。

「獣害解決」から「地域再生」へ―価値の転換

だからこそ、問題解決の枠組みを組み替える必要があります。これから求められるのは、鳥獣害対策をゴールにせず、「地域再生へつながる入口(起点)」として位置づけ直すことです。

鳥獣害は緊急性が高いからこそ、人を動かしやすいテーマでもあります。この「動き出す力」を、被害軽減だけで終わらせず、関係人口の創出や学び・交流、地域の誇りの再発見へつなげていく。私はこの前向きな取り組みを、「獣がい対策」と呼んでいます。もちろん被害軽減のための実践に取り組むことが大前提です。そのうえで、関わる人を増やし、担い手不足を補い、地域の価値を共創することが、持続可能な道筋になります。少し事例を紹介したいと思います。

丹波篠山市畑地区の「獣がい対策」の実践

兵庫県丹波たんば篠山ささやま市の畑地区では、鳥獣害は約30~40年前から顕在化していましたが、2014~2016年頃にかけて深刻な課題として強く認識されるようになりました。とりわけニホンザルの被害が顕著でしたが、畑地区では、「行政頼み」や「捕獲一辺倒」に偏るのではなく、専門家のサポートを得ながら学習と実践を往還し、地区全体でサル用防護柵の設置、追い払い、環境整備などを重層的に進めることで、地域主体の対策を積み上げてきました。その結果、2016年度にピークだったサル被害は、近年は大幅に減少するなど、地区として手応えが見える段階に入っています。

さらに特徴的なのは、獣がい対策に「地域外の人材が楽しく参加できる仕掛け」を組み込みながら、取り組みを広げてきた点です。2013年に神戸大学の協力で放任柿の早期収穫イベント「さる×はた合戦」(毎年継続)を始め、その後、地元NPO等と連携した集落柵点検の「さく×はた合戦」(年3回程度)、地域おこし協力隊の企画による放置竹林対策の「たけ×はた合戦」へと展開してきました。獣害対策を、交流を生み、担い手不足を補う参加型の地域活動として再設計し、関わり手を増やしてきたことが畑地区の大きな特徴です。

また畑地区は、丹波篠山市が主催する高校生中心の「獣がい対策実践塾」や、市外の大学の実習・視察の受け入れ先にもなっており、学びの場としての役割も強めています。「実践塾」を契機に、地元の農業高校が放任柿を加工品として商品化する取り組みも生まれるなど、獣がい対策が多様な世代・人材の参画を促す動きへと広がりつつあります。

「さる×はた合戦」に参じた猛者たち(筆者提供)

地域を動かす「地域支援人材」

近年、こうした動きを加速させているのが、地域支援人材です。丹波篠山市は2024年度から「獣がい対策支援員」を畑地区に配置し、地区を3エリアに分けて課題を明確化し、定期ミーティングで情報共有・役割分担・進捗しんちょく管理を恒常化させ、人手不足を補うための外部人材の活用や、関係人口を活用した地域活性化に向けた体制づくりを進めています。

例えば、山中に設置してあるシカ・イノシシ対策用の集落防護柵は、点検・補修の担い手が高齢化し、維持管理を継続していくことが困難になりつつあります。畑地区では、イベント要素の強い「さる×はた合戦」を契機に、外部人材の動員を想定した点検体制づくりを進め、2024年からは、経験のある外部人材を選抜して点検を代行し、補修については集落側の人材が担当する、分業体制のモデル実施に踏み込んでいます。

単発的なイベントとして終わらせるのではなく、地域外人材も活用して現場を前向きに動かし続ける「要」として、地域支援人材の存在が大きいことが見えてきます。

自治体の役割―地域づくり
(まちづくり)政策として組み直す

これから求められる自治体の役割は、第一に、鳥獣害を農林業部局の課題に閉じず、地域づくり(まちづくり)政策として位置づけ直すことです。目標を「被害金額の低減」に留めず、「集落の持続」「担い手不足への対応」「関係人口の創出」など、鳥獣害対策を超えたゴールを掲げる必要があります。

第二に、庁内での横断的な体制づくりです。鳥獣害は農地や里山林の維持、教育(学びの場づくり)、移住・交流(関係人口)、福祉(見守りや移動)、観光(資源化)などと接続します。しかしながら、自治体の事業は縦割りで進められがちで、連携をとった施策の展開は思いのほか困難な現状があります。首長部局が関係部局を束ねるトップダウン型の横断プロジェクトとして設計することも有効でしょう。

そして第三に、今後決定的に重要になるのが、地域支援人材の配置・育成・キャリア形成を含むスキームを自治体が作れるかという点です。各集落に専任で配置することは現実的に難しいとしても、少なくとも複数集落を束ねやすい小学校区(旧小学校区)程度の単位で、地域の「要」となる支援人材を確保することが不可欠になります。人口減少が進む中で、地域の核となって動く人材も不足しています。鳥獣害対策の技術支援だけでなく、隣接課題(景観維持、耕作放棄、地域行事、担い手不足)の整理、関係人口の創出、集落間連携の促進、の推進など、前向きな目標設定、計画づくりと運用管理までを〝束ねて進める〟役割が欠かせません。

一方、こうした地域支援人材には高度な能力が求められます。調整力、計画力、現場理解、合意形成、対外的な発信・折衝までを担う仕事です。善意による「属人的な頑張り」で回すのではなく、きちんと待遇のある「良い仕事」として設定して、適性のある人材を集めないといけません。採用・配置・研修・評価・処遇を設計し、地域支援人材が育ち、定着し、次の人材がそれに続く体制を行政として用意できるかが問われます。

ソーシャルセクターとの協働

もっとも、自治体単独でこの仕組みを回し切るのは容易ではありません。地域の多様な価値に寄り添い、専門性を活かしながら試行錯誤を続ける〝伴走力〟が不可欠で、そこにはNPO等のソーシャルセクターとの協働が現実的な解になります。畑地区でも、NPO法人里地里山問題研究所(さともん)が支援員の制度設計や活動コーディネートに関わり、基礎的な被害軽減に加えて、多様な団体・教育機関・人材が参画できる形を積み上げてきました(図)

図 さともんが目指すソーシャルビジネスのモデル

そして、さともんでは、こうした問題意識のもと、地域支援人材の裾野を広げる試みとして、2025年から地域支援に求められる〝調整・企画・伴走〟の基礎を体系的に学ぶ場として「獣がい×まちづくりコーディネート基礎講座」をスタートさせています。地域を〝回す〟支援人材を増やし、自治体の人材スキームと接続していくことが、今後の重要な課題だと考えます。

おわりに

鳥獣害は地域の暮らしや生業に大きな負の影響を及ぼす要因であると同時に、地域の課題を可視化し、人を動かす「きっかけ」にもなります。畑地区の事例のように、獣害対策を土台に、関係人口を拡大し持続可能な運用体制へとつなげていくことは不可能ではありません。そのために自治体には、問題解決を「鳥獣害対策」という枠内に押し込めず、「地域づくり(まちづくり)政策」として横断的に編み直し、地域支援人材の配置・育成を核に、ソーシャルセクターと協働していく体制づくりが、いま求められています。

鈴木 克哉

兵庫県森林動物研究センターでニホンザル管理と住民支援体制づくりに取り組み、2015年に丹波篠山市で「さともん」を起業。多様な人材の参画で地域を元気にする新しい「獣がい対策」を推進している。

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