【FOCUS】首都圏CCSと房総半島横断パイプラインの危険性
政府主導のCCS事業でCO2は減るのか

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CCS(Carbon dioxide Capture and Storage)とは、工場や発電所から排出されるCO2を回収し、地下深く封じ込める技術です。政府はこれを「脱炭素の切り札」と位置付け、全国で9兆円以上の国費を投じようとしています。この動きを告発します。


急激な気候変動が、私たちの生存基盤を揺るがしています。近年の記録的な猛暑、巨大化する台風、線状降水帯による豪雨災害。海洋環境の変化は漁獲高に異変をもたらし、農畜産物の生産も不安定さを増しています。春と秋が失われ、夏と冬が極端化していく現状に、誰もが地球規模の危機を肌で感じています。二酸化炭素(CO₂)の排出削減は、もはや猶予のない人類共通課題です。しかし、その切迫感に乗じて、極めて危険な「解決策」が、私たちの足元で動き出そうとしています。政府・経済産業省が主導する「」です。しかし、その実態は、東京湾側の日本製鉄君津製鉄所をはじめとする臨海部の巨大工業地帯の利益を温存させながら、そこから発生したCO₂をパイプラインで房総半島の太平洋側まで搬送し、九十九里浜沖の海底の地下1000~3000メートルに「埋め立てる」(圧入)という、ゴミを絨毯じゅうたんの下に隠すような事業です。

このプロジェクトのリスク、環境への影響、地方自治を空洞化させる強権的手法について、警鐘を鳴らさなければなりません。

首都圏CCS事業の実態
─房総半島を貫く「高圧の脅威」

本事業の主な排出源の一つが、千葉県君津市の日本製鉄君津製鉄所です。ここには製鉄の過程で必要な電力供給のため、出力35万キロワットの石炭火力発電所を含む四つの炉が稼働し、日々、膨大な排気ガスを出しています。ここからCO₂を分離・回収するのがCCS事業です。その際、洗浄液として用いられるのが「アミン溶液」という化学物質です。アミンには発がん性や毒性が指摘されているものもあり、化学物質の漏出や、大気中への放出による環境汚染も懸念されます。

さらに深刻なのが、回収したCO₂輸送ルートです。計画では、内房(東京湾側)の君津きみつ市・木更津きさらづ市・袖ケ浦そでがうら市・市原いちはら市から、内陸の長柄町ながらまち茂原もばら市を経て、外房の白子町しらこまち大網白里おおあみしらさと市・九十九里くじゅうくりまちの9市町を経て、総延長約80キロメートルもの巨大パイプラインを敷設します。この中を30~40気圧という猛烈な高圧に圧縮されたCO₂が流れ、そのうち約20キロメートルの区画は、地下30~40メートルの深さを「シールド工法」でトンネルを掘る計画です。シールド工法は、リニア中央新幹線や東京外かく環状道路(外環道)工事で地上部の道路陥没や宅地の隆起を引き起こし、深刻な社会問題となっています。地質が複雑で軟弱なうえ、茂原市周辺では、水溶性天然ガスの採取に伴う地盤沈下が進む房総半島。これほどの大規模なパイプライン敷設の安全性を誰が保証するのでしょうか。

首都圏CCS事業のパイプラインルート(「袖ケ浦民報」2025年7月号外より。筆者作成)

「埋めればいい」という発想
─排出削減にならず

そもそもCCSの技術そのものに根本的な矛盾があります。

気候変動対策の王道は、エネルギー消費そのものを減らし、再生可能エネルギーに転換して、CO₂の「排出そのものを止める」ことにあります。しかし、CCSは「CO₂を埋めて減らしたことにする」という論理で、石炭火力発電を続ける巨大企業の排出を維持するための「免罪符」を与えるだけです。

さらに、CO₂の回収、液化、輸送、そして地下1000~3000メートルもの海底下に「圧入」するために膨大なエネルギーを消費し、その過程でCO₂を出すという本末転倒な面があります。

経済コストも度外視され、経済産業省の説明では、パイプライン建設費だけでも500億円から2000億円にのぼるとされます。運用維持費や200~300年以上もの長期にわたるというモニタリング(経済産業省直轄の独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構〔JOGMEC〕によるCO₂海中漏洩監視)費用を含めれば、総事業費がどこまで増えるかわかりません。この費用は、国民の税金や電気料に転嫁されることになります。

安全性の懸念
─見過ごされる「沈黙の殺人者」

地域住民にとって最大の恐怖は、パイプラインの破損や貯留地からのCO₂漏洩事故です。

CO₂は無色・無臭で空気より重い気体です。ひとたび大量に漏洩すれば、目に見えないまま地表やくぼ地に滞留し、一帯は酸欠状態になります。高濃度CO₂吸入で人や家畜は即座に意識を失い、窒息します。また、酸素濃度低下で、ガソリン車なども停止し、避難も困難になります。

パイプライン埋設予定の、住宅や学校の前を通る道路

2020年、米国ミシシッピ州での地滑りによるCO₂パイプライン破断事故では、低地に流れ込んだCO₂で多くの住民が呼吸困難に陥り、40人以上が病院に搬送され、現場では車のエンジンが止まり、救助隊ですら接近が困難だったといいます。

さらに、地震大国日本で、地下に高圧でガスを封じ込めるリスクは計り知れません。過去には海外の圧入実験で、微小地震が誘発されたという報告も聞かれます。房総半島は活断層が走り、太平洋側(外房)には、近年、が観測されるなど地震活動が活発です。房総半島沖には、フィリピン海プレート、太平洋プレート、北アメリカプレート(オホーツクプレート)の三つが会合する「房総沖三重会合点」があり、海溝同士が接する世界でも珍しい場所で、この地殻構造は日本列島の東西短縮や中部山岳・東北地方の隆起に影響を与えているといいます。首都圏CCS(株)の説明では、そんな海底下1000~3000メートルに将来は、毎年500万トンものCO₂を圧入するというのです。地震でパイプラインが破断したり、海底下の貯留層に亀裂が入った場合、取り返しのつかない大惨事を招く恐れがあります。

強権的な「CCS事業法」
─説明会は撮影・録音禁止!

このような巨大なリスクを伴う事業の決定プロセスは驚くほど不透明かつ性急です。

2024年2月、政府は「二酸化炭素の貯留事業に関する法律(CCS事業法)」を閣議決定。わずか3カ月後の5月、十分な国民的議論もないまま、日本共産党を除く各党の賛成により、同法は成立してしまいました。

この法律には重大な欠陥があります。これほど大規模な環境破壊のリスクがある事業でありながら、環境影響評価法(環境アセスメント)の対象とするかどうかの議論が先送りされ、適用除外のまま見切り発進されました。

また、同法は、経産省がCCS事業実施企業に特定区域におけるCO₂貯留権を独占的に付与する権限を与える一方、パイプラインが通過する沿線住民や、圧入地点となる九十九里周辺の住民が、計画に拒否権を行使したり、公的に異議を申し立てる仕組みは事実上ありません。

国が「事業認定」すれば、地方自治体の意向に関わらずプロジェクトが推進される土壌が作られています。これは憲法が保障する地方自治の原則を根底から覆す「強権的な立法」と言わざるを得ません。

各地で首都圏CCS(株)が主催した説明会も、事業実施を前提とした「周知」に過ぎず、住民の不安に真摯しんしに答える対話の場とは程遠いのが実態です。筆者も袖ケ浦市内の7カ所の説明会場のうち5カ所に出向きましたが、事業者側が自分たちの決めた地域にだけ回覧した文書を見て参加した方は、各会場1~3人程度。多くは、日本共産党袖ケ浦市議団が全戸配布した「袖ケ浦民報」の号外で計画内容や日程を見て来られたのです。

CSS事業の計画内容を知らせる「袖ケ浦民報」(2025年7月号外)

しかも、会場では、「主催は我々だから」と一方的に、写真撮影や録音、説明資料のSNS公開は一切禁止されました。筆者は、このずさんな説明会の実態を市議会で取り上げ、経済産業省とのレクチャーや千葉県庁での担当部署でただしましたが、いずれも実情を把握しておらず、特に千葉県や袖ケ浦市当局は、「国家事業だから」と全くの他人事です。独自に環境影響を調査したり、住民から意見を聞く意思がなく、CO₂の海底圧入が行われる九十九里町での「セミナー」と称した、千葉県が主催した説明会でも質問が30分ほどで打ち切られました。計画への異論を許さず、意見も聞こうとしない姿勢には大きな憤りを持ちます。このような無謀な計画は、何としてもストップさせなければなりません。

おわりに
─自治の力で「命と環境」を守るために

気候変動対策は、今を生きる私たちの責務です。しかし、その手段が「地域の安全を犠牲にするもの」であってはなりません。

首都圏CCS事業は、環境に配慮した先進的なプロジェクトのように装っていますが、その実態は、大企業の排出責任を地域に押し付け、不確実な技術に未来を賭ける危険な道そのものです。

私たちが求めるべきは、徹底した省エネルギー、再生可能エネルギーの地域主導による導入、そして大量生産・大量廃棄を前提とした社会構造そのものの変革です。

いま必要なのは、地域の一人ひとりがこの「見えないパイプライン」の存在と危険性を知り、声を上げ、自治の力を発揮することです。それは私たちの「命と環境」を守り、次の世代に持続可能な未来を手渡す唯一の道です。

篠﨑 典之

1960年山形県生まれ。社会保険(現・年金)事務所勤務、民主青年同盟千葉県副委員長を経て市議8期目。2005年、市民と共に袖ケ浦駅北側区画整理宅地開発中止求める日本初の住民投票実現に尽力。

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