【自維連立政権合意書を検証する】
第2回 インテリジェンス政策を検証する

この問題・論文に関する
ご感想・ご意見を是非お聞かせください(論文の最後に入力フォームがございます)


【連 載】自維連立政権合意書を検証する

自治労連・地方自治研究機構と自治体問題研究所は2026年4月から、自由民主党と日本維新の会の連立政権合意書についての合同研究会をスタートさせました。平和・人権・生存権を脅かすそれらの政策から市民生活と地方自治を擁護していくため、憲法・地方自治の視点から検証します。

  • 第1回 統治機構改革(副首都構想)の内容と問題点(中山 徹)
  • (このページ)第2回 インテリジェンス政策を検証する(山口 真美)
  • 第3回 医療保障の抜本的な縮減と皆保険の空洞化(長友 薫輝)
  • 第4回 介護保険制度の根幹を破壊する政策(日下部 雅喜)
  • 第5回 自維連立政権合意書の憲法改正を検証する(山口 真美)
  • 第6回 原発・エネルギー政策(大島 堅一)
  • 第7回 安全保障(関 耕平)
  • 第8回 外国人政策(柏原 誠)
  • 第9回 まとめ(中山 徹)

はじめに

自民党と日本維新の会(以下、維新)は、2025年10月20日に交わした連立政権合意書において、インテリジェンス政策の強化を謳うたい、第一弾として国家情報会議設置法を本年5月27日に成立させました。今後は、有識者会議を設け、スパイ防止関連法制の検討に入り、来年の通常国会での法案提出を目指すと報じられています。

自維政権が掲げるインテリジェンス政策の強化の実態は、「戦争する国」づくりの一環であり、軍拡と一体化した国家による情報収集と国民の監視・統制のための仕組みづくりにほかなりません。

連立政権合意書の概要

1 合意書の視点

合意書は、「戦後最も厳しく複雑な国際安全保障環境」を強調し、それを乗り越えるために「自立する国家」を構築するとし、その歩みを進める内政及び外政政策を推進せねばならないとしています。「自立する国家」とは、日米同盟を基軸としながら極東の戦略的安定を支え、世界の安全保障に貢献する国家を意味し、インテリジェンス政策がその重点政策の一つとされているのです。

合意書では、内外の政策の推進にあたって「リアリズム」に立った視座が不可欠であると強調しつつ、日本のインテリジェンス機能は脆弱ぜいじゃくであり、その強化が急務であるという認識を共有するとしています。ここでいう「リアリズム」は、憲法の平和主義に基づく非軍事国家体制を安全保障の脆弱性として否定し、軍事力や情報力の強化を正当化する論理として用いられています。

他方、合意書には、表現の自由やプライバシー権といった市民的自由や民主主義に対する影響に関する言及はなく、その軽視は著しいものです。

2 連立政権合意書が掲げるインテリジェンス政策

合意書は、上記のような国家観を前提にインテリジェンス機能を強化する具体策として、①国家情報局及び国家情報局長を創設し、国家安全保障局と同格の組織とすること、②国家情報会議を設置し、情報機関の司令塔機能を整備すること、③対外情報庁の創設、④情報要員養成機関の創設、⑤「スパイ防止法」を含むインテリジェンス関連法制として、外国代理人登録法やロビー活動公開法などを速やかに整備することを掲げています。

国家の情報収集と国民の監視・統制機能を抜本的に強化し、日本のインテリジェンス機構のあり方そのものを大きく変える極めて危険なものです。

以下に、自民党の「我が国のインテリジェンス機能の抜本強化に関する提言」(2026年3月3日)及び維新の「『インテリジェンス改革』及び『スパイ防止法』(仮称)の策定に関する中間論点整理」を踏まえつつ、合意書のインテリジェンス政策について検証します。

政権合意書の分析評価

1 インテリジェンスとは

維新の論点整理では、インテリジェンスを、諜報、防諜、非公然活動という三つの機能と軍事的領域、非軍事的領域という二つの領域から説明しています。

諜報とは、外国政府・軍・企業・テロ組織等の情報収集活動です。防諜とは、国内での外国スパイ摘発、重要施設・企業の防護、内部漏洩防止等の活動です。非公然活動とは、外国政府の政策や世論に影響を与える活動、プロパガンダ、フェイクニュース拡散、世論工作、資金提供、反政府組織の支援などを指します。

その手法として、人的情報であるHUMINTヒューミント、通信傍受を含むSIGINTシギント、画像情報のIMINTイミント、公開情報分析のOSINTオシントなどが挙げられています。

加えて、自維両党は、という概念を用い、外交、情報、軍事、経済、技術を一体的に強化する必要があるとしています。

しかし、これは情報と軍事を一体化した戦争遂行体制の構築にほかなりません。

自維政権が想定するインテリジェンス機構は、アメリカのスパイ体制を模倣したものであり、米国を中心とするファイブ・アイズ(米、英、カナダ、オーストラリア、ニュージーランド)がつくる5カ国の情報機関の設備や情報の相互利用体制(UKUSA協定)に日本もくみすることが狙われていると考えられます。

2 インテリジェンス政策の概要

政策の柱は、インテリジェンス機構の抜本的な再編・強化です。国家情報会議とこれを支える国家情報局という司令塔を中心として、その指示に従い、スパイ活動等を実行する対外情報庁を創設しつつ、情報要員の養成機関で人材の確保を図り、情報に関する国家権力を飛躍的に拡大するものです。

このように強化されたインテリジェンス機構が、対外情報収集を行い、カウンターインテリジェンス(防諜)を担っていくことになります。

3 国家情報会議設置法

(1) 概要

インテリジェンス機構の司令塔として最も重要な国家情報会議を設置する法です(2条、3条)。その調査審議事項は、①重要情報活動と②外交情報活動への対処とされており、極めて広範かつ曖昧であり、事実上、無制限に近いものです。

同会議の議長は内閣総理大臣であり、主要閣僚が議員となるため(4条~6条)、政治部門と情報部門が事実上一体化することになります。

そして、内閣官房長官及び関係行政機関の長は、会議の調査審議に資する資料又は情報を適時に提供するとともに、議長の求めに応じて、資料又は情報の提供及び説明その他必要な協力を行わなければならないとされ(7条)、関係行政機関には資料や情報の提供義務が課されました。アクセス権という形で国家情報会議が情報提供を事実上強制できる立て付けです。

(2) 問題点

ア 強大な権限

同法は、国家情報機関の設置を定めた組織法であり、情報収集分析の具体的態様を規制する作用法を欠いています。つまり、同法施行後は、情報収集分析の具体的態様を白紙委任された国家情報会議が内閣総理大臣の主導のもとに動き出し、何をどのように収集し、どこまで監視できるのかという核心部分が曖昧なまま、権力による諜報活動等が野放しとなるのです。国会や第三者機関による民主的統制も一切ありません。

イ 政治部門と情報部門の一体化

しかも、政治部門と情報部門が分離されず、内閣総理大臣を頂点として融合している点でも極めて危険です。加えて、国家安全保障会議と国家情報会議が、いずれも内閣総理大臣をヘッドとして、主要閣僚によって構成される組織として並立します。安全保障政策の名の下、政権に都合の良い情報操作や監視が行われる危険性があります。

実務を公安警察が担うことになれば、警察機構の政治警察化も懸念されます。

ウ 国家による国民監視の危険性

国家情報会議を中心としたインテリジェンス機構の強化は、国家による国民監視を飛躍的に強化するものであり、韓国の国家情報院法と同様の懸念があります。李イ明博ミョンバク・朴パク槿恵クネ両政権下では、国家情報院法によって、映画『パラサイト 半地下の家族』のポン・ジュノ監督やノーベル賞受賞作家ハン・ガン氏らを含む政権批判的な文化人や芸能人のブラックリストが作成されていたことが発覚しています。政治への関与を規制する2020年の法改正がなければ、において尹ユン錫悦ソンニョル大統領(当時)による政権に批判的な政治家らの拘束や位置情報追跡の命令を拒めなかったとの指摘もあります。

また、人格的価値の集成である個人情報が侵害されることは極めて深刻です。個々人の情報が国家によって収集・結合・分析されると、国家から見た固有の個人像が監視評価の対象として歪んだ形で再編成されてしまいます。大垣警察市民監視事件では、風力発電に関する市民の勉強会には参加していない市民まで過去にダム建設反対運動に関わったとして、「繋つながると、やっかい」などという情報が警察から民間企業に提供されるなど、公安警察の視点から市民像が再構築され、歪んだ情報として悪用された事例もあります。

4 対外情報庁の創設

対外情報庁については、維新の論点整理では、アメリカのCIAあるいはイギリスのMI6をモデルにするとされており、いわば日本版CIAを創設する構想です。

しかし、CIAは、歴史的に、1973年のチリのアジェンデ政権転覆工作など、多数の違法工作に関与してきました。そのような組織をモデルとすること自体、日本の民主主義に重大な危険をもたらします。

5 情報要員養成機関の創設

情報要員養成機関の創設も重大です。維新の論点整理では、情報要員の身分偽装や保護制度まで検討されています。これは、国家が秘密裏に活動する専門要員を恒常的に育成することを意味します。

6 カウンターインテリジェンス強化(防諜)
(1)スパイ防止基本法

外国勢力による諜報活動自体を犯罪とし、罰することが目指されています。場合によっては、特定秘密保護法に「外国」「スパイ」を組み込む「改正」を行う可能性もあります。

通報罪の新設や重罰化の危険もあります。「外国が知り得る状態」に置けば処罰対象になり得るとすれば、SNSでの発信まで処罰対象となる危険があります。

さらに、「秘密」の範囲を現行の特定秘密保護法の指定秘密から実質秘密へ拡大すれば、時の政権の意のままに何が秘密かわからないまま処罰される社会になりかねません。

戦争や自衛隊に関することを話すこと自体が防諜の対象となるおそれがあり、市民的自由がいっそう萎縮していくことになります。

(2)外国代理人登録法、ロビー活動公開法

外国代理人登録法やロビー活動公開法も、「外国の利益を代表して活動する者」といった極めて曖昧な概念を用いた規制がねらわれています。

その結果、市民団体、NGO、国際交流団体、さらには政府批判を行う個人まで、「外国勢力」と結び付けられる危険があります。

7 起こりうる事態

こうした制度の先にあるのは、市民社会の監視と分断です。

スパイが自らをスパイと名乗って活動することはありません。翻って考えれば、すべての市民が監視の対象となることを意味します。適性評価やセキュリティクリアランスの拡大によって、私生活まで調査され、政府に批判的な人々が排除される可能性があります。そして、「スパイ摘発」の名の下に、市民同士が相互監視する社会が生まれる危険もあります。

アメリカのスパイ防止法は、1917年、ウィルソン大統領が第一次世界大戦参戦時に制定したものですが、やのように、反戦運動や内部告発を弾圧するために利用されました。

歴史は、「スパイ」や「安全保障」の名の下で市民の自由と民主主義が侵害される危険性を繰り返し示しています。

分析評価を踏まえた提言

1 インテリジェンス強化と「スパイ防止法」が生み出すもの

政府自身が、「日本はスパイ活動が野放しの国家ではない」と答弁するとおり、「スパイ防止法」制定の立法事実はありません。

真の狙いは、情報機能強化を名目に、監視と統制を拡大することです。

高市首相は、「社会の安定を乱すリスク」に対処すると述べていますが、社会の安定を乱すか否かを判断するのは政府です。政府批判や反戦運動を弾圧する口実とされる危険性は極めて大きいといえるでしょう。

自維政権が目指すインテリジェンス政策の強化は、プライバシー権の侵害はもちろん「知る権利」と表現の自由を圧迫する危険があります。そして、最終的には、戦争遂行体制に反対する人々を「スパイ」として排除し、社会全体を「臨戦態勢」に動員する危険性を持っています。

2 監視と分断の社会を許さないために

今必要なのは、この政策の危険な本質を市民に知らせることです。

インテリジェンス強化やスパイ防止法は、市民を監視し、思想を統制し、反戦や反対運動を萎縮させる危険を持つものです。「安全保障」の名の下で自由と民主主義を失えば、その代償は極めて大きいものになります。

3 国家情報会議設置法と自治体

国家情報会議設置法には、現時点では自治体に情報提供義務を課す規定はありませんが、住民基本台帳法など既存法を通じて住民情報などが国に共有される経路は既に存在しています。今後、国家情報局が自治体が保有する個人情報を安全保障目的で利用できるように法改正がなされないとも限りません。

これに対して、自治体は、地方自治の本旨、個人情報保護、法律による行政の原理を根拠に抵抗することが考えられます。条例制定、議会決議、情報提供基準の厳格化、監査請求、住民訴訟なども重要です。

今こそ、自由と自治を守る立場からも、この問題を注視し、声を上げていくことが求められています。

山口 真美

新横田基地公害訴訟、過労死事件多数に関わる。共著に『新型コロナ最前線─自治体職員の証言2020-2023』(大月書店、2023年)、『自治体職員の働く権利Q&A』(日本評論社、2016年)等。

    ご意見・ご感想

    一言でも結構ですので、この問題についてご意見・ご感想をお寄せください。

    現在は手が回っていないため個別にお返事することはできないのですが、これらの問題に取り組んでいくために皆様の考えは大変参考にさせて頂いています。

    ※掲載させていただく場合、文意にかかわらない字句修正や一部を抜粋させていただく場合があることをご了承ください。

    ご意見・ご感想等