【論文】指定地域共同活動団体制度の運用と課題、今後の取り組み

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指定地域共同活動団体制度が昨年9月に施行され、現在、各自治体で具体の作業が始まっています。制度の運用の考え方、課題、今後の取り組みについて検討します。

はじめに

指定地域共同活動団体制度(以下、指定団体制度)の創設に係る地方自治法の一部改正法は2024年6月26日に公布され、9月26日に施行されました。同日付で地方自治法の施行令、施行規則の一部を改正する政省令も公布・施行され、併せて「『指定地域共同活動団体制度』の運用等に係る考え方について」(以下、通知)、「同質疑応答集について」(以下、事務連絡)が発出されました。また、それらに先行して行われた「地方自治法施行規則の一部を改正する省令(案)」に対する意見募集の結果も公表されました。

ここではこれらを踏まえ、改めて制度内容を検証し、その運用と課題、今後の取り組みについて検討します。

「意見募集」で示された特徴的意見

意見募集は昨年8月6日~9月4日に行われましたが、内容は指定地域共同活動団体(以下、指定団体)の要件の一つである定款等に定めておく必要な事項についてという限定的なものであり、制度自体への関心も薄かったため、意見提出者は7名と低調でした。主な意見(要旨)は次の通りです。

自治体関係者からは「当市も少子高齢化により、各団体の役員が欠員となり、団体活動に支障が生じている。この現象は市内の団体に共通するものであり、今後、地域福祉活動に支障が生じ、行政運営が厳しいものとなることが予想されており、すでに、民生委員や自治会役員、消防団員、各地域の人権擁護委員も欠員となっている。協働のまちづくり団体においても、担い手不足により、団体の活動が休止する事態となっている。今後、地域の団体が活動できなくなれば、きめ細かい行政サービスが不可能となり、社会不安が生じ、安全安心のまちづくりが出来なくなってくる。特に当市は、合併特例債もなく、過疎地域でないために、国からの財政支援が無い。財政が厳しい中で、担い手不足に陥れば、打つ手がなくなり、じり貧になる。これまで地域の安全安心については、ほとんどが非営利活動で、住民の善意に頼りすぎである。行政サービスの担い手を望むのであれば、業務に見合う対価を支払うことは当然であり、財政負担が必要になる」等と、厳しい地域、自治体の実情を述べ、実効ある財政対策等を求めています。

一方、企業からは「『指定地域共同活動団体制度』について(中略)強く賛成いたします。市町村が提供する行政サービスの維持は、特に人口減少が進む中で喫緊の課題であり、地域の多様な主体との連携及び協働を推進するためのこの制度は非常に有効な手段となる」と述べ、その上で、市町村が団体を指定する際には、①団体運営の透明性と経営の安定性、②サービス内容の専門性と実績の確認、③DXを背景とした広域でのサービス提供、④幅広い行政サービスの対象化への考慮が必要であり、「共同活動団体が担うべきサービスとして、地域の防犯や高齢者見守りといった伝統的な自治会的なサービスに加えて、行政窓口業務やマイナンバー業務などの高度な行政サービスも対象に含めるべきです」と提案し、本制度に強い期待を寄せています。

制度運用等の考え方と課題

では、総務省通知等で示された制度運用等の考え方はどうなっているでしょうか。

(1)まず、本制度の導入については「導入するかどうかについては、市町村の判断による」(通知)とされ、既に条例等を定めて独自に実施している自治体についても「本制度を活用せずに、市町村独自の取組を引き続き継続することも可能であり、地域の実情に応じて判断されたい」(事務連絡)としています。これが改正法の趣旨であり、制度運用の基本です。しかし、この間の指定管理者制度や公共施設等総合管理計画を見ると、導入や策定は任意とされていても、実質的には政策・財政誘導等が行われ、それが原則のように運用されており、趣旨の徹底が必要です。

実施する場合は、関連条例・規則の制定が必要であり、指定団体の指定要件や活動内容、指定手続き、支援内容等をどう定めていくかが課題になります。その中身は地域の実情に応じて条例で定めるとされており、各自治体、地方議会の役割、責任は大きく、的確な判断、対応が求められます。

(2)指定団体については、「地縁による団体等が母体となり、福祉活動団体や老人クラブ・子ども関係団体など各種団体が参画する形態などが想定され」(通知)ています。具体的には近年地域の暮らしを支える重要な担い手となっているとして地域運営組織や地域共同活動を住民主体で運営するNPО等が例示されています。特に地域運営組織は国の重点施策であり、現在874市区町村に7710団体(2023年度)設置されており、運営支援等に必要な経費には地方交付税措置がされています。その意味では、本制度においては同組織の設置促進と指定団体化が明確に意図されています。

指定団体の設定については、具体の規定がないので明確なことは言えませんが、制度の作りや先行自治体の事例等を勘案すると、地縁団体の活動を基礎にして自治体内に一定のエリアを設け、そこにそれなりの規模を有し、多様な団体が参加する地域共同活動団体を概ね一つ指定することが想定されています。

実施に向けては対象となる地域共同活動団体や各種団体の偏在、対応能力の違い等が予測され、自治体全域をカバーできる的確なエリア設定、適切な指定団体の選定ができるのかが課題になります。

また、この方式では現に地域共同活動を行っている団体の多くは指定されないことになり、それらの団体の活動のあり方が問われます。実際に市町村からさまざまな支援や特例を受ける指定団体とは明確な格差、分断があり、関連事務の委託も指定団体に優先的に行われれば、その自主的、多様な地域共同活動が阻害されかねません。特定団体を限定して指定するというのは選別であり、他団体の「排除」につながります。他団体が地域共同活動を継続的、安定的に実施しようとすれば指定団体の構成員として参画するか、そことの連携が求められます。これは実質的には地域共同活動団体の集約化、一体化であり、行政の下請け化につながります。

基礎的な支援、情報提供等はどの団体にも等しくなされるべきであり、衆参両院の「地方自治法の一部を改正する法律案に対する附帯決議」でも「指定地域共同活動団体としての指定の有無にかかわらず、地域住民が中心となって形成され、地域課題の解決に向けた取組を持続的に実践する団体に対し、市町村が十分な支援を行うことができるよう、引き続き、適切な財政措置を講ずること」と明記されています。

指定団体と法人格の関係については、「地域で共同活動を行う団体には、様々な主体が想定されることから、任意団体も指定の対象から排除されることのないように、本制度では、法人格の有無という形式的な要件は設けられていない」(事務連絡)としています。

しかし、それは指定団体の特権的な位置付け、役割等を勘案すれば妥当と言えるのか、事実に即した検討が必要です。なお、任意団体の場合は特例措置の契約主体にはなり得ないとされ、契約はその代表者と行うことになるため、当該団体の定款・規約等で組織としての基本事項を定めておくことが必要(要件)とされています。

営利企業との関係では、「営利企業については、地域的な共同活動を行うことを本来の目的とするものであるとはいえないため、一般的には、『地域的な共同活動を行う団体』には該当せず、指定対象とはならない」(事務連絡)としています。それは当然にしても、実質的には地縁団体等が基本となる指定団体に構成員として参加できるし、連携の対象にもなっています。また、都市部では企業の多様な共同活動が模索、検討され、意見募集でも参入期待が強く示されている中で、今後、指定対象に浮上してくることも考えられ、注視が必要です。

(3)指定団体の指定については、具体的にどのような手続きで行うかは何も示されていません。類似の指定管理者制度では、条例等で選定委員会の設置・審査、議会の議決等が定められています。本制度でも指定団体をどう民主的、的確に選定するかは重要な課題になります。実務担当課任せではリスクが大きく公平性も問われます。そのため自治体独自の先行例では、団体の指定、取り消しを行う場合は、別に規則等で定めた審議会等に諮問し、その答申を踏まえて行っています。こうした対応は当然に求められます。

(4)指定団体が行う特定地域共同活動については、各市町村が条例で定めますが、その内容としては「地域における高齢者等の生活支援や子ども・子育て支援、地域の環境美化活動など」(事務連絡)が想定されています。質疑応答集では具体例が記されていますが、かなり広範囲にわたっており、実施に向けては精査が必要です。

また、企業側からは行政窓口業務やマイナンバー業務など高度な行政サービスも対象に含めるべきとの提案がなされていますが、それらは市町村の基本的な業務であり、本制度にはなじまず、対象とすべきではありません。

《参考例》

○生活支援─買い物支援、高齢者の外出支援 等

○居場所・環境─高齢者の居場所づくり(交流・健康づくり等)、子育て中の保護者が集まる場の提供、子ども食堂の運営、子どもの居場所づくり(学童・学習支援等)、地域の環境美化・清掃、地域集会施設の維持管理、地域行事、地域の文化・スポーツ等の生涯学習等

○安心・安全─高齢者への声掛け・見守り、子どもの登下校時の見守り、防犯パトロール、災害時の連絡・安否確認等

なお、これらの事務事業をどこまで指定団体に委ね、市町村はどんな役割を担うのか、その検討も必要です。

(5)指定団体に対する市町村の支援については、「活動資金の助成、情報提供、研修や他団体との交流の機会の提供等」(通知)が想定されていますが、具体的にどんな中身にしていくか、その検討が必要です。重点は財政、人的支援です。指定団体の対象となる地域共同活動団体の多くは、組織、経営、人的な体制は脆弱ぜいじゃくであり、運営費、事業費、委託費等に加え、専門職を含む人員をどう安定的に確保していくのかが課題になります。

国の財政支援については、地域運営組織と同様、来年度予算案では指定団体に対する設立運営支援等に要する経費は地方交付税措置を講ずるとしています。地方財政が逼迫ひっぱくしている中で、国は市町村の地域自治施策の推進に向けて財政措置を拡充すべきです。

関連の施策では、来年度予算案で地方創生交付金の倍増(2000億円)が提案されていますが、これについても基本施策の抜本的な見直しと併せ、その有効活用ができるようにすべきです。

市町村による調整については、「住民が日常生活を営むために必要な環境の持続的な確保を図るためには、指定地域共同活動団体による単独の活動だけではなく、他の地域的な共同活動を行う団体と連携した活動により、地域全体として効率的かつ効果的に生活サービスの提供を行うことが必要である」(通知)として、市町村長が指定団体の求めに応じて調整を行い、必要な措置を講じるとしています。こうした地域共同活動団体相互の連携や市町村長の調整は必要なことですが、特権的な支援や特例を受ける指定団体中心の調整でいいのか、それで円滑にできるのか、その内実が問われます。基本的には調整の申し出は他団体にも認め、各団体が平等の立場で協議し、市町村が総合的に調整すべきです。

なお、調整に係る連携の相手先団体には営利企業や指定団体と異なる区域で活動する主体を含め幅広く対象となるとされています。

(6)指定団体に対する特例(随意契約と行政財産の貸付)は、支援、調整と併せて指定団体制度の目玉です。特例を設ける理由は、「市町村の事務と関連する特定地域共同活動を委託することにより当該団体が一体的に行うことで、(中略)相乗効果により、効率的かつ効果的に住民の福祉の増進が一層図られると認められる場合」(事務連絡)としています。行政財産の貸付も、「地域において住民が日常生活を営むために必要な環境を持続的に確保するという本制度の趣旨を踏まえ」(通知)たものとしています。貸付は民法や借地借家法規定の適用除外で無期限です。これは実質的には市町村業務との一体化、下請け化、特権化であり、業務委託の拡大につながります。質疑応答集に例示された以下の活用例を見てもそれがよくわかります。

[随意契約による委託]

○地域の美化清掃活動を行う指定団体に市町村が地域内にある公園の維持管理業務を委託して、一体的に地域の環境整備を図る。

○高齢者の健康づくり活動を行う指定団体に対して、市町村が高齢者訪問(見守り)事業を委託して、高齢者支援として一体的に活動を行う。

[行政財産の貸付け]

○市町村の保健センター内の一室を借り受けて、指定団体が高齢者の交流喫茶を開催することで、保健センターに相談に訪れた高齢者が、その足で高齢者交流事業に参加することができる。(中略)保健センターで実施される健康診断と連携して指定団体が健康セミナーを開催することで、高齢者が、健康診断で指摘された運動・食事の改善についてその場で学ぶことができる。

(7)指定団体の適正な運営を確保するための仕組みについては、「指定の効果として、市町村から支援等を受け、一定の場合に、特例の適用を受けることができるなどの特別な立場を有することとなり、また、住民の日常生活に密接に関連する活動を行うことから、当該団体の適正な運営が確保されていることが必要である」(通知)として、指定団体が行う特定地域共同活動の状況及び当該活動に対する支援の状況の公表、市町村長による報告徴収、市町村長による措置命令、指定の取消し等が定められています。これらの対応は当然のことですが、質疑応答集では「本制度の趣旨を踏まえて、指定地域共同活動団体の自主性・自立性を阻害することのない運用に努められたい」と付記されており、これでは本気度が疑われます。

衆参両院の附帯決議では「指定に係る団体の民主的で透明性の高い運営その他適正な運営を確保するため、事前及び事後チェックを適確に行えるよう、地方議会が一定の役割を担うことも含め、市町村に対して必要な助言を行うこと」とされています。

実際にも類似の指定管理者制度では、総務省の調査でも制度の本格実施以来15年間で1万2000件超の指定取り消し等が発生し、当該施設の過半数が休止・廃止、民間譲渡に追い込まれています。こうした事実も踏まえ、実効ある措置を講じていくべきです。

自治体独自の取り組み事例では

以上が指定団体制度の運用等に係る考え方の要旨と課題ですが、現場からは今一つ制度のイメージが見えないとの声が寄せられており、ここでは参考までに自治体独自の取り組み事例の一つである神奈川県茅ヶ崎ちがさき市の制度の概要を紹介します。詳しくは同市のホームページ等を参照してください。

茅ヶ崎市の制度は、基本的には地域自治の推進、まちづくりの視点から設計されており、その活動の要となるコミュニティについては、地域の自治の担い手として認識し、その活動を尊重し支援するとともに、提出された意見、提案等を市が総合的に検討し、市政に反映させるよう努める、と自治基本条例で規定しています。その上で、地域コミュニティの認定等に関する条例と同施行規則、地域コミュニティ審議会規則で、コミュニティの認定等に係る具体の内容を定めています。

地域コミュニティ審議会は、市長からの諮問に応じて地域コミュニティの認定及び認定取り消しに係る調査審議を行い、かつ活動が適切に行われているかの評価検討を行い、その結果を市長に答申又は建議することになっています。審議会は、市民、市民活動団体・地域福祉団体の代表者、事業者の代表者、学識経験者で構成されています。

認定コミュニティは、自治会連合会を基礎にして市内12カ所において「まちぢから協議会」という名称で活動しており、住民主体の民主的な運営等を要件として市から助成金(運営費、事業費)が交付されています。事務局機能を担う専任職員は配置されていません。協議会は区域内の自治会すべてと、地域福祉、文化・芸術・スポーツ、児童・青少年等の団体の参加を認定の要件としています。

実施事業は、地区の特性を生かし地域の課題を解決するために行う事業(福祉、児童・青少年の健全育成、高齢者・障がい者福祉、環境、防災、交通安全・防犯事業等)です。

なお、制度のあり方については、この間、いろいろな意見や要望が出されており、見直しに向けて現在、地域コミュニティ審議会で審議が行われています。

総務省資料によれば、こうした独自の取り組みは豊中市(大阪府)、名張なばり市(三重県)、明石あかし市(兵庫県)等でも行われており、さらに雲南うんなん市(島根県)等では小規模多機能自治に係る地域自主組織の取り組みもあります。また、地域自治の推進ということでは、地方自治法に基づく地域自治区制度が基本にあり、現在、上越じょうえつ市(新潟県)など全国18の市町で実施されています(総務省調べ、2024年4月1日現在)。こうした取り組み事例も今後の制度設計に向けて参考になります。

新たな制度設計に向けて

現在、各自治体では制度の施行、総務省通知等を受けて関連の条例・規則、支援内容等の検討を行っており、すでに条例等を制定した団体もありますが、いま大事なことは、この制度を活用するかどうかも含め多くは自治体の判断に委ねられており、制度ありきで拙速に事を運ぶのではなく、まずは制度内容の精査、対象事務の実施状況、地域の実情や関連団体の活動状況、自治体独自事例等も踏まえ、住民、地域、議会参加でその目的や制度のあり方、運用、適用範囲、課題等を十分に検討、検証することです。

その上で、新たな制度設計に向けては、特定団体による特権的な公共サービスの互助・共助の受け皿づくり、委託促進を基本とし、行政の下請け化、自治体の更なるスリム化につながる指定団体制度の仕組みを鵜呑うのみにする必要はなく、既存の制度・補助事業等も活用し、独自の制度改善を図って地域自治の推進、持続可能なまちづくり、そして住民の主体的な参加と連携、協働、公共の再生・役割の拡大を図り、地域での自治の総量の拡大、質的強化につなげていくことが重要です。

他方、今後、制度化に向けた具体の動きが出てきます。議員や住民団体においては、各自治体の方針、検討状況等を明らかにさせ、地域からの学習、調査分析、政策提言、運動を強めていきましょう。

なお、法制度の背景や狙い、内容、課題等については、自治体問題研究所のホームページにアップされている拙論「地方自治法『改正』案のもう一つの論点ー指定地域共同活動団体制度について」をお読みください。

角田 英昭

1944年生まれ。1967年に神奈川県入庁。退職後、自治労連地方自治研究機構、自治体問題研究所で調査研究活動に従事。

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