【論文】人事評価と人事・給与の能力・実績主義化─現場の疲弊が公務の変質を招く

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2014年の地方公務員法改正による人事評価制度導入は、「公共」のあり方を大きく変える結果となっていることをみていきましょう。

1 地方公務員と人事評価制度 (黒田兼一)

2014年、国は地方公務員法を改正して地方自治体に人事評価の導入を義務付けました。2年間の準備期間を設けて、2016年4月から施行となりました。本年は施行から10年目の年です。

政府(総務省)の説明によると、人事評価とは「職員がその職務を遂行するに当たり発揮した能力及び挙げた業績を把握した上で行われる勤務成績の評価」のことです。この人事評価の結果を「任用、給与、分限その他の人事管理の基礎として活用する」ことを義務付けたのです(地方公務員法第23条)。

そもそも改正前の地方公務員法にも「勤務成績の評定」が規定されていましたが(第40条)、それにもかかわらずなぜ法改正をしてまで義務付けることになったのでしょうか。それは、端的にいえば、公務員の働かせ方を変えるためです。公務員の「働き方」そのものに手を加え始めたのは2001年に閣議決定された「公務員制度改革大綱」です。そこでは「能力を基礎とした新任用制度の確立」と「能力・職責・業績を反映した新給与制度の確立」が掲げられ、公務員の人事と給与の原則を抜本的に変えていくとされたのです。要するに、職員が効率よく働き、その遂行度で処遇する、このように働かせていこうというのです。その不可欠な道具が人事評価制度でした。

しかし、そもそも地方公務員の「能力」とは何か、地方公務員の「業績」とは何か、それらをどのように測るのかと考えてみると、決して自明ではありません。この難問に法律はいとも簡単に次のように答えます。「標準職務遂行能力」とは「職務を遂行する上で発揮することが求められる能力として任命権者が定める」(法第15条の2)、また「人事評価の基準及び方法に関する事項その他人事評価に関し必要な事項は、任命権者が定める」(法第23条の2)。つまり、能力の中身、評価基準と方法など、人事評価に関わるすべてを任命権者が決めるというのです。任用と給与等の処遇を任命権者(首長、当局)が決める内容、基準、方法で行うというのですから、その運用次第では露骨な職員支配の道具となります。首長や当局の姿勢によっては、職員は市民ではなく上司の顔色を見ながら仕事をすることになりかねませんし、仕事への意欲も減退しかねません。これで果たして地方自治の質が向上するのかどうか、きわめて不確かなものとなるのではないでしょうか。

施行から10年、総務省の最新調査で全国の状況をみてみましょう。

表をみると、全国のほとんどの自治体で人事評価の結果を使って、給与(昇給)、勤勉手当、昇任・昇格、分限(解雇)が行われていることがわかります。都道府県と政令市レベルでは100%、市区町村レベルでも70%以上が職員の処遇に人事評価の結果を利用しているのです。もっとも総務省は市区町村で「分限への活用は7割にとどまっている」として問題視しています。

表 地方自治体の人事評価結果の活用状況(2024年4月1日)
〈人事評価結果の活用状況一覧〉
【調査団体数:都道府県(47団体)、指定都市(20団体)、市区町村(1,721団体)、計1,788団体】

注)「会計年度任用職員」の数値は、人事評価を勤勉手当に適用している自治体の割合
出所)総務省「地方公共団体における人事評価結果の活用状況等調査結果」2024年12月

これに関連して、総務省の検討会は報告書を発表し、国家公務員の給与制度のアップデートを踏まえて「職務や職責を重視した給料体系に見直すこと」を推奨し、人事評価制度のいっそうの活用を求めています。

*注:総務省「社会の変革に対応した地方公務員制度のあり方に関する検討会 給与分科会報告書」2024年10月。

さらに2020年度から制度が発足した会計年度任用職員も「任期の長短にかかわらず、あるいは、フルタイムかパートタイムかにかかわらず、人事評価の対象に」なるとされています。ちなみに、上記の総務省調査によれば、この会計年度任用職員の勤勉手当への評価結果活用率は、都道府県レベルで85・1%、政令市55・0%、市区町村45・0%となっています。また、再任用の際にも評価結果を活用することが推奨されています。

*注:総務省「会計年度任用職員制度の導入等に向けた事務処理マニュアル」第2版、2018年10月。

こうして全国津々浦々すべての自治体に人事評価制度が導入されました。正規職員だけでなく会計年度任用職員も評価の対象となり、それによって任用と給与が決められるということになりました。どの自治体でも導入の際には、多かれ少なかれ、「職員がその意欲と能力を向上させて職に取り組む」に類似した文言を添えて、そのために「職員の発揮した能力と挙げた業績」を評価するとされています。しかし果たしてその実態はどうなのでしょうか。

2 自然大災害・超長時間勤務と自治体職員 (黒田兼一)

(1)人員削減下での自然災害の頻発

人事評価とは自治体職員の「仕事ぶり」を評価することです。「仕事ぶり」とはいっても、自治体職員の「仕事」の量と質は国と行政当局の方針によって大きく変化します。職員は自由に仕事に取り組むわけではなく、首長と上司からの指示と命令で仕事するのですから、人事評価の導入が職員に与える影響を考える場合、職場と仕事環境のあり様やその変化をみておく必要があります。

これを念頭におけば、人事評価が義務付けられた2016年当時は、地方自治体の職員の削減の真っ只中にありました。現在は1994年のピーク時よりも2割ほども減少しています。職員数の減少に比例して仕事量が減少したわけではなく、むしろ新しく対応しなければならない業務が増えたはずです。

ここで自治体職員の仕事とその環境の変化としてみておくべきは、仕事のデジタル化(DX自治体)と大災害の頻発化による職場環境の激変です。前者については別の機会に譲るとして、以下では後者についてみておきましょう。

職場と仕事が余裕のないギリギリの状態の中で、2019年末の新型コロナウイルス感染症が全国に蔓延まんえんし、少なくとも3年半ほどの間、全国の自治体職員はその対応で追いまくられました。そのコロナ禍の真っ最中の2020年4月から会計年度任用職員制度がスタートすることになったのですが、現場からは安全対策と労働条件が不十分だとの指摘がありました。人の命を預かる職場の最前線が人員不足で、非正規職員の補充で急場をしのぎました。

自然大災害が各地を年中行事のように襲うようになったことも看過できません。その対応にあたるのは自治体の職員たちです。内閣府の資料では、阪神・淡路大震災から2024年末までに、死者・行方不明者が10人以上、もしくは負傷者が100人以上の大災害は、全部で115件がリストアップされています。つまりこの約30年間で大災害が115件、概算すれば毎年4件弱大災害が起こっていることになります。まさに「四季毎の年中行事化」です。加えて今後とも大地震(マグニチュード8~9クラス)の発生確率も高まっていますから、その災害からの復旧・復興は一時的・臨時的な業務ではなく、日常的な備えも含めて自治体職員の基本的な業務とならざるをえません。これはこれまでの自治体職員にはなかった新たな日常的・通常業務の一つとなるはずです。こうして、大災害の「年中行事化」は、1990年半ば以降の自治体職員の人員削減政策を全面的に見直し、根本的に変えなければならないことを突き付けています。

これに対する国の政策はどうでしょうか。結論からいえば、人員削減政策を見直すのではなく、他の自治体からの派遣・応援で対応するというものです(=応急対策職員派遣制度、「災害マネジメント総括支援員」(General Adviser for Disaster Management = GADM)、「災害マネジメント支援員」)。しかもこれらを政府が各自治体首長に指示して行わせるという枠組みを法制化したのです(2021年5月、災害対策基本法改正)。つまり大地震や異常気象による大災害への対応は、災害を想定した最低限の職員の増員ではなく、政府からの指示で、他の自治体からの職員の派遣をフル活用するというものです。それを職務命令に基づく「公務出張」として義務化したのです。

こうして、「年中行事化」した災害対応として自治体職員に被災地への応援・派遣の仕事が加わることになりました。人員不足で悩む現場ではそのやり繰りに頭を抱えているに違いありません。それを担う自治体職員は長時間労働とならざるをえませんが、人事評価制度がどのような効果と影響を与えたのでしょうか。評価結果で給与を決定することの是非が改めて問われる必要があります。

(2)超長時間労働と人事評価

コロナ禍での時間外労働について、総務省の調査によれば、月間100時間を超える時間外勤務の職員数が2020年度は前年度の2倍近くにまでなっています。翌2021年は感染対策関係の現業部門で85~93%の職員が上限規制を超える時間外勤務をしていたと報告されています。また自治労連の調査では、何と月200時間を超える時間外勤務の職場もみられたといいます。なかには1日15時間以上の勤務をほぼ1カ月続けることに相当する453時間という途方もないものすらありました。異常・異様なこの事態、過労死の犠牲者は報告されていませんが、それは不幸中の幸い、奇跡としかいいようがありません。コロナ感染という緊急事態の対応策は自治体職員の「過労死ライン」を超える超長時間勤務頼みであったのです。

*注:その実態の詳細は、黒田兼一監修『新型コロナ最前線─自治体職員の証言』大月書店、2023年、を参照されたい。

こうしたことはコロナ禍だけでなく、大地震や集中豪雨などの被災自治体でもみられるはずです。事例の一つとして、2024年1月の能登半島地震でみると、輪島市の職員の時間外勤務は平均97時間、平均100時間を超えた者は77%に上ったといいます(『しんぶん赤旗』2024年6月10日、『朝日新聞』2024年3月3日等による)。輪島市では震災以前から長時間の時間外勤務が常態化しており、それに震災対応の勤務が加わったことで、異常な超過勤務を余儀なくされてしまったのです。

*注:自治体問題研究所/自治労連・地方自治問題研究機構編『検証と提言 能登半島地震』自治体研究社、第9章を参照。

実はこれまで民間企業を含めて日本には時間外労働の法定上限規制はありませんでした。それが2018年に「働き方改革」として労働基準法が改定され、時間外労働月間45時間、年間360時間未満という限度を設けることになりました(2019年4月から施行)。ただそれも特別に協定を結べば、この上限を超えて1カ月100時間未満(連続する場合は平均80時間未満)の範囲内で働かせることができるという、何とも緩やかなものですが、ともあれ時間外労働の上限規制が設けられました。地方公務員もそれに準じた規制が行われることになりました。

ところが公務員の場合、看過できないことに、この上限規制に「穴」が空いているのです。その「穴」とは、上限規制を適用しなくてもよいという規則と法律があることです。人事院規則が定める「特例業務」(大規模災害への対処など)と労働基準法の第33条第1項および第3項です。いずれも災害や臨時に必要がある場合は「上限時間の規定は適用しない」というのです。これはまさに「抜け穴」そのものです。

こうして、大規模災害への対策と復旧・復興、支援が一時的・臨時的な業務ではなくなっている現実を素直に受け止めれば、「人事評価」が何の意味があるというのでしょうか。その評価点で給与その他の処遇を決めることが果たして「意欲を引き出し、能力を向上させる」ことになるのでしょうか。あの東日本大震災の時、押し寄せる津波を前に最後の最後まで避難を呼びかけて命を落とした地方公務員の姿、この「全体の奉仕者」を前にして、人事評価制度導入の義務化は空虚です。人命に関わるような事態に直面して、懸命に取り組む職員たちの「働きぶり」に点数をつけることが住民サービスの向上になるはずはありません。むしろ過労死という不幸な事態を招くことになりかねないのではないでしょうか。改めて問わねばなりません。

3 現場の疲弊 (嶋林弘一)

(1)新型コロナウイルス感染症対応と

人事評価制度

新型コロナウイルス感染症のパンデミックでは全国で保健所業務がひっ迫しました。対応にあたった保健師たちの「過労死ライン」をはるかに超える長時間労働を余儀なくされた実態と、脆弱化されてしまった公務体制の実態が、労働組合からの告発もあり社会的な課題となりました。保健所をはじめ自治体の感染症対策担当部署は、当然ながら平時の人員体制では業務がまわるはずもなく、多くの他部局からの応援体制で対応にあたることとなりました。応援職員の服務の取扱いについては、短期の応援については出張扱いで対応し、比較的長期にわたる場合などは兼務発令によって応援先の業務に従事する取り扱いが多く見られました。

現場では、応援を受ける職場が大変な状況であったことは言うまでもありませんが、応援に送り出した側の職場でも元々の人員に余裕があったわけでなく、平時からギリギリの人員体制であったため業務に支障が生じ、昼間は応援先の業務に従事し、終業後の時間外に応援元所属に戻って本来業務に従事する等、異常な実態も多く報告されています。

それでは、兼務発令されて応援先の業務に従事する職員について、人事評価制度はどのように運用されたのでしょうか。

平時においては、年度当初に評価者と被評価者とで面談しながらその年度の目標を設定し、年度途中の中間面談と評価、年度末に目標達成度を確認して面談と年度末評価を行います。しかし、兼務発令による応援体制では、年度当初に与えられた業務と異なる業務に従事することから、当然ながら年度当初の目標達成は困難となります。言い換えれば、当初目標設定していなかった業務の比重が大きくなります。当初に設定された目標と実際の業務との乖離かいりが生じるのですから、適切な〝評価〟ができるはずもなく、応援に従事した職員と、通常業務にのみ従事した職員とでも達成度に差が生じることになります。また、実際に指揮命令を行う上司と評価を行う上司が異なることからも適切な〝評価〟は困難です。

この点について組合からの指摘に、当局は「担当業務が変更になれば改めて目標を設定し直すのが原則」といいますが、ひっ迫する現場で改めて目標設定や面談を行う余裕などあるはずもなく、目標管理に基づく人事評価制度の根底が崩れたといえるのではないでしょうか。

(2)人事評価制度、自治体の運用例

自治労連では、この間、人事評価制度の運用の実態についても調査をしてきました。ある県の状況では、年3回の面談を実施し、「チャレンジ精神」「創意工夫の成果」などを評価項目に加えながら運用されたといいますが、現場の職員からは「幹部職員が求めている〝チャレンジ〟を現場の職員は求めていない」「(地味な)創意工夫を上司や幹部職員がみていない」などの指摘があり、「評価者の多忙化でコミュニケーションの時間が充分に取れてない」「(必ずしも県民目線とは合っていない)上司の意に沿う実績を上げたものが評価されているのではないか」「目標管理は行政の仕事にはなじまない」との声が上がっているといいます。

当該自治体では、人事評価について「人材育成のための制度とし、いたずらに差をつけず、まじめにコツコツと頑張る職員を評価するべき」と労使で合意していますが、2023年10月に組合が実施した組合員向けアンケートによると、人事評価は人材育成に活かされていないとする声が48%にのぼり、自由意見でも「『特に優秀』な職員は、多くの『良好』な職員の協力があって支えられているからその評価を受けられています。差をつけるのはおかしい」との声が上がっています。

そもそも公務は、様々な部署で、様々な業務を担う職員の力を集合させて成り立っており、その意味では個人プレーが意味をなす仕事ではありません。仲間を出し抜いて上司に媚を売り出世しようとするような職員が評価されるような職場では、職員間のチームワークは崩れ、ひいては住民の声が聞こえなくなり、住民サービスの質的低下など悪影響も想像に難くありません。

(3)「給与制度のアップデート」と人事評価

2024人事院勧告時に人事院は、社会と公務の変化に応じた給与制度を整備するとして、「給与制度のアップデート」と称する給与制度の改革に言及しています。その大きなねらいは「職務・職責重視の処遇」「能力・実績の適切な反映」です。初任給や若年層の俸給月額を大幅に引上げるとともに、勤務成績をより昇給に反映可能となるよう見直し、本府省課室長級について、より職責重視の俸給体系へ見直すとしており、「能力・実績主義の強化」が強調されています。

幹部職員に対する「能力・実績主義」が強化されると、公務が「全体の奉仕者」から「一部への奉仕者」へと変質させられる危険性が強まるのではないでしょうか。なぜなら、幹部職員は高い評価を求めて、首長等の権力者の意向に沿うような目標を掲げ、部下がそれに総動員されることになるからです。住民への奉仕と公正であるべき行政がゆがめられるおそれがあるのではないかと危惧するところです。事実、2024年の香川県人事委員会勧告「報告」では、「部下を叱責し上司に気に入られるようふるまうのではなく、部下の意見を聴き、しっかりと咀嚼そしゃくし、建設的な議論を経て上司に繋ぐ者が評価されなければならない。表面化しづらいパワー・ハラスメントで部下を追いつめても、さして評価に影響しないとすれば問題である」と指摘し、「花形部署での頑張りは評価されやすい一方、地味であまり注目されていない部署で、何十年と懸案のまま解決に至っていない課題を解決したとしても、さして評価されないなどということがないよう、バランスを考慮しなければならない」と当たり前のことがあえて述べられています。現実がそうなっていないことへの忠告でしょう。

職員削減と長時間勤務が常態化している中、人事評価で処遇が決められることで現場の疲弊が増しています。そもそも公共の分野に「能力・実績主義」を入れること自体に問題があるのですが、人事評価が義務化されたなかでも、「全体の奉仕者」として公共サービスの質的向上のためには、注目されやすい部署だけが優遇されるような制度ではなく、チームワークを重視し、「誰もが希望を持って働き続けられる、魅力ある公務につながる制度」に修正していくべきです。

4 何が必要か (黒田兼一)

義務化された人事評価制度が自治体職員にもたらす影響は肯定できるものではありませんでした。総務省の研究会が述べているように「人事評価制度は、導入すること自体が目的ではなく、職員のモチベーションを高め、組織全体の公務能率の向上につなげていく」ことにあるとすれば、現状の人事評価制度は修正される必要があります。どこをどのように修正すべきなのでしょうか。

*注:総務省『人事評価の活用に関する研究会 平成30年度報告書』、2019年2月、1ページ。

まず神奈川県と大阪府(市)の事例を紹介しましょう。

2019年1月、神奈川県は幹部職員を含む全職員を対象に人事評価制度についてアンケート調査を実施しました。2351人の回答者のうち、「あなたは人事評価で適切に評価されているか」の問いに、幹部84・9%、中堅67・7%、若手78・4%が「そう思う」と答え、また「人事評価結果について人事上の処遇に適切に反映されているか」は、幹部80・1% 中堅56・5% 若手68・3%が肯定的な回答をしています。この結果について当局は「概ね評価されている」といいますが、自身の評価に対して中堅層の32・3%が、また「処遇」については若手の31・7%が否定的な回答をしていることは看過すべきではありません。さらに組合の独自調査(2023年)によれば、回答者の6割が「人事評価が仕事の参考になっているか」に否定的であったし、「人事評価は人材育成に活かされているか」に肯定的だったのはわずか26%にすぎませんでした。このような否定的な回答が多かったのは、もともと導入時から組合は「人事評価は職員の人材育成と能力向上のために使え」と強く要求していたことが関係していると思われます。

*注:神奈川県職労連からの情報提供による。

次に大阪府(市)ですが、ここの人事評価の処遇への反映方式は複雑で独特です。現場等で絶対評価したものを、府の条例で固定化した分布率(上位から5%、20%、60%、10%、5%)で5段階に相対化して、その相対評価を処遇にリンクさせるというものです。この複雑なやり方が職員の納得を得にくくさせています。しかも2年連続で最下位ランクになった場合は指導や研修を行い、改善がみられなければ分限免職の対象とするという強権的なものでした。

この仕組みに対しては当局が実施した職員アンケートでも否定的な回答が6~7割を占め、労働意欲の低下を示す意見が多くありました。組合はこの相対評価の撤廃を求めて粘り強く交渉を続けてきました。その成果が実ってか、2024年11月に大阪府は「相対評価による人事評価制度の検証について」を発表し、労働意欲が低下していることを認め、評価制度を若干修正しました。「よりきめ細かく人事評価を実施」するためとして、絶対評価と相対評価を5段階から6段階に増やし、また相対評価の分布割合の最低ランクを5%から1%に変更しました。なおこの相対評価分布率は大阪市でも最低ランクの割合を「5%」から「5%以内」に変更しました

*注:大阪の事例は、読売新聞オンライン版 https://www.yomiuri.co.jp/national/20240227-OYT1T50021/ および大阪府『組織・人事給与制度の今後の方向性(案)』2024年3月。

これら二つの自治体の事例から、人事評価制度のあり方によっては、職員の労働意欲を失わせ、住民ではなく上司の意向に偏った姿勢を助長し、職員同士が競うことでチームワークが乱れてしまう危険性があることは明らかです。それだけではありません。納得できない低い評価を受けた職員がメンタル失調に至るケースも報告されています。実は2015年以降、地方公務員の精神疾患に伴う公務災害が増加しています。それらは直接に人事評価が原因とは必ずしもいえませんが、若年層が7割を超えていることから、人事評価のあり方が無関係ではありません。それを放置したままでは現場の疲弊と住民サービスの質的低下は容易に想像ができます。

*注:厚生労働省「過労死等防止対策白書」各年版を参照。

以下、簡単にではありますが、人事評価制度の見直しの要点のみを記します。

地方公務員は「全体の奉仕者」・住民サービスの担い手ですから、人事評価も民間企業の場合とは自ずと異なります。効率性・能率性を無視はできませんが、住民からの多種多様なニーズに応えるためには、短期的・断片的な評価は避けなければなりませんし、職員間の連携やチームワークが不可欠です。自治体職員の人事評価はこれらのことを前提に、住民サービスの質的向上を基準に制度化される必要があります。

人事評価はそもそも人が人を評価するのですから、どんなに工夫しても主観性、恣意性、差別性を免れません。だとすれば、評価する側は「公正」な評価をする努力が必要ですし、そのためには評価情報および評価過程と評価結果が全面的に透明な形で「公開」されなければなりません。またその評価結果は評価される側が「納得」できるものでなければなりません。この「公正・公開・納得」の三つの原則なしに人事評価は真っ当に機能しません。この基本的な視点から、①何をどのように評価しているか、(評価項目と評価基準が適正か)、②評価の方法と制度が公正・公開・納得を担保するものになっているかどうか、③賃金と処遇への反映が適正かどうか、この三つについて点検される必要があります。最後の賃金と処遇への反映は法定化されてはいますが、反映のさせ方まで規程されているわけではありません。どのように反映させているか、最高額と最低額が適正か、最低保障の制度があるのかなど、現場で働く職員の生活と努力に報いる制度になっているのかどうか点検をして、不都合なものは修正する等の見直しが必要です。

人事評価は人が人を評価することです。肯定的評価も否定的評価も評価される側への影響は計り知れないものがあります。上司によるパワハラの可能性すらあります。その意味で人事評価は「人権」問題です。評価する側はこのことを強く自覚する必要があり、「労働意欲と能力向上」に資するかどうかはひとえにここにかかっています。

【注】

  1. 総務省「社会の変革に対応した地方公務員制度のあり方に関する検討会 給与分科会報告書」2024年10月。
  2. 総務省「会計年度任用職員制度の導入等に向けた事務処理マニュアル」第2版、2018年10月。
  3. その実態の詳細は、黒田兼一監修『新型コロナ最前線─自治体職員の証言』大月書店、2023年、を参照されたい。
  4. 自治体問題研究所/自治労連・地方自治問題研究機構編『検証と提言 能登半島地震』自治体研究社、第9章を参照。
  5. 総務省『人事評価の活用に関する研究会 平成30年度報告書』、2019年2月、1ページ。
  6. 神奈川県職労連からの情報提供による。
  7. 大阪の事例は、読売新聞オンライン版 https://www.yomiuri.co.jp/national/20240227-OYT1T50021/ および大阪府『組織・人事給与制度の今後の方向性(案)』2024年3月。
  8. 厚生労働省「過労死等防止対策白書」各年版を参照。
黒田 兼一

専攻は人事労務管理論。近著として、『働き方改革と自治体職員』(共著、自治体研究社、2020年)、『戦後日本の人事労務管理』(ミネルヴァ書房、2018年)

嶋林 弘一

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