軍事化に対抗する地方自治の構築へ―新連載の開始に寄せて 

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2026年1月号から始まる新連載「加速する日本列島軍事要塞化ー対抗する地方自治の現場から」に寄せて、日本社会全体の軍事化を食い止めるうえでの地方自治の意義と役割を考えます。

はじめに

「戦争は人の心の中で生れるものであるから、人の心の中に平和のとりでを築かなければならない」。これは1945年11月に起草された国際連合教育科学文化機関憲章(ユネスコ憲章)の一節です。今月号から開始される連載の趣旨をこれに倣って表現するならば、「戦争は国によって引き起こされるものであるから、国のなかに地方自治という平和のとりでを築かなければならない」とでも言えるでしょうか。

明治憲法が日本国憲法へと変わる際に、大きく二つ、新たに加わった条項があります。一つは、いうまでもなく9条の平和主義ですが、もう一つが「地方自治」です。日本が二度と戦争に踏み込むことがないようにと、9条と同等の位置づけで新たに付け加えられたのが「地方自治」なのです。

加速する軍事化と対抗する地方自治

今年の自治体学校での中山徹理事長による基調講演のテーマは「戦争できる国づくりと自治体の役割」でした。そのなかで戦争できる国づくりの現段階として、多くのことが指摘されています。2015年の安保関連法により集団的自衛権の行使が可能になって以降、これを実質化する動きがいよいよ具体化されつつあり、ここ数年の動きだけでも、安保三文書による敵基地攻撃能力の保持、南西諸島での新基地建設・強化、軍事費倍増、特定利用空港・港湾の指定、陸海空の自衛隊統合作戦司令部の設置、能動的サイバー防御法の制定、防衛装備移転三原則の緩和による軍事産業の育成(国は「武器輸出」を「防衛装備移転」と言い換えています)、防衛装備庁による研究助成=軍事研究への支援拡充、経済秘密保護法による経済安全保障体制の強化…枚挙にいとまがありません。

新たに誕生した高市政権によって軍事化の流れがさらに加速しています。ここ1~2カ月の動きだけでも、補正予算によって軍事費2%の達成を今年度中へ前倒し、11月中旬から開始された安保三文書の改定作業による非核三原則や防衛装備移転三原則の緩和、原子力潜水艦の保持や無人機の配備・活用、さらには新たな軍事費の増大目標の設定が焦点化されています。しかもこうしたことについて、GDP比3・5%への軍事費の大幅増を日本政府に迫っているアメリカに、日米防衛大臣会談(10月29日)を通じて、今年度中に2%へ引き上げることを真っ先に約束する始末です。さらに、高市首相の「台湾有事─存立危機事態宣言」が日中間の軍事的緊張を高めています。

加速する軍事化の流れをどうしたら止めることができるのか、その答えは「地方自治」にあるのではないでしょうか。夏の自治体学校での中山理事長の基調講演においても、特定利用空港・港湾指定への歯止め、うるま市での自衛隊訓練場整備計画の中止、条例制定による地域からの平和づくり、自治体版非核三原則の実践による空母の寄港阻止、自衛隊への名簿提供の取りやめなど、戦争できる国づくりへの自治体の協力拒否が大きな力を発揮すると指摘されています。

また最近では、8月24日に投開票となった沖縄県与那国町長選挙で自衛隊増強慎重派が当選したことで、9月に島内で予定されていた攻撃用武器を持ち込んだ日米共同訓練が、医療訓練のみに縮小されています。

地方自治とは「住民が生産と生活のための共同社会的条件を創設・維持・管理するために、社会的権力としての自治体をつくり、その共同事務に参加し、主人公として統治すること」です。言い換えれば、人々の日常=生産と生活、それを支えるインフラ、そのインフラを管理する自治体の政策に人々が参加し、住民の生産と生活を維持していくことであり、これこそが軍事化に対抗する強力な手段になるのだと思います。

軍事と地方自治の対抗を歴史的に捉える

安全保障は国の専管事項であり、したがって地方自治体が撤去を求めても、軍事基地の必要性や公益性が優先されるべきであるという考え方がしばしば唱えられてきました。

他方で、軍事基地から生じる被害は多岐にわたり、例えばPFASによる環境汚染では、基地内への立ち入り調査ができず、規制権限といった「地方自治」が制約されることで、「住民の福祉の増進を図る」という地方自治体の役割・責務を十分に果たすことができない状態になります。こうした「軍事」と「地方自治」とのせめぎあいは、いつの時代においても共通するものです。

1920年代の大正デモクラシー期、地方分権を求めて両税委譲論が唱えられました。両税とは地租と営業税、現在の固定資産税と法人住民税にあたる税目を指し、これを国税から地方税へ委譲すべきという要求が高まったのです。国税を地方税化する三位一体改革を80年以上先取りする、画期的な出来事でした。これに対して国は、財源不足を理由に強く抵抗します。両税委譲を主張する当時の農商務官僚・岡実おかみのるはこれに反論し、パリ不戦条約の発効といった世界的潮流も視野に、軍縮と中央省庁の整理によって財源を捻出し、地方分権を実現して教育・福祉の充実を図ることが文化国家への道であると主張したのです。地方自治の尊重を通じて平和・文化国家を実現しようという考え方です。結局、この両税委譲は実現せず、その後、日本は戦争へと歩むこととなりました。

これ以外にも、1932年5月に全国町村長会が金沢市において「ファッショ政治排撃決議」をあげたことなど、歴史的に見ればいつの時代においても地方自治は、戦争への歯止めをかける可能性と意義を有していたと言ってよいでしょう。

軍事基地とNIMBY

原発やごみ処理施設、あるいは軍事基地といった「迷惑施設」の立地に反対する人々を批判・揶揄やゆする、NIMBYシンドローム(症候群)という言葉があります。Not in My Backyard、つまり「軍事基地は社会的に必要な施設だが、自分の家の裏庭に持ってくることに反対」という自分勝手な住民エゴだと、基地周辺の住民を揶揄しているのです。しかし、NIMBYシンドロームに陥っているのは軍事基地周辺の住民ではなく、「軍事基地は必要だが自分たちのところにあると困るので今のままとどめておきたい」と考えている、基地が立地していない大多数の日本国民にこそ当てはまると言えます。

しかも、特定防衛施設周辺整備調整交付金や米軍再編交付金にみられるような露骨な利益誘導によって受け入れを地域に迫るようなやり方が常態化し、強化されている今日の状況は、軍事基地を少数者に押し付け、その犠牲の上に多数者が安閑とするという極めていびつな構図を固定化させてしまうという点で、大きな問題をはらんでいます。

では、軍事基地に私たちはどう向き合えばよいのでしょう。自らの地域に軍事基地を引き取るという選択肢もありますが、私たちがとるべきみちは、軍事基地の必要性や公益性を前提とせず、誰の「裏庭」であろうと、あってはいけないものとして捉える、NIABY(Not in anybody’s backyard)という考え方ではないでしょうか。こうした考え方をどのように広く共有していくのか、このことも今月号からはじまる連載の狙いです。

戦争を拒否する地域づくり─読谷村よみたんそんに学ぶ

戦争を拒否し、基地返還後の地域づくりを進めたのが沖縄本島中部にある読谷村よみたんそんです。1972年の日本復帰の時点で、村の面積の70・7%が米軍基地として占有されていました。粘り強い運動によって返還を勝ち取り、現在、約36%にまで減っています。読谷村では基地返還跡地を活用し、「平和、文化、創造」の三つのキーワードを掲げた地域づくりを展開しています。

具体的には読谷補助飛行場の跡地の返還に際して、読谷村は軍事基地化される以前の「土地の記憶」を大切にしながら跡地利用の基本コンセプトを決め、土地所有者や住民が協議し、合意形成しながら1987年に農地利用の計画を策定します。返還が目前に迫った2004年に土地所有者たちは農業生産法人を立ち上げ、2006年に土地が返還されてから読谷村は農業振興を図るための圃場整備事業を行いました。観光業とも連携した高付加価値型農業を実践し、その結果、現在では沖縄土産の定番「紅芋タルト」の原料となる紅イモの生産が盛んになっています。また、不発弾処理場の返還に際して、そこがかつて伝統的な焼物・陶芸が盛んな地域であったことから、「ヤチムンの里」として整備し県内の陶芸家たちが集う場所をつくり、現在では有名な観光スポットにもなっています。

さらに地域外のリゾートホテルの進出に際しては、事前調整・協議を行い、地元産品の利用・販売を働きかけることで、村民の生活・文化との共存共栄を図る独自の工夫を行っています。

軍事基地の立地が地域振興の一環とみなされ、受け入れやむなしと片付けられてしまう地域も多いなかで、「破壊につながる基地ではなく、生産につながる農地を」という理念に基づく読谷村の試みは、地域づくりのオルタナティブを考えるうえで注目すべき事例です。軍事基地強化に直面する地域では、国有地がそのまま米軍基地や自衛隊基地になることが多いですが、そこには、それ以前の地域の人々の営みが必ずあったはずです。こうした「土地の記憶」を掘り起こし、軍事基地に代わる地域づくりのを構築することが大事なのではないでしょうか。

まとめにかえて

今月号からはじまる新連載「加速する日本列島軍事要塞化」では、各地で展開している軍事化の実態を明らかにすることで強い危機感を共有することはもちろんのこと、なによりも全国各地のつながり・連帯の形成をめざし、さらには、軍事化に対抗する地域づくりといった希望の芽、オルタナティブが各地で模索され始めていることにも注目していきたいと思います。この連載によって、軍事化に対抗する地方自治の価値を皆さんと広く共有し、実践につなげていきたいと思います。

現在、高市内閣の高支持率が続いています。その背景には、戦争と平和の選択を国民の中で争点化できていない政治状況があります。これを争点化するためには、私たちの「生活」と「生産」という足もとの問題、つまり地方自治が問われているのだという点から説き起こしていく必要があります。ぜひ本連載にご注目ください。

【注】

図1 全国の長射程ミサイル配備、弾薬庫建設計画

(内閣府のホームページや新聞報道をもとに編集部作成)

図2 すすむ南西諸島の軍事要塞化

(『令和7年版防衛白書』等を参考に編集部作成)

関 耕平

1978年秋田県生まれ。博士(経済学)。専門は財政学・地方財政論。著書に『「公共私」・「広域」の連携と自治の課題』(分担執筆)(自治体研究社、2021年)、『アグロエコロジーへの転換と自治体ー生態系と調和した持続可能な農と食の可能性』(編著)(自治体研究社、2024年)など。

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