本年4月11日、昨年9月から月1回のペースで行われてきた入間市財政分析会議(全7回)の最終回が開催されました。市民参加のこの財政分析活動について報告します。
「すごい勉強をした!」「これで確信をもって活動できる!」
─入間市財政分析会議参加者の声
入間市財政分析会議は、市民本位の市政実現をめざす入間市の住民団体「みんなの市長をつくる会」(以下、つくる会)からの委託を受けて埼玉自治体問題研究所が進めてきました。財政分析作業につくる会からは、会の代表である弁護士1人、新婦人4人、市議会議員3人、年金者組合2人、地域労連2人、市教組2人、平和委員会2人、市職労2人、住みよい高倉を守る会1人の計19人、研究所から3名の役員が参加し、毎回18名前後の参加者で研究所の作成した財政資料を基に議論するとともに、個別課題での30分学習なども行ってきました。
最終回での参加者の感想は、
「市のロビーに置いてあるテレビで〝入間市は金がない〟というテロップが繰り返し流れる。市にはいろいろ言いたいことがあるが金がないと言われると、口をつぐんでしまってきた」「これまで集中して財政のことを学ぶ場がなかった。公民館4分館の廃止など市長の乱暴な公共施設の統廃合計画なども〝人口減少〟と〝財政〟が壁になってなかなか踏み込んだ対応ができなかった。市長にあるのは〝稼ぐ自治体〟だけで住民福祉はない。今回、入間市が客観的にどんな財政状況にあるのか学習できたので、市長としっかり対決していきたい」(市議会議員)
「私、すごい勉強をしたな、と実感している。財政の原則は〝〟で家計と違うとか、地方交付税制度で財政力が低い自治体でも、標準的行政サービスができる保障があることなど、初めて知った。市政を考える羅針盤を示してもらった気がする」「学校給食無償化の運動を進めてきたが、国の無償化がやっと始まるのに入間は国の基準額5200円を上回る分(入間は5600円)は引き続き保護者負担とされている。情けない」(新婦人役員)
「お金がないので、課の予算は取れないといつも言われている。財政のことを知らないと労働条件の改善も難しい。ここで学んだことを生かしていきたい」「昔、行政の現場では〝説明責任〟をうるさく言われてきた。今は、〝説明しない、周知だけ〟が当たり前になっている。市民に対しても根拠を示した説明は皆無の状況。職員採用で今年も25人が採用を辞退し、追加募集が必要になっている。公共の使命や働きがいが自治体職場から失われつつあり、市職員の変質が進んでいる。主権者である市民の抵抗と発信がないと市政はよくならない」(市職労役員)
「入間市は、市内総生産額は比較的高いのに勤労者所得が低く、個人市民税収入も低くなっていることを初めて知った。国保への市の繰り出し金はゼロになり、公共施設マネジメント優先で行政が進んでいる。この財政分析活動で明らかになったことを基に政策の大枠を考えていくことが必要」(平和委員会)
…など、積極的で確信に満ちたものでした。ちなみにこの活動の中で5名が研究所の新会員となり、参加者全員が埼玉研究所の財政確立の募金に協力してくれました。
財政危機だから!と言われたら
入間市は、松下政経塾出身の杉島理一郎市長が就任した2020年以降、市民をないがしろにして、説明責任を果たさず、難解なカタカナ用語の施策をトップダウンで進める市政運営が続けられてきました。市民会館・中央公民館を「耐震化困難」として閉鎖を強行し、駅前再開発地に新設。小中学校、公民館、保育所の統廃合、市庁舎の建替条例を突然提案し110億円のPFI事業として推進、老人福祉センターの廃止、水道料・国保税・介護保険料の引き上げや、公共施設利用料の値上げなどを進めてきました。また、本年4月から国の学校給食費無償化が始まりましたが、市民の強い要求を無視して国の基準月額5200円を上回る分(400円)は保護者負担としています。こうした施策を強引に進めてきた口実が人口減少と財政難です。市民の意見や運動にはひたすら背を向ける杉島市政に対して、市民運動を取り組んできた団体は共同して「つくる会」を結成。2024年の市長選挙には女性候補を擁立しましたが惜敗しました。
こうした経過の中で、市民団体は、「財政を理解しないと市長に対抗できない」と入間市財政の分析事業を埼玉自治体問題研究所に委託して行うことを決めました。
埼玉自治体問題研究所は、戸田市(2014年)、朝霞市(2015年)、深谷市(2016年)、熊谷市(2016年)、吉川市(2018年)、所沢市(2023年)の財政分析を共産党市議団から委託した経験があります。いずれの自治体も「財政難を理由に住民の要求が通らなくなっているのを何とかしたい」というのが財政分析を始めた動機でした。
財政を知ることが大きな力になる!
財政力指数が1・2と埼玉県下トップの戸田市の財政分析では、「地方税+地方交付税の市民一人当たり額を比較すると財政力指数0・6の秩父市より戸田市は低く、全国的に見てもこの二つの基本財源で比較すれば戸田市は決して財政力は豊かではない。市の単独事業は基本的に廃止し少子高齢化社会へ向けてコスト削減を急がなければならない」という戸田市財政当局の主張をどう考えるかが大きな課題になりました。1年半にわたる財政の学習と分析の活動を通じて、①財政の原則は「量出制入」であり、必要な行政経費(必要な支出)に対して、自己調達できる確実な収入はいくらかを確定し、不足額を地方交付税交付金で賄うのが交付税制度の仕組み。したがって、人口13万3000人、面積18・19平方キロメートルの戸田市と、人口6万6000人、面積577・83平方キロメートルの秩父市では、標準的な行政サービスを確保・維持するための費用が大きく違い、地方税+地方交付税の市民1人当たりの比較は、財政の余裕度を量るうえでは何の意味も持たないこと、②類似市・近隣市と比較すると、普通建設事業費が長年にわたって段違いに大きく、そのことが豊かな財政力があるのに財政的余裕がなくなっている原因であることが明確になりました。
深谷市、熊谷市は、市民のさまざまな要求には財政が厳しいからと門前払いしながら、「借金であることは違いないから」と臨時財政対策債の枠を活用していませんでした。「標準的な行政サービスを保障するうえで必要な交付税枠を活用しない」ことの矛盾が明らかになりました。
朝霞市では、保育所や学童保育、公園の整備などにお金がかかりすぎるとしてなかなか市民要求が実現しませんでした。朝霞市は大学進学や就職の年齢で都内からの流入人口が大きく、子どもが小中学生になる40歳代の流出が多くなっていました。元気なまちをつくるためには、都内から流入する人口が市に定着することが大きなポイントの一つになっていました。財政分析を通じて、子ども・子育て環境を充実させること、東京と同じようなまちをつくるのではなく、市の中心部に広大な緑が残り、コンパクトだが便利な朝霞市という特性を大事にした行財政運営が必要であることが共通認識になりました。
所沢市は2022年10月の市長選で、泉房穂前明石市長の応援を受けて立候補した小野塚勝俊氏が当選、18歳までの医療費無料化、学校給食の無償化、中核市への移行と保健所の設置などの公約が注目されました。所沢市の財政分析では、兵庫県明石市の施策や財政の資料を入手し、明石市の施策が所沢でも可能なのか検証しました。藤本前市政は、学校の教室へのエアコン設置を拒否したり、育休取得者の上の子どもを保育所から引き揚げさせたり、自説に固執して市民の当たり前の願いに背を向けたりするなど、全体として緊縮型財政運営で、国庫支出金や地方債などが少なく財政規模が小さい傾向が続いていました。小野塚市政の誕生は、市民が必要とする施策を積極的に具体化する積極財政への転換が求められていた状況に合致したものでした。財政分析では、市民本位の積極財政運営に可能性を託すことが重要であると結論付けました。
いずれの自治体も、独自の特徴をもった行財政運営が行われていましたが、その特徴を理解し、市民の運動や議会活動に生かしていくことが大きな力になることがわかりました。
入間市財政分析で明らかになったこと
入間市の財政分析活動では、最初から最後まで議員だけでなく主要な住民団体の役員が参加し、活発な議論が交わされました。財政分析は、財政を学び評価・分析することを通じて自治の力をつけていく場でもあります。これまでと違い、文字通り市民参加で行った入間市の財政分析は、多分野から多くの人が参加し、それぞれが入間市財政についての共通認識を持つことができました。これは、多様な分野の市民が入間市政をよくするために共同して活動していく基盤になるのではないかと期待しています。
財政分析を通じて、次のようなことがわかりました。
入間市の歳入は近隣類似市7市の中で最も小さくなっていますが、それは、国庫支出金が少ないことが主な要因であり、中でも児童保護費等負担金、生活保護費負担金、社会資本整備総合交付金が少なくなっています。児童保護費等負担金が少ないのは、公立保育所の比率が他市より高く、国庫負担金ではなく一般財源化され交付税に算定されている部分が多いためと推察されます。国の制度をよく研究し、上手に市民福祉の向上に使う熱意と具体的な努力を強める必要があります。
入間市は市内総生産では7市中ではやや多い方ですが、市民所得では雇用者報酬が特に低くなっています。収益が市外へ、ことに東京に流れているのではないかと思われます。個人市民税収入も少なく、法人市民税は相次ぐ税率の引き下げで、企業の収益が上昇しても法人市民税収入があまり増えない構造が定着していると思われます。
歳出も7市中最も小さく、目的別歳出では、特に、民生費、土木費が少なく、子ども・子育て支援策、生活基盤整備が十分行われていないのではないかと危惧されます。
性質別歳出では、人件費が比較的他市より多く、地域センターや社会教育施設、保育所など地域施設への職員配置が充実していると言えます。こうした積極面を生かし、市民に便利で親切な地域サービスと、地域施設を活用した行政と市民の共同の推進を強めることが求められます。
財政分析活動を強めるために留意すべきこと
戸田市から入間市まで7市の財政分析の経験から言えることは、
第一に、今日の地方交付税制度の下では、何らかの要因で歳入が減れば、多くは地方交付税が増えることで補填されることです。財政危機をことさら騒ぎ立て事務事業の見直しやサービスの削減、市民負担の増大などを打ち出すようなことがあったら何かあると疑ってかかることが必要です。そして、この時こそ財政の学習・分析活動を呼び掛けるチャンスです。コロナの時には、新座市、上尾市などで、税収が減ることが予想されるとして、事務事業の見直し、単独事業の廃止・削減・中止などが進められましたが、交付税措置や給付金、支援金などで歳入は増え、基金が大幅に積み増しされました。コロナ禍を利用して市民サービスを切り下げようとした行政の意図が明らかとなり、撤回、修正に追い込まれました。
第二に、財政は、家計が量入制出の原則で動いているのと反対に、量出制入の原則で動いています。人権保障と地域社会の持続性を保障する公共の責務から求められる原則ですが、自治体を営利企業と同じ経営体と見ることが以来強制されてきたことから、量出制入の理念が忘れ去られようとしています。地方自治法の「住民の福祉の増進を図ることを基本」とする、「最小の経費で最大の効果」を、の規定などを正しく理解し具体化していくにはこの財政の原則は重要な意味を持っています。
第三に、地方交付税制度について基本的知識をもつことが極めて重要です。地方交付税制度は、さまざまな改悪は確かに行われてきましたが、財源調整機能と財源保障機能は基本的には保持されています。基準財政需要額の算定が現実の必要額を反映しているかどうか(急激な物価上昇に対応した算定基準になっているかどうか)をチェックしながら、この制度を守り、改善していく取り組みが求められています。
第四に、「市町村民経済計算」の統計数字なども活用し、自治体財政と地域経済との関係なども調べてみましょう。
最後に、高市政権の下で進む戦争する国づくりは、地方財政にも黒い影を落としています。高市首相が総務大臣の時代に、地方交付税の留保財源率を引き下げる発言を行ったり、交付税算定にを導入したことなどは記憶に新しいところです。地方交付税制度の改悪を許さず、基準財政需要額の算定を物価高騰や資材値上がりなどに対応できる水準に引き上げる改革も必要です。財政分析の活動を全国的に広げ、住民の福祉と地域社会の持続性の保障が軍事費で押しつぶされないように、地域活動を強めましょう。
