首都圏を中心に国民の居住困難が続き、より強まる現状にあります。居住の困難をどう解消していくか、自治体に求められることを中心にともに考えます。
居住困難と首都圏の住宅事情
表1は、1都3県の2000年代に入っての住宅事情(20年間の推移)です。一目で分かるのは、公営住宅の大幅な減少です。東京都の3万7000戸減をはじめ、1都3県で5万戸(千葉県は戸数横ばい)も減っています。
(%は住宅総数に対する割合、▲増、▼減)
出典:総務省統計局、2023「住宅・土地統計調査」から筆者作成。
※住宅数は人が居住する住宅で空き家は含まない。
その結果「公営住宅率」(住宅総数に占める公営住宅の割合)は、東京都が5・1%から3・3%に、神奈川県は3・1%から2・2%、千葉県は1・7%から1・2%、埼玉県は1・5%から1・1%と下落しました。全国平均の公営住宅率(2023年)は3・2%ですので、かろうじて東京都が同水準で、3県は大きく下回る実態にあります。元々3県の公営住宅率が低いのは、UR都市機構・住宅供給公社の賃貸住宅(主にUR賃貸住宅)が公営住宅を補完する役割も持っていたからでもありますが、ヨーロッパ諸国の大都市の公営住宅率は10~20%です。
首都圏の居住困難の第一の要因は、公営住宅(都営、県営、市営)の大幅な減少にあり、第二に、補完すべきUR賃貸住宅、公社賃貸住宅の家賃が市場家賃化され、高家賃となったことです。
そして、UR賃貸・公社賃貸が建て替え、戸数削減により、低家賃住宅を中心に5万3000戸(1都3県)も減少したことも作用しています。
第三に、民間賃貸住宅の激増(145万戸の増)と家賃上昇(木造賃貸から非木造賃貸へ)があります。なお、表にはありませんが、首都圏の人口増の中で「持ち家」も激増(230万戸増)し、マンションが林立し、住宅価格の高騰を引き起こしていることも居住困難に結びついています。
公共住宅の削減と空き家の増大
「持ち家」の増加は、持ち家政策推進のもとで前記のように進みましたが、空き家が増加する事態も招いています。持ち家の空き家は、東京都21万4000戸、神奈川県15万1000戸、千葉県15万9000戸、埼玉県13万6000戸、首都圏で計66万戸もあります(2023年)。持ち家推進の中での空き家問題に自治体はどう取り組むかの課題があります。そして、公共住宅削減のもとで、民間賃貸住宅(民賃)の激増があり、同時に民賃空き家の増大(全国で約400万戸、後述)があります。居住困難の中での空き家の増大は、今日までの住宅政策が導いたものといえます。
大都市の家賃値上げと高家賃の現状
表2は全国と4大都市圏の賃貸住宅家賃を示しています。全国の賃貸住宅の家賃は平均約6万円(2023年時点、公営住宅家賃含む)です。2003年からの20年間で、全国平均家賃は8600円上昇しています。とくに「2018~2023年」には、7・1%の上昇で、最近5年間での値上がりが大きくなっています。
民間賃貸住宅家賃は、全国平均6万5496円で、木造約5万4400円、非木造約6万8500円となっています。木造は非木造より1万4000円ほど低く、居住困難を緩和しますが、全国で減少しています。非木造の民間賃貸家賃は、2018年からの5年間で7%、4500円増の状況にあります。
東京都は全国平均の1・5倍
民間賃貸は平均で9万5000円
表2に見るように、東京都の家賃は8万8266円で約9万円、全国平均の約1・5倍という高家賃です。また、4大都市の家賃比較でも、東京都の際だった高家賃が示されています。民間賃貸住宅(木造と非木造合わせて)の家賃は9万4802円と全国平均を約4万円も上回る状況です。
愛知県、大阪府、福岡県は、全国平均と同水準ですが、大阪府の公営住宅家賃は全国平均をかなり上回っているなどの問題があります。
なお、生活保護世帯の住宅扶助費(家賃補助)は、東京23区で単身世帯5万3700円、2人世帯で6万3400円です。生活保護世帯は東京都には住めない(住居確保ができない)事態が続いています。首都圏3県の民間賃貸住宅家賃は、神奈川県7万6356円、千葉県6万5813円、埼玉県6万5848円です(2023年)。生活保護世帯は首都圏3県にも住居確保ができない状況です。住宅扶助費の引き上げ、家賃の抑制、引き下げも必要となっています。
自治体と住生活基本計画(居住の安定確保)
居住困難の解消に向けての自治体の取り組みとして、住生活基本計画(都道府県計画)があります。住生活基本計画は、住生活基本法(2006年~)に規定されているもので、「国民の住生活の安定の確保および向上の促進に関する基本的な計画」です。すなわち、国民の居住の安定確保を図る土台となる計画です。政府による「全国計画」と「都道府県計画」があり、「都道府県は、全国計画に即して、当該都道府県の区域内における住民の住生活の安定の確保及び向上の促進に関する基本的な計画を定めるものとする」(住生活基本法第17条)と義務付けされています。
全国計画、都道府県計画はともに2006年度以降、4回にわたって策定(10年計画で5年毎に改定)され、全国計画は今年3月27日に閣議決定し、都道府県計画は策定途中にあります。この基本計画が「国民の住生活の安定の確保」を名実ともに実現していれば、今日の居住困難は起きていません。現実はすでに述べている通りで、基本計画のあり方、内容が問われています。
住宅の公共性と全国計画の問題
全国計画はすでに閣議決定されましたが、多くの問題点と欠陥があります。ここでは詳細は省き、全国計画案に対するパブリックコメントと回答の一例を紹介します(意見は簡略化しています)。
【パブコメ意見】
今日の住宅価格、家賃が高騰しているなかで、市場主義からの転換、住宅の公共性の発揮が必要で、「社会経済情勢の変化」に今日の住宅実態を全面的に記述すべき。
【パブコメ回答】
住宅政策は住生活基本法に基づき、住宅資金及び住宅の民間供給を軸とする住宅市場に対して、市場の環境整備、誘導、補完による必要な施策を講じることで国民の豊かな住生活を実現することとしており、市場原理に全てを委ねるものではありません。原案のとおりとさせていただきます。
居住困難の指摘と住宅の公共性に対する回答に「全国計画」の問題性が示されています。
都道府県の問題意識と公営住宅の考え方
「全国計画」案の作成には都道府県の意見聴取が義務付けられています(基本法第15条で、パブコメも同様に義務付け)。都道府県の意見は、「計19の団体より56件の意見」と発表されています。47都道府県の4割の意見提出で件数も56件と少なく、消極的な現状にあります。
その中で、公営住宅の主体である都道府県の意見と同主体の国の考え方を記載します(下)。現状の問題意識などが示されていますが、国と都道府県による公営住宅の削減が行われている現実にあります。
都道府県計画のあり方と市区町村計画
都道府県計画は、「区域内における住民の住生活の安定の確保」を図るものです。首都圏をはじめとする国民の住宅事情はそのことを求めていますが、実際の計画は乖離したものとなっています。その要因に「都道府県は全国計画に即して」という規定があります。全国計画の問題は前記の通りで、それに「即して」とするのは地域の住宅事情、地方分権との関係からも逸脱し、改正(削除)が必要です。都道府県計画はそれぞれの住宅実態、住民の要求、地域の課題に即して策定すべきです。そのための住民側の住宅要求、点検・問題指摘、意見提出が求められます。
市区町村計画策定は任意となっていて、策定している自治体は、1741市区町村の3割(503自治体)に止まっています。地域と住民に密着している基礎自治体が居住困難を打開する計画、住宅政策を推進することが重要となっています。
居住困難を打開する自治体の政策と取り組み
その基礎自治体の東京都杉並区、同練馬区では見るべき先進的な政策と取り組みが進んでいます。居住困難を打開し、解消する実践例を紹介し、自治体に求められることについて○以下に筆者の見解を示します。
杉並区(岸本聡子区長)の実績と政策
岸本杉並区長は、「岸本区政4年の実績」で「住まいは権利を実現、区営住宅の拡大や居住支援」として、以下の政策と実行を明らかにしています。
-
1 住宅確保要配慮者の居住支援を推進しました。セーフティネット専用住宅の賃借人に対する家賃低廉化補助制度を創設し、それまで0件だった同住宅の登録件数が26戸に(2025年度末)増加しました。
○セーフティネット住宅は問題点もありますが、「家賃低廉化補助」(国と自治体で最大4万円)は、国も推進し、すぐに実施できる補助制度です。居住困難打開の一つになります。 -
2 区営住宅の抽選に落選したひとり親、多子世帯への家賃補助制度を創設しました。
○家賃補助は年間30万円、2年間で限定的でitaが、制度創設は画期的です。他の自治体も家賃補助の具体化・実施が急がれます。 -
3 区営住宅の戸数を978戸(2021年度)から1078戸(2024年度)に拡大しました。
○公営住宅が大幅に減少する中で、区営住宅の戸数拡大も画期的です。各自治体では課題もありますが、「借上げ区営住宅」(民間賃貸やUR賃貸の借上げ)などに取り組むべきです。
杉並区長選挙は今年6月(28日投票)に行われますが、岸本区長は〝住まいは権利、安心して住み続けられる住宅政策へ〟を掲げています。今後の住宅政策へ大きな期待が寄せられています。
練馬区(吉田健一区長)のビジョンと政策
練馬区長選挙は、今年4月12日に投票が行われ、吉田健一氏が当選しました。吉田氏は区長選の中で「新時代練馬ビジョン」を示し、次の政策を明らかにしています。
-
1 高騰する家賃や更新料等の補助で、現役世代も住みやすく、物価対策にも効果的!
○居住困難の最大要因、家賃高騰に対しての家賃補助は不可欠です。また民間賃貸住宅で行われている更新料等への補助は、負担を軽減し、住みやすくする施策です。 -
2 保証人制度を創設し、高齢者等の独居を支える。
○ 画期的な政策は、区が保証人制度を創設することです。民間賃貸などは保証人がいないことによる入居拒否が多くあります。公的保証制度は他の自治体への広がりが求められます。 -
3 空き家対策には、リフォーム補助を行い、住宅に困っている人に貸し出す仕組みをつくる(居住支援)。
○空き家の増大は前出の通りです。民間賃貸の空き家は、東京都61万4500戸、神奈川県26万7200戸、千葉県17万4900戸、埼玉県14万6800戸に上ります。空き家対策と居住支援を結合していくことが重要です。
岸本区長は「住まいは人権という視点に立つと、住宅政策は大きく変ってきます」と述べています。これこそが、自治体に求められる基本的な視点です。
