【連 載】自維連立政権合意書を検証する
自治労連・地方自治研究機構と自治体問題研究所は2026年4月から、自由民主党と日本維新の会の連立政権合意書についての合同研究会をスタートさせました。平和・人権・生存権を脅かすそれらの政策から市民生活と地方自治を擁護していくため、憲法・地方自治の視点から検証します。
- 第1回 統治機構改革(副首都構想)の内容と問題点(中山 徹)
- 第2回 インテリジェンス政策を検証する(山口 真美)
- 第3回 医療保障の抜本的な縮減と皆保険の空洞化(長友 薫輝)
- 第4回 介護保険制度の根幹を破壊する政策(日下部 雅喜)
- (このページ)第5回 自維連立政権合意書の憲法改正を検証する(山口 真美)
- 第6回 原発・エネルギー政策(大島 堅一)
- 第7回 安全保障(関 耕平)
- 第8回 外国人政策(柏原 誠)
- 第9回 まとめ(中山 徹)
はじめに─かつてない改憲の危機
現在、日本国憲法は制定以来最大級ともいえる改憲の危機に直面しています。
2026年2月の衆議院選挙で自民党が単独で憲法改正発議に必要な3分の2を超える316議席を獲得し、日本維新の会を加えた改憲勢力は352議席、衆議院定数の76%に達しました。戦後の憲政史上でも例を見ない改憲推進体制となっています。
高市首相は、衆院選の大勝を改憲実現の好機と捉え、自民党大会において、「時は来た」「発議に何とかめどが立ったといえる状態で来年の党大会を迎えたい」と発言し、改憲発議への強い意欲を示しています。
自維連立政権が目指す改憲がどのようなものか、その危険性は何か、こうした改憲策動に私たちはどのように立ち向かうかについて、連立政権合意書と自民党の2018年「たたき台素案」及び日本維新の会の「21世紀の国防構想と憲法改正」を踏まえて検証します。
政権合意書の概要
1 前文─危機が煽られ、優先される国家の強化
連立政権合意書は、国家観を共有し、「国難突破」「日本再起」を目指して全面的に協力すると宣言し、「戦後最も厳しく複雑な国際安全保障環境」に対応するため、「自立する国家」としての歩みを進めることを掲げています。
「国家観の共有」という言葉に象徴される国家主義的な発想が特徴的です。国民の生活や福祉よりも国家の強化を政治の最優先課題に掲げ、「国難」という言葉を用いて危機を煽り、憲法改正を正当化しようとしています。
また、安全保障環境の変化に即応した「リアリズムに立った視座が不可欠」と強調していますが、その内容は日本維新の会が提唱する「21世紀の国防構想」と軌を一にするものであり、東アジアの安全保障環境について、軍事的脅威のみを強調し、それへの対抗として軍事力の強化を進めるという抑止力一辺倒の発想が露骨です。実際には、地域の平和と安定は、外交、経済協力、軍備管理、信頼醸成措置、多国間協力などを組み合わせて維持されるものですが、合意書には、そのような視点が一切見られません。
さらに、戦後80年以上、日本が戦争当事国にならなかった背景には、憲法9条が持つ抑制的な機能が存在していますが、そうした憲法9条が果たしてきた歴史的役割への評価も欠落しています。
2 各論「三 皇室・憲法改正・家族制度等」
憲法9条改正及び緊急事態条項に関して両党の条文起草協議会を設置すること、緊急事態条項について令和8年度中に条文案の国会提出を目指すこと、さらに衆参両院の憲法審査会に条文起草委員会を常設することが明記され、国民投票法制の整備についても言及されています。
以下に、9条改憲、緊急事態条項の創設、条文起草委員会の常設の3点を中心に、その問題点を検証します。
9条改憲の問題点
1 自民党改憲4項目
2018年に安倍晋三首相(当時)の下で、自衛隊の明記、緊急事態条項の創設、合区解消、教育充実の4項目が「たたき台素案」としてとりまとめられています。
自衛隊の明記とは、9条の2を創設し、「自衛の措置」のための実力組織として、内閣総理大臣を最高の指揮監督者とする自衛隊を保持するというものです。
2 維新「21世紀の国防構想と憲法改正」
維新が示す「21世紀の国防構想と憲法改正」は、自民党の改憲案よりさらに踏み込んだ内容です。
「憲法9条と二つの乖離」と称し、憲法9条は中国が台頭する安全保障環境に適応できず、自衛権を国家固有の権利と認めた国際法環境とも乖離しているなどとし、「集団的自衛権行使の全面容認」を提唱しています。
具体的には、①憲法9条2項の削除、②自衛権の明記、③国防軍及び軍人の地位の明記、④文民統制の明記(内閣総理大臣を最高指揮官とする、国会の承認等の統制)、⑤軍事裁判所の明記を求めています。
3 批判的検討
(1) 現状を変えたいから改憲
自衛隊を明記する自民党案については、「何も変わらない」と説明されますが、本当に何も変わらないのであれば、政権の最重要課題として憲法改正を推進する理由はありません。改憲によって現状を変えたいからこそ改憲するのです。
自衛隊を憲法に明記すれば、平和主義を原則とした憲法の基本理念が失われてしまいます。自衛隊は、憲法的な公共性を持つ存在となり、防衛政策が社会保障より優先されたり、軍事機密が横行し、軍法や軍法会議の創設のおそれもあります。「自衛の措置」には必要最小限度という限定がないため、国防軍に匹敵する戦力を保持することに歯止めはありません。集団的自衛権の全面的な行使も合憲とされます。憲法に書き込まれた自衛隊の「軍事費」「規模」「装備」「任務」等々は、結局、時の政権の思いのままに決定できることになります。
同時に、戦後、幾多の参戦の可能性を食いとめてきた9条2項が死文化し、日本自身が東アジアにおける脅威となり、中国との軍拡競争が激化し、軍事的緊張が高まることになります。
(2) 自民と維新の目指すところは同じ
維新案は、実は自民党が2012年に発表した日本国憲法改正草案とほぼ同じです。このことは、自衛隊明記案と維新の集団的自衛権行使の全面容認型の改憲が実際には同じものを目指していることをよく示しています。
自民党案と維新案は、いずれも憲法の平和原則を根本から覆すものであり、日本を「戦争する国」とするとともに、戦後日本が培ってきた平和国家としての信頼を損ない、東アジアの軍拡競争を加速させるものにほかなりません。
緊急事態条項の創設
1 緊急事態条項として狙われているもの
自民党改憲4項目では、災害時の議員任期延長や緊急政令の創設などが提唱されています。憲法審査会において、議員任期延長を中心とした審議が進み、令和8年5月14日に内閣法制局作成の「緊急事態条項」のイメージ(案)が示されています。イメージ案では、選挙困難事態における総選挙の延期や議員の任期延長の議論が整理され、検討事項として緊急政令や緊急財産処分が盛り込まれています。
2 批判的検討
緊急事態条項は、緊急政令や緊急財産処分などを付与し、執行権力に権限を集中させ、国民の権利を包括的に制限するものです。その最大の問題は、立憲主義の機能である「憲法が権力を縛る仕組み」を解除するものであって、濫用の危険が本質的に内在しています。緊急事態の定義は抽象的であり、その判断が内閣に委ねられるため、恣意的運用の大きな危険性があります。
そして、議員任期の延長は、国民の選挙権を制限するものにほかなりません。
また、日本には既に災害対策基本法や公職選挙法などが存在しており、必要な対応は法律改正で十分可能であって、憲法改正を必要とする立法事実がありません。
現行憲法に緊急事態条項がないのは、戦前の緊急勅令や緊急財産処分の濫用の歴史の反省に立脚しています。緊急事態条項の創設は歴史に逆行するものです。
起草委員会の常設の問題点
起草委員会とは、憲法改正案の具体的な条文を作成するための機関を意味しますが、憲法審査会法や国会法に明文の根拠はありません。
自維がねらう起草委員会の常設は、実質的には改憲発議へ向けた最終段階への移行を意味します。すなわち、「起草」のための委員会での議論が始まると、議論が「改憲するかどうか」から、「どのように改憲するか」へ移行し、改憲そのものが既成事実化される危険があります。条文の調整が中心となることで、改憲の必要性や危険性そのものについての議論が後景に追いやられる危険もあります。
また、多数派主導で議論が進められる結果、少数会派や改憲反対派の意見が排除されるおそれがあり、起草の過程が公開されなければ、どのような議論によって条文が作られたのかが国民から見えなくなります。
密室で改憲ありきの議論が進み、発議に持ち込まれるおそれがあるのです。
改憲の現段階と私たちの取り組み
1 改憲までの行程と現段階
改憲手続は、政党などによる改憲案の発表・検討に始まり、国会による発議、そして国民投票へと進みます(図1)。
現在は、そのうち「国会による発議」の第一段階である改正原案の作成、すなわち条文の起草をめぐる攻防の段階にあります。
改憲派は、起草委員会の設置によって、改正原案の作成を具体化し、国会による発議、国民投票へ一気に突き進もうと目論んでいます。今、最も大切なことは、改正原案の作成段階に議論を進ませないことです。
2 憲法審査会の現段階
憲法審査会では改憲派が圧倒的多数を占めていますが、必ずしも一枚岩ではありません。
自民党は、緊急政令や緊急財産処分を含む緊急事態条項を優先課題として位置付けています。これに対し、維新は、緊急事態条項だけでなく9条改憲を前面に押し出し、自衛隊明記にとどまらない9条2項削除や国防軍創設を主張しています。他方で、国民民主党は議員任期延長を中心に議論を進める姿勢を示しています。また、中道系会派には慎重論が根強く、共産党は一貫して反対しています。みらいなどの会派からは、国民投票制度をめぐる課題の整理を優先すべきとの意見も出されています。しかも、起草委員会の常設についてはほとんど議論されていません。
このように改憲派内にも温度差や対立点が存在しています。世論や国会内の論戦によって十分に阻止し得る局面にあるといえます。
3 改憲をめぐる世論
国民世論は必ずしも改憲推進一色ではありません。本年5月3日に公表された各世論調査を見ると、憲法9条改正については慎重な意見が依然として多数を占めています(図2)。
朝日新聞の調査では、9条改正に反対する回答が63%であり、賛成の30%を大きく上回っています。読売新聞の調査でも、9条2項改正の要否は拮抗しています。
一方で、自衛隊明記については比較的高い賛成率が示されています。しかし、これは、自衛隊明記によって何が変わるのか、その危険性が周知されていないことの表れといえるでしょう。
加えて、共同通信の調査では、憲法改正について「慎重な政党も含めた幅広い合意形成を優先すべき」との回答が73%に達しています。
また、米国によるイラン攻撃に対する世論調査では、圧倒的多数が支持しないと回答しました。ウクライナ戦争や中東情勢を通じて、多くの国民が戦争の悲惨さを現実の問題として受け止めています。各地で行われている平和を求める集会やデモ、憲法審査会傍聴への市民参加の広がりも、そのことを示しています。
国民は、防衛力の強化をやむを得ないとする自維の宣伝に引きずられつつも、依然として平和志向であり、戦争・侵略に対しては否定的といえます。そして、拙速な改憲にも反対しています。
4 私たちの取り組み
今、求められているのは、改憲発議そのものを阻止する幅広い市民的な取り組みです。
まず、自衛隊明記や緊急事態条項が持つ具体的な危険性を広く社会に知らせる必要があります。
また、抑止力論を中心とした安全保障政策が安全保障のジレンマを深めるものであること、その危険性を広く訴えていくことも大切です。
さらに、戦争が実際に何をもたらすのか、戦争のリアルを具体的に語ることも重要です。ウクライナや中東における現実は、戦争が人命を奪うだけでなく、地域社会、医療、教育、経済など生活のあらゆる基盤を破壊することを示しています。
南西諸島で進む軍事拠点化や継戦能力強化の動きについても、実態を伝え、その危険性を知らせていく必要があります。
そして、憲法審査会において条文起草委員会を設置させないことが重要です。条文案がまとまらなければ発議に進むことはできません。現在の最大の課題は、起草の前の段階で改憲の流れを止めることにあります。
同時に、拮抗する世論を踏まえれば、改憲派に対して、国民投票をしても勝てない、改憲を強行すれば政権基盤が揺らぐと認識させることも重要です。
そのためには、学習会や講演会、街頭宣伝、SNSでの発信、署名運動など、あらゆる手段を通じて、取り組みを広げていく必要があります。
