大阪都構想、否決後の動き


2020年11月1日、大阪都構想は住民投票で再び否決されました。今回は、公明党も賛成に転じたため、当初は賛成側が圧勝すると言われていました。なぜ否決されたかは、本誌1月号に柏原誠先生が寄稿されているのでそちらを参照して下さい。ここでは、住民投票後の動きを紹介します。

松井一郎大阪市長、吉村洋文大阪府知事は11月5日、住民投票が終わったわずか4日後、広域行政一元化条例と総合区創設を、2021年2月議会に提出すると発表しました。広域行政一元化条例とは、大阪市が持っている開発や産業政策に関する広域的権限とその財源を大阪府に移管するための条例で、大阪都構想の実質化です。住民投票で否決された内容を今度は議会の判断だけで進めようとしているわけで、これほど市民をこけにした策動はないでしょう。また、基礎自治体としての大阪市の権限を大阪府に移そうとしており、地方自治という点からも看過できません。

大阪維新の会(以下、維新)は大阪市議会では過半数の議席を持っていません。そのため条例を通すためには、公明党の協力が必要です。総合区はかつて公明党が大阪都構想の対案として検討していたものですが、この案を条例とセットで提出するから、条例に賛成せよと公明党に迫っています。

そもそも維新は大阪府知事、大阪市長を握っており、慌てて条例を制定する必要はありません。なぜ、コロナ禍で大変なときに、このような策動を始めたのでしょうか。大阪都構想は維新にとって「1丁目1番地」と言われています。その提案が住民投票で2回連続否決されました。この衝撃は大きく、住民投票後、マスコミは「維新の求心力低下」と書きました。2021年には総選挙があります。維新としてはこの総選挙で、勢力を維持、拡大しなければなりません。ところが旗印である大阪都構想が挫折し、「改革政党」としてのイメージが大きく揺らいでいます。維新が総選挙に勝つためには、維新支持層を固めておかなければなりません。そこで、「既成勢力に踏みつけられても改革し続ける維新」を演出する必要があり、それが今回提出された条例です。完全な党利党略です。しかもセットで提出する総合区案は現在の24行政区を8総合区に合区する案であり、大阪市民にとって極めて深刻な事態をもたらします。維新にとって、総合区案は公明党を巻き込むための方便にすぎず、それがどのような事態をもたらすかなどは関係ないと言うことでしょう。

ただし、この状況は維新がかなり追い詰められていることを意味します。2月議会で条例が制定されなければ、看板政策が住民投票で2回連続否決され、目立った成果もなく総選挙に臨まなければなりません。「改革政党」のイメージが崩れれば、維新に投票している無党派層のかなりの部分は、維新から離れるでしょう。維新にいる多くの議員は選挙に勝つために維新に集まっています。維新で勝てないとなると、すぐに離散するでしょう。

2月議会の攻防は今後の大阪のゆくえを決する大きな山場になります。引き続き、可能な支援をよろしくお願いします。

中山 徹
  • 中山 徹(なかやま とおる)
  • 奈良女子大学教授・大阪自治体問題研究所理事長・自治体問題研究所副理事長

1959年大阪生まれ。京都大学大学院博士課程修了。工学博士、一級建築士。主な著書に『人口減少と大規模開発』2017年、『人口減少と公共施設の展望』『人口減少時代の自治体政策』2018年、いずれも自治体研究社。