地方交付税しくみ入門
─存在がゆらぐ地方交付税制度

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地方交付税の役割と普通交付税の算定方法を整理し、三位一体改革後に生じた臨時財政対策債、トップランナー方式、インセンティブ算定の課題を検討します。


地方交付税の役割

地方自治体は、人口規模、産業構造、所得水準、面積、地理的条件などがそれぞれ異なります。そのため、地方税だけで行政サービスを支えようとすると、税収の多い自治体と少ない自治体の間で、提供できる行政サービスに差が生じます。地方交付税は、こうした地域間の財政力の差を調整し、どの自治体でも標準的な行政サービスを行えるようにするための制度です。このことから地方交付税には、前述した自治体間の財政力をならし調整することから財政調整機能と、地方自治体の標準的な行政サービスを財源不足により不履行にならないように財源を保障する財源保障機能の二つの機能を持ち合わせています。

ここでは、実際に地方自治体のミクロレベルで地方交付税がどのように算定されているのかみていくことにします。

地方交付税の算定方法

地方交付税の総額は、基本的には国税の一定割合(所得税・法人税の33・1%、酒税の50%、消費税の19・5%、それに地方法人税の全額を加えた合計額)によって決定し、地方交付税総額の94%が普通交付税、6%が特別交付税として地方自治体に配分されます。

ここからは普通交付税の算定を見ていきます(図1、2)。

図1 普通交付税の額の決定方法

図2 普通交付税交付額に関する簡易的な概念図

出所:地方交付税制度研究会編『令和7年度地方交付税のあらまし』(地方財務協会)10ページより筆者作成。

普通交付税は、自治体ごとの基準財政需要額と基準財政収入額を比較し、基準財政需要額が基準財政収入額を上回る場合に、その差額をもとに交付されます。基準財政収入額とは地方交付税算定に用いられる自治体の一般財源を基に計算されるものです。詳しく言うと、標準的な地方税収入見込額(標準税率で課税した地方税収入)の75%に地方譲与税等を加えた額が該当します。残りの地方税収入額の25%は留保財源と呼ばれ、地方財政運営の自主性を尊重し、基準財政需要額として算定されない経費を賄うための財源として残されます。

一方で基準財政需要額は、普通交付税を算定するために、その自治体が標準的な行政サービスを行う場合に必要とされる額を、地方交付税法のルールにしたがって金額化したものです。これは、自治体が実際に支出した決算額や、予算に計上した額をそのまま使うものではありません。基準財政需要額は地方自治体の行政内容の項目ごとに算定され、表1にあるとおり個別算定経費(公債費を除く)、個別算定経費(公債費)、包括算定経費から構成されます。これらの経費ごとに単位費用、測定単位、補正係数を乗じて計算されます。測定単位とは、人口、児童数、学級数、道路延長、高齢者数など、行政サービスの対象や量を表す数値です。単位費用とは、測定単位一単位あたりの標準的な費用です。ただし、これは各自治体の実際の支出額を平均したものではなく、標準的な条件を備えた団体が合理的かつ妥当な水準で行政を行う場合に必要とされる経費を基準として定められる金額です。補正係数とは、人口や児童数などの測定単位だけでは表せない自治体ごとの違いを、算定に反映するための係数です。たとえば、同じ人口規模でも、面積の広さ、集落の分散、寒冷・積雪、学校規模などによって、行政サービスに必要な費用は異なります。そのため、普通交付税の算定では、測定単位に補正係数を掛けて、地域条件の違いを反映させています。

表1 個別算定経費の算定項目と測定単位

出所:総務省のホームページより。

ここからは、栃木県那須烏山なすからすやま市の2024年度地方交付税算定台帳を例に、基準財政需要額の計算過程を確認します。地方交付税算定台帳とは、普通交付税の算定に必要な基礎数値と計算結果を整理した資料です。台帳には、行政項目ごとに、補正前の数値、最終係数、補正後の数値、基準財政需要額などが示されています。つまり、算定台帳を読むことで、各費目がどの数値をもとに、どのような補正を受け、基準財政需要額として計算されていたのかを確認することができます。表2からは、個別算定経費の一つである小学校費は児童数、学級数、学校数に分けて計算されていることが確認できます。那須烏山市の算定台帳では、児童数分について、補正前の数値が904人、最終係数が2・969、補正後の数値が2684と示されています。これは、実際の児童数904人をそのまま使うのではなく、補正係数を掛けて、普通交付税の算定に用いる数値へ調整していることを意味します。この補正後の数値2684に、2024年度の単位費用5万1300円を掛けると、児童数分の基準財政需要額は1億3768万9000円になります。

表2 那須烏山市の2024年度地方交付税算定台帳

出所:那須烏山市ホームページ「令和6年度市町村分地方交付税算定台帳(再算定)」より。

同じように、学級数分では、補正後の数値51・0に単位費用81万8000円を掛け、4171万8000円となります。学校数分では、補正後の数値5・00に単位費用1270万8000円を掛け、6354万円となります。これらを合計すると、那須烏山市の小学校費は2億4294万7000円として計算されていたことが分かります。

基準財政需要額は、算定項目毎の額の合計ですので、同様に単位費用×測定単位×補正係数で計算することで求めることができます。

三位一体改革後の地方交付税制度をどう考えるか

最後に、三位一体改革後の地方交付税制度について考えます。三位一体改革は、国庫補助負担金の改革、国から地方への税源移譲、地方交付税改革を一体的に進め、自治体の財政的自立と政策裁量を高めようとした改革です。地方交付税もこの改革の対象となったため、制度の役割を考えるうえでは、改革後に地方交付税がどのように変化したのかを確認する必要があります。

ここで注目したいのは、三位一体改革後の地方交付税制度に、財源保障や財政調整とは異なる考え方が入り込んでいるということです。その一つは、地方交付税の財源不足を臨時財政対策債によって処理してきたこと。二つ目にトップランナー方式やインセンティブ算定のように、効率化や国の政策課題への対応を普通交付税の算定に反映していることです。以下では、この二つの流れを、地方交付税の本来の役割との関係から確認します。

図3は、地方財政計画における地方交付税額、臨時財政対策債発行額、両者を合計した額、地方財政計画総額の推移を示したものです。地方交付税額は2001(H13)年度の約20・3兆円から、2007(H19)年度には約15・2兆円まで減少しています。これは、三位一体改革期を含む地方財政改革の中で、地方交付税額が大きく抑制されたことを示しています。

図3 地財政計画における地方交付税及び臨時財政対策債の発行の推移

出所:各年度地方財政計画資料をもとに筆者作成。

ただし、この動きは地方交付税額の減少だけで理解することはできません。同じ時期には臨時財政対策債が発行され、普通交付税として措置しきれない財源不足を、自治体の地方債発行によって補うしくみが用いられていました。臨時財政対策債は、三位一体改革そのもので創設された制度ではなく、2001年度に地方交付税の財源不足に対応するため導入された地方債です。つまり、地方交付税の不足を各自治体の地方債発行に置き換える制度であり、自治体側から見れば地方債残高を増やす要因となりました。

近年は、臨時財政対策債への依存は縮小しています。図3では、臨時財政対策債は2021年度に約5・5兆円となった後、2022年度以降は縮小し、2025年度には0となっています。また、地方交付税額は令和元年となる2019年以降増加傾向にあり、2025年度には約19・0兆円となっています。この点では、地方交付税本体で地方財源を確保する方向が見られます。しかし、2025年度の地方交付税額は2001年度の約20・3兆円をなお下回っています。他方で、地方財政計画総額は2001年度の約89・3兆円から2025年度には約97・0兆円へ増加しています。したがって、臨時財政対策債が縮小したとしても、地方交付税が現在の行政需要に対して十分な財源保障機能を果たしているかどうかは、なお確認が必要です。

近年、普通交付税の算定に、効率化や政策誘導の考え方が入り込んできています。その一つがトップランナー方式です。これは、民間委託や業務改革によって経費を抑えた自治体の水準を、普通交付税の単位費用に反映させるしくみです。しかし、地方交付税は本来、自治体間の財政力格差を調整し、標準的な行政サービスを維持するための制度です。効率化した自治体の経費水準を交付税算定に反映すれば、小規模自治体や条件不利地域にも、同じような経費削減を前提とした算定が及ぶおそれがあります。その意味で、トップランナー方式は、自治体間の効率化競争を地方交付税の算定に持ち込むものといえます。

また、インセンティブ算定にも注意が必要です。これは、国が重視する政策課題への取り組み状況や成果を、基準財政需要額の算定に反映するしくみです。具体的には、地方創生に関わる「地域の元気創造事業費」や「人口減少等特別対策事業費」、地域社会の維持に関わる「地域社会再生事業費」、自治体DX化に関わる「地域デジタル社会推進費」などがあります。2023年度の「地域デジタル社会推進費」では、マイナンバーカード交付率も活用して算定に反映するしくみが示されています。

トップランナー方式には、効率化した自治体の経費水準を単位費用に反映する問題があるのに対し、インセンティブ算定には、地方交付税が国の政策目標へ自治体を誘導するという問題があります。地方交付税は本来、自治体間の財政力格差を調整し、標準的な行政サービスを支える一般財源であり、国の政策目標への対応状況や成果指標を算定に組み込むことには慎重になる必要があります。

以上の検討から、三位一体改革後の地方交付税制度を考える際には、個々の制度改正を単に効率化や財源確保の手段としてではなく、地方交付税の本来の役割との関係で捉え、それらが自治体の自主性や地域ごとの行政需要を過度に狭めていないかを確認することが重要です。

地方交付税法第1条では、地方交付税制度の目的として、地方団体の自主性を損なわずに財源の均衡化を図り、地方行政の計画的な運営を保障することが掲げられています。今後の地方交付税制度を考えるうえでも、この目的との整合性が問われます。制度の見直しや新たな算定方法を取り入れる場合には、国の財政事情や政策目標を反映するだけでなく、各自治体が地域の実情に応じて標準的な行政サービスを維持できる条件を損なわないように運用することが求められます。

菊池 稔

1991年生まれ。東京農工大学大学院連合農学研究科修了、博士(農学)。主な著書として『5訂版習うより慣れろの市町村財政分析』2021年、『財政状況資料集から読み解くわがまちの財政』2019年(共に共著、自治体研究社)。

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