【自維連立政権合意書を検証する】
第3回 医療保障の抜本的な縮減と皆保険の空洞化

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【連 載】自維連立政権合意書を検証する

自治労連・地方自治研究機構と自治体問題研究所は2026年4月から、自由民主党と日本維新の会の連立政権合意書についての合同研究会をスタートさせました。平和・人権・生存権を脅かすそれらの政策から市民生活と地方自治を擁護していくため、憲法・地方自治の視点から検証します。

本稿のねらい(概要)

2025年10月の自由民主党および日本維新の会による「連立政権合意書」(以下、合意書)に盛り込まれた医療改革と社会保障政策の方向性に対し、社会保障の視座から包括的に検証します。

「現役世代の社会保険料負担軽減」という大義名分の裏に潜む医療費抑制策、保険外療養の拡大による皆保険体制の形骸化、そして医療提供体制の病床削減等について言及します。

連立政権合意書にみる社会保障の転換点

合意書の中で、特に重要な柱の一つとして位置づけられているのが「社会保障制度改革」であり、とりわけ医療改革の分野においては、従来の制度設計の根幹を揺るがしかねないドラスティックな方針が多数盛り込まれ、すでにその一部は実行されています。

合意書に散りばめられた文言は、一見すると社会保障制度の「持続可能性」や「世代間の公平」といった耳当たりの良い、国民的共感を得やすいレトリックで彩られています。しかし、その政策の本質を解剖していくと、浮かび上がってくるのは「現役世代の社会保険料負担軽減」を隠れみのにした、公的医療の抜本的な縮小と、1961年以来の皆保険体制の段階的な空洞化への道筋に他なりません。

合意書に明記された医療改革の方針が、実際の医療現場や国民のいのち、そして地域社会にどのような破壊的影響をもたらす可能性があるのでしょうか。

過剰な公的医療費抑制策の展開

医療をめぐる改革は加速しており、いのちを脅かす内容となっているにもかかわらず、その内容はほとんど知られていない状況です。

合意書には、病床削減、新たな地域医療構想の推進、高額療養費制度の見直し、OTC類似薬の保険給付見直し、医療DXの推進など、多岐にわたる政策が盛り込まれています。一見すると個別の制度改革であるように見えますが、それぞれが独立した施策ではなく、公的医療費抑制を目的とした一体的な改革として理解すべきものと思います。

1980年代から長年にわたって継続している公的医療費削減策に加えて、合意書では過剰な医療費削減目標を立て、まい進する政策展開となっています。

日本の医療保障は公的医療保険による皆保険体制と、医療提供体制によって成り立っています。合意書による政策方針は両体制に多大な影響を及ぼすものです。

現行の国民医療費は年間約48兆円で、この約1割に相当する年間4兆円の医療費を削減するという方針を合意書は示しています。なお、医療費4兆円削減案は自民・公明・維新の3党合意(2025年2月)の内容を継承したものです。病床削減など、すでにその政策手段の一部は2025年度から実行されています。

医療費を年間4兆円も削減する目標を立て、皆保険体制と医療提供体制において実践するこれまでにはなかった改革内容であり、医療現場はもちろん、地域住民の生活や健康に多大な影響を与えることは必至です。

大義名分として登場した「現役世代の社会保険料負担軽減」

なぜそれほどまでに公的医療費を削減する工程を進めているのでしょうか。

連立政権は現役世代の社会保険料負担を軽減することを目的に、医療費4兆円を削減すれば、1人当たり年間6万円の保険料引き下げが可能と標榜ひょうぼうしています(ただ、実際にはそのようにはならないことも判明しています)。合意書の社会保障政策の建前は「現役世代の社会保険料負担を引き下げること」にあります。保険料負担軽減を図るために、医療費を削減しなければならないという論理構成です。

政府の説明を簡略化していうと、「少子高齢化が進展する中で、高齢者医療を支える現役世代の社会保険料負担が限界に達している。ゆえに、現役世代の負担率の上昇を抑制し、これを引き下げていくことが最優先課題である」という言説です。

この主張は労働所得が伸び悩む中で、社会保険料の天引き額が増大することに不満や不安を抱く多くの現役世代、特に若年層や就職氷河期世代の共感を強く呼び起こそうとするものです。政治的には極めて洗練された世論喚起の手法といえます。

しかし、この「世代間対立」を軸にした問題設定そのものが、意図的に作られたレトリックによる虚構です。現役世代の社会保険料負担が重くなっている背景には、本来であれば国庫負担(税金)による財政投入を増やすべき局面において、歴代の政権が社会保障の公費負担割合を抑制・削減し、その結果として負担を社会保険料に転嫁し、とりわけ労働者に負担を転嫁し搾取・収奪してきたという構造的な政策の失敗が存在しています。

社会保険料負担軽減策の帰結としての給付削減

そもそも、なぜ社会保険料負担が重くなっているのかという原因や構造について、合意書や政権主体が言及することはありません。公的医療費抑制策によって医療に対する国庫負担を長年にわたって削減し続け、一方で保険料や自己負担分を増加させてきた経緯には触れていません。

国民医療費の財源負担の内訳をみれば、被保険者の保険料負担が最も重く(28・3%)、患者自己負担分(11・6%)を含めれば、私たちの負担は約40%にのぼります。国庫負担は25・3%にすぎません(図)。

図 国民医療費の財源負担の内訳(2021年度)

出典:厚生労働省「令和3(2021)年度 国民医療費の概況」をもとに筆者作成。

この構造的要因から目を背けさせ、「高齢者=既得権益・負担の元凶」「現役世代=被害者」という二項対立の構図をプロパガンダ的に利用することは、社会保障の理念をも解体する極めて危険なアプローチです。

さらに重要なのは、「負担を軽減します」という甘美な約束の裏側には、必ず「給付を減らす(あるいは公的保障の範囲を狭める)」という表裏一体の冷徹な現実が隠されている点です。社会保険料率を引き下げる、あるいは上昇を止めると宣言することは、イコールとして公的医療保障の総枠を縮小させることを意味しているからです。

国庫負担による大規模な財源補填ほてんが明記されていない以上、財政を均衡させるための唯一の手段は「給付のカット」しか存在しないことになります。

この政策が意味するところは、現役世代を一時的に喜ばせる一方で、その現役世代自身が近い将来高齢者になった時、あるいは予期せぬ大病を患った時に受けられるはずの公的医療保障の手厚さを、あらかじめ自ら放棄させられていることに等しいということになります。

すなわち、「現役世代の社会保険料負担軽減」という政策手段は、実質的にはすべての国民に対して等しく医療給付を削減していくための、抵抗の少ない政治的な突破口として機能しているわけです。

保険外療養の拡大と皆保険体制の空洞化

合意書には、具体的な給付抑制策の個別メニューとして、「OTC類似薬(一般の薬局・ドラッグストアで購入可能な市販薬に類似する医薬品)を含む薬剤の自己負担の見直し、および保険適用からの除外の検討」が盛り込まれています。湿布薬やビタミン剤、軽度の風邪薬やアレルギー治療薬などをイメージさせ、これらを公的保険の対象から外すことは、一見すると些細な無駄の排除のように映るかもしれません。

ただ、この「OTC類似薬の除外」の本質は、単なる軽微な医薬品の負担増にとどまりません。これを一度認めてしまえば、「市販代替が可能である」という理屈によって、なし崩し的に保険適用外とされる医薬品の範囲が拡大していくことになります。

例えば、現在では高度な医療として提供されている慢性期疾患の管理薬や、生活習慣病の治療薬などについても、「自己管理可能な領域である」「予防の領域である」といった恣意しい的な境界線の引き下げによって、次々と公的医療保険の保険給付から排除される法的・制度的足がかりを作ることになります。

そして、この懸念は現実のものとなりました。2026年5月29日に成立した医療保険制度改革法において、「一部保険外療養」が創設され、保険給付の対象としないものを「厚生労働大臣が定める」とされたからです。

国会でも議論となりましたが、結局はOTC類似薬など一部の薬剤にとどまらず、すべての療養の給付が一部保険外療養の対象となり得るという条文は変更されずに可決・成立しています。

公的医療保険の給付範囲を段階的に縮減する制度的ロジックを正当化するもので、保険給付の対象から医療サービスを順次除外する法的・制度的な枠組みが形成されたことになります。公的医療保障の普遍性を損なう危険性を内包しています。

一部保険外療養の創設が「保険あって給付なし」の医療制度への変貌の第一歩となるのではないか、と筆者は懸念しています。

民間保険の活用と医療の公平性

公的医療保険の給付範囲が縮小されると、国民はそのリスクを補填するために、必然的に「民間医療保険(生命保険会社などが提供する商品)」への加入を余儀なくされます。

合意書においても、公的保険の補完として民間保険の積極的な活用を検討することが明記されています。一見、公私の役割分担による効率化のように見えますが、これこそが皆保険体制の弱体化、あるいは空洞化を決定づけるシナリオです。

公的医療保険は、患者の所得や資産の多寡に関わらず、必要な医療を均一に提供することを大原則としています。しかし、民間医療保険は市場原理に基づいて運営されるため、健康リスクの高い高齢者や既往症のある人、あるいは保険料を支払う余裕のない低所得者層は、十分な保障プランに加入することができません。

一方で、十分な財力を持つ富裕層は、公的保険が縮小されても手厚い民間保険によって、最先端の高度な医療へのアクセスを維持し続けることが可能です。このようにして、支払うお金の額によって受けられる医療の質と量が決定される構造が定着し、結果として「いのちの格差」が制度的に固定化されることにつながりかねません。

供給抑制による医療費抑制

医療改革において、「需要側」の管理(窓口負担増や保険給付制限)と同時に進めているのが、「供給側」の管理下にて展開される病床数の大幅な削減です。合意書にも、効率的な医療提供体制の構築という名目で、医療機関の集約・再編や病床機能転換を加速させる姿勢が色濃く反映されています。

医療は供給が需要を決定します。ですから、供給抑制を図ることで公的医療費抑制・削減を図る政策手段が展開されているわけです。

3党合意により、医療費削減のために全国で11万床を削減することで医療費1兆円を削減できるとして、削減1床につき約410万円の予算措置を講じた病床適正化支援事業が2025年度に開始されました(約1万1200床が削減)。

合意書にも11万床を削減する政策は継承され、高市政権では「緊急支援基金」として稼働病床6万床、休床3・8万床の削減に関して予算化されています。

なお、2027年度以降に、新たな地域医療構想が各都道府県にて策定される予定です。新たな地域医療構想は従来と異なり入院病床だけでなく、外来・在宅・介護との連携、人材確保等を含む医療供給体制全体の再編計画です。

新たな地域医療構想の中で、従来の政策方針である「入院から在宅へ」「医療から介護へ」「介護から地域・自治体へ」といったタスクシフトと、供給抑制をはじめとする多岐にわたる公的医療費抑制策の展開を想定していることが分かります。

人権としての社会保障と、あるべき政策転換への道

合意書が示す医療改革のビジョンは「現役世代の社会保険料負担軽減」を大義名分に、公的医療費抑制のためであれば皆保険体制を切り崩し、病床削減等の供給体制の再編を進め、自己負担増や自己責任の拡大をも厭いとわないという強い意志の表れといえます。

しかし、社会保障とは本来、国家の財政状況によって伸縮させてよい「恩恵」ではなく、憲法第25条が保障するすべての国民が健康で文化的な最低限度の生活を営むための権利そのものであるはずです。社会保障の豊かさ、医療へのアクセスの容易さこそが、その国家・社会の「人権保障の尺度」を測るバロメーターです。

公的医療費の抑制・削減を至上命題とする現行の政策トレンドを根本から反転させなければ、我が国の社会保障の土台そのものが崩壊を免れません。

現役世代の不満を高齢者に差し向けるような分断の政治を乗り越え、すべての世代が「病気になっても、老いても、金銭の多寡に関係なく、人間の尊厳を保った医療を利用できる」社会を構築することです。

合意書による政策方針によって、日本の医療保障を支える公的医療保険による皆保険体制と医療提供体制は、危機的状況にあります。危機を脱するための政策転換が今こそ必要です。

長友 薫輝

自治体問題研究所理事、日本医療総合研究所副理事長、総合社会福祉研究所理事などを務める。主な著書に『全世代型社会保障改革とは何か―国民健康保険と医療政策のゆくえ』(2025年)、共著に『基礎から考える社会保障―私たちの生活を支える制度と仕組み』(2024年)共に自治体研究社、など。

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