民泊をめぐる制度は、2018年の「住宅宿泊事業法」(以下、民泊新法)施行後も、継続的な見直しが進められています。民泊新法では、営業日数制限や自治体への届出義務、消防・衛生基準への適合などが定められ、宿泊施設としての運営の適正化が図られました。さらに、2025年4月の建築基準法改正では、一定規模の住宅を民泊へ用途変更する際の基準が明確化される一方、条件を満たす場合、手続きの簡素化も図られています。
近年は、空き家活用の促進策として住宅を有効活用し、宿泊施設を増やそうとする動きも各地で見られます。その一方で、周辺住民への配慮も重視され、自治体条例によってルールを上乗せする例も少なくありません。民泊予約サイトなどを見ると、「学生の皆さんにはルールを守って利用してほしい」「若年層の利用には一定の条件を設ける」と呼びかけている施設もあります。これは一部利用者による騒音やごみ出しルール無視、設備破損などへの懸念が背景にあるのでしょう。
こうした状況を見ると、宿泊施設を「泊まる場所」として増やすだけでは十分ではありません。むしろ、宿泊をきっかけに人と地域を継続的につなぎ、関係人口の創出や地域資源への理解を深める拠点として、どのような価値を生み出すかが問われています。
私が足しげく通う長野県飯田市遠山郷では、その一例として、2019年に開業したゲストハウス太陽堂があります。地域おこし協力隊として移住したオーナーが、空き家だった商店を改修して始めた宿で、旅人と地域住民が自然に交わる「遠山郷の勝手口」をコンセプトに掲げています。例えば、遠山郷での暮らしや子育てを体験する「やまざと親子留学」などを希望する短期滞在者の拠点となっており、地域の日常に触れる場としても機能しています。また、地域住民による「和田宿にぎやかし隊」の交流拠点としても活用され、街道縁日や盆踊りなど、催しの企画・運営が行われています。これらは地域住民だけでなく県外からの参加者も交えて実施されており、宿泊施設が単なる観光にとどまらず、宿泊者と地域住民が出会い、地域文化の継承や新たな関係人口の創出を支える役割を果たし得ることを示しています。
一方、民泊新法のもとで広がった家主不在型の宿泊施設は、運営の自由度が高い反面、近隣トラブルや地域との関係が生まれにくいという課題も抱えています。だからこそ自治体には、宿泊施設数や宿泊者数を増やすだけでなく、地域との関係性を育む宿泊のあり方を支援する視点が求められます。例えば、飲食店や商店、住民団体などと連携し、地域文化や暮らしに触れる交流機会を含む受け入れ体制を整えることは、その一つの方向性となります。
いつの時代においても、地域外から訪れる「風の人」が、地域に根ざして暮らす「土の人」と出会い、新たな風土を形づくっていくことは地域にとって重要です。観光政策では宿泊者数や消費額が重視されがちですが、単に「何人泊まったか」という数値だけでは、観光や地域の豊かさを測ることはできません。宿泊を通して誰と出会い、地域に対するどのような関心や関係が生まれたのか。その質的な広がりに目を向けることが重要です。宿泊施設を、地域との関係人口を育み、文化や暮らしを次世代へつなぐ場として捉え直す発想こそ、これからの自治体政策に求められているのではないでしょうか。
