「原発マネー」と地域のゆくえ
―立地・周辺自治体における自治の今後を考える

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「原発回帰」へと大きくかじが切られる中で、「原発マネー」の強化・拡大もまた進んでいます。本稿では、島根原発が立地した当初の地域社会の状況を振り返りながら、改めて「原発マネー」が地域や自治体に何をもたらすのか、その問題点を考えてみましょう。


強化・拡大される「原発マネー」

岸田政権以降、原子力発電所の活用をGX(グリーントランスフォーメーション)の柱に位置付け、再稼働の推進や運転期間の延長といった「原発回帰」がさらに加速しています。当然ながら、こうした「原発回帰」の加速は、立地自治体・地域において大きな軋轢あつれきを生むことになります。これを抑えるために昔からとられてきた方法が「原発マネー」です。

「原発マネー」とは、広くは「原子力ムラ」にかかわる政官財に加え、学(学術界)や報(マスコミ)なども含めた政治的な金銭の流れ全体を指すものですが、ここでは地域や自治体にかかわる資金に限定して考えてみましょう。具体的には、原発立地自治体および周辺自治体の歳入にかかわる、電源三法交付金、原発関連施設からの固定資産税や核燃料税をはじめとした税収、電力会社からの寄付金等などです。

こうした原発マネーが流れ込むのは、原発の立地に限りません。中間貯蔵施設の受け入れが議論されている山口県上関町かみのせきちょうでは、使用済核燃料1000トンを50年間貯蔵した場合、約360億円の交付金と67億円の固定資産税収入が見込まれています(「毎日新聞」2026年2月18日付)。また、地層処分にかかわる文献調査の受け入れに際しても、電源立地地域対策交付金として調査期間中に最大20億円が支給されます。

2024年12月7日に島根原発2号機が、13年ぶりに再稼働となりました。それに先立つ同年11月、島根県は、避難計画などの再稼働に関連する業務に携わる自治体職員の人件費として、2025年度から年間約5億円の寄付を中国電力から受けることになりました。そのうち約1億6000万円を松江市と出雲いずも市、安来やすぎ市、雲南うんなん市の周辺自治体に配分するといいます。

話はこれで終わりませんでした。こうした島根県への追加負担(寄付金増)を受けて、鳥取県の平井伸治知事は記者会見で、「地域バランスもぜひ考えていただく必要がある」「さらなる財政措置を中国電力あるいは国に対して求めていく」と発言し、最終的には追加で2・9億円の寄付金を中国電力から毎年受け取ることになりました。これらは原発関連業務の人件費のほか、30キロ圏内の米子よなご市や境港さかいみなと市の対策費に充てられることになっています。原発再稼働というあからさまなタイミングで、寄付金を追加的に受け取ることができるように制度化した一連の出来事は、驚くべきことではないでしょうか。こうした自治体が、今後、中国電力にたいして安全対策などで対等な立場で対峙たいじすることができるのか、疑念を持たざるを得ません。

以上のように、原発回帰の加速とともに、原発マネーもまた強化・拡大されています。

原発マネーと自治体財政

原発マネーは、福島原発事故以降も、原子力発電施設等立地地域特別交付金や、原子力発電施設等立地地域基盤整備支援事業交付金など、原発立地自治体の再稼働を誘導するために使われてきました。さらには、期限を切って、早期の再稼働に応じた自治体に重点的に配分するなどの露骨な財政措置がとられてきたのです。詳しくは、本誌2023年11月号の藤原遥「原発立地と自治体財政」(https://www.jichiken.jp/article/0347/)を参照して下さい。

図表は、原発が立地した際の自治体財政への財政効果をモデル的に示したものです。運転開始から60年を想定する国の方針が反映され、きわめて長期間にわたって交付がなされるかたちになっています。

図表 原発立地による自治体財政への財政効果

資源エネルギー庁「電源立地制度について」(2024年)より筆者作成。

ここで注目すべきは、交付金額の増減とそのタイミングです。例えば、立地可能性調査の段階から年1・4憶円が支給されはじめています。「手付金」とでもいえる初期段階の交付金は、立地反対の声を抑える、あるいは地域住民間の分断という効果があることは想像に難くありません。また、運転開始までのあいだ、多額の交付が行われていることがわかります。これは、原子炉や関連施設が完成し、運転開始後からは多額の固定資産税収入が見込まれるため、それまでの「つなぎ資金」ということを意味します。

さらに注目すべきは、運転開始から30年経つと交付金額が上乗せされている点です。原子力発電施設立地地域共生交付金などが追加的に支給されることで、6億円分の増額となっています。また、運転開始50年で、1億円の上乗せがされます。これはなぜでしょう。

電力会社にとって原発は「きわめて高価な機械」なので、できるだけ粘って動かし続け、もとを取りたい、つまり、できるだけ長期に稼働して巨額投資を回収したいという電力会社の思惑に沿った仕組みになっているのです。それと同時に、地域住民の老朽化への不安を抑えるという意図が読み取れます。

以上のような交付金額の増減のタイミングからみても、自治体財政とかかわる原発マネーは、初期の段階で立地反対の声を押さえ込み、さらには原発老朽化への地元の懸念を押さえ込むことで可能な限り長期に稼働させるという、電力会社の意向に沿った「買収・賄賂わいろ」のような要素を含んだものになっていると言わざるを得ません。

次に、こうした原発マネーは地域や自治体をどのように変えてしまうのか、島根原発の立地当時の状況から考えてみたいと思います。

島根原発の立地と地域社会の変容

島根原発の候補地調査が始まったのは1963年でした。その後の紆余曲折うよきょくせつを経て、1968年7月に着工、1973年に施設完成、1974年から営業運転を開始しています。

島根原発が立地しているのは、松江市鹿島町かしまちょう片句かたく地区です。原発が立地する30年ほど前、1939年にここを訪ねたのが、著名な民俗学者・宮本常一つねいちです。彼の著作『出雲八束やつか郡片句浦民俗聞書』によれば、「片句は湾も土地も狭く、加うるに海岸は断崖をなしているところが多いので」「[船を多く持てないため沿岸での漁業でなく]磯漁や磯のものをとる」「古来海苔、わかめ、てんぐさなどを多く産し、このためにこれが採集に従うものが多い」([ ]内ー筆者。以下同)と記録されています。このほかにも宮本は、山が背後に迫り平地がほとんどないため人口が密集して集住していること、村の背後の畑は段々畑で芋や麦をつくっているものの自給自足が難しく、おかにいる女性が地域産出額の86%を占める水産物を売りに松江まで行商に出て、現金や食料調達のために目覚しい活躍をしている点に注目しています。また片句の住民は、近隣の集落と比べて「人情の敦厚とんこうなる」こと、「素朴な温順さを多分に持っている」という印象を書き記しています。宮本が訪れてから30年あまりを経て原発立地の話が持ち上がるわけですが、当時の片句地区もまた、宮本が目にした姿とさほど変わっていなかったでしょう。こうした漁村風景や人々の生活を一変させたものが原発の立地だったのです。

原発工事着工当時の町議会議事録には、次のような興味深いやり取りが残されています。ある議員からの、「『原子力建設本部の開所式の際本部長は町長から要望があれば、本部の事務所を将来役場庁舎にするためバラック建ではなく本式なものを建てる』と言ったが、町長はこれをどう考えるか」(1968年3月、第2回定例議会)という質問です。原発建設のための現地事務所を本式のものとして建て、これを後に町役場庁舎として払い下げてもよいと、中国電力の建設本部長が起工式で述べたという事実は、当時の鹿島町と中国電力との圧倒的な経済力の格差をうかがわせます。

原発立地と中国電力への依存意識の形成

これ以降、中国電力が持つ圧倒的な経済力に依存する意識が地域の中で頭をもたげてきます。

例えば1969年12月の第6回定例議会では、町議会から県あての要望書が採択されています。

原子力発電所設置を契機として、中国電力株式会社と鹿島町との共存共栄を図ることを目途とし、当議会としては、先に決定を見た「町勢振興基本構想」にもとづいて、昭和44年度を初年度とする「5カ年計画」の実現を強力に推し進めてって[原文ママ]おります。

しかしながら、これらの事業を完全に実行するためには大きな財政投資を必要とし、現在の当町の財政規模を以ってしては、これが実現は困難であります。

よってこれらの事業のうち、特に原子力発電所設置交渉の過程において、話題にのったもの及び当町として住民の生活環境、経済基盤、教育環境等の整備のため、是非共実現をさせたい諸事業について[…]中国電力株式会社との間に立って速やかに斡旋あっせんの労をお取りいただき、一方町民の期待と信頼に応え、原子力発電所設置による恩恵としてそれぞれの事業が計画通り完成し、未来永ごうにいたって鹿島町と中国電力株式会社との間に密接な協調関係が保たれ、原子力発電所設置について、いささかのくいを留めないよう格別の御配慮をいただきたい。(太字ー筆者。以下同)

原発が立地しない他町村でも普通に実施されている「町勢振興基本構想」や「5カ年計画」が、鹿島町の場合には原発による『恩恵』があってはじめて計画通りに完成する、と認識されており、そのための財源の提供を見越して、中国電力との「密接な協調関係」の構築に向け、県が強力に斡旋するよう町議会が求めているのです。

また、具体的な寄付金や協力金が話題に上りはじめます。議事録によると1970年12月の第7回臨時町議会の席上では、

議長 今朝方中電の接渉[原文ママ]状況のニュースが入って来たので町長より報告があります。

町長 過般私共議会の委員長方と知事を訪問した際に、9日に中電と話し合いがあるとの事で、今朝県の企画部長の電話では、昨日知事と県側から自分と会社側から中野常務と管財部長が出て会談したが、知事が直接1億5千万円と伝えたが、中野常務は自分がまかされた権限外の金額であるので、知事と社長と直接あって話し合ってもらいたいとの事で、それでは双方なるべく年内に都合を合わせて会談したいとのことであったとの報告であった

とのやりとりがありました。その後、ここでの町長の報告の通り、実際に1・5億円の寄付金が鹿島町に入っています。

原発マネーの定着と地方自治の後退

こうした原発マネーが地域を潤していくのにしたがって、中国電力への依存意識が高まっていくだけではなく、原発立地による問題が地域で起こっても、それを自らのこととして受け止めないという、地方自治意識の後退が深刻になっていきます。原発稼働直後に「うるみ現象」が出たことについての町長答弁がその典型です。うるみ現象とは、原発の温排水により海中透視度が悪化することを指します。かなぎ漁、つまり漁船から長い竿の先に金具を取り付けて海底のサザエやアワビ、海藻などを取る漁が深刻な被害を受けました。対応を問われた町長は、

私共が中電から誘致して持って戻った問題ではありません。県が施策して受け入れたいからぜひ適地が貴方のところだそうだから協力を願いたいと言うことが発端である。現在の知事は当時副知事で、私も松江で何回かその要請に来られて従って近頃県の役人の中にはお前の方がいらないものを受け入れるから我々は迷惑だというような態度が見えますが持っての外だと私に言わせれば県が協力方を要請して協力をしている。かりにも鹿島町には迷惑はかけないと言う態度で対処してもらいたいと言った様な訳でございます。(1974年6月町議会)

また、町議会で原発の安全性を問われた町長は、

ただ、この際、現在の時点でどの説に我々が近よるかと申しますれば国を信用する事が最も利口であろうと私は考えております。国の法律なり規則に従う事が、これが、個人的な知能で判断がつかぬ以上は、現時点では国家を信頼するしか方法がないと考えております。(1973年6月町議会)

と答弁します。

以上のように、立地はあくまでも「国策」で、県が持ち込んだものであり、町として「誘致」したわけではないとして、地域に問題が起こった時にそれとは向き合っていないこと、安全性についても無責任な態度をとっていることが読み取れます。

まとめにかえて

これまでみた島根原発の立地をめぐる動きは、電源三法交付金制度創設以前のことです。そうであっても、原発立地は地域社会に大きなインパクトをもたらし、地方自治意識と当事者意識の後退という結果を招いていたのです。交付金制度創設以降は、さらに深刻であろうことは想像に難くありません。

原発マネーがもたらす最大の問題は、電力会社への依存が強まることによって、地方自治意識と当事者意識が地域社会のなかで失われていくという点です。

こうした問題をどう乗り越えるのかが問われています。その答えは「受け取り拒否」だけとは限りません。透明性の確保も一つの重要な論点ですし、立地自治体や周辺自治体が「原発マネー」を受け取ったとしても、安全性への追及の手が緩んでいないか、住民がしっかり監視していくことも大事になります。また、原発マネーを逆手に取って、脱・原発依存の地域経済・社会の発展を目指すというしたたかさを、関連自治体には期待したいと思います。


付記─島根原発の立地をめぐる地域社会の状況について詳しくは、上園昌武ほか『島根の原発・エネルギー問題を問いなおす』(今井印刷、2016年)も参照ください。

関 耕平

1978年秋田県生まれ。博士(経済学)。専門は財政学、地方財政論。著書に『「公共私」・「広域」の連携と自治の課題(地域と自治体第39集)』(分担執筆)(2021年)、共著『しまねの未来と県政を考える―島根発・地方再生への提言2』(2022年)、『アグロエコロジーへの転換と自治体―生態系と調和した持続可能な農と食の可能性』(編著)(2024年)、共に自治体研究社、など。

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